この素晴らしい世界にシナリオ(HO有り)を! 作:石鹸を食え!
「オイ、あの子だよ。噂の『カエル殺し』」
「あぁ……噂の?」
「ようこそ地獄へ!歓迎するぜぇ?お前みたいな命知らずのイカれた奴は特になァ!」
「……どうもです。どうも……あはは」
短剣を買ってから、1ヶ月とちょっと過ぎた頃。
ミツルギ主導のクエストも、ゆんゆんとの外出もない時間は全て『ジャイアントトードの討伐』に費やしていた私は、すっかり『カエル殺し』の二つ名で定着してしまった。
……ちなみに、毎日行っていたおかげですっかりレベルも上がり、『初心者殺し』も魔力に余裕があれば対処できるようにまでなっていた。
最近習得した『バインド』というスキルがなかなかに強力だったので、その賜物と言えよう。
そんな風に、スキルの充実を喜びながら歩いていると、ふと見覚えのある頭が目に入る。
輪っかのついた青いポニーテール。
つまり、アクアさんだ。
「……火力が足りない!」
「あれ?カズマさん、ですか?」
「火力が足りなぁい!!」
その正面に座っていたのはカズマさんで、何かにうなされていた。
火力。つまり、ウィザードがいないのだろうか。
ならば、私はいい情報を持っている。
項垂れているカズマさんの耳元に口を近づけ、私はそっと囁いた。
「……情報共有はセッションの基本なので、カズマさんに教えておきますね」
「……はいはい。なんでしょうかイザナミさん」
「……ええ。黒髪赤目の魔導士を頼るといいです。その人たちは『紅魔族』と呼ばれ、最低でも中級以上の魔法と極めて高い魔力を持つのだとか」
「……ありがとう、本当にありがとう。流石はメインヒロインだ。マジでありがとう!」
ガシッ、と手を掴みながら立ち上がるカズマさんだが、私はなんとなく妙な予感がしていた。
そう。近づいてくるのだ。ゆんゆん以上の魔力が。
盗賊になるため取った、いくつもの感知スキルが由来だろうか。
予感は、刻一刻と迫って来る。
恐らく、近くまで近づいてきている……
「──あるいは、もう来ているのかもしれません」
「驚きました。『里』の外の人間が、まさかこの私の魔力に気づくとは」
振り返ると、そこには中学生くらいの少女がいた。
魔女らしい、前髪を目元近くで切り揃えた黒髪と、スレンダーなボディが特徴的だろうか。
……だが、ゆんゆんを知らなければ、私はその真っ赤な目に何より興味を惹かれていたかもしれない。
ブレーキランプのようにチカチカと光る真っ赤な目は、どことなく捕食者じみたオーラを放っているようにも感じられた。
「……
「ほう、面白い。……『紅魔の次席』を知っているのなら、話は早いだろう」
次席。やはり、というべきだろうか。
予感が確信に代わり、私は思わず手の甲で冷や汗を拭った。
──この人、ゆんゆんよりも強い!
「我が名はめぐみん。紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操る者!……ではあなたにも。『強者』を嗅ぎ分けるその嗅覚に免じて、『紅魔の作法』で名乗る事を特別に許しましょう」
「……我が名は
「おお……っ!!素晴らしい。あなたは心に『
「おや、それは嬉しいお言葉を!」
どうやら、彼女も
握手を交わし、そのまま目を瞑った。これ以上の言葉は不要だ。
……それを、カズマさんはとても冷たい目で見ていたが。
違うんですよ。TRPGにハマる奴って少なかれこうなんですよ。
「……冷やかしならお帰りください」
「冷やかしちゃうわい!……ごほん。あなたがたのパーティで、是非とも私を雇って頂きたく!」
「ふむ……実際、イザナミが言ってた『黒髪赤目の魔導士』って特徴とも一致する。……が、実際どうだか……」
カズマさんは、きっと試すつもりだ。
どのクエストに、と考えていると、見慣れたカエルのクエストが選ばれた。
「最弱職の俺とこっちのポンコツの自称女神だけじゃ、このクエストはキツくてな」
「
「わからねえのか?このドポンコツは」
「なんですってぇ!?このっ、天罰のゴッドブローを叩き込んでやるっ!」
ぎゃいぎゃい、と二人は騒ぎ始める。
……が、カズマの真意はわかった。つまり、こういう事だろう。
「──カエル相手に、あなたの魔法を披露してください」
◇
そして、やってきたのはいつもの草原。
私とカズマさんが共に武器を抜いて構える中、めぐみんさんは杖を手に、真っ赤な目を爛々と輝かせていた。
「私の爆裂魔法は、少しばかり詠唱に時間がかかります。……時間稼ぎをお願い出来ますか」
「時間稼ぎはいいですが……倒してしまっても構わないのでしょう?」
「やめろ!……ってかコレはめぐみんのテストなんだよ!」
冗談もそこそこに、私は『ドラゴンスレイヤー』で軽くカエルの体を撫でながら『すれ違う』。
血が噴き、カエルが悲鳴を上げて私の方を睨んだ。
「黒より黒く、闇より暗き漆黒に──」
「カズマさん!ヘイト稼ぎました!」
