僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~ 作:あずきBAR
まず初めに、絶叫で目が覚めた。どうやら自分は、あの吹き矢で気を失っていたらしい。
次に、絶対に自分が死ぬのだと分かった。ひどく気分が悪かった。
次に、絶壁かと思えるほどに重い扉を開けた。その重さは、自分が死にかけている証拠であった。
次に、絶海が見えた。世界が真っ赤になっている。よく見ると、全て血であることに気づいた。
次に、絶望して死んだであろう表情の死体を見つけた。たくさん。数えられないほど。
次に、絶景だと感じた。
最後に、断絶させてはいけないと思った。自分の意識を断絶させてはいけない。
こんなに美しい景色、もうちょっと眺めなければ、損だ。
思えば、自分はこんな超非日常を求めていたのかもしれない。
血の海。肉の道。どこかから聞こえてくる叫び声。
あぁ、良い。
これだ。こいうのが見たかったんだ。
ここにある死んだ命の全てが、一つ一つ必死に生きてきた、かけがえのない大切な命。
その価値に、値段なんてつけられない。ダイヤモンドよりも、世界遺産よりも、太陽よりも、尊い命。
そんな命が消える瞬間には、一生懸命組み立てたトランプタワーが崩れるときのような美しさがある。
そんな美しさが今、自分の視界を埋めつくさんと広がっている。
自分がなぜ、人を殺そうと思ったのか、その原点を思い出した。
自分は、見たかったのだ。
誰かが必死に積み上げたものが崩れる瞬間が。
こんなことを忘れて、人殺しをしていたなんて、馬鹿なことをしていたな。殺した相手に申し訳なくなってくる。
ただ、死ぬ前に思い出せて本当に良かった。
実に、晴れ晴れとした気分だ。
もうすぐ死ぬとはいえ、今は生きることが楽しくて仕方ない。
あの女にも、今の自分を見せてやりたい。「お前が言った通り、華々しく散れるぞ」と言ってやりたい。
冷徹とか、プレイヤーとか、徒花なんて、最早どうだっていい。
今はただ、死ぬまで楽しもう。
真っ赤な絶景に心を奪われ、恍惚としていると、
「◆*∀○¥^¥○○¥!!」
と何か叫ばれた。
おそらく中国語なのだろうが、何を言っているかはさっぱりだ。
勝手に意味を解釈して、返事をする。
「あぁ、一緒に楽しもうか」
当然、意味は伝わっていないだろうから、自己満足な返事ではある。
ただ、その言葉に乗せた想いは伝わったようで、
「▽▲△□◎○∥§!」
と言って、持っていた槍で突進してくる。
「せっかちだな。すまないが、先に逝っててくれ。俺もすぐに逝くからな。もう少し待ってくれ」
槍をハンマーで下から掬うように弾き、そのまま頭を叩き潰す。
その直後
グサッ
と音がした。
おや?自分の腹に鎌が刺さっている。
鎌を投げてきた者を探すため、周囲を見回すと、鎌の相手どころか、ざっと数えて三十人くらいのプレイヤーが自分を囲んでいた。
プレイヤーのポリシーがよく分からないな。
わざわざ殺害予告を出したため、正々堂々と殺しに来るかと思えば、吹き矢を使ったり、集団で囲ってきたりする。
そのやり方は、ちぐはぐで、イマイチ要領を得ない。
まぁでも、別にそんなことどうでもいっか。
相手が殺しに来た。自分は殺し返す。ただ、これだけのことだ。
銃を乱射してくる無粋なヤツがいたので、そこに槍を持っていたプレイヤーの死体を投げつける。
腹に刺さった鎌を抜き、アンダースローで投げつける。
自分の思考が他人に理解されるだなんて、思わない。別に理解されなくたっていい。
もしも、自分語りをすることがあれば、俯瞰視点とか、第三者視点での話でないと、きっと誰にも理解されないのだろう。
でも、それでよかった。自分の人生なんだから、自分だけが理解して、自分だけが楽しめればいい。
そう、思っていた。
次々に襲ってくるプレイヤーをハンマーでなぎ倒し、刀でしっかりトドメを刺してやる。
彼等は多分、自分と同じで退屈な日々にウンザリしていたのだ。
だから、きっとこれは復讐と題した、一種のゲームなのだ。
自分は昔、派手なアクションゲームの主人公になりたいと思ったことがあった。
彼等も、似たようなことを思ったから、人類選別という名のゲームに参加して、そのプレイヤーとなっているのだろう。
こんなに他人と分かり合えているのは、生まれて始めてかもしれない。
気づけば、自分の首と頭と心臓が破壊されていた。
まぁ、どうせ死ぬのだから、こんなのは些細事だ。
ふと、吹き矢の女に言われた「おじさんは、はたから見たら、ただの人間なんだろうね」という言葉が頭をよぎった。
そんなことを気にする自分の懐の狭さを恥じつつ、たしかに、そうだったかもしれないと認める。
今までの自分は、徒花家に受け入れられるように最低限、自分を律してきた。
だが、今の自分は違う。
いくら攻撃を喰らおうとも、鬼のように暴れ回る自分は、殺人鬼だ。
今の自分は、初めて会った時の鬼灯のように美しく、力強く、鮮やかに輝いている。
左足を切り落とされたため、とても動きづらいが、最後の力を振り絞って、残り五人となったプレイヤーにハンマーを叩きつける。
今の自分に、何一つ後悔などない。
最後に、こんなに楽しい殺人ができたし、殺人鬼になることができた。
自分は、自分が求める全てを手に入れることができたのだ。
殺したと思った最後のプレイヤーが、突如立ち上がり、自分の首を絞めつける。
ナイフで首を切り落とすが、なんと、そのプレイヤーは首がないままに、私の首を絞め続ける。
「ははは、面白いヤツらだな。凄いじゃないか」
自分にできる精一杯の笑みで、ここにいる全てのプレイヤーを称える。
あぁ、もう満足だ。
これ以上ないほど、最高の最後だ。
首なしのプレイヤーは、死後硬直しているのか、ピタリと動くことなく、なおも自分の首を絞める。
空へ最も近づけるこの場所で、みんなと一緒に、自分はあの世へと旅立つのであった。
ゴクラクチョウカ
花言葉「全てを手に入れる」