僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~   作:あずきBAR

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第十三話 ゴクラクチョウカ

椿と向日葵が合流していたその頃、鳥花は、プレイヤーと殺し合いをしていた。

しかし、それは殺し合いというには、鳥花が圧倒的であり、一方的な虐殺のようにも見えた。

「ハァーハァー」

ただ、冷徹を使っていようとも、鳥花は人間。十人目のプレイヤーを葬っていた時には、その動きに明確な疲れが見えていた。

そもそも、徒花は刹那的に殺す術には長けているが、長期的に殺し続けることへは、あまり慣れていない。彼らが普段からやっているのは「殺し」であり、「戦い」ではないのだから。

それでも、ここまで圧倒的にプレイヤーを相手に立ち回るのは、伊達に徒花をやっているわけではないということだろう。

次の獲物を待ち構えつつ、鳥花は喫煙所の壁にもたれかかる。

清掃用の立ち入り禁止の立て看板を拝借し、中にいた人間も追い払ったため、伸び伸びと休憩しつつ、プレイヤーにも備えることができた。

そこに、赤いロングストレートの髪の女がやって来た。

髪がびしょ濡れであり、前髪で顔が隠れているため、その姿は鳥花に、古典的な幽霊を想起させた。

「おや?椿のところへ行ったと思ったが、戻ってきたか」

「......」

「どうした?椿に振られたか?」

「......」

女がなにかを咥える。

「っ!?待て!お前鬼灯じゃっ」

気づいた時には遅かった。女は、「JAPAN」と書かれた変な服を着ているが、思い返せば、鬼灯はそんな服を着ていなかった、と鳥花は後悔する。

鳥花の腹には、既に吹き矢が放たれ、奥深くまで突き刺さっていた。

鳥花は反射的に手斧を投げるが、その女は手斧を華麗に避け、鳥花を値踏みするように見る。

「おっと、危ない危ない。死んだらどうするのさ」

女は、自分の髪を掴んで引っ張ると、溶けるように髪が離れていく。女はそれをプラプラと振り回す。

「あの人が赤髪で良かったよ。カツラは適当に長髪の人の頭皮を剥げばいいし、こんなに人が多い場所なら、赤の染料はいくらでもあるからね」

女はカツラを放り投げ、満面の笑みで鳥花に語りかける。

「ねぇ、おじさん。おじさんって、人に対しての興味とか、全然ないでしょ?」

「...」

鳥花は、返事もせずに呆然する。あまりにも図星であるため、困惑しているのだ。

誰にも理解されないと思っていた自分が、生まれて初めて理解されていることに戸惑っていた。

「だから、こんな罠にも引っかかる。そういう感じで、他人に無関心なのはさ、人間失格らしいよ」

鳥花は追撃をしようとするが、体が動かない。さっきの矢に神経毒が仕込まれていたのか、もしくは自分が女の話に聞き入っているのかは、定かではない。

「まっ、でもおじさんは私と違って、徒花として生きることを許されてるんだよね。おじさんは、はたから見たら、ただの人間なんだろうね」

「俺がただの人間に見られているだと?」

女は、特になにかの意図を込めて「ただの人間」なんて言葉を使ったわけではない。しかし、その言葉は、鳥花の琴線に触れるものであった。

さっきまで、ピクリとも動かなかった体が勝手に動くほどに鳥花の怒りは滾っていた。

 

徒花極楽鳥花は徒花になる前は、後悔しないように生きてきた。自分が望むものは必ず手に入れようと思い、生きてきたのだ。

彼の望むもの、それは彼の経歴こそが物語っている。

彼は子どもの頃から、人が人を殺す話が好きで、ドラマでもアニメでも小説でも、ひたすら殺人の物語を見ていた。

彼の周りの人間は、彼のそんな趣味を、気味が悪いとは思っていたが、特におかしいことではないと思っていた。そんな人間は幾らでもいるし、彼の見るものは、大きくまとめるなら「バトルもの」にすぎないのだから。だから、彼はある程度普通に生きることができた。

そんな彼の凶行が始まったのは、彼が23歳のときだった。

雨が降る夜、ふと「あっ、人を殺してみたい」と思い、入念な計画を立て、とあるあぜ道にて、通りすがった人間を包丁で突き刺し、殺した。

が、その感想は微妙と言わざるを得なかった。フィクションのように、一撃で華麗に殺すことは難しく、何度も何度も刺して、ようやく殺せたのだ。

彼はそれで満足することはなく、それからも金属バットで、ボウガンで、斧で、手を替え品を替え、自分が満足するまで様々な殺人をした。

やがて、世間で殺人鬼と呼ばれるようになった。

殺人鬼、その言葉は彼にえもいえぬ充実感を与えた。殺人の鬼、つまり人間とは違う特別な存在だと言われているような気分になれたのだ。

 

そんな日々を送ること数週間、日本の警察は優秀だと聞いていたのに、まだ自分が捕まっていないことをラッキーだと思い、今宵もまた殺人をするべく、ほどほどに人が少ない田舎道へ繰り出していた。

