この素晴らしい世界にシナリオ(HO有り)を!   作:石鹸を食え!

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HO7:旅人

「イザナミさん。そろそろ高レベルになられましたので、そろそろ遠征するクエストなど受けられてはいかがでしょうか?」

 

「遠征?」

 

 ある日、人気者の受付嬢さんが提案してきたのは、意外な提案だった。

 遠征クエスト。

 確かに必要なものを集めるだけの金はあるし、護衛を務められるだけのステータスもある。

 悪くはない提案だな、と思える。

 

「確かに、毎日カエルばっか倒してました。ミツルギさんが誘ってくれなかったら、マンティコアなんて見る事もなかったかもしれません……」

 

「上位モンスター倒せる実力者の水瀬さんがカエル退治で燻ってるなんて、すごくもったいないですよ!」

 

「そうですかね……」

 

 ふむ、と考えながら口元に手をやる。

 ミツルギさんは『エンシェントドラゴンが目覚めた』とかで呼び出され、王都に行ってしまった。

 あの二人も一緒の馬車に乗っているらしいので、声をかけられるのはゆんゆんくらいだろうか。

 

「もしかして、仲間を探しているの?」

 

「はい!……えっと、あなたは?」

 

「アタシはクリス。盗賊だよ。長年コンビやってた友達が別のパーティに引き抜かれちゃって、暇してたんだよね。よかったら、一緒にどう?」

 

 なるほど。最近カズマはクルセイダーを加入させたと言っていたが、出会いがあれば別れもあるのか。

 

 盗賊とは、パーティ次第では戦士の役割もこなすものである。

 それ故に、魔法使いさえいるパーティなら、複数人いても困らない役割なのだ。

 

「水瀬 伊邪那美です。職業は盗賊ですが、この短剣のおかげでタンクも少しは務まるかと!」

 

「へぇ!このソードブレイカー、結構良さそうじゃん!ちょっと触らせて貰ってもいいかな?」

 

「はい。……気をつけてくださいね?」

 

「へ?」

 

 そう言いながら、クリスさんにソードブレイカーの持ち手を差し出した。

 まさに、その瞬間だった。

 

 ……ズゴッ、という鈍い音を立てて、彼女が前に転倒したのは。

 だから気をつけて、と言ったのだが、流石に想定外だったらしい。

 

「なっ、なっ……!?何コレ!?おかしいよコレ!」

 

「気をつけて、って言ったじゃないですか!……知っての通り、『大剣に対応した』ソードブレイカーです。ウィズ魔道具店の店主さんが使ってみて、実際に大剣を絡め取れるという保証もあるんだとか」

 

「引退した高ランク冒険者の妄言を間に受けないでよ!!……ビックリしたぁ、すごいパワーしてるね。……なんか君、ダクネスみたいだ」

 

 そうは言いつつも、理解していればきちんと持ち上げられるあたり、流石に彼女もレベルが高いのだろう。

 

 ひとまず短剣を受け取ると、そのまま奥でソリティアをしていたゆんゆんに声をかけることにした。

 

「ゆんゆんさん!『オーク狩り』に行きましょう!」

 

「へっ?……そ、そちらの方は?」

 

「アタシは盗賊のクリスだよ。聞いてたよ、ゆんゆんちゃんっていうんだね。今日はよろしく!」

 

「あっ、はい……よろしくお願いします……!」

 

 コミュ力の差でゆんゆんにダメージが入っているが、まあいいだろう。

 ゆんゆんもクリスも、すでに旅立つ準備は出来ている様子だ。

 

「相手はオーク。……強敵だから、気を引き締めて行きましょう!」

 

「OK。タンクは水瀬ちゃんでいいんだね?」

 

「わかりました。後方支援と……危なくなった時の前衛も任せてください!」

 

 意を決して、いざ。

 

「「「GOッ!!」」」

 

 

「銀髪の美少年よーっ!」

 

「最高にカッコいいわ……興奮しちゃう!」

 

「ねぇ、ワタシとイイコトしましょ?さぁ、さぁ、さぁ!!」

 

「なんでアタシばっかり!?」

 

 簡潔に言うと、私たちの作戦は崩壊した。

 ……クリスが、男だと勘違いされたのである。

 

 必死の形相で逃げ回るクリスに、野獣の如き表情を浮かべたオークたちが追従する。

 

 ……仕方ない、私がタンクとしての『役割』を真っ当するか。

 

「『HO1』、『水瀬(みなせ) 伊邪那美(いざなみ)』は!『あなたはハンサム☆ガイである。あなたはマッチョにしてハンサム、タフにしてセクシーな男だ。あなたの目標は、3人の女性を抱くことである』!」

 

 そんな言葉と共に『キャラシ』が私に吸い込まれ、肉体が光に包まれる。

 それが開けた頃には、私は高身長、筋肉質、ハリウッドスターのようなハンサムフェイス、という三拍子揃ったイケメンに変身していた。

 

「『テレポート』!……よし、これで!」

 

 私の意図を理解したゆんゆんが、『テレポート』でゆんゆんを回収する。

 それを確認した私は、そのまま馬車の扉を閉じた。

 

「ねぇ、水瀬さん。……大丈夫、なの?」

 

「HAHAHA!!安心しな、ゆんゆん。確かにイケメンでも死ぬことはある」

 

 ゆんゆんの不安げな声を聞き、私はそっと頷く。

 確かに、コレは初めての試みである。

 けれども、大丈夫だ。

 

「けれどね……ハンサムは死なないのさ!!HAッ!!

