僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~   作:あずきBAR

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第十二話 アジサイ

向日葵君は、ゼロ距離射撃を防いでみたが、これは本来、ありえないことだ。たしかに、冷徹を使えばゼロ距離射撃を防ぐこと自体は不可能ではない。

しかし、それはあくまで冷徹の話。

徒花は腕と脚が冷徹だが、それ以外は他の人間と変わらない。人間の脳が唐突な射撃に反応できるはずがないのだ。

向日葵君は、僕の経験が浅いからそう見えただけかもしれないが、どう見ても油断しきっていたはずだ。

それなのに反応し、さらに銃弾を掴んでみせた。そんな芸当が人間にできるなんて、とても思えない。

空港のトイレに死体を隠しながら、本当に人間かどうか疑わしい向日葵君に、さっきのことを聞いてみた。

「どうして銃に反応できたの?」

「頑張ったからです」

「はい?」

「冷徹の魔改造を」

言って、向日葵君は腕を見せつける。よく見ると、所々に僕の冷徹にはない穴がある。

「僕の冷徹には、どんな攻撃も認識するセンサーとそれに応じて自動で対応するAIが組み込んであります」

これが、さっき向日葵君の言っていた「他の機能」か。

僕の知らない間に、科学はめざましい進化をしていたらしい。

もしくは知らされていなかっただけか。

「これらを総称して我らの太陽の導き(サン・シャイン)と呼んでいます」

言って、向日葵君は誇らしそうにする。

キルスイッチ、コマンドリフューズ、そして我らの太陽の導き(サン・シャイン)

あぁなるほど。向日葵君はどうやら、あの病を患っているらしい。

「もしかして、「冷徹」って名称を考えたのって、向日葵君?」

「えぇ、そうですよ。よく分かりましたね。あまり人には言っていないんですけどね」

いや多分、向日葵君を知っている人はみんな気づいていると思う。

なんてことだ。鬼灯さんや花育さんの口ぶりから推測するに、「冷徹」という名前はけっこう前からつけられていたようだ。つまり、だいぶ長いこと向日葵は......しかも、それを止める人間は、周りにいないのだろうな。

僕が......僕が止めてあげるべきなのだろうか。しかし、仕事中だしな。

さっきからトイレの外が妙に静かなのは、きっと僕らに考える隙すら与えずに追撃しようというプレイヤーの仕業だろう。

一人の少年の未来くらい、案じさせてほしいものだ。

ダァッー!

扉が勢いよく開けられ、二人の大柄な男の姿が見えた。すかさず、そこにナイフを投擲する。

ナイフは前に立っていた男の腹に刺さり、怯んだ隙に向日葵君が近ずき、後ろの男ごと押し倒し、素早く二発パンチを打ち込むと、ズルズルと二人の男を引き連れてきた。どちらの男も心臓があるはずの場所が欠けていた。

「ナイスです。椿さん」

「そちらこそ。助けられたよ」

「私は、さっき椿さんが動けなくなったのを見て、今のも動けなくなるのでは、と思ってました。しかし、杞憂でしたね。まだ徒花になって半年も経っていないのに、すごいですよ」

「鬼灯さんの教育のおかげだよ。僕はなにもすごくない」

「いえいえ、謙遜なさらず」

僕は、基本的に褒められることは嬉しいのだが。人殺しについて褒められても、なにも嬉しくない。

これは倫理的な意味合いもあるが、それ以上に、本当に嬉しくないのだ。人を殺したあとに残るのは不快感だ。

鬼灯さんのような美しい女性から褒められても、向日葵君のような可愛らしい少年から褒められても、その不快感を打ち消すことはできない。

「位置もバレてますし、このままトイレにいるのは危ないですね。さっさと離れましょう」

トイレから出て、何事もなかったようにそそくさと離れる。

さて、これからどうするか。状況を整理すると

‐プレイヤーの数は未知数。

‐なにをしてくるか分からない。

‐人がいようと、構わず攻撃してくる。

‐僕らは隠れて行動しなければならない。

‐ここは空港。当然、人はわんさかいる。

あれ?けっこうヤバい状況では?こうして移動している今も、背後から殺意をビシバシ感じるし、似たような状況が、おそらく鬼灯さんの方でも起こっている。

もしかすると、詰みでは?

「ねぇ、向日葵君。僕たちは、これからどう…すれば……」

向日葵君がいない。

‐向日葵君とはぐれた

「どうすればいいんだよ…」

 

