1月、有馬記念も終わりトウカイテイオーは実家近くの公園に来ていた。彼女はベンチに腰掛け、目の前に広がる大きな池を眺めていた。この池は公園のトレードマークであり、散歩コースでもあるのだが、気温の関係もあって人気はまったくない。それについては都合が良かった。今は一人で考え事をしたかったからだ。
はぁと、白い息を吐き出す。テイオーとマックイーンの怪我は完治している。そのため、テイオーの固定していたギプスは無くなっていたが、彼女の顔は、今日の天気のように晴れなかった。曇天が、いつも以上に体を冷え込ませる。
テイオーは天皇賞以来、スクールに顔を出していない。トレーナーには、怪我の治療に専念したいということにしていたが、真意はまた別のところにあった。それが、考え事の内容だった。
そんなテイオーに声がかけられた。
「隣、座ってもいいかな」
いつの間にか、すぐそばに人が来ていたようで、テイオーの尻尾がピンと跳ねる。驚いてそちらを見ると、女性が立っていた。帽子と眼鏡をかけているため、顔はよく分からない。揺れる尻尾からウマ娘ではあるようだ。帽子からはみ出た鹿毛と三日月のような流星に、テイオーの警戒心が揺らいだ。
「と、どうぞ」
体を少しずらし、彼女に席を譲る。女性は礼を言って、隣に座った。
「ありがとう、ここは私の散歩コースでね。いつもここに座って、池を眺めながら休憩をするんだ」
彼女は姿勢がとてもよく、座っているだけでも様になっていた。カリスマとでもいうような存在感を感じる。芸能関係の人物なのだろうか、テイオーは彼女を観察しながらそう思った。
その視線に気づいたのか、彼女もまた、テイオーに視線を動かす。おや? と、彼女は何かに気づき、声を出した。
「君、トウカイテイオーじゃないか?」
「え? あ、うん。えっへへへ、ボクのこと知ってるの? お姉さん」
「GⅠウマ娘なら、知らない方がおかしい。テレビでよく見かけるからね。新聞にも載っていた」
先ほどの曇っていた顔はどこに行ったのか、テイオーはご満悦の表情になる。女性は鞄から手帳と、ペンを取り出した。どちらも質が良く、高そうだ。その2つが、テイオーに差し出された。
「失礼ながら、サインをもらっても? オフ中で申し訳ないが」
「いいよいいよ、お姉さん口がうまいからサービスしちゃおう!」
テイオーはメモ帳とペンを受け取って、サインを書き込もうとする。だが、その手は止まった。
「えっと、お姉さん名前は?」
「と、そうだな……、ルナと書いてくれ」
「ルナ? 変わった名前だね」
「愛称みたいなものだよ」
愛称、名前を気軽に明かせない人物なのだろうか。彼女の方こそ、有名人なのかもしれない。さらさらと、テイオーはメモ帳の表紙にサインを書き込み、女性に返した。
「ありがとう、家宝にしよう」
女性は笑顔でそれを受け取り、大事そうにそれを仕舞う。家宝にするというのは冗談なのだろうが、それでも悪い気はしない。
「お姉さんも走者だったりするの?」
「どうしてそう思うのかな?」
「姿勢良いから。スポーツしてる人は、体幹いいからね」
「なるほど、良い観察眼だ」
にししと、テイオーは笑う。
「と言っても、昔はかな。今は観客に回る方が多い。色々と忙しくてね」
「ふーん?」
走者だけど、走る機会が少ない? トレーナーも兼任しているんだろうか。
「このまま引退かもしれないね」
「え~、残念。ボク今年からシニアだから、お姉さんとも走れるかなって思ったのに」
「はっはっは、それは少々ご免被りたい。君と走ったら負けてしまう」
彼女は朗らかに笑う。
「またまた、お姉さん強いんじゃないの? 余裕? みたいなの感じるし。ま、ボクだって負ける気はないけどね」
