それでは本編どうぞ!
「ハル、必ず迎えに行くからね」
薄いピンクの綺麗な子が涙を目尻にためながら、僕の頬に手を触れる。
「泣かないで?必ずまた会えるから」
その子は優しい笑顔で僕を抱きしめると瞼を閉じる、開けた一瞬で血に濡れた姿に変わり目を開いて血を流した状態で僕に寄りかかりそのまま光になって消えていく。
「まって!!!」
夢と現実両方で叫び飛び起きる。薄暗い部屋の中、あがった呼吸を整えながら部屋を見回しながら頬の傷を撫でる。04:44、嫌な時間。まただ、またこの夢だ。最近よくこの夢を見る。小さい時に、父さんも母さんも生きていた頃、近所でよく遊んでくれた優しい女の子。
「サクラお姉ちゃん…」
夢に出てきた女の子、その子の名を口にする。「迎えに行く」、その言葉を信じて10年が過ぎて、7年前に両親は死に、〔俺〕はアスティカシア高等専門学園に明日から入学する。入る寮はジェターク寮。ジェタークとはあのジェターク。ベネリットグループ御三家が1つ、ジェターク・ヘビー・マシーナリー。通称ジェターク社の名を冠した寮だ。両親はジェターク社の元モビルスーツエンジニアで、現ジェタークCEOのヴィム・ジェタークとは仲が良かったらしく、ヴィムさんは身寄りがなくなった俺の世話をしてくれた。ジェターク社の孤児院に入れてくれたり、休みの日にグエルの兄貴やラウダの兄貴と遊ばせてくれたりしてくれた。13歳になった頃、モビルスーツを見せてもらった。そのときモビルスーツの操縦を教えてもらい、腕がいいからとアスティカシアに入学させてくれたのだ。俺にとって命の恩人だけじゃない、感謝してもしきれない。頑張ってこの恩は返していこう。改めて決心しながらシャワーを浴びて荷物をまとめ部屋を出てアンデルセン神父の部屋にむかう。
「おはよう、ハル。」
「おはようございます、アンデルセン神父」
「眠れなかったのか?ひどい顔だ。」
部屋に向かう途中でアンデルセン神父が強面の顔が心配そうな表情で声をかけてきた。眼鏡をかけた強面のこの孤児院の院長で、神父をしている。ここの孤児院の子どもたちの優しくて強い先生だ。
「えぇ、まぁ。いつもの夢です、もう慣れました。」
「慣れるものではない、大切なものを失う夢など。」
アンデルセン神父は俺が早く起きる理由を知っている。一時期、眠れなくなり睡眠不足で倒れたときに相談したのだ。
「はい…。」
「そういえば、今日だったな。入学するのわ。」
俺の荷物を見てアンデルセン神父は聞いてくる
「ええ、今日から入学と入寮です。今日までお世話になりました、アンデルセン神父。」
「皆に挨拶はいいのか?」
「はい、みんな俺がいなくても生きていけます。アンデルセン神父もいますし、強い子達です。それに、最後の別れじゃないんです。お休みの日に帰ってこれるときは帰ってきますから。」
「そうか、君はこの孤児院で子どもたちのまとめ役だった。兄のような存在だった。君がいなくなるのは皆が寂しいだろうし私も寂しいことだ。だが君の門出、笑って送り出そう。」
アンデルセン神父は優しい表情で俺の肩に手を置く。
「その前に、いいですか?暴力をふるっていいのは、クズ共と人でなし共だけです。」
「はい、アンデルセン神父。」
「ならいい、いってらっしゃい。」
「いってきます、アンデルセン神父。」
アンデルセン神父のいつもの言葉を聞きいて握手をし、今まで育った孤児院とアンデルセン神父を背にアスティカシア学園に向かうため、港に向けて歩き出す。06:30にラウダ兄さんが港に迎えに来てくれる。今から出て徒歩で丁度着く。さぁ、ちょっと長い散歩の時間だ。
1時間ちょっとで港につき、集合場所の近くのベンチに座ると道中のお店で買った弁当を食べて時間を潰す。
ついてから数十分後、黒塗りの車が目の前に止まりラウダ兄さんが降りてきた。
「久しぶりだな、ハル。お前が入学してくるのを僕も兄さんも心待ちにしていた。」
「ご無沙汰しています、ラウダ兄さん。やっとお二人のお役に立てます。」
「あぁ、楽しみにしているぞ。さあ、車に乗れ。」
ラウダ兄さんに促されるがまま車に乗ると隣にラウダ兄さんが座り車が発進する。そのままジェターク社の港まで向かい船に乗りかえてアスタナシアに向かう。道中他愛のない話やラウダ兄さんのグエルの兄貴のいいところ自慢と愚痴大会に花を咲かせながら時間を潰していく。グエルの兄貴への自慢がピークに達したころアスタナシア学園の港に入港する。
