役所にする申請が終わった。幸いというか、彼女のことはばれていなかったので、申請せずに歌っていたことは隠し、いつもの公園を歌う場所として申請。あっさり通ってくれて助かった。彼女の曲が聞こえなくなるのは悲しいものがある。
それはともかく、予定も終わった以上、このまま二人でいる必要もないのだが・・・
「街の案内?」
「はい。実は私、こちらに来てからあまり時間も経っていないので、まだ慣れていなくて。もしよかったらですが、この街を案内していただけないかなと」
「それは構わないんだけど・・・何から見て回りたいとかあったりするのかな?」
この街だが、駅前以外は栄えてないというか、少し外れに行くとそれだけで田んぼや畑が広がっている街である。そこまで入り組んでいるわけでもないので、正直言って、案内というほどのものが必要かと言われると、少し首を傾げることになる。
「主要な施設というか、服屋さんとか、本屋さんとか、飲食店とかで、おすすめとかあれば教えてほしいといいますか」
なるほど、と、心の中でつぶやく。衣服などはともかく、飲食店に関しては、多少なりにも案内できるところがあるので、そちらを中心に回っていくとしよう。
「それじゃあ、そろそろお昼時だし、どこかで食事でもして、その後に周辺の案内をしますね。なにか希望があったりしますか?お肉がいいとか、魚がいいとか」
「それじゃあ・・・魚でお願いしてもいいですか?」
それならこっちですね、と、目的の店に向けて歩き出す。そのとき、碧生さんの近くにいた人が彼女にぶつかりそうになっていたため、咄嗟に手を引く。急に手を引っ張られたせいで、彼女がバランスを崩しこちらに倒れ込んでくる。
「すみません。ぶつかりそうになっていたので、つい」
なんて言っているが、内心冷や汗をかきつつ、彼女からするいい匂いに心臓が速くなる。手もやわっこくてひんやりして・・・って、言ってる場合ではない。飛び退くように彼女から離れる。セクハラ扱いされないか不安でいっぱいである。
そう思いながら彼女のほうを見れば、顔を赤くし、ハワワという言葉を漏らしている彼女の姿があった。人にあまり見られていない以上、こういう状況に対してもあまり耐性がないのだろう。そんな彼女に対して、申しわけなさと一緒に思考が可愛いであふれる。間違えても彼女に鼻から愛が流れるところを見せるわけにはいかないので、とっさに横を向き表情が見えないようにしつつ、鼻先を抑える。実際に出ているわけではないので、手を握って鼻に押し付けているだけだが。顔が赤くなっているのもごまかせるだろうし、都合のいい癖のようなものである。
「・・・お店に行くか!おなかすいたし!」
「そ、そうですね!」
何とも気まずい雰囲気の中、僕たちは目的の飲食店に向けて歩き始めるのであった。
主人公の鼻のあたりを手の甲で押さえる仕草は作者のクセです。メガネかけてるからとかは関係あるかわからないですが、無意識に鼻のあたりを押さえがち。今回の話は前後編に分けるか考え中です。まあ、後編でもサブタイは少しいじるつもりですが