手頃な男を見つけ、隅々まで研いだ包丁で首を掻っ切ろうとしたのだが、骨を切ることに失敗し、逃げられてしまった。

あの出血量では、どうせ死ぬのに、と思いながら追いかけると、進む先の電柱に少女がいるのが見えた。

長い黒髪の中学生くらいの少女で、こちらをじっと見ている。あの少女までも逃げ出すと、いよいよ自分の生活も終わるなと鳥花は思った。が、その少女は逃げるどころか、むしろ鬼ごっこをする鳥花たちに近づいてくるではないか。

自分はなんて幸運なんだと鳥花は思った。まさか獲物が増えるとは、今度こそ骨ごと綺麗に斬首するぞと意気込んでいたその時、目の前を走っていた男と、その少女がすれ違った。

鳥花は、その瞬間を今でも鮮明に覚えている。少女は軽くステップを踏むようにジャンプし、少女に助けを求めるように情けなく手を伸ばした男の首に、いつの間にか持っていたナイフを走らせた。

走らせたナイフの軌道に沿うように、赤色のラインが引かれる。

男の首元には綺麗な断面がつくられ、首が重力に従いアスファルトに落ちる。

少女は何事もなかったように着地し、無表情に佇む。

「美しい...」

鳥花は、心の底から純粋にそう思った。その感動は、オリンピックで、各スポーツのトップクラスのプロが魅せる技を見る感覚に似ていた。

少女が鳥花の言葉を聞き、彼に怪訝そうな顔を向ける。おそらく、よからぬ誤解を受けている気がするが、そんなことどうでも良い、と思うほどに、鳥花は恍惚としていた。

少女はしばらく躊躇うように鳥花を見ていたが、やがて

「んっ」

と、鳥花になにやら手紙を差し出した。それこそが徒花としての、彼の人生を再スタートさせる手紙である。

 

そんな経緯で徒花になった鳥花だが、彼は徒花になってから後悔していることが二つある。

一つは、殺すことの貴重性を感じられなくなったことだ。

鳥花は、以前までは一人殺すのに膨大な時間をかけて、慎重に人殺しをしていた。だからこそ一回一回の殺人が貴重で、彼の中での殺人の価値は大きかった。

だが、徒花になってからは慎重に殺す必要がなくなった。下調べや後処理など、殺し以外のことは全て顔も知らない他の誰かがやってくれる。

ただ、殺すだけになった。ダイヤモンドも、大量にあれば、ただの石だ。彼の中での殺人への楽しみは薄れてしまった。

二つ目は、圧倒的な「上」を知ってしまったことだ。

徒花鬼灯、それがあの少女の名前だと言う。鳥花には、彼女こそが自分よりも殺人鬼の名にふさわしいと感じた。感じてしまった。

彼女は、周囲の人間から、よく幽霊のようだと言われている。だが、鳥花に言わせれば、彼女は鬼だ。

一般的に想起される鬼とは、赤く、角と鋭い牙が生えた金棒を持った巨人だろう。

鳥花にとっては、そのイメージが彼女へのイメージとピッタリ合致していた。彼女の体躯は細く小さく、鬼が持っている筋骨隆々とした姿とはかけ離れていたにも関わらず、だ。

鳥花にとっての鬼とは、人間ではないことの象徴、化け物の象徴だった。そして、無感動に、力強く、芸術的に人を殺す彼女こそが鬼であると、殺人の鬼であると鳥花は認めざるを得なかった。

そして、それがたまらなく悔しかった。殺人鬼とは、自分のためだけに考えられた言葉だとすら思っていたのに、本物を知ってしまった。自分には届きえない天井を見てしまったのだ。

 

「俺に、殺人鬼は相応しくねぇってか」

「ん?殺人鬼?おじさん、なんの話し?」

「いや、関係ない話だったな。お前は、今から死ぬんだから」

「あ〜、ちょっと待ってよ!私、そんなことのために来たんじゃないんだよ」

「あ?」

「あのさ、私を徒花にしてくれないかな?私たち、似たもの同士だと思うし、きっと仲良くなれると思うよ」

「お前が、徒花に?クククッ」

鳥花は仏頂面で、ただ音を発音してるだけのような、奇妙な笑い方をする。

「だから、お前は今から死ぬんだってば」

女はグッタリと首を傾げ、怠そうにする。

「はぁー、おじさんも駄目って言うんだね。残念」

女は懐から、また吹き矢を取り出し、矢を飛ばしてくる。

鳥花はそれを手で弾くが、体が思うように動かず、女が次に飛ばしてきた矢には、対応できなかった。

矢が肉を抉るのが、よく分かった。

「さっきのは、ただ神経麻痺させるだけのやつだったけど、今のは、しっかり死ねるやつだから」

女は不敵な笑みを浮かべ、立ち去る。

「まぁ、せいぜい死ぬほど必死に生きてよ。せっかくだから、華々しく散れるといいね」




ゴクラクチョウカ
花言葉「全てを手に入れる」
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