 

「キャアアアア!!イケメンよおおおお!!!」

 

 大声を上げて突っ込んできた、オークの群れ。

 その最初に突っ込んできた1匹に、私は逃げることなく突っ込んでいく。

 

「プギッ……!?な、なんて情熱的な……」

 

「おっと、これはすまない!私の『ソードブレイカー』がキミのハートを貫いてしまったようだ!HAHAッ!」

 

 そう。相手の目的は『繁殖』であり、『殺傷』ではない。

 つまり、相手がどんなに強かったとしても……付け入る隙は生まれる。

 

「さて……どんなイケメンでも抱いてやれる女の数には限りがあるわけだ」

 

「他のオークより先に来いっていうの?ンフフフ、言われなくても!」

 

 キス待ち顔のまま、一匹のオークが勢いよく突っ込んでくる。

 私はその顎に全力のアッパーカットを合わせると、そのままナイフで喉笛を掻き切った。

 

 思ったとおりだ。

 こっちから行く姿勢を見せただけで、攻勢に揺らぎが見えている。

 

「何を勘違いしてるんだ。私は……《ハンサム☆ガイ》だぞ?」

 

「ゴクリ……ハンサム☆ガイ……!?」

 

「──全員纏めて、抱いてやるよ」

 

「「「キャアアアアア!!!」」」

 

 そして、やはり、と言うべきだろう。

 このオークたち、相手から『アプローチされること』に慣れていないのだ。

 

 胸元を緩めながら甘い言葉をかけてやれば、見事にこの通りだ。

 欲に呑まれた相手なんて、御し易いことこの上ない。

 

「強い……この子、強いわ!」

 

「キュンキュンしちゃうわねぇ……ぐへへへ……」

 

「どうした?来ないのかい、kitties(子猫ちゃん)

 

「ああっ……クラクラしてきちゃう!」

 

 私の言葉に、オークが艶っぽい悲鳴を上げ、膝を突いた。

 それが合図だった。

 

「HEY!クリス!」

 

「オッケー!」

 

 私の声と共に、馬車に隠れていたクリスが飛び出る。

 そのまま私たちは手のひらを並べ、それをオークに向けた。

 

「「『バインド』!!」」

 

「キャッ!?」

 

「あふんっ!」

 

 手のひらから出てきた縄が、オークたちを縛りつける。

 一人分では心許ない縄でも、二人分だ。

 

 オークたちの動きが、一時的に静止する。

 一時的。それでも、ウチの魔術師が活躍するには、十分すぎる時間だ。

 

「『ブレード・オブ・ウィンド』!」

 

 その手から放たれた風が、並ぶオークたちの首を一斉に切り飛ばす。

 それはもう、見事な太刀筋で、切り落とされた断面から血が吹き出すのが遅れるくらいだった。

 

「……グフフッ。ますます、私……の好ミヅッ……!?」

 

「おっと!後輩はやらせないよ!」

 

 魔法を避けていたオークもいたが、『敵感知』のスキルを使ったクリスによってその不意打ちは不発に終わる。

 

 比較的脂肪の薄い脇腹は深々とダガーナイフで抉られ、その手傷はどう見ても致命傷である。

 さすがのオークとて、その一撃を前に立っていることは出来なかったようだ。

 その場に膝を突き、血溜まりを作って動かなくなる。

 

「浮気は……許されないものなのね……グフッ」

 

「やだなぁ、悍ましい……」

 

 最後まで自分に対して彼女ヅラしようとするオークを、クリスは少し怯えの混じったような目で睨みつけていた。

 

 何はともあれ、中級モンスターとの初めての戦いは、ほぼ手傷を追う事もなく、完全勝利に終わったのだった。

 

 

「それにしても、キミが突然男に変身した時は驚いたよ。……『役割付与(ハンドアウト)』っていうんだっけ?」

 

 帰りの馬車の中。

 オークたちの換金できそうな素材を集めて来たクリスは、私の能力について何やら質問してきた。

 

「はい。言うなれば、『キャラ設定を変える力』とでも呼ぶべき能力です」

 

「……さっきから男の人になったままだけど、戻るの?」

 

「はい。すぐ戻りますよ?ホラ!」

 

 ゆんゆんの言葉に答えるように、私は二人を巻き込むようにして抱きしめる。

 ……すると、私の体は再び光に包まれた。

 

「うひゃあっ!?」

 

「うわっ!……おお、結構すぐに戻るんだね、ソレ」

 

 能力の発動条件については、過去にミツルギと一緒に調べた。

 解除条件についても、『目的を達成する』か『意識を失う』事で解除されることが判明している。

 

 ……検証に付き合ってくれたミツルギには、感謝しかない話だが。

 

「うん。結構いいんじゃない、ソレ!支援魔法要らずの、すごくいいスキルじゃない!」

 

「……」

 

 クリスさんは、どことなく不思議な人だ。私のスキルを見てもあまり驚かないし、どことなく肝が座ってる感じがする。

 

 ダガーも店では見たことがない一品だが、かといって転生者、という感じもしない。

 

「……そういえば、クリスさんの友達ってどんな人だったんですか?」

 

「へ?……まぁ、敬虔なエリス教徒で、クルセイダーの女の子だよ。優しくて、すごく真面目で、ちょっと変わり者だし不器用なところもあるけど……本当にいい子だよ?」

 

 ……その子が転生者、とかそういう訳でも無さそうだ。

 

 ならば、これ以上考えても仕方あるまい。

 私は残った違和感を胸の奥にしまいつつ、アクセルに着くまでゆんゆんの持ってきたトランプでポーカーをして遊び続けたのだった。




この後、めちゃくちゃ大負けした。
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