「OK!合図が出るまで逃げ回ってくれ!」
逃げ回りつつ、ナイフをチラつかせて挑発し続ける。
すると、私の『敵感知スキル』に反応する気配が、一つ増えたことに気づく。
「イザナミ!」
「背後ですね、わかりました!」
私は、死角から現れたもう1匹の攻撃を、ノールックで回避する。
初日、運悪く大量発生したトードと戦った際、不意打ちの恐ろしさは学んだのだ。
『回避スキル』も取ったのだが、案外しっかり役に立ったらしい。
「深淵より……来たれ!」
「イザナミ!退避だ!」
「はいっ!」
カズマさんの合図に併せ、視界から外れた瞬間に『潜伏スキル』を発動。
カエルは私を見失ったことに驚き、その場で足止めされる。
──それが、自分たちに残された最後の時間であるなどとは、思いもしないまま。
カエルたちは、呑気に私を探し、大きな目玉をギョロつかせる。
「これが人類最大の威力の攻撃手段!これこそが、究極の攻撃魔法!!エクスプロージョン!!!」
そして、その言葉を聞いた瞬間。
カエルから100mは離れていたはずの私は、なぜだか強い灼熱感と浮遊感に襲われることになる。
なぜだ。音と光に飲み込まれて何も感じられなくなった中で、私の思考だけがクリアになっていく。
そして、地面に背中を打ち付けられると同時に、その理由がわかった。
──爆風の射程圏内からは、まだ外れられていなかった、ということに。
「──ッ!──ッ!!」
痛い。とてつもなく、背中が痛む。
何か、小さな音が聞こえるけれど、それ以外は何もわからない。
そんな、中で。
「セイクリッド・ハイネス・ヒール!!」
身体中が優しい光に包まれ、私はようやく目を開けた。
すると、そこにはアクア様とカズマの二人がおり、心配そうにこちらを覗き込んで来ていた。
「イザナミ!……イザナミ!大丈夫か!?」
「……あはは。アクア様のおかげで、なんとか。私、帰ったらアクシズ教の教会に寄るべきですかね?」
「……そんなタチの悪い冗談が言えるなら、本当に大丈夫なんだな」
「ちょっと!それどういう意味!?」
カズマさんの軽口に怒り心頭なアクアさんは一旦置いておき、腰に提げていたナイフを確認する。
……どっちも無事だ。
さすがはウィズ魔道具店の装備品、ゆんゆんから『初心者の街にはもったいないくらいの高品質』とのお墨付きを頂くだけのことはある。
「驚いちゃいました。……本当に、すごい範囲ですね」
「ふっふっふ、そうでしょう、そうでしょう!……ですが、ごめんなさい。今朝『範囲上昇』を取っていたせいで、少し座標がズレて、あなたに怪我を負わせてしまいました」
爆風だけで、この威力だ。
私としては素直に褒めたつもりだったのだが、めぐみんさんは申し訳なさそうな声色でしゃべりつつ、地面に突っ伏していた。
「……これは、赤点です。今日の爆裂魔法は『再提出』です!」
「もう、反省しているなら、いじけてないで立って謝ってください!」
「立てません」
……はて?
なんとなく信じられない言葉に、私は思わず首を傾げる。
タイミングよく……おそらくは、爆裂魔法に誘われるようにして出てきたのであろうカエルにナイフを向けながら、めぐみんさんの方を再び見つめる。
というか、嫌な予感がして、さっきから背中を伝う冷や汗が止まらない。
これじゃあ、まるで私がガマガエルになったみたいである。
「めぐみんさん。今、なんと?」
「赤点だと」
「違います、その後です!」
「立てません。……『エクスプロージョン』を一回撃つと、私は魔力も体力も全部消費してしまい、立てなくなります」
えっ。とか、なんで、とか、そんな事を私は言おうとしていた気がする。
思わず黙ってしまったのは、カエルの舌に絡められためぐみんさんが無抵抗のまま、まるでラーメンの麺のようにチュルリ、といただかれてしまったからで。
「め……めぐみんさんが食べられたぁ!?」
「食われてんじゃねーっ!!」
「カズマしゃあああん!なんかカエル、こっちからも来てるんですけどぉ!」
「おま……駄女神ィ!……クソッ、しょうがねえなぁぁぁ!!!」
この後、私たちは爆裂魔法と女神の不運におびき寄せられたカエルを相手に、お互いの得物を用いた大立ち回りを演じた。
結局、カエル汁塗れのめぐみんさんの処理はカズマさんがする事になり、カエルの臓物で汚れてしまった私は公衆浴場で汚れを落とした後、再びギルドでカズマさんと合流したのであった。
「どうもです、水瀬。カズマのパーティに力を貸すことにしました」
「あはは……」
そこにいたのは、すっかりやつれた顔をした、背中をめぐみんに付着したカエルの汁でべっとりと汚されたカズマさんで。
私は何も聞かない事にしつつ、シュワシュワを彼とアクア様に一杯奢りながら、祈ったのであった。
ああ、目の前におりますアクア様。
この祈りが届くのならば、どうか。
──眼前の
アクア様とカズマさん、ありとあらゆる意味で凸凹コンビな感じがして好きなんですよね。