僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~   作:あずきBAR

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第四章 花荒らし
第十九話 メハジキ


私は、椿のことが好きだ。

家族として、愛している。

好きである理由は様々だけど、一番の理由は、一緒にいてくれるから。

私の"好き"は多分、歪んでいる。

彼との関係は、一から十まで私が作りあげたものだからだ。

きっと、私の想いは世界の誰にも許されない。

認めているのは、私と椿だけなのだろう。

でも、好きなものは好きなのだから、仕方がない。

無理矢理作った関係であろうと、ただ一人の家族である椿と生きていたい。

椿と私は、心の底から分かり合えているのだから。

 

僕は、鬼灯さんのことが好きだ。

一人の女性として、愛している。

好きである理由は様々だが、一番の理由は、一緒にいてくれるからである。

僕の"好き"は多分、歪んでいる。

他人の人生を断っているくせに、人を愛することができているからだ。

絶対に、僕の想いは世界中の誰からも許されない。

僕と鬼灯さんさえも、決して認めてはいけない。

だが、それでも好きなのだ。

数多の死体の上にある関係であろうと、鬼灯さんと生きていたい。

たとえ、鬼灯さんの僕に対する想いが、僕の鬼灯さんに対する想いと違ったとしても。

 

 

あの半月前の空港での一件以来、ニュースやワイドショーで語られる内容がほとんど同じものになった。

連日、正体不明の中国人テロリストたちによる大量殺戮についての話題ばかりである。

最初の一週間は、惨劇を悲しんだり、そのテロリストの正体に迫ろうとする報道がほとんどだったが、最近は、中国自体へのヘイトスピーチ紛いの偏向報道がブームとなっている。

おそらく、その方が視聴率がとれるのだろう。

そして、視聴率を求めたメディアが、より過激な報道をして、視聴者がそれを見て、中国側もこれに反発して、ブームは拡大していくのだろう。

僕には、そんな予想が外れることを願うしかない。

報道はそんな現状となっているが、中国批判に溢れてた中で、密かに、でも異彩を放つとあるニュースが徐々に注目を集めていた。

ココ最近、〇〇市を中心に起こっている連続無差別殺人事件である。

被害者は性別、年齢、人柄、職種、どれをとってもバラバラであり、無差別的に殺されている。

また、殺された人間は全員もれなく財布を奪われているらしく、金銭目当ての事件なんじゃないかと世間では言われている。

さて、どこの誰がこんな事件を起こしているのか。

まず、徒花家ではないだろう。

徒花家は殺人集団ではあるが、むやみに人殺しをしている訳ではない。

お国の協力により、死体処理、隠蔽工作、情報改ざんなどが行われ、選別の結果消えた人間は、大抵は事故か失踪扱いになる。

そして、それらの"事故や失踪"は消えた人間の身内の者にだけ伝えられ、ニュースになることは滅多にない。

報道の力というのは、大衆の持つ情報力に直結しており、ニュースで取り上げられなければ、身の回りの人間が失踪することは偶然の不幸であると認識してしまう。認識させられる。

だから、こんな形で人類選別が表沙汰になることは、まず有り得ないのだ。

まぁ、とはいえ正直、徒花家を疑わなかったと言ったら嘘になる。

この話を聞いたときに真っ先に思い浮かんだのは、人類選別のことであった。

どこかのイカれた徒花の者が、完全に独自で殺人を犯したのではないかと疑ってしまった。

ただ、花育さんの話を当てはめると、イカれた徒花は選別対象となるだろうし、そんなことしてバレないほど日本は無法地帯ではない。

だから、これはただの事件であるはずだ。

ただの連続殺人事件であるはず、なのだ。

だというのに

「なんで僕が...」

パソコンに映し出された文章を見て、ゲンナリとする。

【徒花椿さん。〇〇市連続殺人事件の犯人を特定しました。処分をお願いします】

画面には事務的な物言いの命令が書かれていた。

どうして警察ではなく、徒花がこの事件に対応しなければならないのだろうか。

しかも、単独で殺人鬼を相手取るなど、先日の惨敗を省みるに無理難題であると言わざるを得ない。

先日、あの空港で死にかけて以来、死ぬことが怖くてたまらない。

今の僕は、包丁を向けられるだけで生まれたての子鹿のように足を震わせてしまうことだろう。

生死を賭けた戦いなんぞ二度と御免だ。

絶対に、絶対にこんな仕事するものか。

 

