この素晴らしい世界にシナリオ(HO有り)を! 作:石鹸を食え!
ゆんゆん、ミツルギ、そして私。
そこそこバランスはいい、しかもかなり強いパーティになったはずなのだが、それでも私は凄くビビっていた。
──理由は、目の前のカエルである。
「これっ……予想以上にデカいです!」
「初めて見たのかい?大丈夫だからそんなに怯えないでくれ!」
せいぜい人間サイズを想定していたが、もっと段違いにデカかった。
例えるなら、特撮の怪獣映画とか。
……ハッキリ言おう、人間が戦っていいサイズをしていないと。
だから、私はカエルから全力で逃げていた。
だが、二人は比較的冷静な様子で、私に並走しながら待ったをかけている。
「はぁ、はぁっ……!早すぎますよ、水瀬さん!全力で走りながらなんて、上手く狙えないです!」
「落ち着くんだ水瀬!ソイツは刃物に弱い!」
「ハァ、刃物……!?」
刃物に、弱い。
それを聞いた私はすぐさま引き返すと、その腹目掛けて勢いよくナイフを振るう。
するとどうだろう。
ナイフは恐ろしいほどあっさりと突き刺さり、カエルの腹から臓物が吹き出したのである!
「うわっぷ!」
「水瀬、ジャイアントトードは頭を狙うんだ!その方が血で汚れずに済むから……」
「ハァ、ハァ……!なんで、ミツルギはそんなに冷静なのか聞いていいですか……?」
ゆんゆんは、まだわかる。
……上手く狙えないと言いつつ、彼女が既に何匹も鋭い斬撃で仕留めているのは、この世界に生まれ育ったが故の逞しさであろう。
けど、ミツルギはわからない。
なんでコイツは、ずっと動じないのだろうか?
「僕は……女神様に言われたんだよ、『その聖剣で世界を救え』ってさ。だから、恐れるわけにはいかないのさ!」
「なるほど。……『役目』があるから、ですか。その役目を全うし続けるあたりは、さすが先輩と言うべきでしょうか」
「まぁ、そういう事かな。世界を救うっていう『役目』であり、僕の『使命』なんだよ」
「おお……!……なんだか、そういうの聞くとワクワクしちゃうあたり、自分も紅魔族なんだなって実感しちゃいますね。えへへ……」
なぜかゆんゆんが照れていたが、さすが先輩というべきか、ミツルギの言葉は確かにいいアイデアだった。
役割。つまり、ミツルギの持つ一番の精神的チートは、『女神様が与えたHO』だ。
役目があるから、怖くない。
……能力は使わない。
けれど、自分が戦う意味を定義しておくのは、生きていく上でも大切なことになるだろう。
「……私は、戦うためにここにいる。目標はカエルを倒す事!」
つまり、こういう事だ。
自分に『戦う』という役割を与え、ナイフを握ってみる。
すると、先ほどまでは確かにあったカエルへの恐怖心が、みるみるうちに和らいで行くのがわかった。
……さすがというべきか、『自己催眠』。
一人の男を英雄たらしめただけの事はある。
「本当に大丈夫かい?水瀬」
「問題ないです!」
「ダメそうなら、私を呼んでくださいね……!」
「大丈夫!必要ないです!」
「うぇぇ!?……ひ、必要ない……?そんな……っ!」
後ろでゆんゆんがダメージを受けていた。
特に深い意味を込めたつもりはなかったのだが、思いのほかクリティカルヒットしてしまったらしい。
……いつか、お金に余裕ができたらご飯を奢るから、この件については許してほしい。
「五匹、でしたね。ミツルギさん」
「あ、うん。……ゆんゆんさん?ホラ、弾みで言っちゃった感じだろうしさ。そんなに落ち込む事じゃ」
「五匹と、そう言ってましたが……別に、あれらを全て倒しても構わないのでしょう?」
「おい、構うよ!ギルドでお姉さんに止められただろう、生態系うんぬんの説明を聞いていなかったのか!?」
ミツルギの静止も聞く事なく、私はカエルへと迫る。
冷静になって初めてわかった事だが、舌の速度はそこまでのものじゃない。