いつだ?いつ離れた?ついさっきまで隣にいたはずなのに、周囲を見回しても見つからない。

なんてことだ。仲間とはぐれたことが死因になるだなんて、冗談じゃないぞ。手を繋いで歩いとけばよかったか?いや子どもじゃあるまいし、相手は年下だ。

いかんな。自分の思考回路が情けなくなっている。

たしかに、向日葵君は強いし、頼りがいがある。だけど、僕にも冷徹があるのだ。何も恐れることはない。

普通に、いつも通りに殺すだけ。ただそれだけの事だ。

「你好(こんにちは)」

人混みの中を歩いていると、ふと、声をかけられた。ただの一般人…って考えは持たない方が身のためだろう。

瞬時に軽く距離をとり、声の主を見る。「JAPAN」と書かれたラフなTシャツを着た若い中国人の女性で、そのヘラヘラとした顔からは敵意は感じられない。

「是谁(誰ですか)」

鬼灯さんに教えてもらった付け焼き刃の中国語で尋ねる。万が一ただの観光客だった場合、殺してしまうと、どっちの国が対処するか、とか少々めんどくさいことになるらしい。

「あぁ〜ハハッ、プレイヤーでーす。あと、私は日本語できるよ」

日本語をずいぶんと流暢に話し、一応の確認も杞憂に終わったが、なんだか変な感じだ。

プレイヤーだと名乗るが、やはり敵意は感じられないのだ。

「そう身構えないでさ、お話しようよ」

人混みの中、距離をとりつつ様子を伺う。周囲の人間は、僕らを避けて進むため、まるで僕とプレイヤーの女だけの世界がつくられたような錯覚をしてしまう。

この女は何がしたいのだ?話すことなど、何もないと思うのだが。

「いや〜本当にくだらないよね。人が一人死んだだけで大勢で復讐なんかに来ちゃってさ」

「...あなたも、その復讐のために来たんじゃないですか?」

「いや別に。面白そうだから来ただけだよ」

「面白そう?そんなことのために殺し合いしに来たっていうんですか?」

「殺し合いなんて、そんなおっかないことしないよ。私はただ観戦に来たんだよ」

掴みどころのない人だ。本当に何がしたいのだろうか。もしかすると、こんな話をしておいて、油断したところを殺そうとしているのかもしれない。警戒心をより強め、いつでも動けるように構える。

「だから、殺り合う気はないってば。なんで分かってくれないかな~」

「話くらいなら、ぜんぜん聞きますよ。ただし、妙な動きをすれば即座に殺します」

「あっ、そう?それならいいけど」

命に関わる問答を、緊張感の欠片もなくこなす。そこには、自分は絶対に死なないという確固たる自信があるように見えた。

「あのさ、私ね、プレイヤー飽きちゃったんだ~」

「飽きた?」

「そう、飽きた。来る日も来る日も、似たような殺し方ばっかり。一つの場所に人を集めて、ただ虐殺するだけっていう単調で、つまらない殺し方ばっかしてるんだよ」

「あなた......自分が楽しむために殺人をしてるんですか?」

「楽しくないより、楽しい方がいいに決まってるじゃん」

これはまた、向日葵君とは別ベクトルで歪んだ思考の持ち主だ。殺人というのは、こうも人間性を歪めてしまうものなのだろうか。

「それでさ、私を徒花家に招待してほしいんだよ」

「何を言っているんですか?あなたが徒花に?」

「実は、名前も決めちゃっててさ、徒花紫陽花なんてどうよ?」

「......なんで徒花になろうと思うんです?」

「あれだよ。刃物や鈍器、爆弾なんかでの殺しは飽きたからさ、冷徹っての使ってみたいんだよね~なんかスゴイらしいじゃん?」

「なんかスゴイらしい」そんな曖昧な情報でプレイヤーから徒花に鞍替えしようなんて、正気の沙汰ではない。

さらに楽しく殺すため、そんなことのために四肢をなくそうだなんて、イカれている。

「それ、本気で言ってるんですか?」

「うん。マジマジ」

「仲間に、プレイヤーに申し訳ないと思わないんですか?」

「プレイヤーの奴らなんて別に、どうでもいいよ。私は自分が可愛い。だけど、他の人は別に可愛くないよ。だからどうだっていい。今回の件で、死のうが生きようが、どうでもいい。プレイヤーに限らず、誰であろうとね」

「…そうですか」

「ね、お願い。私を徒花に迎え入れてよ」

まさか徒花にしてくれ、だなんて要求をされるとは思っていなかった。しかも、軽い口調で頼んでいる割には、目がマジだ。

他の人が、どう判断して徒花を選んでいるのかは知らないが、僕の中での答えは既に決まった。

「駄目です」

「...え?なんで?悪い話ってわけじゃないと思うよ?私、結構有能だよ」

「有能だろうと、優秀だろうと、駄目です。あなたを徒花にはさせたくない」

「だから、なんでさ?考え直してよ~頼むからさ~」

「あなたは、人間失格です。あなたという存在に価値はない。徒花にできないのは、あなたがいらない人間だからです」

「...酷いこと言うなぁ」

「ごめんなさい。でも、あなたは死ぬべきだ」

「はぁ〜、残念だよ」

女が後ろに歩き始める。

「待ってください。逃がしませんよ」

「無駄だよ~。君は私を捕えられない」

女を追おうと、足を踏み出すが、唐突に人の流れが激しくなり、あっという間に人の波に押し流される。慌てて女を探すが、どこにも見つからない。

まるで、狐につままれたような感覚だ。あの女は霧のように現れ、煙のように姿を消し去ってしまった。

「あっ、椿さん」

必死に辺りを探していると、僕を呼ぶ声がした。

「向日葵君...」

「探しましたよ、突然いなくなるものですから」

「ごめんね。実はプレイヤーに遭遇してさ、たった今、逃げられてしまったんだ」

「なんですって!要警戒ですね」

そう言って、向日葵君は僕と手を繋ぐ。

「向日葵君?なんで手を?」

「こうしとけば、はぐれないと思ったんですけど、ごめんなさい。嫌でしたか?」

「ううん、嫌じゃないよ。ありがとね」

なんだか、安心した。人と手を繋いでいると、人間だと認めてもらっているようで、気分が落ち着いた。




アジサイ
花言葉「移り気」
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