テイオーもつられて笑う。ついさっき会ったばかりの人なのに、テイオーは何故か親近感がわいていた。以前から知っている人物、そんな気がした。
「でも、良かったよ」
「何が?」
「走ること、まだ続けるんだなと」
愉快な気持ちが吹き飛んだ。視線が池へ移り、表情が先ほどの曇り空へ変わる。
「悩み中かな」
「……そうか」
「……ね、お姉さん」
「なにかな」
「お姉さんは」
息を短く吸う。耳が垂れ、口の中がからからに乾いていた。唇を舐め、テイオーは口を開いた。
「怪我したことある?」
「…………」
「かすり傷とかじゃなくて、大怪我」
「ある」
「……怖くなかったの? もう2度と走れなくなるんじゃないかって」
「…………」
「まだ現役なんでしょ? なんで、やめなかったの?」
「……怖かったよ」
彼女は吐き出すように、その言葉を紡いだ。テイオーは彼女の顔を見るのが怖くて、池の方を見続けた。無意識に、自身の脚に手を伸ばす。壊れかけてしまった脚。
『まだ、まだ走れます!!』
“彼女”の悲鳴を思い出す。フラッシュバックしたその光景に、目を閉じてしまった。
「使命感? それとも執着?」
「……そういう物がなかったとは言わない。公の場には出せなかった理由がなかったとも言えない」
「そっか……」
「だが、私がまた走ろうと思ったのは……」
「思ったのは?」
恐る恐る、テイオーは彼女の顔を見る。彼女もまた、池の方を見ていた。テイオーの視線に気づき、彼女の視線と交差する。彼女はにこりと笑った。
「トウカイテイオー、君は君がやりたいようにやるといい」
「……え?」
「レースは一度きりだ、それは出るレースだけに限らない。同じレースなんて、そんな物存在しないんだ」
「……うん」
「出たら確かに怪我をするかもしれない。そのせいで、二度と走れなくなることだってある。だが、出なかったせいで、違う何かを失うかもしれない」
「…………」
「盛者必衰、その逆もしかりだ。答えが出ないのなら、原点に帰ると良い」
「原点?」
「ああ、始まりだ。最も、やる気に充ちていた時のことだ。トウカイテイオー、なんで君は走るのを始めたんだ?」
「…………」
テイオーは自身の脚を撫でる。思い出す、最初の時のことを。芝に降り立った時のことを。なびく風の味を。降り注ぐ心地よい太陽を。
「ボク、走るのが好きだったから」
「良い答えだ」
テイオーと女性は微笑み合う。女性は時計を確認した後、立ち上がった。
「そろそろ私はお暇するよ。トウカイテイオー、頑張ってくれ」
「うん」
女性はそのまま、出口の方へと向かっていった。テイオーは逡巡した後立ち上がり、叫ぶ。
「お姉さん!! お姉さんの本当の名前ってなに!?」
彼女は振り返った。肩まで伸びた髪が、風に揺れる。眼鏡を外したようだが、影のせいで顔はよく見えなかった。
「名乗るほどの者じゃない! トウカイテイオー! 君がどのような選択をとろうと、私は応援しているよ!」
彼女は手を振って、去っていった。トウカイテイオーは彼女の言葉を噛みしめ、彼女の姿がなくなるまで、その後ろ姿を眺め続けた。彼女が消え、自身の脚を見下ろす。
「選択肢をあげないとね、ボクの脚」
テイオーは自分の足の調子を確認するように、走り出した。
■
公園でのひと時から数日が経った。テイオーはそれから毎日のように、スクールに顔を出していた。休みの間のブランクを取り戻すように、彼女はトレーニングを重ねていく。
「テイオー、そろそろあがろう」
「分かったよ、トレーナー!」
今日の練習も終わり、テイオーは服を着替え、バス停までトレーナーとマックイーンと共に帰路に就く。正直言って、この帰宅時間がもったいないと思っていたため、どこかに引っ越そうかと考えていた。そんな時、雨が降り始める。雨は瞬く間に土砂降りへと変わり、緊急避難として、トレーナーとマックイーンの家に逃げ込むこととなった。
