僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~ 作:あずきBAR
プレイヤーの攻撃はとりあえず治まったように見えるが、それは向日葵君が上手いこと敵の襲撃を躱しているからだろう。
だが、そんな状況がしばらく続くと、急にプレイヤーの動きがなくなった。というより、空港全体に散らばりはじめた。
なにをするつもりだ?多方向から攻撃したって、向日葵君には通用しないことくらい、もうプレイヤーも分かっているだろうに。
「全員、そこを動かないでください」
突如、そんな言葉が大音量で聞こえてきた。とは言っても、その声色はセリフの割には無機質な声で、非常に聞き覚えがあった。
「これって、翻訳アプリとかでよく聞く感じの声だよね?」
「ですね。十中八九、プレイヤーの仕業でしょう」
最初の人々の反応は軽く、声のした方を見て笑う人がいたり、逆に、目を向けず迷惑そうに歩く人もいた。
だが、そこで甲高い悲鳴が聞こえる。
「ひっ!人が死んでる!!」
その声に、流石に人々の反応も変わってくる。そこに第二の無機質な声が流れてくる。
「繰り返します。全員、そこを動かないでください。そして徒花以外の者は今いる場所に座りなさい」
人々はどよめき、混乱する。やがて、また悲鳴が聞こえてきた
「やめろー!やめてくれ!」
四十代くらいの男性が、プレイヤーらしき人間に羽交い締めにされ、そこを別のプレイヤーらしき人間が鉈で切り裂く。
あちこちから悲鳴があがる。
「こうなりたくなければ、大人しく座りなさい」
人々はようやく、なんとなくの状況を飲み込みつつ、次々と座り始める。
僕も座ろうとしたが、向日葵君に
「どうせバレてるので、座らなくていいですよ。むしろ、座ったら動きにくくなる」
と言われ、立ち続ける。
目に見える人間の大部分が座り、立っているのはプレイヤーと徒花だけとなる。
「滅茶苦茶しますね。プレイヤーは」
「なんだって、ここまでするんだ」
理不尽な殺され方だったとはいえ、慕われていたとはいえ、事の始まりは人間が一人死んだだけじゃないか。どうしてここまでの行動力と団結力を発揮することができるのだ?人が一人死んだだけだぞ?
「徒花よ、抵抗すれば、この人たちを殺します。皆さんも同様です。抵抗をやめさない」
無機質で冷酷なアナウンスが響く。リーダー格らしき男が、さっきの混乱に乗じて逃げようとしたと思われる女の首を掲げ、人々から
抵抗の意志を奪う。
「繰り返す。徒花よ......」
声が響き続ける。人々の注目が僕らとプレイヤーに集まる。プレイヤーが何人かにじり寄ってくる。
どうすればいいのだ。この状況をどう解決すればいい。
「ぎゃぁぁぁっ!!」
また一人、殺される。さっきからスマホで映像を撮っていた男だ。
プレイヤーは、なんて無駄なことをするのだ。こんな大事を引き起こしたのだから、どうせ遅かれ早かれ死ぬことになるだろうに。
だが、情報が広がらないのは僕らにとってもありがたいことだった。国がある程度の情報隠蔽をしてくれるとはいえ、それはこのSNS社会では限界がある。
僕はどうすれば情報をこれ以上広げずに事態を収められるか、必死に考える。その間にも時間は過ぎていく、死が近づいてくる。
どうすれば......どうすれば......
「...さん!椿さん!」
「はっ!」
向日葵君に呼ばれていたことに気づく。
「ごめん。なに?」
「時間がないので、端的に今からすることを説明します」
向日葵君は息を軽く吸い込み、早口で喋り始める。
「この状況からの私たちの勝ち目はありません。人の数が多すぎて、邪魔になる。それは相手も同じでしょうが、この大人数で爆弾や酸でも使われたら、
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなことしたら、ここにいる人がタダじゃすまないでしょ!?」
「はい?なにを言ってるんですか?」
向日葵君は心の底から不思議そうな表情を浮かべる。
「この人たちは、こんな現場見ちゃったんですから、どのみち死にますよ。仕方がないことです」
「仕方がないって......向日葵君は罪のない人が死ぬのは嫌なんじゃないの!?なんでそんなこと言うんだよ!」
「私もつらいですよ。でももう、どうしようもないことです」
滅茶苦茶だ。向日葵君のことを良い子だなんて思っていたのに、やっぱりイカれているんだ。
「時間がないので、はやく逃げましょう」
「ここにいる人たちの、命を......捨てて?」
「尊い犠牲です。必ず彼ら彼女らの無念を晴らしてあげましょう」
向日葵君の意見や考え方を認めることはできないが、逃げる以外の道がないのは、確かに事実らしい。ただ無駄に死ぬくらいなら、行動した方がいい。
「くぅぅッ...ああ!分かったよ!」
「それでは、行きましょう」
思いっきりジャンプし、僕らは空を翔ける。
後ろからは
「不要跑掉!(逃げるな)」
と、野太い声が聞こえたが、構わず跳び去る。
ある程度逃げ切ったところで、たくさんの悲鳴と、爆発音が聞こえてきた。
「ハァーハァー」
走りながら、必死に肺に酸素を送り込む。息が苦しい。身体的な疲れによるものではないことくらい、自分でも分かった。
向日葵君とともに、なにも言わずに淡々と逃げ続ける。
今この瞬間、一体どれだけの命がこの空港で亡くなっているのだろう。一つ一つが僕と同じ価値であるはずの命が、どれだけ苦しんでいるのだろう。
今日、この空港へ来た人たちは、死ぬことになるなんて思ってもいなかっただろう。
将来に夢見る留学生がいたかもしれない。
久しぶりに実家に帰るサラリーマンがいたかもしれない。
幸せな家族旅行にワクワクしていた子どもがいたかもしれない。
彼等はただ、あそこにいただけだ。
そこに突然、人殺しが集まって、勝手に仇とされた。徒花とプレイヤーのせいで。
本当になにもできなかったのか?
プレイヤーを説得していれば、
いやその前に、そもそも空港で待ち構えなければ、
いやその前に、鳥花さんがハンマーを持つプレイヤーを殺さなければ、
いやその前に、そもそも僕らが人類選別をしていなければ、こんなことは起こりえなかった。
いつだったか、鬼灯さんは徒花を「ぶっちぎりの必要悪」だと言った。必要悪かつ「私たちの存在は無価値」だと言った。
その矛盾するような言葉が、今は僕にとても馴染む。
だからかもしれないな。徒花家や、プレイヤーというコミュニティが存在しているのは。
徒花も、プレイヤーも、心の根っこのところでは独りで無価値なのが嫌なのだ。せめてみんなで無価値でありたい。
赤信号みんなで渡れば怖くないってやつだ。みんな同じなら怖くない。
そんな言葉で必死に恐怖を誤魔化し、必死に生きているのだ。いつか必ず死ぬと分かっていても。
パンジー
花言葉「一人にしないで」