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「一先ず―――先手必勝だよなッ!」
コンクリートの地面を蹴って、一気に宙に跳ね上がり距離を潰す。
相手は怪物だ。だが、怪物としての恐ろしさを多く持っている訳ではない。
「殺るのネンっ!」
『ランボーグッ!』
雄叫びを上げながら、ランボーグと呼ばれる怪物がそのショベルカーのレーンの形をした腕を勢いよく振るう。
その腕の形状を見ればすぐに分かる、この怪物の武器はその腕だけだ。それ以外にはこれといった武器はない。
「っんだよ、案外速いなッ! だが―――伊達に普段から動いてねぇぞ!」
動きは大雑把だが、その巨体に似合わぬ速度だ。天野が想像していた動きよりも若干だが速い。
だが、その誤差に何ら問題はない。たかが一か二程度の誤差でしかないそれは、十分に対応し切れる範囲内に留まっている。
真っ直ぐに飛び込んだ天野に合わせる様に、真っ直ぐに振り抜かれる怪物の腕。その凶刃が襲い掛かる。
身を捻り、振り抜かれたシャベルを土台として両手で滑る様に鮮やかに躱し、その加速に身を任せて顔面まで詰めていく。
「なんだと!?」
『ランボーグっ!?』
「そんな驚くなよ!」
槍の切先が如き鋭い蹴りを顔面へと穿つ。
巨体が揺らぐ。衝撃が全身を伝わって迸り暴れ出す。
なんだ、コイツは。これが本当に生き物から放たれる蹴りなのか? ただの生き物が出せる威力なのか?
まるで、鉄骨でそのまま殴られたかの様な感覚に襲われる。鋼鉄の肉体の内部で、ただただ純粋な暴力が侵略していた。
ずどんっ…! と、ランボーグは衝撃に抗う事も出来ずに後ろから倒れ伏した。
「す、すごい…!」
「これくらいはな。ぶっつけ本番にしては上出来ってもんだ」
「な、なんなのネン、アイツ…!」
ソラとカバトンは、奇しくも互いに驚愕という感情を抱いた。
武術という訳でも格闘術という訳でもない、アドリブだらけの動作。しかしその動きには一切の無駄がなく、どちらかと言えば洗練されていた。
逸脱的な身体能力を使った荒業ではあるものの、荒々しい戦い方ではあるものの、しかし場を見極め、攻撃を見切り、次を予測している。
『スカイランド神拳』という武術の使い手であるソラは尚の事、カバトンよりも天野の身体能力の高さに驚愕するばかりだった。
「ソウさんは、親衛隊の隊員だったりするのですか!?」
「親衛隊ではないけど、自衛隊に誘われた事はあるな。まだ中学生なのと気持ちの問題云々で蹴ったけど。まぁ、それはおいといて…ぶっちゃけ、倒すのは難しそうだ」
「っ…そう、ですか…」
「あぁ。ダメージはあるっぽいが、決定打にはなり得そうにねぇわ。ありゃ多分、外じゃなくて中にある核みたいなものをどうにかしないと解決出来ん」
それは、勘と呼ばれるもの。或いは、第六感。
視覚や嗅覚などといった五感から感じ取るものではなく、『なんとなく』といった形容し難い感覚から理解するものだ。
ランボーグの顔面を蹴った際、或いはショベルを躱して触れた時。邪悪が一斉に集まって出来た様な塊を天野は感じ取った。
「核…ですか?」
「感じたっていう、曖昧なもんだけど…とにかく、真っ黒な何かがあると思う。それを浄化とかするのが解決策なんだろうが……聞くけど、そういう物持ってたりは?」
「しないですね…」
「だよなぁ。となると、やっぱゴリ押ししかなさそうか…さてさて、夜を明かす破目にならなきゃいいんだがな」
「何をぶつくさ言ってるのネンっ! 俺様を舐めてるのネン!?」
「おぉ、正解。分かってるならさっさと来いよ、腐れ野郎」
「っっっっ〜〜〜〜〜〜!!!!! 潰せッ、ランボーグ!」
『ランボーグ!』
激昂し、怒りに身を任せて声を荒げる。
その怒りに従う様に、すぐに立ち上がったランボーグは大きく踏み出しながら両腕を振り翳した。
「はっ、乗りやすくてありがたいな!」
「ソウさん!」
「注意を引く! 隙が出来たら一発、或いはあの腐れ野郎を―――」
「―――『アバトント』」
突如、黒煙が天野の顔を覆った。
「なっ…!?」
カバトンが額に指を翳した瞬間、まるで標準を定めたかの様に的確に、天野の顔面へと奇襲が仕掛けられた。
隙だらけだった。
激昂は本当だ、だがランボーグは囮。そして、ソラとの会話も隙を生んだ。
会話は丸聞こえだった。故に、カバトンが天野ソウという少年を警戒し、最優先で撃破しようとするのは至極当然だ。
「ソウさん!?」
『ランボーグッ!』
「来るなっ!」
ソラが駆け出す。
