この素晴らしい世界にシナリオ(HO有り)を!   作:石鹸を食え!

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冒涜的なシーンが含まれます。
ご注意下さい。


HO1:転生者

 幸運の女神様。

 見ているのならば、どうか助けてください。

 早速ですが私、全滅の危機なんです。

 

 『ティンダロスの猟犬ね……じゃあ《こぶし》と《マーシャルアーツ》振ります!くらえナースパンチ!』

 「武器配りましたよね!?」

 『《制作:成人向け玩具》で先ほど支給された剣をオモチャにすることはできるだろうか?……リモコンはないからスイッチ式で構わんが』

 「オモチャにするのはシナリオだけにしてください!」

 

 ぜぇ、ぜぇ、と息を切らす。

 死に急ぎルーニー野郎が3名、この上なくカロリーを使う卓である。

 

 ……こんなに疲れる遊び、他にあるまい。

 私、水瀬(みなせ)伊邪那美(いざなみ)は、入学したばかりの高校をサボりはじめたことを早くも後悔していた。

 

 初対面の男子生徒に名前をイジられ、大喧嘩になったせいでクラスが嫌になって、不登校を決めてネットに入り浸り、数日。

 一緒に暇を潰す友達をネットに集めたのだが、コレがいけなかった。

 

 ……ネット掲示板にて、即日配送で集まった3名。

 そいつらが全員『おふざけ勢(ルーニー)』だなんて、誰が予想できるだろうか。

 

 変態RPが激しい上に戦闘技能を一つも取ってきてない女騎士(官僚)に、賢さ(INT)の低い『こぶし』特化の僧侶(看護師)。

 

 挙句には、おふざけシナリオで手に入れた、というMP全消費のおふざけ魔法しか技能のないおふざけにもほどがある魔術師(学生)。

 

 シナリオを守るために急いで作った、技能多め、ステータス弱めのバランス型NPCにおふざけ少女(ルーニー)たちを牽引させているのだが、彼も女騎士がファンブルを引いたせいで攻撃に巻き込まれて気絶した。

 

──ちくしょう、馬鹿どもめ。

 

 声からして同じくらいの年齢の女子ばかりだというのに、なぜここまでおふざけが過ぎるのか。

 

「ああ、もう!いい加減にしてくださ……ゲホッ!」

『あーっ!ほら、二人がふざけすぎるせいでGMが倒れちゃいましたよ!』

『はー!?魔術師ちゃんが神話生物を一撃で消し飛ばした時に一番慌ててたんですけど!?』

『……GMさん?大丈夫か?喉を痛めているならしばらく休憩に……』

 

 どうやら、久しぶりに叫びすぎたようだ。

 田舎の安アパートなもので、昼間にはみんな外に出かけているのでトラブルの問題はないが、喉がとても痛い。

 

「……すみません。のど飴買ってくるので、ちょっとだけ休憩入れますね」

『『『乙で〜す』』』

「……やっぱ皆さん身内で卓やってた人たちですよね!?」

『え〜!?コイツらとそんな仲良く見える?初対面よ、初対面!』

『ああ。私は比較的真面目にやっていたぞ?』

『私だって、今日は一番強いやつを消し飛ばしましたよ。私は私の役割を全うしました!』

 

 あまりに息のあった挨拶に思わず最後の力を振り絞りながらも、頑張って椅子から立ち上がる。

 

 本当に、イかれた馬鹿どもだ。

 そう思いながら机に置いてあった甘酒を飲み干す。

 

 本当に、せっかく書いたシナリオがメチャクチャだ。

 ニャルラトホテプは一撃で消し飛ばすわ、想定してないファンブルは引くわ、死んで因縁を作るはずの予定のNPCは救うわ、武器は当たらないわで。

 

 本当にメチャクチャで、本当にぐちゃぐちゃで、本当に……

 

「──本当に、楽しそうだったな」

 

 私は、どうしてか笑っていた。

 なぜ笑っていたのかはわからないけど、なぜか、妙にあのふざけ散らかしたメチャクチャなシナリオは、楽しかったような気がして。

 

 願わくば、あんな友達が学校でもできたらなぁ、なんて考えたりもしてしまうけど……

 

 けれど、名乗るのが怖い。

 ……また笑われるんじゃないか、なんて考えると、初対面の人に名乗りたくなくなってしまう。

 

