この素晴らしい世界にシナリオ(HO有り)を! 作:石鹸を食え!
アクセルに帰った私たちの前に、何やら人だかりができている。
一体何が、と思って覗いてみれば、その先には大きな鉄格子があった。
「……あれ?アクアさん?」
「もしかしてあの子、水瀬の知り合い?」
クリスさんの言葉に、小さく頷く。
その牢屋の中にいたのは、真っ青な髪をしたあの女神様だったのだ。
ならば、と思ってカズマさんを探すが、生憎の人だかり。
どこに誰がいるのか、まともに見えやしなかった。
「っていうか、あそこにいるのダクネスなんだけど……変なことしてないよね?」
「なっ……あの姿はめぐみん!?まさか、なにか騒ぎになるような事をやらかしたんじゃ……!」
「もしかして、お二人も知り合いを見つけましたか?」
私の言葉に、二人は深く頷いた。
……と、そこで人だかりが少し横に逸れた事で、争いの中心地がよく見えるようになる。
片や、緑のマントを身につけた茶髪と茶色い瞳の、少しくたびれた雰囲気の少年。
片や、勇者のような格好で魔剣を携えた、金髪の勇者。
「あっ、アタシのパンツを盗んだカズマ君じゃない!」
「……は?説明していただけますか、カズマさん。私は今冷静さを欠こうとしています」
「違っ……いや、その、コレは違うんですよイザナミさん!違くないけどコレは違うというか」
どうやらカズマさんは、人の下着を盗むような奴だったらしい。
……すごく頑張ってる人だと思ってたけど、少し評価を改めておこう。
「サトウカズマ!……その性根、叩き直してやる!……というわけで水瀬、立ち合い人を頼めるかい?」
「そうは言ってもだな。俺には戦うメリットがないぞ」
話を聞くに、どうやらミツルギさんはアクアさんを自分のパーティに引き抜きたいらしい。
が、それにカズマさんが反対しており、それで喧嘩になったのだそうな。
……なるほど、カズマさんが戦う条件は、同じ価値の有るものをミツルギが出すことか。
「……なら、『魔剣グラム』とか?」
「よし乗ったぁ!イクゾー!!」
「ちょっ……!僕は何も!」
私の言葉を聞くなり、決闘はカズマさんの一方的な突撃で始まった。
素人の剣技だが、それでも出鱈目に振り回されるショートソードは恐ろしいもの。
回避したミツルギは姿勢を崩すが、それでもすぐさま剣に手を伸ばしたのはさすがと言うべきか。
「くっ……!させるか!」
「おらっ、『スティール』!」
「……あれ?」
だが、『居合スキル』を発動させようとした瞬間、彼の手が空を切る。
ミツルギが抜こうとした『魔剣グラム』は、すでにカズマによって振り上げられていたのだ。
一見無敵に見える『ソードマスター』の彼にも、致命的な弱点が存在する。
それは、『強さのほとんどを剣に依存する』ということで。
「よっ!」
「がっ……」
結果、彼は自分の剣の腹で頭を叩かれ、地面に倒れ臥す事になった。
コレを決闘と呼ぶには、あまりにもあんまりな決着である。
「ひ……卑怯よ!そんな勝ち方して恥ずかしくないの!?」
「正々堂々勝負すれば、キョウヤは絶対負けないんだから!今のは無しよ!」
クレメアとフィオ、二人の言葉は共感できるものだが、それでも首を縦に振ってやる事はできない。
カズマは初級職の冒険者、キョウヤは上級職のソードマスター。
その力の差は明確で、正面から戦ってはまず勝てる相手ではなかった。
そんな力の差がある状態で行う『決闘』なんて相手に言うことを聞かせるための脅迫に等しい行為であり、キョウヤの抱える欠点……正義感の強さ故の短慮さ、それが出てしまった行動である、と評価するべきだろう。
むしろ、カズマもよく決闘を受けた、と思う。
失敗したら全てを失っていたかもしれないというのに、この奇策に全てを賭けた。
それはプライドか、それとも自分の幸運、或いは己の知力への信頼か。
いずれにしても、私個人としては、嫌いではない。
「──じゃあ、ついでに私とも戦いましょうか」
「「水瀬ちゃん!?」」
このサトウカズマという男に、ますます興味が湧いてきた。
日本では空手や柔道を経験し、最終的に父親がインストラクターをしている総合格闘技を始めた私だが、TRPGに興味を持ったきっかけも『戦術』や『戦略』への興味が元となっていた。
このサトウカズマという男は、戦いが上手い。
きっと、対戦系シナリオのTRPGをやらせたら楽しいだろう。
──そして、彼とやる
「イザナミ。お前は俺に、なんのメリットを提供してくれる?」
「私の持つ……全部!」
「ぜんっ……えー、コホン。ものは相談なんですが、
食いついてきた。
若干目をギラつかせながらそんな事を言ってくるカズマさんに、私はそっと頷く。
それが合図だった。
「早速……『スティール』!」
「避けて下さいね。『バインド』!」
最初の一撃は、両者共に盗賊のスキルだった。
私の手から出た縄はカズマさんに避けられ、カズマさんの手には、ピンク色の布切れが握られる。
先手を取ったのは、彼の方だったと言えるだろう。
だが、何を盗まれたのだろうか。
武器ではない。
防具でも、その他補助アイテムでもない。
その『なにか』を取られたことに、私の心臓が警鐘を鳴らした。
「……パンツじゃ、ない?」
──違和感。
背筋が急に冷たくなるような感覚の状態を考えるべく、私は必死に頭を回す。
まさか。この、『開放感』と『違和感』を同時に覚えるような、この感覚は。
私は、これを知っている。
けれどこれは、絶対にこんな場所で取られていいものじゃ……!
