謎のヘルメット傭兵   作:357

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ボーン・フロム・トラッシュ

 自治区にもよるが、殺伐未来都市キヴォトスにおいては企業を監視する法律などないに等しい。違法火器の販売、闇取引、闇銀行運営、生徒を洗脳して奴隷化、傭兵を用いた競合他社への暴力的営業妨害、ライブチケットやももフレンズグッズの転売など、悪辣極まりない行為がフロント企業を介しているとはいえ大企業が公然と行なっている、

 無論、連邦生徒会やヴァルキューレ警察学校に決定的な証拠を持って摘発されれば相応の罰則を受けるが、真に狡猾な暗黒メガコーポは手を替え品を替え衣を替え、十重二重と偽造隠蔽工作を行い致命傷を避け続ける。

 ゲヘナ自治区の片隅。この場所にはゴミの大地、トラッシュフィールドと呼ばれる広大な不法投棄場がある。生ゴミ、燃えないゴミ、粗大ゴミ、破損銃器類、車両スクラップ、緑色に発光する産業廃棄物が漏れ滴るドラム缶、ライブ抽選券が抜かれた無数のモモフレンズCD等、挙げればキリがないほど様々な種類のゴミが不法投棄されている。

 これらはゴミ処理予算を惜しんだ悪質企業による物が大半である。現在はゲヘナ風紀委員会の尽力によりいくつかの悪質企業が摘発され、不法投棄者の足はここに伸びづらくなっているためゴミの堆積速度はやや横這いの状態になっている。

 しかし多忙である風紀委員会の目を盗んで不法投棄する者はまだ存在する上、この大量のゴミの処理をどうするか等の問題もあるのが現状だ。

 

「やったああああああ! ティーガーの車輪だああああああ!」

「なぬ!? おいコラ! そいつを寄越せ!」

「ざけんな! これはアタシが見つけたんだ!」

「こ、これは限定10個しか生産されていないというトイレ掃除ペロロ様!?」

 しかし一方、高額で取引される違法素子やレアな銃器や車両のパーツ、転売隠蔽の為に捨てられた限定グッズ等が埋まっている事があるのだ。そうしたお宝を狙ってスカベンジングに来る者達がおり、ゴミの奪い合いで銃撃戦になることも珍しくない。

(あ、危ない。怖い。でも、何か見つけなきゃ)

 そんな中、ヘイローを持たぬ少年が一人、飛び交う弾丸の下でゴミの大地を這うようにスカベンジングを行っていた。頭には以前ここで拾った安全ヘルメットを被り、ゴミの景色と同化する為にその辺で拾った不衛生な布を纏っている。手には各パーツの状態がバラバラな上、ボンドとガムテープで修理されているレミントンM870が握られている。弾は12ゲージショットシェルが僅か三発。本当の緊急時にしか使う事ができない。

(な、何か。証拠隠滅のために捨てられた現金とか、金塊とかないか)

 蜘蛛の糸ほども細い希望に縋ってトラッシュフィールドを這い回るのは都状フミオ。キヴォトスの外から来た人間の男子高校生だ。

(紛れ込んだアクセサリーとかでもいいから……何か、お金になりそうな物を……)

 何故彼がゴミに塗れてまで金目のものを探しているのか? 理由は単純で、彼は金に困っていた。いや、そんな生ぬるい言葉ではない。フミオは金に苦しめられていた。今にも殺されそうなほどに。

 

 きっかけは三ヶ月前。彼は学校でのカツアゲといじめをきっかけとして不登校児となった。カーテンを閉め切り、昼夜を問わず暗い部屋で毛布に包まり震えながら過ごす日々。しかして自らに終止符を打つ決断もできずにいた。

 身体は生きることを欲する。しかし生きることには金がかかる。親からの仕送りなど初めからない。故に勇気を絞り出して外に出て仕事を探し、ある工場の求人に応募して採用された。

 仕事の初日、先輩社員のロボットから機械の動かし方を教わり、マニュアルも与えられて書いてある通りに操作をした。

 

 しかし機械は暴走し、他の機械を巻き込んで工場はめちゃくちゃになった。

 