2人はアパートの部屋を借りていた。エントランスを抜け、エレベーターへ駆け込む。絞らずとも水滴があふれ出る服は、何もせずとも水たまりを作っていった。
「濡れた濡れた……、マックイーン、テイオーにシャワーを浴びさせてやってくれ。お前はこっちのシャワー使うか?」
「いえ、こちらはなんとかしますわ」
「……ねぇ」
テイオーは道中から抱いていた疑問をぶつけることにした。
「なんだ?」
「2人って同棲してるの?」
マックイーンは少し気まずそうな顔になり、トレーナーは惚けた顔になった。
「部屋が隣ってだけだよ」
「あ、あー!! なるほどね!! だよね~!」
先ほど、こっちのシャワーを使うか? とトレーナーが言っていたような気がしたが、気のせいだろう。
エレベーターが止まり、3人は各々の部屋の前に到着する。そこでトレーナーと別れ、テイオーはマックイーンの部屋に入った。
「お邪魔しまーす……」
部屋は1kの小さな部屋だった。風呂とトイレはついているが、メジロ家のお嬢様が使う部屋にはどう見ても分不相応だろう。部屋はとても整理整頓がされており、マックイーンの性格がよく出ている。家具の品々も安物ばかりで、言い方が悪いが、部屋にとてもあっていた。高級品といった類は全くなく、強いて上げるとすれば、棚に飾られた菊花賞のトロフィーぐらいだろう。
テイオーは、そのトロフィーをしげしげと見つめる。自分が唯一獲得できなかったトロフィーだけが置いてあるのは、少し皮肉だった。
「お待たせしました」
マックイーンがタオルを持ってきた。こちらも安物で、投げ売りされているようなものだ。テイオーはありがとうと感謝を述べつつ、それを使って水気を拭いていった。
「マックイーンって1人暮らししてるんだね、ちょっと驚いたかも」
「ふふ、使用人でもいると思いましたか?」
「うん、でも、こうしてみると様になってるね」
「褒めても何も出ませんわよ。先にシャワーをどうぞ。少し水圧は弱めですが……」
「家主優先で…くしゅんっ、ご、ごめん。先に入るね」
時期は1月、思った以上に体は冷え切っていたようだ。トレーナーの言う通り、最低でも服は脱がないといけない。そんなことを考えていると、家主のほうも、くしゃみをした。
「…………一緒に入る? マックイーン」
マックイーンは苦笑した。
■
シャワーを浴びおえ、テイオーは実家に、今日はマックイーンの部屋に泊ることを告げた。最初は渋られたが、メジロ家の名前を出したことにより、説得に成功した。雨脚はどんどん強くなり、1月だというのに、台風が来たようになっている。
「マックイーン、こっちの分も持ってきたぞ~」
「わぁ!?」
突然部屋のドアが開き、トレーナーが入ってきた。彼は食材を抱え、まるで我が家のようにマックイーンの部屋にあがりこむ。そして、マックイーンも特に動じていない。
「あら、意外とたくさんありましたわね」
「ちょ、ちょっとまって!? なんでトレーナーはマックイーンの部屋に入ってきてるの!? しかも突然!!」
「食材の買い出しができなかったから、2人の持ってるのを纏めようって話になったんだよ。今日はマックイーンの当番の日だからな」
「なるほど~……、いや、やっぱりおかしいよ!! 当番って何!? ていうか、鍵かかってたよね!? なんで鍵持ってるの!? 本当に同棲してるの2人とも!?」
「いや、同棲してないって、部屋違うし」
「部屋が違うだけで実質同棲だよこれ!! そしてなんでマックイーンも、満更でもない顔してるのさ!!」
「きょ、今日は鍋にしましょうか」
「じゃあ俺の部屋からコンロ持ってくるよ」
マックイーンが食材の下ごしらえをしていき、トレーナーがコンロや食器の準備を始める。明らかに勝手知ったる動きであり、テイオーは恨めしそうな顔で2人を見ていた。