「あっ、あれはまさか……!」
「え?……いや、そんな筈ないじゃないですか」
見ていた女騎士が口を覆い、隣にいためぐみんは首を傾げる。
私は、その正体を
そうだ。あれは紛れもなく……!
「ブラジャーじゃねえか!」
「サトウ……カズマァ!」
「ごふっ!」
布を広げてあっけに取られていたカズマさんの両足めがけ、私のタックルが炸裂する。
あっという間にマウントポジションになると、私は『ドラゴンキラー』を突きつけながら、叫んだ。
「何をふざけてるんですか、あなたは!真剣勝負の最中なんですよ!?」
「違っ……俺だってなぁ!そのナイフ狙ってスティールしたんだよ!」
「なら、なぜブラジャーが盗まれるんですか!?」
「クリスにでも聞け!」
「アタシ関係なくない!?」
ちらり、とクリスの方を見るが、彼女は顔を真っ赤にして俯くのみ。
何も教えてはくれなさそうなので、カズマさんの方に向き直った。
「カズマさん」
「……はい、カズマさんですが」
「クリスさんにも、同じことをしたんですか?」
「オデ、ワルクナイ。オデ、ダガー、ネラッタ」
突然一人称がオデになったカズマさんをよそに、考える。
あの格好で、ブラジャーが取られたら。
……クリスのあの格好から、ブラジャーを抜いたら?
考える。考えに考えた結果、私はダガーを鞘にしまい、カズマさんの胸ぐらを力強く掴み上げた。
「それ半裸じゃないですか!このバカ!カズマ改め脱がし魔!!」
「なんだそれ!マしか合ってねえし!マしか合ってねえよ!」
「えっ?……あっ、ごめん!アタシが盗まれたのはパンツ!」
「下着を上下セットで揃える気ですか!?この……上級者!!」
「落ち着け!お前自分で何言ってるかよくわかってないだろ!?」
言い合いはヒートアップを続け、互いに頭を冷やす頃には決闘の話はお流れになっていた。
そして、今。
冒険者ギルドの中で、私はカズマさんの手から、布地を傷めないよう、優しく畳まれたブラジャーを、何も言わずに返却された。
「ねぇカズマさん。あなた、童貞ヒキニートなのに、どうして下着の扱い方がそんなに丁寧なの?……なんか、余計に変態っぽくて気持ち悪いんですけど」
「うっせえ!ヒキニートじゃねえし!」
「あぁ……公共の面前であんな辱めを……なんて羨まし……非道な奴なんだ、貴様……っ!」
「むぅ……私の強さが一目でわかった辺りで多少なり予測はしてましたが、コレは予想以上のサイズですよ……」
──そこには、混沌が広がっていた。
女神が少年を嘲り、私のブラジャーが机の上に晒され、左に座った女騎士が善がり、右に座ったロリっ子がブラジャーを見ながら何かを考え、唸る。
SAN値チェックが必要になりそうな光景に思わず気圧されつつも、私は目の前の少年に向き直った。
「……で、イザナミ。俺たちのパーティに入りたいのか?」
「そうですね。戦い続けるためにも、必要だと考えています」
きっぱり、とそう答える私に、カズマさんは首を傾げた。
なるほど。確かに、この言葉だけだと伝わらないかもしれない。
「私のパーティ、基本的に『女の子を二人連れた剣士』と『私とアークウィザードの子のコンビ』って単位なんです。それで、基本的に剣士の人は多忙だし、術師の子も連戦続きだとバテちゃったりしてて……」
「なぁ。前半がすごく見覚えのあるパーティなのはツッコミ待ちか?」
「はい。その剣士はミツルギさんですので」
ざわ、とパーティ全体がざわつく。
どうやら、ミツルギの性格と彼女らの性格は大変に噛み合わなかったらしい。
……彼を友達だと思ってる私だが、その気持ちはわかる。