(気がつけば僕は機械の賠償を請求されて、その返済のためにカイザーローンに借金した)

 全ての責任を負わされたフミオのそれからの日々は地獄という他なかった。返済のために朝も夜も働き詰め、時には今日のようにスカベンジングも行っていた。しかしキヴォトスにおいてヘイローも突出した学力もないフミオが就ける仕事は限られており、毎月の利息の返済すらできておらず借金は膨らみ続けるばかり。風呂に入るどころか洗濯すら何週間もできない。一日の食事すら事欠き雑草を錆びついた鍋で煮込み、青臭さを堪えて胃袋に流し込んでなんとか生きながらえていた。

 しかし、そんな生活すらできなくなるかもしれない。来週までに50万円用意できなければカイザーローンが斡旋する仕事に従事させると、取り立てロボットから言われたのだ。噂によるとカイザーローンは返済の見込めない債務者をギリギリ合法なカニマグロ密漁漁船に乗せ、極悪環境下で労働をさせるらしい。しかも下手をすれば誰も知らない海に落ちてカニマグロたちに貪り喰われるとのこと。恐ろしい話だ。

 

(生きたい……死にたくない……)

 

 生存本能がフミオの原動力だ。常人ならとっくに精神崩壊していてもおかしくないが、幸か不幸か彼は正気を保っていた。だからゴミの中を這ってまで生きようと思えるのだ。

 

「アタシが見つけた電子レンジだぞ!」

「うるせえ! これでもくらえ!」

 近くでゴミを巡って小競り合いが起きたようだ。銃の発砲音がするとそれを皮切りに銃撃戦が始まる。

「うわっ!」

 弾丸の一発がフミオの安全ヘルメットを掠めた。軍用でない単なるプラスチック製のそれは一発で大きく破損した。

「クソー! 奪われるくらいなら諸共じゃー!」

「ウワー! バカ! やめ」

 その会話で嫌な予感がしたフミオは思わず顔を上げた。そして見た。目を吊り上げ、両手にクレイモア地雷を持ってライバルに突撃する生徒の姿を。その自爆特攻はフミオのすぐ近くで行われていた。

 咄嗟に体を丸めて防御体勢に入る。

「「どわああああああああ!!!!」」

「ブッ……!」

 ギャグ漫画のように吹っ飛んでいく二人とは対照的にフミオは極めてシリアスに吹き飛ばされた。布のおかげで重篤な火傷は防げたが、吹っ飛ばされた先にあったコンテナに背中から激突した。

「ガハッ! ゲェッ!」

 肺の中の空気が一度に吐き出される。ゴミのように地面に落ちた。骨がどこか折れてはいないか、そんな事を考えた瞬間に激痛に苛まれる。

「あがっ……! ああっ……!」

 身動き一つ取るごとにささくれ立った電流が走る。何とか肺を動かすも、空気に膨らむと内臓が圧迫されたように感じる。

「げほっ!」

 喉の奥から血が飛び出てきた。少なくとも内臓にダメージが入ったらしい。少しでも楽な体勢になろうと、コンテナを背に座り込む。

「ハァーッ……! ハァーッ……!」

 痛みに耐えながらフミオは自分の状況を確認する。

 身体、ダメージが酷い。動けるようになるにはしばらくかかるか、もしかしたらもう動けないかもしれない。

 頭、一応無事だ。少なくとも自分を客観視するくらいの思考はできる。ヘルメットが最後の仕事をしてくれたのかもしれない。

 装備、最悪だ。安全ヘルメットは粉々に砕け散り、布は千切れ、ショットガンは何処かに吹っ飛んで行ってしまった。

 

(神様……悪魔でもいい……誰か、助けて)

 状況は最悪の一言。仮にここから生還できたとしても一億円以上の借金は変わらずそこにあり、フミオを密漁漁船へ引き摺り込むだろう。ここにいても、帰る事ができても、地獄であることに変わりはない。

 

(何で……僕ばかり……)

 涙が溢れくる。どこでこうなったなどと考えることはない。物心ついたときからずっと良い事などなかった。両親は妹ばかり可愛がりフミオは放置された。学校行事など来てくれたことはないし、上履きや教科書などの必要備品を恐る恐る頼むと舌打ちをされた。挙句、銃撃戦が止まない街に送りつけられ、そして捨てられた。

