この素晴らしい世界にシナリオ(HO有り)を!   作:石鹸を食え!

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HO5:友達

 あの日のクエストの、次の朝。

 私はゆんゆんが待っている噴水の前まで走ると、そのまま手を上げて挨拶した。

 

「ゆんゆんさん、早いですね。30分前なのに」

 

「誰かと買い物に行くのなんて、本当に久しぶりだったから……!」

 

「や。……僕が一番乗りかと思ってたけど。早いね、君たち」

 

 そして、ミツルギも5分遅れて到着。

 もちろん、あの二人も当然のように待ち構えていた。

 

「さて……僕の行きつけでいいかな?」

 

「ええっ!?……わ、私も行きたい店があったんですが……」

 

 まさかの、初手で対立した。

 ゆんゆんとミツルギはしばし目を見合わせたあと、示し合わせたように小さく頷き、こちらに目配せして来た。

 

 選べ、ということだろうか。

 

「そうだなぁ……それじゃあ、ゆんゆんさんの店に行きます!」

 

「や……やったぁ!ありがとう、水瀬ちゃん。今度もまた、一緒に買い物に来ようね!」

 

「どこがダメだったんだ……?」

 

 ゆんゆんは選ばれた事にはしゃぎ、豊かな胸を激しく揺らしながらぴょん、と飛び跳ねる。

 反対に、即答されたミツルギは愕然とした表情で、少し落ち込んでいるようにも見えた。

 

 ……が、仕方ない。

 どうやらミツルギを慕う二人も理由には気づいたようで、私は二人に目配せ、小さく頷いてから口を開いた。

 

「考えてみてください。ゆんゆんさんはナイフを持ち歩いてますよね?」

 

「ああ、そうみたいだね。……けど、僕にはこの魔剣グラムが!」

 

「ミツルギさん、その店の武器を持ち歩いてすらないので」

 

「……あ。そっか。信頼性か」

 

 ミツルギはすっかり納得した様子で、最初の方の笑顔を取り戻したのだった。

 

 

「いらっしゃいませ〜♪……あら?こんなに沢山の人たちがウチに来るなんて……」

 

 隠れ家風、とでも言おうか。

 オシャレなカフェのような外装を開けると、そこには茶色い長い髪を伸ばした美人な女店主さんがいた。

 

 背が高いとか、声がとても綺麗とか、服装がオシャレとか色々言いたかったが、結局頭に残るのは一つの特徴だろう。

 

 ……とても、胸が大きい。

 

 同性の私でも、思わず豊かな胸部に目が吸い寄せられてしまうくらいだ。

 

 初対面のインパクトに面食らう私を気にせず、ゆんゆんは笑顔で続ける。

 

「ここはウィズ魔道具店。変な物ばかりだけど、たまにすごくいいものも売ってるんだって!」

 

「そんなぁ!うちのお店は、いいものばかり、取り揃えていますよ?」

 

 動揺する店主。

 そう言って指差した先には、『高純度マナタイト』と書かれた樽があった。

 

「……値段は桁が4つほど大きいですが、悪いものじゃないのではないでしょうか?」

 

「ですよね、お客さん!」

 

 ギルドで軽く資料を見たが、マナタイトが偽物、ということはなさそうである。

 そう考えて首を傾げる私に、ゆんゆんは困ったような笑顔を向けてきた。

 

「アクセルは初心者の街だから、誰もこれを買えないんですよ」

 

「なるほど。需要と供給をあまりお勉強なされてない店主さんなんですね」

 

「お客さぁん!?……あうぅ……」

 

 しまった。つい口が滑ってしまった。

 どうしようか、と視線を逸らしていると、手元に一振りの短剣が置かれる。

 

「こんなのはどうかな。竜に特攻を持つ『ドラゴンキラー』だってさ」

 

「えーっと……」

 

 それは、柄頭が滑り止めを兼ねた竜の装飾になった、修学旅行のキーホルダーみたいな見た目のナイフだった。

 鍔もやたら派手派手で、真ん中にはリベットを隠すかのごとく宝石が埋め込まれている。

 早い話が、成金趣味だった。

 

「……ミツルギさん、14歳くらいの頃に転移してきました?」

 

「よくわかったね。そうだけど?」

 

 なるほど。よくわかった。

 ミツルギさんのセンスは信頼しない方がいいことがよくわかった。

 

 ……ゆんゆんに「紅魔族はそういう趣味」と聞いていたが、きっと彼なら紅魔族の群れに拾われても幸せになっていた事だろう。

 

「こっちもどうかなぁ。『ソードブレイカー』、身を守るのに良いんじゃないかなって……」

 

「はいっ!なんとそちらの商品、左利きの方向けなんです!」

 