拒絶の声は、あまりにも遅い。
ドゴォッ!!!! と、重機の刃が地面を抉り、少年の体を容赦なく叩き潰した。
「がっ―――」
「っは…!?」
そして、その破片と余波によって、天野の下へと駆け出したソラもまた―――攻撃を受けてしまった。
「
骨が軋む。/―――おい…
皮膚が裂ける。/―――まてよ……
意識が揺らぐ。/―――このままじゃ………
視界がぼやけていく。/―――みんなが………
直撃だった。普通の人間ならば、全身の骨が砕けて即死しても何らおかしくはない致命傷となる筈一撃だ。
だが、彼は未だ生きている。骨は折れず、体は両断されず、皮膚も僅かに裂ける程度だ。
だが―――死ぬ事はなくとも、その意識を保つ事は今の彼にはあまりにも難しい。
意思や感情の問題ではない、理屈で押し通ってしまう人体の構造上の問題だ。感情論でどうにか出来る様な現実ではないのだ。
「あ………」
遠ざかる敵の背。その端に映るのは、倒れ伏すソラと―――赤子を抱えて逃げている
―――うごけ。
――――――うごけ。
―――――――――うごけ。
――――――――――――うごけッ!
幼馴染と友人が殺されるのを、黙って見るなど御免被るッ!
「――――――――――――――――――――――――あ」
パキッ……と、何かが砕ける音が頭の中に木霊する。
全身に鼓動が走る。
全身の血液が加速する。
目の前の視界と脳裏がまっさらになっていく。
更地が―――目の前には広がっている。
草の根一つ、枯れ木一つもない廃れた更地。荒れた大地の上に、ただ一人の自分が立っている。
手足に枷が嵌められている。首に鎖が巻かれている。見えない何か、視える筈もない何かが己が体を縛り付けている。
「――――――――――――あ――――――――――――――――――ぁ」
前に足を出す。
振り上げた足は、酷く、重く、苦しく、鈍い。
力が思う様に入らない。踏み出そうとした足が降り出しに戻って止まる。
絶望の風が体を殴る。失意の熱が体を灼き尽くす。
これは、幻覚なのか。それとも―――現実か。
そんな曖昧な判断すらつかず、踏み出しては戻って、踏み出しては戻ってを何度も繰り返す。
何度も、何度も。
何度も、何度も、何度も。
何度も、何度も、何度も、何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
前には進まない。
それはきっと一瞬の出来事なのだろう。これはただの刹那なのだろう。だが、己はまるで何十年もの間、此処に縛られている様な錯覚に陥っている。
そして―――
『ヒーローの出番ですっ!』
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」
そんな言葉が聞こえた瞬間、目の前に一つの光景が映し出される。
少女が、戦っている。一人の少女が立ち上がり、ヒーローとして戦っている。
たった一人で―――戦っている。
「あ」
一步踏み出す。
「ぁ」
さらに踏み出す。
「ぁぁ――――――!!!!」
もっと踏み込み、先へ進む。
「あァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
――――――アイツの隣に。
バキバキバキバキバキバキッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
枷が壊れる。
世界が崩れる。
目が潰れる。
喉が裂ける。
骨が砕ける。
腕が切れる。
脚が捻れる。
それでも―――止まる事はない。
「―――――――――ははっ」
見慣れた景色が視界に広がる。
青い空だ。何時もの街だ。
乾いた笑みと共に、それまで抱いた事のない感情が身体を内から燃やす。
「――――――」
手足が動く。両目が動く。血液が流れる。鼓動が落ち着く。感覚が働く。
全て、問題無し。
「行くか」
暴君が、解き放たれたその瞬間。
「っ…!?」
カバトンの全身に、恐怖が走る。
身の毛が弥立つ何か。まるで捕食者と相対している時の様な、本能的な恐怖が身体中を駆け抜けていく。
「な、なんだ…!? なんなのネン、この感か―――」
ゴッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
言い切る前に、口が固まる。舌が突き出される。
肺にあった空気の全てが強引に引き摺り出され、腹部から全身へとそれまで味わった事のない激痛が嵐の様に素早く蝕んでいく。
「よぉ―――久しぶり」
我々の知る