私を飲み込まんと伸びてきた舌を切り落とすと、動きが止まった隙に跳躍、そのままカエルの頭を斬りつける。
「まず……1匹!」
「ゲコッ!」
どうやら、3人の中でも最も激しく暴れていた私を『栄養満点な獲物』と見做したらしい。
ミツルギ目掛けて進んでいた一匹のカエルが、私にターゲットを変える。
「これで、2匹……」
「水瀬さん!後ろーっ!!『ファイアボール』!」
叫び声と共に、魔法の火球がカエルを焼き焦がす。
……が、その隙に現れた4匹目が、私の腹に舌を絡める。
「水瀬!……くっ、今日は大量発生だな、随分と!」
「『ライト・オブ・セイバー』!……水瀬さん!」
ゆんゆん、ミツルギ、そして私。
……それぞれ『剣技』『敏捷性』『筋力』という秀でた部分を持つのだが、誰一人として『幸運』が普通の範疇を逸脱するものはいないパーティだ。
──そして、冒険者とは、たった一度の
時間が、スローになる。
トラックに轢かれた時以来の、走馬灯。
あの時と同じく、足が地面から離れてしまっている私は、カエルの大口に飲み込まれながら、そっと目を瞑り。
「負けて……たまるか!」
直後に力強く目を見開くと、勢いよくカエルの体内にダガーを突き立てる。
狭い体内では勢いが乗り切らないが、それでも体が激しく収縮しているのがわかる。
私は諦めずに、両手で握ったダガーを、何度も、何度も、繰り返して肉の壁へと突き立て続ける。
「私は、負けない……っ!」
必死に短剣を突き立てること、三十一回目。
──パチン、という軽い音を立てて、ついにダガーの先端が折れる。
「……ッ!」
そして、その直後、私の目に飛び込んでくるものがあった。
──それは、あまりにも眩しい、光だった。
「ああ、すまない。『魔剣グラム』が君のダガーごと切り裂いてしまったみたいだ。それは後でもっと良いダガーを買ってあげるとして……水瀬さん、怪我はないかい?」
「ごめんなさい!私の『ライト・オブ・セイバー』も、ダガーに当たっちゃったかも……大丈夫?後で、一緒に買い直しに行こう?」
剣を肩に担いで左手を差し伸べるミツルギと、少し不安そうな表情をして左手を差し出してくるゆんゆん。
そんな二人の手を取ると、私は腹にできた
「ありがとうございます。……はい!後で、必ず!」
初めてのクエストの結果。
失ったもの。
ダガー1本、黒いロングコート、日本にいた頃の常識。
得たもの。友達2人と、五千エリス。
……そして、ほんのちょっとの、勇気。
「でも、かなりカエルのベトベトで汚れちゃってるね。まずはお風呂だな……ゆんゆんさん、着替えの準備と公衆浴場までの案内をお願いしていいかな?僕はギルドでの手続きとか、やることが色々あるからさ……」
「う……うんっ!ねえ水瀬さんっ、お風呂上がったら、一緒に軽く卓球でもしよ?……あれ?これ、もしかして……は、初めて一人卓球じゃなくて、二人の卓球ができる?」
「一人卓球!?ちょっと気になることを言わないでくれ!……やっぱり、僕も報告したらすぐ向かう!一人卓球の妙技はその時に見せてくれ!」
「はいっ!一人卓球、私の編み出した無数にある一人遊びの中でも、かなり上位に入る楽しさだと思いますよ!」
ミツルギさんはゆんゆんの言葉を聞くと、かなり興味津々、といった顔でギルドへと向かって行った。
この後、私はゆんゆんさんと一緒に風呂で汗やら粘液やらを流し、彼女に借りたバスローブで卓球をし、ミツルギが来てからは復活したハーレムコンビも合流。
クレメアさんには謝罪もしたが、全く気にせず、むしろテレポートができて嬉しかった、と笑って許してくれた。
……すっかり白熱して汗をかいてしまったので、もう一度風呂に入ってから、そのあと5人で食卓を囲んだ。
ダガーは後日買いに行くことに決めると、その日は余ったお金で安めの宿を取り、そこで一夜を明かしたのだった。
おかしいな。ミツルギさんの方が主人公らしい気がする……!?