「なんだテイオー、その顔は」
「突っ込むの疲れちゃったんだよ、ボク」
テイオーは深いため息をついた。
それから少しして、鍋が出来上がった。鼻腔をくすぐる食欲を掻き立てる匂い、そして冷えた体を温めてやるという鍋の熱に、いただきますの合唱が行われた。
「お、美味しい」
ほくほくと、口内を火傷しないように口を動かしながら、テイオーが喜びを示す。野菜には丁寧に切り込みが入れてあり、短時間だというのに味がしっかりしみ込んでいた。崩れやすいものはちゃんと形を保っている。安物のお肉が、だしとの相乗効果で、いつも食べている物より美味しく感じた。
「マックイーン料理上手なんだね、なんかいがーい」
「ふふ、ありがとうございます」
「こんなんだけど、最初の頃はこいつ、炊飯器爆発させてたんだぜ」
げほ、げほと、マックイーンが咳き込む。テイオーはそんなマックイーンを気にせず、興味津々とばかりに尻尾を揺らした。
「え、なにそれ!!」
「嘘はやめてくださいまし!!」
「嘘じゃねえよ!! お前の爆破した残骸、俺が掃除したんだろうが!」
「爆破ってどういうこと!?」
「水の量多く入れ過ぎて、蓋が吹き飛んだんだよ」
「え~~?! なにそれ!!」
「他にも、豚とか鶏肉を生焼けにしてな」
「やめてくださいまし!! やめてくださいまし!!」
■
食事も終え、テレビを見ながら談笑をしていれば、就寝時間が近づいてきた。トレーナーは自分の部屋へと戻っていった。残った2人は床に布団を敷き、テイオーの寝床を準備する。最初はマックイーンが布団で眠り、テイオーがベッドで眠ろうと家主からの提案がされたが、テイオー本人がそれを断った。
「あまり質のいいものではないので、少々寝苦しいかもしれませんが……」
「平気平気、ありがとね~」
「ふふ、では、電気を消しますね」
消灯され、2人は床に就く。
雨が窓ガラスを叩く。テイオーはそちらに視線を向けた。カーテンのせいで外の景色は見えないが、いつもよりも暗くなっていることだろう。
「……テイオーさん」
「なに、マックイーン」
マックイーンに呼びかけられ、テイオーはそちらの方を見る。といっても、彼女はベッドに横になっているため、その姿は見えない。
「何か話したかったことが、あったのではありませんか?」
「……どうしてそう思ったの?」
「貴女でしたら、迎えを呼べば済むことでしたから。無理して泊まるほどのことでもないでしょうし」
「…………」
テイオーは返事をしなかった、だが、マックイーンにはそれが肯定だと伝わった。
「私の過去のことでしょうか、と言っても、どこから話せばいいものやら」
「……実は、トレーナーからあらましだけは聞いてたんだ」
「……あら」
「皆、思わせぶりな発言するからね。気になっちゃって」
「そうでしたか、では、他に何を?」
テイオーは自分の足を撫でた。深呼吸をする。息を吸って、吐く。目をつぶり、少しばかりある恐怖心を抑え込んだ。
「マックイーンさ」
「はい」
「キミ、天皇賞勝つ気なかったでしょ」
「…………」
マックイーンの驚いた声が、かすかに聞こえた。テイオーはゆっくりと息を吐いた。
「どうして、そう思うんですか」
「いろいろ根拠はあるよ。例えば、天皇賞の始まる直前、トレーナーがさ、こう言ってたよね。『リラックスしろ、来年もあるんだから』って」
「……はい」
「どうして、マックイーンはその言葉を否定しなかったの」
マックイーンから物音が聞こえなくなった。彼女がどんな表情になっているのか、全く分からない。彼女は今、何を見ているのだろう。何を考えているのだろう。
「確かにさ、トレーナーの言う言葉は正しいよ。天皇賞はクラシックと違って、来年もある。だから、気にせず行けってのはおかしな話じゃない」
