この素晴らしい世界にシナリオ(HO有り)を! 作:石鹸を食え!
そこにいたのは、首のない騎士であった。
真っ黒い鎧を纏っており、首のない馬にまたがり、手には同じく黒い大剣が握られている。
その異様な風体は、まさしく異形と呼ぶべきだろう。
『何故だ?何故、来ない!何故、あの騎士の鑑のような者の──「バインド!」──ッ!?』
「うらぁぁぁっ!」
つまり、敵だ。
即座に判断した私は二刀流のスタイルに切り替わると、相手が名乗るより早く、『バインド』で縛りつけ、狂った様に滅多刺しにする。
相手が状況を理解して縄を千切るまでの数瞬だったが、そのラッシュによって鎧に一つ、指先程度の穴が開いた。
『ぐっ、このっ……やめろ!』
「くっ!」
……が、それも一瞬のこと。
持ち直したデュラハンに突き飛ばされ、私は急いで離脱する。
これで理解した。……相手は、見かけ通りに強い奴だと。
『ええい、なんという奴だ!名乗りも聞かず襲いかかってくるやつといい、【死の宣告】を受けた仲間を見捨てる奴といい!この街にまともな奴はいないのか!?あの騎士の鑑のような者だけが──』
「……そう、何度も褒められると流石に照れるな。私に何の用だ?」
『そう!この者のよう……な……あれ?』
デュラハンが首を傾げる。
私はその隙に、隣にいたカズマさんに詳細を聞くことにした。
「……あれ、誰なんですか?」
「アイツは魔王軍幹部の『ベルディア』だ。高位のデュラハンだが、アイツの呪いはこっちの女神が解除できる!」
「なるほど……わかりました」
ひとまず、『条件』は揃った。
ならばどうするか、とデュラハンたちの会話を無視しながら作戦を考えていると、後ろにいた冒険者たちから声が上がった。
「あ、アンタなんて……ミツルギさんが来たら一発なんだから!」
「そうだ!お前なんか魔剣グラムの鯖になっておしまいだ!」
「とても、まずいことになりましたね」
「ゴメンナサイ……ほんっとにゴメンナサイ……」
聞いた話だが、カズマはあの日、魔剣グラムを売り飛ばしたらしい。
……せめて代わりの剣をあげたかったが、程なくしてこの召集だ。
つまり、『アクセル最強にして最優の男』ことミツルギの支援が期待できない。
それに加え、回復の要であるアクアが警戒されている。
つまり、隙を見せたらアクアを殺害され、そのまま解呪出来なくなって詰む可能性がある。
「……ふぅ。仕方ないですね」
「イザナミさん。何か思いついたのか?」
「私が最強になる」
「……え?」
カズマさんの驚いた様な声をよそに、私は『キャラシ』にペンを走らせた。
『HO1:あなたはハスターである。
重傷を負ったハスターは、ベルディアを強く恨んでいる。
あなたの目標は、デュラハンの【ベルディア】に勝利することである』
そう書いたハンドアウトを、自分を対象に発動。
視界が一瞬だけ明滅した後、私の目に再び、世界が見える。
『……実験は、成功ですか』
『なんだ……!?なんだ、その姿は!?』
手元を見れば、そこには緑色の触手が見えた。
纏っているものも黄色いローブに代わり、身体能力も著しく上がっている感じがする。
……だが、変身を維持するのにも、相当なMPを使っている感じがする。
ゆんゆんやミツルギとの日々がなければ、変身しただけで倒れていたかもしれない。
『手短に逝きましょう、ベルディアさん』
『むぅ……っ!それでも、やることは一つ!』
ベルディアが大剣を振るうのに対して、私は鉤爪で迎え撃つ。
すると、どうしてだろうか。
特段力を入れたつもりもない一撃。
そんなものでも彼の巨体は紙屑の様に吹き飛び、地面に膝を突いたではないか。
『うぐっ!……っぐ、このような、怪物が……!?』
『来い、【サモン・ビヤーキー】!……ッ!はぁぁぁぁ……っ!」
だが、
決して、その長く保たなかった。
最後に『ビヤーキー』を召喚して加えたが、それもいつまで保つかわからない。
変身が解けて元の姿に戻った私は、ひどい目眩で立っていられなくなり、地面に頭から倒れ込もうとする。
しかし。
その瞬間、私の体は持ち上げられ、私に向かって振り下ろされようとしていた大剣は私の鼻先を掠めていくのみに終わった。
