謎のヘルメット傭兵 作:357
「イェーイ! 無事に到着デース!」
白目を剥いて気絶するスケバンを踏みつけながら「腕立て伏せを伏せをするクジラ駅」に到着したメスームは両手を上げた。ヘイローには「Happy!」と浮かんでいる。
「本当に……無事に着いて…良かった」
「つっ、疲れた……」
反面モコとシヤは疲れ切った様子を見せている。四人の通ってきた道にはパイソンに叩きのめされたヘルメット団、スケバン女子、不良学生型リーゼントロボット、「徴税します」「市民の義務」「行政委託」と刻印された強盗オートマタ等、様々な与太者が転がっている。
「『申し訳ありません』『アウトオブアモー』」
パイソンがポケットを引っ張り何もない事を示す。パイソンは常に持てるだけの弾薬を持ち歩いているが、それが無くなるほど敵の数が多かったのだ。
「ああ、大丈夫ですよ。電車の出発時間にはまだ余裕がありますし、私たちも弾薬を買いたいので一緒にコンビニに行きましょう」
「ついでにスムージーも買いマショウ! ヘルスファースト!」
通常であれば割高であるコンビニよりはスーパーや銃砲店で買った方が安く済むのだが、この際は仕方がない。財布を気にしての寄り道をする余裕などないのだ。
駅内にあるコンビニ向かう道すがら、パイソンはふと辺りを見回した。護衛対象の三人以外にもレインマンの物販目当てに早くから行こうとしているのか、推し活バッグ、ハッピ、ハチマキ、ノボリなどのファン装備を身につけた女性たちがチラホラと見える。
だが全員が既に疲れたような表情をしており、中にはボロボロになった装備を幽霊のような手に下げ、背中を丸めて啜り泣いている者までいた。
(キヴォトスではカツアゲしてくる不良との銃撃戦は日常茶飯事。にしても今日は襲撃が多かったな。気のせいか?)
一抹の不安を覚えつつもパイソンは三人と共にコンビニで必要な物資を買い揃え、切符を購入して電車に乗り込む。キヴォトスの在来線は列車強盗対策に重機関銃、グレネードランチャー、火炎放射器等で武装した頼もしい移動要塞だ。ゲヘナの風紀委員会やトリニティの正義実現委員会のような怪物組織ならともかく、その辺りでたむろしている不良など簡単に吹き飛ばしてしまう。
「全員手を挙げろ! 私らはお面体操服団だ!」
しかしそれも外部からの脅威に対しての武装。突如乗客の何人かコートを脱ぎ捨てて天井に向けて発砲したのだ。カイテンジャー、プリゴア、デンネズ、織田信長など、縁日の屋台で売られているようなヒーローマスクを被り、古式ゆかしいブルマー体操服に身を包んだ彼女たちは有名な列車強盗団だ。
昨今の鉄道武装化により外部からの強盗は難しいと判断し、少ないお小遣いを出して普通に乗車して内部から襲うことにしたようだ。
「列車強盗だと!? ふざけやがって!」
「血祭りに上げてやる!」
「ハイランダーを舐めるんじゃねえ!」
すぐさま乗務員と車内警備員が事態の収集に乗り出してきた。ピースメーカー、ウィンチェスターライフル、ダブルバレルショットガン、ボウイナイフと頼もしい武器を手にしている。生半可な不良であれば失禁しているだろう気迫は流石はハイランダー生徒といったところか。怯える乗客たちにとっては頼もしいパラディン。
「おっと! 動くんじゃあねーぞ! ちょっとでも動いたらコレだかんな!」
しかしお面体操服団はプロの強盗団だ。彼女たちの腹部を見よ。一見するとお父さんから借りてきた厚めの腹巻きにしか見えないが、それはダイナマイトの束だ。しかもスイッチ式の起爆装置が取り付けられている。
ハイランダー生徒たちはピタリと動きを止めて歯軋りする。自分達や乗客が吹き飛ばされるのはともかく電車を破壊されるのは困る。ダイヤが乱れてしまうからだ。お面体操服団がハイランダー生徒の特性を理解した上での行動だとしたらかなりの狡猾さだ。
(大変なことになっちゃった……)
(ライブ行けなくなっちゃうよー!)
(ファッキンアスホール!)