「入学式が終わったらジェターク寮の男子寮に来い。兄さんに挨拶しに行くから休憩スペースで待っていろ」
とラウダ兄さんは言い、「僕は兄さんのところに行ってくる」と言って先に行ってしまった。重度のブラコンだなぁとおもいながら荷物をジェターク社のひとに預けて入学式に出席し、校長の長い話を聴き終え閉式した後ジェターク寮に向かった。
ジェターク寮 玄関前
「でかいな…」
学生証に映っているジェターク寮の案内表示を頼りになんとかたどり着くと学生寮というより社員寮のような大きさの建物の前についた。予想より大きい建物で驚いていると
「そんなところに突っ立ってなにをしているのかな?」
「あぁ、すみません。すぐどきます」
そう言って振り返り頭を下げて頭をあげると朱色のきれいな髪の女性…、学生が目の前に立っていた。
「ハ…、ハル…?」
「え?なぜ自分の名前を…」
「あっ…いや、ごめんなさい。気にしないで、それより君は新入生かな?」
「あっ、はい。パイロット科1年のハル・ヨークタウンです。これからジェターク寮でお世話になります。よろしくお願いします。」
「ハルくんねよろしく!私はパイロット科2年のサクラ・ナナ。ジェターク寮よ。入学おめでとう!これからヨロシクね?」
「はい!よろしくお願いします!」
サクラ・ナナ…、サクラお姉ちゃんと同じ名前…。それに最後の目、サクラお姉ちゃんがたまに見せる怖い目と一緒だ。…でも髪の色が違うし…。他人の空似かな…。
サクラside
「サクラお姉ちゃん!」
私の可愛いかわいい笑顔の弟分。
「お姉ちゃん!」
私の愛しいいとしい私のハル。
「お姉ちゃん…、ウソツキ」
「ハルっ!」
可愛い愛しいハルの目が真っ黒になり血涙を流したところで目が覚める。なんとも夢見の悪い、最悪な目覚めだ。
ベッドから体を起こし、テーブルにおいてある水を飲む。あの子と離れ離れになってから10年もたった。「迎えに行く」と言ったのにずっと迎えに行けず、どこにいるのかもわからず、親がジェターク社の重役の私はハルの事を探せずハルの事を思うことしかできず気づけば17歳になっていた。アスタナシア学園に入学しパイロット科としてなんの味気もない生活をしていた。あの日、ハルと離れ離れになった日から私の世界は白黒だ。どんな音も雑音にしか聞こえないし、どんな料理を食べても味がしない。
あの子は生きている。入学する前にそれだけは分かった。そこから私は程々で手を抜いていた勉強も何もかもを全力でおこなった。全てはハルを護るために、ハルをどこにも行かせないために、全ての障害を取り除くために。入学して半年でパイロットとしての腕は現ホルダーのグエル先輩やシャディク先輩に追いつくほどに成長した。もちろん勝ったらめんどくさいので決闘ではなく模擬戦として稽古をつけてもらっているときだ。ホルダーとかそんなのはどうでもいい。強くなる。ただそれだけ。可愛く愛しいハルのために。
訓練を終えて学園のほうに行くと入学式が終わったらしく学園は賑やかになってきた。賑やかなのは苦手だ。人と話すのもあまり得意ではない。特に話しかけるのは苦手だ。そう思いながら寮に戻ると入り口の前で突っ立っている男の子がいた。その後ろ姿はどことなくハルの面影があった。
「そんなところに突っ立って何をしているのかな?」
気づいたら私は声をかけていた。
「あぁ、すみません。すぐどきます」
そう言ってこちらを向いて頭を下げたあとこちらを見たその子の顔は
「ハ…、ハル…?」
ハルだ、間違いなくハルだ。あの頃から変わらないやさしい瞳、頬の引っ掻いたような傷。間違いなくハルだ。
「え?なぜ自分の名前を…」
え…私のことをオボエテナイ?ナンデナンデナンデナンデナンデ…。ナンデ?いや、髪の色が変わってるし昔より身長も体つきも変わった。わからないのも無理がない。
「あっ…いや、ごめんなさい。気にしないで、それより君は新入生かな?」
恐る恐る聞いてみる。ハルであることを祈って。
「あっ、はい。パイロット科1年のハル・ヨークタウンです。これからジェターク寮でお世話になります。よろしくお願いします。」
ハルだ、ハルだハルだハルだハルだ!!!!私の愛しいハルだ!私の可愛いハルだ!!
「ハルくんねよろしく!私はパイロット科2年のサクラ・ナナ。ジェターク寮よ。入学おめでとう!これからヨロシクね?」
やっとハルに会えた!同じ寮、同じパイロット科!なんて幸運なの!!