 ゆんゆんが指差していた短剣は、見慣れたいわゆる『ソードブレイカー』とは逆刃、に見えるように展示されているが普通のソードブレイカーとの違いがわからない。

 

 ……こんなインチキ商品を左利き向けと表現するのは、いささか問題があるのではないだろうか。

 

 というか、そもそもこれは左手で扱うためのアイテムだったはずじゃ、とか思いながら持ってみると、まるで鉈、というかダンベルでも持ったかのような重さを手に伝えてくる。

 

「店主さん、これは?」

 

「はい。『大剣をへし折れる強度』をコンセプトに作られたものでして、硬化のエンチャントを施されています。……その際に絡め取られないよう、重さも普通の十倍にしてある特別設計の一点ものですよ♪」

 

 なるほど。この店主は短剣使いのほとんどが盗賊、ないしは非力な初心者であることをご存知ないらしい。

 

 よほどの天才冒険者なのか、それとも箸より重いものは全部一括りに『重いもの』と呼ぶレベルで非力なのか?

 

 ともあれ二つとも、威力自体は高そうだ。

 ……ミツルギのは若干ダサいし、ゆんゆんのは重すぎるっていう明確な弱点があるけど。

 

「おお……ミツルギさんの短剣、強そうですね!……ちょっと、派手ですけど……」

 

「ゆんゆんのもね。それ、なかなかいい短剣じゃないか。それで、水瀬はどっちにするんだい?」

 

 この短剣がベストなものだ、と断言できるような自信はない。

 

 龍の討伐なんてしに行けるほど私は強くないし、いくら筋力自慢とはいえこんなものを振り回して戦うのはキツい。

 

 ふと、思いついた方を見据え、財布の中身を見る。

 ……二人とも一線級の冒険者だからか、なかなか高級な品を勧めてきている。

 

「……ね、ねぇ。もしもダメだったら、別のを選んでくれても、私はいいよ?」

 

「ああ。ソレがダメだったら、別に僕らに遠慮することはないんだ」

 

 だけど、二人が自分のために選んでくれた短剣だ。

 だからこそ『この選択肢』を選びたいのだが、それには金が足りない。

 

 どうやったら足りない分の金を補えるだろうか、としばし頭を悩ませた後、私は『とあるアイデア』を思いつく。

 

「店主さん。すこし、相談があります」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「……私と、商談して頂けませんか?」

 

「そういう事でしたら、奥に!」

 

 さて、異世界どころが、生まれて初めての事ではあるが。

 早速、『現代知識チート』を行使しようじゃないか。

 

 

「お、ちょうど終わったみたいだね。水瀬、商談はどうだった?」

 

「はいっ!『レールガン』の設計図と、運用の際に必要となるいくつかの基礎理論に関する百枚ほどの説明書を書いてたんですが、時間かかってしまいましたね……すみません」

 

「謝らなくてもいいさ。何せ、女性を待つことには慣れてるからね!」

 

 普段の調子で笑ってくれるミツルギに、今は感謝しかなかった。

 

 かなり時間がかかりそうだったので、残るメンバーで街を散策してもらっていたのだが、カエルを倒して『敏捷』が上がっていたおかげなのか、意外と早くに終わったのである。

 

 ……と、残したメンバーを見れば、ミツルギの隊列の最後尾にいたゆんゆんが、泣きそうな顔で私に縋りついて来た。

 

「……それで、ゆんゆんさんはどうしたんですか?」

 

「うわぁん!全員が友達の友達くらいの距離感で行くショッピング!本当に、一人でやる野球くらい辛かったんだからね!」

 

「一人野球!?それ、ちょっと詳しく!」

 

「あはは……それは本当にごめんなさい。辛かったですよね、苦しかったですよね。……でも、ホラ!」

 

 と、言いながら私が腰から抜いたのは、二振りの短剣。

 

 そう。『ソードブレイカー』と『ドラゴンキラー』、両方の短剣だ。

 

「「両方!?」」

 

「はい。……ですが、店主さんは私の『現代知識』にかなりの値段を付けてくれましたから!」

 

 流石に、両方買うとは思っていなかったのだろう。

 驚いたらしい二人が冷や汗を垂らすが、私は、この選択に後悔はなかった。

 

「新天地での友人で、カエルから助けてくれた恩人でもあるある二人が選んでくれた短剣です。……私は、どっちも欲しくなっちゃいました」

 

「水瀬……」

 

「水瀬さん……!」

 

 これは、私の選択だ。

 ……選べない。だから、『両方もらう』。

 今の私には、それが正解だったのだろう。

 

 新しい武器のナイフを腰に提げ、そのまま店を出る。

 そして、店の外で顔を見合わせると、私たちは誰からともなく、大きな声を出して笑ったのだった。




大丈夫。『ウィズ魔道具店』店長との商談だよ。
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