オシニオス生三人は声を殺して嘆く。さしものパイソンもあれほどまでの自爆装備を攻略する手立てがないのか、腕と両足を組んで座っていた。
「へっへっへ! そうだ、そのまま大人しくしておけよ。さてと」
カイテンジャーのお面を被ったリーダー格と思わしき強盗がスマホを取り出して何やら操作をし、カメラで車内をグルリと見回した。
「お前ら! あとそことそこのお前ら! 立て!」
「「「「「何で!?」」」」」
強盗団が指揮棒のように銃を振り、複数のグループに命令をする。その中には何という不運かオシニオス生三人が含まれていた。
「何でだと? そんなん決まってんだろ。ええーと……なんかカネの匂いがするからだ! さっさと出てこい! まずはお前らからだ!」
「「「「「そんな!」」」」」
オシニオス生三人よりも手前のグループが呼び出される。怯える彼女たちの前にデンネズ面の強盗がずた袋の口を広げた。
「さあこの中にありったけのカネを入れろ。スマホもだ。誤魔化そうなんて考えたらハチの巣にしてやるぜ」
呼び出されたグループは絶望と諦観が混ざり合い、大人しく財布とスマホを袋の中に入れる。シクシクと泣く彼女たちのカバンの帯にかかる雨雲を模した「R」のアクリルキーホルダーがキラリと光った。
「よーし。いい子だ。さっさと戻りな。そして次はそこのお前ら!」
オシニオス生が命令をされた。彼女たちもまた絶望と諦観に飲まれて強盗団の元へ行こうとした。しかしモコの肩に手がかかり足を止められた。
「え? パイソンさん?」
パイソンは三人を席に座らせると自分だけが出て強盗団の前に立ちはだかった。
「な、何だお前は! お前には命令なんかしてないぞ! 大人しく座ってろ!」
異様な気配を察知したプリゴア面がライフルを構えて脅しつける。しかしパイソンは無言で立ったまま。それだけの筈なのに、お面体操服団はまるで蛇に睨みつけられたカエルのように動かなくなった。
パイソンがコートの内側に手を入れる。ハッとして慌てて銃を構える強盗団。
「お、お前ぇ! 妙な動きをするんじゃあねーぜ! 吹き飛ばされたいのか!」
狼狽えつつ脅しつける強盗団。しかしてパイソンが懐から取り出したのは厚みのある茶封筒。しかも中には何やら紙束が入っている。
「ゴクリ……な、なーんだ! 大人しくお金を渡そうてしていただけなのね! それならそのカッコいいヘルメットももらおうかしら」
デンネズ面のサイバーサングラスが「$$」に変わった瞬間、パイソンは茶封筒を強盗団の中身に向けて投げ渡した。
「あ!」
ばら撒かれる長方形の紙、紙、紙、紙吹雪。お面体操服団は舞い落ちるそれらをキャッチせんと手を伸ばして振り回す。
「やった! げっと…………」
織田信長面はキャッチしたそれを見て目が点になる。青空の背景に「キヴォトスサマービッグ」と誇らしげな書体、そしてランダムな13桁のナンバーが書かれた上から「ス カ」と事務的落胆書体でスタンプがされている。現金の束とお面体操服団は勘違いしたがそれは宝くじのハズレ束だった。弾除けの縁起物だと納得させるためにパイソンが常に持ち歩いている物だ。
「!」
顔を上げた織田信長面の視界の先にはコルトパイソンの銃口。
「ギャン!?」
織田信長面の額に弾丸が撃ち込まれ、面の破片をばら撒き後ろへ回りながら転倒する。
「て、てんめグフッ!?」
プリゴアが貼り付けた笑顔のまま激怒し、銃を向けてくる直前にパイソンは懐に飛び込みながらダイナマイトに覆われていない鳩尾に正拳突きめいて銃口を突き刺して発砲。二重の衝撃によりプリゴア面は昏倒した。
「ぎゃー! 来るなー!」
「バカ! 爆弾に当たる! やめろ!」
デンネズ面がサブマシンガンを向けて撃とうとしたがカイテンジャー面に静止された。しかしパイソンは止まらない。昏倒させたプリゴア面を盾のように担ぎながらラグビータックルを実行。
「「ほげぇ!?」」