初対面で下の名前で呼んでくる距離感は、ちょっと苦手な部分がある。
「……あなた、せっかく趣味はいいんです。付き合う相手は選んだ方がいいですよ」
「あなたは大丈夫なのか?……その、少し私としては彼に嫌悪感があるのだが」
「あの人、ちょっとヤバい人だと思うんですけど!」
「どんな
とはいえ、流石にここまで言われる程では……とは思うものの、あのミツルギである。
さしずめ「なんでも買ってあげるよ」みたいな事を初対面で言ってしまい、それで引かれたのだろう。
本人にそれとなく理由を聞いてみたが、「スポーツ選手の引き抜きは『白地小切手』でやるものだろう?」というなんとも返答に困る言葉が返ってきた。
社長かよ、とツッコんだが、実際に彼は日本では社長の息子だったらしい。
世間知らず。それ故の、未熟。
だが、彼が悪い人ではないことを知っている私は、それでも笑った。
「大丈夫ですよ。……彼は、正義と現実との折り合いをつけている最中です。人は皆、成功の中で大小様々な挫折を味わい、仲間と共にそれを乗り越え、『あの人のおかげ』と感謝することで少しずつ謙虚になっていくものです……次にカズマさんと会う時には、多少なり落ち着いていることでしょう」
「……お前、学校の先生かよ。……まぁ、そう言うなら別に。なんだかんだ定番だもんな、後半あたりで仲間になる踏み台転生者」
「確かに、たまに見ますけど……」
カズマさんの自分が主人公、と言わんがばかりの言葉に頬を掻きつつも、私は机の上にギルドカードを置く。
そこには、日々の連戦によって溜まりに溜まった経験値と、上級職目前の数値となったレベルがあった。
「ともあれ、どうでしょうか。冒険者と役割は被りますが、私は戦闘以外のスキルも覚えています。皆様の、都合の合う日程だけでも構いません。……どうでしょうか?」
私の言葉に、カズマのパーティメンバーたちが目配せする。
どうやら話すまでもないことらしく、ほんのわずかな間のみ、沈黙が場を支配した。
「当たり前だろ?イザナミは俺の恩人でもあるんだ。……っていうか、むしろこっちが頭下げたいくらいだね!」
「攻撃が当たる前衛!それがいてこそ、私も罪悪感なく趣味に打ち込めるというものだ!」
「センスのある同胞!あなたはきっと、我が爆裂道の良き理解者となることだろう!」
「カエルに強い女!イザナミ、あなたがここに来るのも、きっと運命だったのよ!」
……なんとなく、カズマさんの顔つきが異世界に来た頃と大きく変わった理由がわかった気がする。
パーティに加入した私は、ゆんゆんが待っている大部屋に戻ると、いつも通りに朝までの眠りについた。
そして、次の日。
適度な中級モンスターのソロ討伐でもしようか、と考えていた私の耳に、大きなサイレンが叩きつけられた。
『緊急です!冒険者の皆様、正門に集まってください!魔王軍の幹部が現れました!』
「魔王軍の、幹部……!?」
それはまさに、青天の霹靂とでもいうべきもので。
あまりにも穏やかじゃなさすぎる放送と共に、私にとって最初の危機となるその日が、始まった。
本気で戦った場合、イザナミは絡め手にも割と強い方なのでカズマさんは高確率で負けていると思います。
だからブラを剥ぎ取る必要があったんですね(メガトンスティール並感)
初手で剥ぎ取って無傷で引き分け、それで戦闘終了。
本人は後から仲間になりたそうにこっちを見てくるので、倒さなくても問題無し。
そういう最適解を意図せずとも引き当ててしまうのが、カズマさんの持つ幸運だと思っています。