「っく……!『クリエイトウォーター』!!」
『うおっと!』
「来い!貴様の相手は、この私だ!」
大きな背中だ、と思った。
どうやら、この人が私を助けてくれたらしい。
追撃の剣を防いだのはダクネスさんだ、とわかったものの、それ以外はわからない。
誰が私を担いでいるんだろうか。
そう思って、目を開ける。
「──イザナミ。大丈夫か?しばらく休んでろ!」
「頑張ったわね、イザナミ。おかげであのアンデット、少なからず疲弊してるわ」
カズマさんだ。彼が、倒れた私を助けてくれたのか。
何故だか私はそれに安心して、アクアさんに預けられながら目を閉じた。
「……ありがとう、ございます」
「ま、倒れる仲間の救助は慣れてるからな」
「つまり間接的には私のおかげという事ですね!あ痛ぁ!!グーは無しでしょうグーは!」
わちゃわちゃと騒ぎ始めた二人を前に、考える。
……そういえば、アイツはカズマの魔法に過剰な反応を示していなかったか、と。
「おい、自称女神!あのアンデットに『大量の水』をぶつけられないか?」
「自称じゃなくて本当に女神なんですけど!……できるわよ。それがどうしたの?」
「……かませ!
カズマさんの言葉に、女神さんは力強く頷く。
すると、彼女の手元へと大量の水が集まり、やがて大きな玉を使ったのだ。
「……ビヤーキー!」
「お?……うおおっ!」
嫌な予感がした私は、ビヤーキーに倒れていた冒険者たちを運ぶよう指示を出す。
「女神アクアの名において命ずる。眷属よ……我が手元に集え!『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!!」
そして、大きな水の玉が決壊した。
その様子を見た私の目にフラッシュバックしたのは、いつかの災害。
生物も、無生物も、清らかなものも、冒涜的なものも。
──全てを無差別に喰らい尽くす姿は、まさに『水災』に等しいものである。
『ぐ……ぐおおお……っ!』
「今ならいける……!『スティール』!」
そして、弱りきったベルディアに対して、カズマの『幸運』が炸裂する。
カズマが望んだのは、『弱点』。
幸運の女神エリスが彼に授けたものは、デュラハンの『頭部』であった。
「よーし、みんなぁ!バスケやろうぜ!」
「「「おーっ!!!」」」
カズマの一言で、冒険者たちはデュラハンの首を楽しいおもちゃに変えてしまった。
……というかこの世界、バスケとかあるのか。
「……めぐみんさん。肩を、貸してくれますか?」
「大丈夫ですか?安静にしてた方がいいと思いますが」
「大丈夫。……ベルディアの所まで、運んで欲しいの」
私の言葉で、何かを察したのだろうか。
めぐみんはカズマから見事なスティールを決めると、そのまま生首をこちらにパスしてきた。
『……ごふっ!……あ、あの。返してくれますよね?ちょっとその、お願いしたいんですが……』
「──『
「おーい!返せよ!【クリエイトウォーター】!」
「きゃっ!」
『ごぼぼぼぼおっ!!』
カズマさんがイタズラに放ってきた魔法を、生首でガードする。
ベルディアが苦悶の声を上げるが、私は気にせずに『キャラシ』を書き進めた。
「『あなたはサウナ好きである。しかし、さっき入ったサウナでは水風呂に入りそびれている。
水を浴びたい。いっそ、水の女神様の魔力でも構わない!
そんなあなたは、水の女神の攻撃は全て避けず、防御すらせずに受けるのだ。
あなたの目標は、アクア様の攻撃を受けてロストする事である!』」
『やめ……やめろーッ!!ぐあああああっ……!!』
そして、『ベルディア』の足が止まる。
そう。なぜならこの一体は、
──防御が下がった今、それは自殺に等しい行為で。
「さあて……解脱の境地に送ってあげるわ!『セイクリッド・ターンアンデット』!!」
『と……ととのったあああああああ!!!』
アクアの魔法を受けた彼は、もはやチリ一つとして残らなかった。
こうして、初めての魔王幹部戦は、自分の能力のリスクとアクア様の能力を知ることができる、とてもいい機会になったのであった。