「疲れそうだし、NPC(うちのこ)も連れて行きたいけどね……」

 

 そうだ。今度はもっとみんなを止めやすいように、技能をたくさん持たせよう。

 

 そんな風に考えながら歩いていた、その時だった。

 

「えいっ!……あっ!やべえ!」

「オーライオーライ!」

 

 商店のある隣の空き地。野球をしていた少年が、ボールを追って道路へと飛び出してくる。

 

 ──そして私は、交差点から左折してくるトラックを目撃してしまう。

 

「……このバカ!」

「うあっ……!!」

 

 私の判断は、早かった。

 

 脚力を使って『跳躍』し、ダッシュで轢かれそうになった少年に接近。

 トラックに巻き込まれそうになった少年の腰を『キック』し、近くの畑目掛けて吹っ飛ばす。

 

 ──成功。決定的成功(クリティカル)

 

 少年は畑の耕された地面に着地、特に怪我もなく済んだみたいだ。

 

「……ッ!あ……!」

 

「──まぁ、仕方ないか!」

 

 けど、私は間に合わない。

 結構身体能力は高い方だと思ってたけど、こればかりは仕方ない。

 

 ──攻撃したターンは、《回避》を振れない。

 

 そんなTRPGのルールが脳内を駆け巡る中で、私はトラックに跳ね飛ばされる。

 

 ──致命傷だ。確実に、この痛みは助からない(ロスト)だろう。

 

 薄れゆく景色の中で最後に見たのは、泡を吹いて駆け寄ってくるトラックの運転手と、悲鳴をあげて近づいてくる商店のおばちゃんの姿だった。

 

 

「──というわけで、水瀬伊邪那美(いざなみ)さん。あなたは死んでしまったのです」

 

「死後の世界ってあるんだ……」

 

「はい。私は女神アクア、死者の前に現れる、女神です」

 

 そんな死に方を私に話してきたのは、青い髪の女性だ。

 芸能界にでもいそうなくらいの美人で、手には分厚い本を持っている。

 

 その神秘的な雰囲気は、神格、というオーラにも感じられた。

 意外と神に会ってもSAN値チェックとかないんだな、なんて呑気なことも考えてしまうけど。

 

「若くして死んだあなたには、選択肢があります。赤子に転生するか、天国に行くか……それとも、異世界に転生するか」

 

「……シナリオの導入?」

 

 なんか、急に聞き覚えのある内容になった。

 まさかこれ『転生特典を考えろ』とか言われないよな、なんて考えていると、目の前にカタログのような本が差し出された。

 

「そしてこれは『転生特典』です。爪牙も持たず、柔らかな皮膚しか持たぬ人の子よ。あなたに、特別な力を与えましょう……」

 

「……キャラシ作成の導入じゃないですか!」

 

「何言ってるの?さっきから……」

 

 思わず声を上げた私に、女神はまたしても首を傾げた。

 ……もしや、砕けた口調の方が素なのだろうか。

 

 そっちはひとまず無視しつつも、私は地面に散らばるスキルや神器の山を見ていく。

 

 すると、その中に役割付与(ハンドアウト)と書かれた紙があるのが見えた。

 

女神さま(GM)、これは?」

 

「それは……まぁ、特になんてことないスキルよ。名前を知ってる相手に、何らかの役割と能力を与えることができる能力。……まぁ、女神様の下位互換能力ってところかしら?」

 

 つまり、概ねTRPGの『HO』を再現する能力だ。

 試しにスキルが書かれた紙を手に取り、目の前の女神、『アクア』に対して念じてみる。

 

『HO1:あなたはクトゥルフである。

カルトを配下におき、人類に敵なす神であるあなた。

今回の事件は足がかり。欲しいものは手足であり、兵隊だ。

あなたの目的は、《PLの誰かを信者にする》事である』

 

そして、続けて自分に向けて念じる。

 

『HO2:あなたはぼっちである。

信じていた幼なじみに裏切られ、あなたは人間不信に陥っている。

しかし、あなたは一人では寂しいので、友達が欲しい。

あなたの目的は、《PLの誰かについて行きその目的を共に達成する》事である』

 

 目の前の神に祈れば、それだけで両者の目的が達成されるというハンドアウトを設定。それを、試しに発動させてみる。

 

「な……なにこれぇ!?私の声が変になってるんですけど!?手足も!?

