僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~   作:あずきBAR

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第十五話 アルメリア

職員用の部屋に入り、休憩する。職員は誰もいないが、血の匂いが部屋中に立ち込めている。身体は休まるが、心は休まらない。

「一旦帰って、立て直しましょう」

「それは、この空港からも逃げるってことかい?」

「逃げるのではありません。確実にプレイヤーを処理するためです」

「それは今やっても同じことだ。このあとすぐ、プレイヤーを殺す」

「落ち着いてください。これだけプレイヤーが暴れている今、もう私たちがどうこうできる問題じゃないんです」

「できるさ。それに、ここでプレイヤーを殺さないと、ヤツらは日本各地へ散らばるかもしれない。あんなヤツらがだよ。それはなんとしてでも防がないと」

「それをするのは、私たちではない。警察と自衛隊です」

「それじゃ時間がかかる。僕たちが、今やらないとダメなんだ」

「椿さん......」

警察と自衛隊に任せれば、「過激な反日勢力による凄惨な事件」とでも処理されるのだろうか。

いや、僕たちがやったところで、明日以降、ワイドショーのネタには絶対になるだろう。

それでも、この惨劇に自分自身で向き合わないと、無駄に咲いて散る花以下になってしまう気がするのだ。

「僕は行くよ。向日葵君にも是非ついてきてほしい」

向日葵君は渋るようにして考え込む。

「...私には、どうにも分からない」

やがて、僕を見つめて話し出す。その目には、苦悩が満ちているように思えた。

「人は、どうして、なくなった命に思いを馳せるのでしょう」

「......」

「私は、良い人だけが生きるユートピアを実現するために、この仕事を選びました。だけど、そんな夢を思い描く度、何故か悲しそうな表情の人たちが必ずいるんです。みんなが幸せなはずのユートピアに」

「......」

「なくなった命って、そんなに大切ですか?代わりは幾らでも、あるじゃないですか」

その非道とも言える考えには、向日葵君の見た目相応の純粋さと、「正義」で隠れた非人道性が折り重なっているように感じた。

そして向日葵君は、自分で気づいている。自分が「正義」に逃げていることを。

「......向日葵君はさ、自分が死んだ後、どうなるか想像つくかい?」

「どうなるって…どういうことです?」

向日葵君は、まったく聞いていなかった授業の問題を教師に当てられたような、気まずそうな表情を浮かべる。

自分がしてきたことを省みると、そのことは絶対に考えたくなかったのだろうし、考えたことがなかったのだろう。

よく知っていて、でも一度も経験のない「死ぬ」ということを。

「どうにもならないんだよ」

向日葵君は目を軽く見開く。

「僕らは死んだあと、どうにもならないんだよ。地獄も天国もない。ただ、消えるだけ」

「……やめてください」

向日葵君は目をギュッと瞑り、耳を塞ぐ。だが、逃がさない。

頭に叩き込んむように、脳に焼き付けるように話し続ける。

「普通に生きようが、異常に生きようが、世界を救おうが、世界を滅ぼそうが、どう生きたって、最後はみんな同じ、消えるだけ」

「...やめて......ください」

「でもね、向日葵君」

向日葵君の手を掴み、耳から引き離す。もしかしたら、我らの太陽の導き(サン・シャイン)が発動するかもしれないと思ったが、それでも聞いて欲しかった。

「でも、人は死んで、ただ消えて終わりってわけじゃない。人は人に覚えられるんだよ」

向日葵君は若干の涙で潤っている目を瞬く。

「大事なのは、そこでどう想われるかってことだと思うよ。僕は、悪いヤツだって思われるのは、もちろん嫌だし、ましてや誰にも覚えられていない、なんて最悪だ。

だから、できるだけ良い人として覚えられて、誰かの記憶の中で生きていたい。そして僕たちもまた、死んだ人をどう想うかが大切なんだよ。誰かを想えない人間は、誰にも想われない。だから、ってわけじゃないけど、人はみんな亡くなった命を大切にするんだよ」

「想い......」

「その想いを持っていれば、僕らは無駄な存在じゃなくなると思うんだ。だからさ」

向日葵君の手を取り、不器用ながらも、笑顔で語りかける。

「どうか、死んだ命を大切にして欲しい」

 

僕らがそんな話をしている間も、もちろんプレイヤーは待ってくれない。

僕が向日葵君の手を握っていると、向日葵君は急に表情を引き締め、手を解き、職員用の部屋の扉を見る。

「椿さん、逃げてください」

「え?」

「逃げて!はやく!」

次の瞬間、マシンガンを持った男が部屋に押し入ってきた。

咄嗟に窓ガラスを打ち破って、外へ出るが、向日葵君は僕の盾になるようにして、部屋の中に残る。

当然、マシンガンから放たれる数々の凶弾は向日葵君へと向かう。

「向日葵君!!」

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

僕の声はマシンガンにかき消され、虚しく僕の身体の中でのみ響く。

職員用の部屋は二階にあったため、火事のときを思い出し、なんとか着地する。

パンッ!

走る衝撃と、一瞬遅れて訪れる銃声。

着地した瞬間、太ももが撃たれた。冷徹であるため、実質無傷だが、もう少し上に当たっていたら、危なかった。

弾が飛んできた方向は、マシンガンの男からのものではない。

もう一人、いる。

撃たれた方向を確認し、その先に微かに、平たい道路に寝そべる豆粒大の人影を発見した。

降りた先から少し行くと、飛行機があるため、滑走路上にいる相手との距離は、ざっと1~2kmだろうか。




アルメリア
花言葉「思いやり」
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