少しずつ思い出させてあげよう。そして謝ろう。迎えに行けなかったことを。そして手放してしまったことを。
アハッ、モウ離サナイ♡
サクラside out
サクラ先輩に案内されながら男子寮まで行くと
「ここから男子寮、私はここまでね。このあと予定ある?」
と聞かれ、
「すみません、これからグエルの兄貴…、いやグエル先輩のところに挨拶をしに行かなくては行けなくて…。」
「そっかぁ…、そうだ!連絡先交換してくれない?」
「連絡先ですか?いいですけど…」
「じゃあ生徒手帳かして?登録するから」
「はい…」
ポケットから生徒手帳を取り出してサクラ先輩に渡すとサクラ先輩も自分の生徒手帳を取り出して少し操作する。
「はい!できた、連絡先入れておいたよ!」
「ありがとうございます!」
サクラ先輩が生徒手帳を俺の手におくと同時にほぼゼロ距離なくらいに体を寄せて
「いつでも連絡できるね、なにかあったらいつでも連絡してね?」
サクラ先輩が耳元で囁くように話すと
「じゃあまたね、ハル」
手を振ってどこかへ行ってしまった。
声もサクラお姉ちゃんに似てるし匂いも似てたな…いや、ただ似てる人だろうな…。
そう思いながら休憩スペースに行き飲み物を買って飲んでいると
「待たせたな、行くぞ」
ラウダ兄さんがやってきたので急いで飲みきりゴミ箱に捨てるとラウダ兄さんの隣を歩く。そこからエレベーターに乗り上に登るとある程度登ったところで止まり、ポーンと軽い音とともに扉が開いく。ラウダ兄さんが先に出るのに合わせて少し後ろからついていく。エレベーターから少し歩くと一番奥の部屋につく。部屋につくとラウダ兄さんが扉を開いて入っていく後を追って部屋に入ると
「よぉ、ハル。久しぶりだな」
部屋の中央のソファーに深々と座るグエルの兄貴がいた。
「ご無沙汰してます、兄貴。」
頭を下げて挨拶する。
「よせよ、俺とお前の仲だろう?それよりよく来たな。待ってたぞ」
「わかりました、ようやくお二人のお役に立てます。」
「期待してるぞ、また3人で暴れよう」
「えぇ」「はい、兄さん」
「ところで、機体はあるのか?」
「ええ、師匠達と使っていたディランザソルがあります。」
「そうか、だがディランザソルはブレードがついていない。メカニックの方に頭部をつけかえるように言っておく。」
「ありがとうございます、兄貴。」
「構わん。後でメカニック達と顔を合わせておけ。話はしてある。ラウダ、一緒に行ってやれ。おまえが一緒に行けば安心だ。ハルはすぐ面倒事に巻き込まれるからな。」
「わかりました、兄さん。ハル、行くぞ」
「はい、ラウダ兄さん。兄貴、失礼します。」
グエルの兄貴に頭を下げるとラウダ兄さんの後ろをついていく。
来た道を戻りに寮の外にでてモビルスーツハンガーに向かう。しばらく歩くとハンガーについた。
「ラウダ先輩!お疲れ様です、どうしたんですか?」
「どうしたラウダ?」
ポニテの生徒とガタイのいい生徒?がラウダ兄さんに声をかける。
「新入生を連れてきた。パイロット科1年のハル・ヨークタウン、僕と兄さんの弟分みたいなものだ。ハル、こっちの2人はペトラ・イッタ、メカニック科2年、カミル・ケーシンク、メカニック科3年、チーフメカニック、お前の先輩達だ。」
「ハル・ヨークタウンです。未熟者ではありますが、これからよろしくお願いします。」
「ペトラ・イッタ、よろしく。」
「カミル・ケーシンクだ、ジェターク寮のチーフメカニックをしている。よろしくな。」
「はい、よろしくお願いします。」
「ところで、あのディランザソルはお前のか?かなりピーキーな調整がされている。実戦に出たことがあるな?」
まさか、実戦に出たことがあるのをわかるとは、確かに訓練を終えたあと師匠達と戦場に出たことがあるが学校のメカニックがわかるとは思わなかった。
「ええ、ジェターク社の任務で何度か。」
「やはりな。悪いが学園仕様として少し設定をいじらせれもらった。ビームのリミッターなどだ、詳しくはこれを見てくれ。」
そう言うとカミル先輩はタブレットを渡す。それにしっかりと目を通し
「ありがとうございます。それと頭部なのですが…」
「あぁ、それに関しても後でまた知らせる。連絡先を交換してもいいか?」
「ありがとうございます、お願いします」
そう言うと生徒手帳を渡し、カミル先輩が連絡先を登録してくれそれが終わったら返してくれた。
「連絡先入れといたからなにかあったら連絡してくれ。それと、機体については俺が見る。機体のことは俺に任せてくれ。」
「わかりました、ディランザの整備はよろしくお願いします。ケーシンク先輩」
「おう、任された。それとカミルでいい。」
「はい、カミル先輩」
その後はメカニック科の人たちに挨拶をしてまわり、それを終えて寮に戻るとラウダ兄さんと別れ部屋に入って荷解きをしてシャワーを浴びて寝た。