 

「行きますよ。……いあ!いあ!あくあ!」

 

 目の前で女神が悲鳴を上げながら異形の姿に変形していったが、私は気にせず信仰を捧げてみる。

 ……すると、『HO達成』となったのか、目の前の冒涜的な異形の姿は消え失せ、後には放心状態で目をかっ開いて涙を流す女神様が残された。

 

「ああ……その、ごめんなさい……」

 

「……ぐすん……汚された……私の女神としての格が……存在が穢された……こんな、クラスの端っこの席にでもいそうな地味眼鏡っ子にキズモノにされちゃった……」

 

 女神様は、体育座りのまま泣いてしまった。

 失礼なことは言われているが、流石にこの状況で問いただせるほど私のメンタルは図太くないのだ。

 

 ……しまった、何か言うべきだったか。

 だが、今の彼女に何を言うべきだろうか?

 

 迷った挙句、私の口から出てきたのは、実にありふれた言葉だった。

 

「ごほん。えー……

 

──何はともあれ、シナリオクリアです!お疲れ様でした!!」

 

びっくりするほどサイコパスじゃない!絶対NPCに初見で《こぶし》振ってくるタイプだー!怖いよ〜!!」

 

 しまった。たいへんお気に召さなかった様子である。

 落ち込んでしまった女神様から距離を取っていると、脳に『何か』の声が響く。

 

『私は天使です。落ち込んでる上司に代わって、私が手続きをします……』

 

「あっ、はい」

 

『異世界に行き、世界を救うのです。勇者、ミナセ=イザナミよ……』

 

「はーい!」

 

 美しさ(APP)の高い天使(奉仕種族)には違和感しかないが、それはともあれ、だ。

 

 こんないい力を貰った以上、少しだけカッコつけさせてもらおうではないか。

 

「では、一つだけアクアさんに伝えておいてください。

 

──クリア後の世界で会いましょう、と!」

 

「はい。まぁ、機会があれば!」

 

 天使の言葉を背に、私は魔法陣に飛び込む。

 すると、私の体は光と浮遊感に包まれ。

 

──それで、天界にいた記憶は終わっている。

 

 

青い空。煉瓦造りの建物が並ぶ街並み。

道路は石畳で、歩く人々は西洋人を思わせるものから、見慣れない見た目の人まで、様々。

 

──それはまさに、異世界と呼ぶに相応しいものだ。

 

「……それで、えっと」

 

「ああ、はい。カズマさんです」

 

「はい、カズマさん」

 

「……いいな、はい、カズマさんって。今度使お……じゃなくて。はい、なんでしょうか」

 

 目の前に現れた日本人らしき少年。

 彼があまりにも()()()()()()()()を連れていたので、私は思わず声をかけてしまう。

 

「なんで女神様を連れてるんですか!?」

 

転生特典だ。女神を持ち込んじゃダメとは言われなかったからな!」

 

「なんで……なんで私ばっかりこんな目にぃ……」

 

 少年が指で指した先にいたのは、地面に座り込んで啜り泣く、さっき見た女神様の姿で。

 私は「その手があったかぁ」なんて風に考えながら、目の前の少年の思いつきに感心するのだった。

 

 異世界に来て、1時間。

 最低限の情報収集を終えたタイミングで、私は女神様と再開したのだった。




HO1:転生者
あなたは転生者である。
平和な日本で生きてきたため戦闘に不慣れだが、優れた頭脳と転生特典を持ち込んでいる。

あなたは対象となるキャラ名を宣言する事で、『ハンドアウト付与』の力を使い、対象にHOを付与することができる。

あなたの使命は、『魔王を倒し、世界を救う事』である。

『水瀬 伊邪那美』
TRPG大好きな女子高生。
黒髪のショートヘアーにメガネをかけた、クラスの端の席で本を読んでそうな感じの女の子。
普段は真面目で、GMをやらせると悲鳴を上げながらも変なキャラを纏めてくれるタイプ。

背丈はカズマさんより頭ひとつ大きいくらい。
ダクネスより少しガタイがいい。

PLをやらせると、ひたすらに《こぶし》と《マーシャルアーツ》を振るタイプになる。格闘大好き(リアルマン)
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