本当に偶然だった。学校の帰り道、ふと、いつもと違う道に進んでいって、偶然見かけた公園で、僕は彼女に出会った。
碧の混じった白銀の髪、海を想起するような蒼い瞳、そして何よりも、彼女の背中に生えている白い羽根。夕暮れの中、彼女の存在は、まるで天使のようで。
『〜〜〜〜♪』
周囲に響き渡る歌声が、彼女の存在を世界に知らしめんと周囲に広がる。澄み切った歌声が、彼女がここに居るんだと、確かな熱を持って伝播する。まるで、何かの魔力に惹かれるように、周囲にいた人々が足を止め、犬や猫、木々に止まる鳥すらも、動きを止めて彼女の方を見ているように見える。
『〜〜〜〜♪』
楽しそうに歌う彼女の表情が頭に張り付いて離れない。何時まででも彼女のことを観ていたいという欲求に駆られる。そんな事を考えているうちに、彼女の歌は終わってしまった。ほんの数分、歌一つ、それだけだったはずなのに。
「綺麗だ」
思わず呟いた一言。周囲を見渡したあと、どこか寂しそうな表情で帰る支度を始める彼女に、なぜだかこのまま別れたくないという思いに動かされ、彼女に声をかけてしまった。
「あ、あの!」
ビクリと反応する彼女、急に声をかけた以上は当たり前だろう反応に、しかし、少し悲しい気持ちに襲われる。罪悪感よりも先にそんな感情が出たということで、自分の精神が変になっている感覚になる。しかし、それで止まれないほど、このときの僕は、そう、浮かれていたとでも表現すればいいのだろうか。少なくとも、正常な判断ができていないことは確かだろう。
「明日も、またここで歌っていますか!」
こちらに振り向き、驚いて固まっている彼女に、そう声をかける。
「とても綺麗な歌声で、感動したんです!」
畳み掛けるようにそういう僕に、少し目を丸くしたかと思うと、彼女は小さくコクリと頷いた。そこまで行って、僕はやっと冷静になって、周囲を見る余裕が出てきた。
何かに気がついたように急ぎ足で散らばっていく周囲の人々、少し警戒するようにこちらを警戒するよう威嚇してくる犬や猫、飛び去っていく鳥たち。特に、人々の反応がおかしいのだ。先程まで彼女に釘付けだったはずなのに、これほどの美少女をチラ見もせずに去っていく周囲に、どこか異様な空気を感じる。
「貴方は、歌っていない私が見えるんですね」
彼女が何かを呟いたところまではわかったのだが、何といったのかわからず、首を傾げる。しかし、その後に彼女に言われたセリフのほうが衝撃的すぎて、そんな疑問はすぐに無くなってしまった。
「私の名前は碧生ねのって言います。いつも、このくらいか、もっと遅くに、この場所で歌ってます。もしよかったら、また聴きに来てください」
笑顔を浮かべそう言ってくる彼女、碧生さんに、心臓が痛いぐらい主張してくる。見えはしないが、確実に真っ赤になっているであろう自身の顔を少し隠すようにしつつ、
「灰原燐って言います。今は高3です」
緊張しすぎてだいぶぶっきらぼうな言い方になってしまった。失敗したと思いつつも、碧生さんの反応を待つ。碧生さんは、小さく僕の名字を数回つぶやくと、再度笑みを浮かべ、
「それじゃあ灰原さん、また明日、会いましょうね」
と言って、今度こそ帰っていったのだった。
ねのちゃんがチョロくない?とか、なんか周囲の反応おかしくね?と思った方はいっぱいいると思いますが、そのうち理由を明かすので、それまでお待ちいただければと思います。