トレーナーは指導者だ。彼らは長期的な視野を持たなければならない。レースに勝つことを旨とし、目標のレースのために他のレースをやめ、時と場合によっては、目標のレースすらも諦めさせる。それがトレーナーだ。来年のレースもあるレースのために、無理な走りをさせたくない。だから、その言葉自体はおかしな話ではない。
だが、でもと、テイオーは続けた。
「走者のボクたちにとっては別だ。来年なんてものはない」
ぎりっと、テイオーは自身の脚を握りしめる。
「レースは一期一会だ。本番はもちろん、練習ですら同じレースなんてものは存在しないんだよ。今日走るレースは、一生に一度しかないんだ。なんで、マックイーンは否定しなかったの」
「…………」
「他にも根拠はあるよ。なんで2人はトレセンを出たのさ」
「それは……、それは、他人の目が」
「キミはそんなこと、気にする子じゃないだろう」
「…………」
「少し、調べたよトレセンのこと。トレセンだと、結果を出せないウマ娘はトレーナーを交代、もしくは退学させられるらしいね」
トレーナーとウマ娘の契約は、相互の了承で作られ、他者が口を出す権利は基本的にはない。ただ、それはあくまで結果を出している場合のみだ。トレーナーの人数には限りがある。レースの数にも限りがある。結果を出せないウマ娘に、遊ばせておく余裕はないのだ。
「キミたちはそれが嫌だったんじゃないの」
「……………」
「確かに、名家を捨て、名門を出て、2人で心機一転をする。それは美談だよ。でもさ、それは……、本気でやっている場合のみだよ」
「………………」
「マックイーン、なんでキミは、本気で走らないの?」
「ふふ」
沈黙を破るその笑い声に、テイオーは耳を疑った。この場にはテイオーとマックイーンしかいない。だから、その声は彼女のもののはずだ。だからこそ、テイオーはその声が信じられなかった。
「ふふふっ、うふふ、なんで? そんなの決まってるじゃありませんか」
「…………」
「こんな潰れた脚で、勝てるわけないからですわ」
「マックイーン……、で、でも、じゃあなんで、リハビリをしたの? トレーナーは言ってたよ、地獄みたいなリハビリだったって。どうして? ……昔みたいに走れる夢を、見てるからじゃないの?」
「夢? トレーナーさんが言っていた戯言ですか」
「戯言……」
彼女はもう1度笑った。
「私がまた走ろうと決めたのは、あの人が、トレーナーさんがもう1度走ってくれと言ったから、それ以外にありません」
その笑いは、悲痛だった。
「私にはもう何もない。メジロ家の名を穢し、ファンからの期待も応えられず、ステイヤーとしての夢もなくした」
その言葉は、絶叫だった。
「そんな時、彼が言ってくれたんです。『俺のために走ってくれ』って」
その感情は、喜びだった。
「例え、彼が見ているものが私じゃなくて、夢の世界にいるかつての私だとしても、私はいいんです。彼が、彼だけが私の居場所だから」
テイオーは気づいた。マックイーンのベッドは、トレーナーの部屋に寄り添ってあったことを。彼女の視線の先が、分かった。
「彼だけいればいい、それ以外には何もいらない。それが、天皇賞だとしても……、私には」
「……いらないわけじゃないんでしょ、マックイーン」
「……貴女に何が分かるんですか、その、壊れなかった脚を持っている貴女が」
「……うん、ボクには分からないよ」
テイオーは自分の足を撫でた。壊れかけた、細い脚を。
「ボクは、最近始めたばかりで、キミみたいに使命や夢があったわけじゃない」
でも
「キミが、このままじゃダメだって思っているのは分かるよ」
だって
「ボクも、……ボクも、本気で走っていなかったから」
メジロマックイーンは、目を見開いた。