「てことで触らせてくれ!」
「ヤダ」
黒のショートヘア、宝石のような赤い眼………あり得ないぐらい端正な顔立ちと、すっげえデカいサメの尻尾
俺の学校のちょっとした有名人であり、隣の席の人であり、友人───それがエレン・ジョーである
「あんたもしつこいね。これで何回目?」
「3723回目だ!ちなみに断る時のセリフは100%即答。『ダメ』の割合が最も大きく、『ヤダ』の割合が一番小さいぞ!」
「うわぁ………」
俺には野望がある。エレンのすっげえデカいサメの尻尾に触るという野望だ
やはり、目指すべき目標がある人間は強い。エレンの尻尾を触るべく無限に特攻を続ける日々が早一年。毎日全力の充実した日々が送れている
思わぬ副次効果を認識したが、肝心のゴールには一向に辿り着けてなかった。何故だろうか。
「……何故も何も、ダメだから。絶対触らせたげない」
「あれ、声出てた?」
「思いっきりね」
「うーん、このままじゃ俺の心の声は漏れ出てしまう一方だ。そこで一つどうだろうか、俺に尻尾を触らせてもらえれば万事解決……」
「しないから」
搦手を使おうとも、正面から土下座をしてもダメ。金は交渉材料にならない……というか、俺がエレン相手に交渉を仕掛けられるカードが何も無い
この子、何でもできるのだ。陸上部の助っ人に行った時には新記録、お顔が良すぎて演劇部に勧誘され、他校の連中がどうとか言われながらキックボクシング部にも勧誘されてる
勉強も全てにおいて俺の上、スポーツも万能、すっげえデカい尻尾。うーん、完璧である
「……てゆーか、こんな事してる場合じゃないでしょ」
「?何でさ」
「テスト。来週だよ?」
「…………マジ?」
「大マジ」
テスト。俺たち学生を殺す邪悪なるイベント。たかだか数枚の紙切れに俺たちは怯え、恐怖し、結果に涙し……
「あんたの家か、あたしの家か、どっち?」
「…………よろしくお願いいたしますエレン先生……」
思えばこのやり取りも慣れたものである。テストの度全力でエレン大先生にしがみついてなんとか赤点を免れて生きているのだ。勉強?普通に考えて尻尾のほうが優先度高いよね
「畜生……勉強は嫌いだ………」
やはりここは断固として訴えていくべきだろう。勉強からの解放。俺が政治家となり、人間誰しもが持つ勉強しないという選択肢の保証────
「………選択肢?」
……考えてみれば、さっきのエレンの質問、勉強をするという事は最初から決定事項。その上で場所をどうするかの質問をしていた
これ!これだ!これは使えるぞ!上手くいけば俺の野望が完璧に成就するかもしれん!!
「ふっ……待ってろよエレン。今度こそ俺の勝ちだ」
──────────────────
「うおぉおぁおえぁ……疲れた…………」
「何語……?」
3時間か4時間に渡る詰め込み教育に、ついに俺の脳は限界を迎えた。知恵熱どころの騒ぎじゃないぜ。聞いて驚け、今なら俺の頭で目玉焼き作れる自信ある
「なあエレン……俺頑張ったよな…何かあってもいいと思うんだよ、ご褒美」
「……先に言っとくけど、尻尾は────
「おっぱい触らせて。嫌なら尻尾で」
エレンが文字通り固まった
そう、これだ!どこかを触るのは決定事項、選ばせるのは触るか触らないかではなく触る場所!エレンの思考力を削ぐべくその割とデカいおっぱいを引き合いに出したのだ
これなら流石のエレンも尻尾を差し出すだろう。ふっ、遂に完全勝利だ!
「……えっ、と、その」
「…………尻尾は、ムリ」
「……………だから、その」
「………………こっちに、して」
腕を組み、下から持ち上げるようにして、おっぱいを差し出した。ふむ、尻尾とおっぱいの二択で、おっぱいを選んだわけだ。尻尾に触られたくないエレンらしい選択だな
ふむ
なるほど
「!?!???!!?!!!?!?!!?」
その二択でまさかのおっぱい?????
どんだけ尻尾触られるの嫌なの??????
いや待て、落ち着け俺よ。それも気になるけど最優先でどうにかすべきは今この状況だ。おっぱいを差し出すエレン、おっぱいを差し出される俺。えっ、あ、夢……?
「は、早くしてってば!」
「あっ、その、はい!」
俺に思考する時間は与えられていなかった。怒涛の展開に脳みそがキャパオーバーを起こしたらしい。もうどうにでもなれ、というヤケクソな気持ちでそのおっぱいに手を伸ばし────
(………あれ、尻尾が)
常にエレンの尻尾を追い続けてきた俺だから分かる、いつもとの違い。エレンの尻尾は俺が見てきた限り100%彼女の背中側にあり、腹の方に回す事は一度も無かった
それが今は、腹に巻き付くように、尻尾がそこにある
(……………ふむ)
フィジカルで負け、知能で負け、勝手に触る作戦は悉く失敗に終わった。が、しかし────
「今ならいけるっ!」
「ひゃん!?」
飛び込むように、その尻尾に抱きついた。衝撃と快感に驚いたのか、エレンの身体がびく、と跳ねる
うん。鮫肌、というやつだ。ざらざらしてる。けど触れる者を傷つけるようなものでは全然ない。何か独特の心地よさを感じる触り心地。これが俺の生まれた意味。そう……全ては、ただ一つの目的のために…………
「…………あ」
ふと顔を上げ、エレンと目があった
相変わらず可愛らしい笑顔である。青筋が浮かんでさえいなければ
「ふざけんなっ!」
「ぐへぁっ!?」
尻尾はやはりいいものだ
今日のところは、それで充分ではないだろうか