二人を巻き込んで吹き飛ばす! 床に倒れながらデンネズ面の額に向けて発砲。357マグナム弾が黄色いネズミ面を粉砕。気絶。
「ウゲェーッ! く、クソ! こうなったら何もかも吹っ飛ばしてや」
カイテンジャー面が起爆スイッチに手を伸ばした瞬間、パイソンはその手に向けて発砲! しかしすん出の所で間に合わず、手を撃ち抜く直前に起爆スイッチが押されてしまう。
「ギャヒハハハハハ! 全部吹っ飛べェーッ!」
やけくそ気味に叫ぶカイテンジャー面。あと五秒で車両が吹き飛ばされてしまう。乗客たちと乗務員が頭を保護しようと体勢を低くする。
「え」
だがパイソンは違った。彼は0.1秒で空薬莢ごと弾を全て排出してリロードを行い、銃口を窓に向けてクイックドロウを行う。パイソンの意図は不明だがキヴォトスの車両は防弾ガラス。マグナム弾とはいえ傷一つ負わせられないはず。
しかし見よ。パイソンの放った弾は貫通力の高いフルメタルジャケット弾。更に全弾が全く同じ一点に向けて発射されているのだ。最初の弾が窓ガラスに当たり弾かれるよりも早く次の弾丸が最初の弾丸に当たる。その次も、その次も、その次も、その次も、その次も。これがどのような現象を引き起こすのか? 答えはすぐにわかる。
六発分のフルメタルジャケットマグナム弾が一点に集中すれば、その威力は対物ライフルにも匹敵する。ミレニアム製強化防弾ガラスの全面に蜘蛛の巣のようなヒビを入れて貫通した。
「え」
そしてパイソンは最初に倒した織田信長面を被っていた少女とプリゴア面を掴んで窓の外へ放り投げる! 粉砕したガラスがダイヤモンドダストめいて朝日に照らされる。
「ちょまっ!」
すかさず残り二人もゴミ袋を放り投げるが如く窓の外へ強制下車。
「うそだあああああああああ!!!」
そして四つの花火がキヴォトスの空に咲き誇り、散った。
そして後には割れた窓から入ってくる強い風、それにはためくパイソンのコートの音だけが聞こえる。
「………ハッ!」
最初に我に返った乗務員がリモコンを操作する。すると割れた窓に被さるようにシャッターが降りてきて風を遮断した。
「あ、あんた! 無茶するなぁ! だがお陰でクソッタレな強盗の思い通りならなくてよかったぜ!」
「『窓ガラス』『ブレーイク!』『本当に申し訳ない』」
「うわ! 変な喋り方! まあガラスの一枚や二枚、車両丸ごと爆破されるのに比べたらどーってことないって! 本当にありがとうな!」
そう言うと乗務員は後片付けに向かう。パイソンは強盗団が残していったズタ袋を広い、先程金品を奪われていたグループに返した。
「あ、ありがとうございます! あの……パイソンさんですよね? 傭兵の。写真撮らせてもらってもいいですか!?」
「『どうぞと言う』」
パイソンから許可を得たそのグループは黄色く騒ぎ出し、ズタ袋を受け取ると彼との写真を撮った。
「はぁ〜〜〜……やっぱり、凄いなぁ、パイソンさん」
その様子を見ていたシヤはうっとりとした目でため息をついた。それは恋する乙女にも似ていて、しかし違っている。憧憬、尊敬、そう言った類の感情だ。
「…………」
一方でパイソンは別のことを考えていた。それは今朝からの襲撃、駅の様子、そして先ほどの強盗団の所業。そこからパイソンはある一つの結論を出した。
(間違いない……と、思う。レインマンのファンが特定されている)
最初に金品を奪われた彼女たちは隠れファンだ。普段はレインマンを推している事を喧伝したりはしないが、エンブレムやマークといったわかる人が見ればわかる物をキーホルダーやバッグなどの小物に付けている。それを見抜くにはレインマンの事を知っているしかないが、お面体操服団は見た限りスマホの機能か何かで特定していた。おそらくレインマンの事はそれほど知らないのだろう。
今回の仕事、ただの護衛任務では済まないだろう。パイソンはアンバーニードルのグリップを強く握り、次なる戦闘に備えてホルスターに収めた。