 

 生存本能。それが風前の灯めいて消えかけていた。或いは、いっそのこと消えてしまった方が救いになるかもしれない。終わってしまえば次のステージへと行けるか、少なくとも何も感じなくなるのだろうから。

 

 

 だが、突然にそれは降ってきた。

 

 

「?」

 フミオの眼前に何かが落ちてきた。ガコンと音を立て、地面を転がるそれとフミオは目が合った。バイク乗りが被るようなヘルメットだった。しかし独特なデザインだ。バイザーがまるでスズメバチのようなデュアルアイタイプ。

 しかし、何よりそのヘルメットには通常であれば女子生徒の頭上に浮かんでいる光輪、ヘイローが浮かんでいたのだ。

 

 それが、運命の分岐点だった。

 

 

 ◆◇◆

 

 プルルルルルル。プルルルルルル。

 

 ヘルメットに内蔵された通信機から鳴る音でフミオは目を覚ました。随分と懐かしい夢を見ていた。以前借金はあるが以前ほど困窮していない。朝食に味噌汁と目玉焼きはあるし、洗濯もできるし風呂にも毎日入ることができている。それもこれもこのヘルメットのおかげで高額の仕事を受けることができるからだ。

 ムクリと上体を起こしてヘルメットを被る。

「…………」

『もしもし。傭兵のパイソンさんですか? 合ってますか?』

 寝起きでボーッとしていたせいかフミオは電話口での挨拶を忘れてしまった。それに狼狽えてか、電話の向こうで少女の声が確認してきた。

「『イグザクトリー!』『私が!』『パイソンだ』『なんか様かぁ?』(合っていますよ。僕がパイソンです。ご用件は何でしょうか)」

 フミオは少しでも身バレする可能性を消すため、電話口での会話はラジオやテレビ、動画配信サイトから彼の言葉のニュアンスに近いものがランダムで再生されるようになっている。

『わ。ミコちゃんが言ってた通りだ! 本当に切り抜きで喋るんですね! おっとと、そうじゃなくって、お仕事の依頼なんですけど、頼まれてくれますか?』

「『まず始めに』『依頼の内容を説明』『してください』(最初にどんな仕事なのか教えてくれますか?)」

 傭兵の仕事をする中で依頼内容を誤魔化したり、報酬を出し渋る雇い主はままいる。故に事前確認は大事だ。もし適当な仕事なら断ることもできる。

『わわ、失礼しました。私は乃木坂モコって言います。実は私が推しも推しているスーパーロボットアイドルグループのレインマンのライブに友達と行くんですけど、会場で売っている限定グッズを買った人を狙った悪質な強盗転売集団が出るかもしれないという話を聞いたんです。それでその、パイソンさんにはライブの行き帰りで護衛を頼みたいんです』

「『なるほどなるほど……』『で』『お金の話なんですが』『報酬はどれくらいだ?』(そうですか……。報酬はいくらで?)』

『推しのグッズのためなら出し惜しみはしません。友達とお金を出し合ったので、40万円でどうでしょうか?』

 ボディガードの雇用費用の相場は時給9,000円程度であり、8時間警護ならば72,000円。つまりパイソンは大体六人分の仕事を期待されていると言うことだ。

「『オッケー!』『わたくしにお任せください! 必ずやご期待に沿って見せましょう!』(わかりました。その依頼、受けます)」

『やったー! ほ、本当に受けてくれるんですよね!?』

「『もちろんです。プロですから』(ええ、ご心配なさらないよう)」

『ありがとうございます! それで、待ち合わせ日時なんですけど」

 依頼を受けたフミオはモコと細かい部分部分の打ち合わせをして通話を終えた。そして、ヘルメットに内蔵されている録音機能により先ほどの会話をリピートし、それを正式な書面に纏めて印刷する。

 あとは当日までに準備を済ませておくだけだ。借金完済のため、仕事は万全に、確実に達成する。それが唯一フミオの未来を切り開く手段なのだから。

 

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