「この辺りのはずだよな?」

嫌だ嫌だと思いつつ、命令されれば行動してしまうのは、僕の悪い癖だ。

徒花になる以前も、これのせいで苦労していた気がする。

いい加減に直さなければと思いつつ、直すことは到底出来ないのだろうな、と半ば諦めている自分がいる。

かれこれ数日間、深夜徘徊を続けて探し求めるは殺人鬼。

徒花になって以降は、深夜徘徊は慣れたもので、街灯が僅かに照らしているだけの暗い道でも随分と目が利くようになっていた。

鬼さんこちら足音がする方へ

と心の中で口ずさみながら、あえて足音を響かせて歩く。

相手は財布を狙ってるだけと思われる無差別的な殺人鬼。

歩いていれば、いずれは出会えるだろう。

そんなことを考えていたおりに、先程から僕の後方を歩いていた人が、僕に向けて声を発した。

「ねぇ、そこの君」

素早く、でも何気ない素振りで振り向く。

記憶の中の顔と声をかけてきた者の顔、そして今回の連続殺人事件の犯人の写真とを比べ、確実にあの時のプレイヤーであると確認する。

以前、連続殺人事件を起こした殺人鬼が、その腕を見込まれて徒花になったというケースがあったそうだが、そんな特殊事例を適用する必要はどうやらないようだ。

「ちょっと道を教えて欲し......ってあれ?もしかしてこの前の...」

相手が言葉を途切らせる前に足を踏み出し、距離を一気に詰めてナイフを走らせる。

「うぉっ、危な」

だが、プレイヤーの女は、飛んできたフリスビーを躱すような軽々しさでナイフを避ける。

僕は咄嗟に空中で体制を整え、背中を見せないように着地する。

「あーっと私、君に悪いことしたかな?」

「僕に、ではないけれど、悪いことはしてるんでしょう」

「ん?あー、金盗ってること?しょうがないじゃん。生きるためなんだもの。中国に帰るわけにも行かないし、てかそもそも帰れないから日本で生きるしかないんだよね。トホホ」

どうやら、人を殺していることに対する罪の意識はゼロのようだ。

ギロりと睨み、ナイフを構え直す。

「というか、なんで生きてるんですか」

「うーんと、罵倒じゃなくて質問だよね?」

プレイヤーの女は苦笑いを浮かべた後に、当たり前のように語り出す。

「そりゃあ、あの空港から逃げたからに決まってるじゃんね?」

「逃げた...徹頭徹尾、他人のことをどうでもいいと思ってるんですね」

「生きるためだから仕方ないってば。てか、君も人のこと言えないんじゃないかな?逃げてるところ見たよ」

「...」

「もしかして君がそこまで"他人への無関心"を嫌うのは、君自身にその節がある...とかだったり?」

「...は?」

「図星かな?まぁでも人間そんなもんだよ。恥じることないよ」

「違う」

僕は鬼灯さんのことを好いている。

向日葵君が幸せになることを願っている。

目を覚まさない弟の再生を望んでいる。

それに、それに......

はて、僕という人間は徒花になる前、どんな風に生きていたんだっけ?

必死に周りに協調して生きていたあの時の僕は、薄っぺらい笑顔の裏でどんなことを感じていたのだっけ?

...いや、いやいや、違うはずだ。

「違う...違う!僕は、お前と違って.........違うんだよ僕は」

「分かるよ。自分が空っぽだと気づくのは怖いよね。私も同じだから分かるよ〜」

「だから違うって...」

「生きる意味が分からない。自分の存在理由が分からない。それでも生きることは、罪じゃないよ」

違う。僕は決して空虚な人間なんかじゃない。

ただ、必死に生きているだけなんだ。

これから充実した人生を送り、真っ当な人間になるんだ。

だから、僕は空っぽなんかじゃない。

そのはずなんだ。




メハジキ
花言葉「現実逃避」
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