僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~   作:あずきBAR

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第二話 エゾギク

起きてから、そんなに時間が経っていなかったのに、僕はどうやら眠らされたらしい。どれだけの時間眠らされたのだろうと、体を起こし、時計を探すと、時計は見つからなかったが、人を二人見つけた。

一人は、鬼灯さん。もう一人は長身の男。猫背でソファに座っており、気だるそうな雰囲気だ。

「おはよう!よく寝れたかい?寝る子は育つ。どんどん育ち、強靭な肉体を手に入れるべし!」

「おはよう…ございます。そちらの方は誰ですか?」

「彼は花育如雨露(はないくじょうろ)。私たちの体の改造をしてくれるメカニックさ!」

「どーも。以後お見知り置きを」

「はぁどうも」

いや、どうもじゃなくて。

色々おかしい。まず、なんで僕は眠らされたんだ?それに眠らせた本人は陽気になって、平然としているし。

それに、鬼灯さんのときも思ったが、二人とも聞いたこともない苗字だ。花育はともかく、徒花というのは、たしか、無駄に咲く花という意味だったはずだ。詳細を聞いていいものなのだろうか。

人だけでなく、環境もおかしい。場所は見た感じ、ただのマンションの一室。何の変哲もないただの部屋。ただ、それがおかしい。鬼灯さんは間違いなく社会の裏側の人間。その鬼灯さんとともにいる花育さんも恐らくは似たようなもの。なんでこんな普通の場所にいるのだ?鳥が蟻の巣に居るようなものだ。

それに、一番おかしいのは、鬼灯さんの、「私たちの体を改造してくれる」という言葉。そういえば、なんだか四肢の感覚がない。僕は青ざめ、首をゆっくりと下ろす。腕はある。足もある。動かすことだってできる。なんだ、ちゃんとあるじゃないか。いつもと違うのは

「おっ!気づきましたか!どうだい?気分は鉄腕アトムだろう!」

「鉄腕って……ハハハ……」

違うのは素材だけ。腕と足が機械になっているだけだ。

 

子どもの頃からずっと、スポーツ大会を見る度に、体を機械にすれば勝てるのに、と思っていた。スポーツ選手が、体を機械にしないことには、多分三つの理由がある。

一つは、生まれ持ち鍛えた自分の肉体で戦いたいから。

二つ目は、生活が不便になるから。

そして、三つ目の理由は、

自分の体が欠損するのが怖いから。

「僕の元の腕と足は、どうなったんですか?」

震えた声で、まるで神にすがるように尋ねる。一縷の望みをかけて。

「捨てた。邪魔になるだけだからな。あぁー欲しいなら、やるよ。まだ焼却はされてないから、まだ間に合うぞ」

花育さんは、どんなことでもこんな風に話すのか、もしくは本当にどうでもいいからなのか、ぶっきらぼうに言う。

「必要な行程ってのはこのことでね!あなたの四肢を激ツヨにしました!」

「なんのために?なんでこんなことするんですか!どうして僕の手足が機械にならなくちゃいけないんですか!?」

「もちろん、人類選別のためだよ!その鋼の手足の圧倒的なパワーで敵を蹴散らすの!ただの手足よりも強い手足の方がいいに決まってるじゃんね!」

そんな馬鹿な。だいたい、僕はこんなこと聞いてないぞ。

「鬼灯の言うとうりだ。つーか、この道を選んだのはお前だろ?ここにいるということはさ、決めたんだろ?普通ではなくなる覚悟を。あとさー、「ならなくちゃいけない」なんて言葉使うな。俺はその言葉が嫌いだ。まるでそれが運命で、そうなるべくしてなったー、みたいなその言葉がさ。結果はいつだって人間の行動からしか生まれないんだぞ」

「まぁまぁ、せっかく改造したのに、受け入れられない悔しさは私が分かちあってあげるからさ、四肢が唐突にないなった気持ちも分かってあげてよ」

「はぁー。ってかこいつの反応といい、お前の今の言葉といい、さては鬼灯お前、改造のこと伝えてなかったな?」

「うへーあーまぁーはい。すみません忘れてました」

「ったくよ、謝る相手は俺だけじゃないはずだ」

「はい!えーと、ごめんね、なんかノリと勢いで行動しちゃったてかさ。報連相は大事だよね。胡麻和えが一番美味いよね」

「…」

あんまり悪いと思ってないな。

「まぁ少しすれば慣れるって、鬼灯も最初はお前くらい戸惑ってたもんよ」

「ハハ!懐かし!私にもそんな時期がありました」

「あとその力にもビビってたな。ああーそうだ」

花育さんは僕の手を指さす。

「その力はかなり強力だ。使い方にもよるが、それさえあれば、自衛隊の軍隊一個に匹敵する力を個人で発揮できる。使い方に気をつけろ」

今までの間延びした口調ではなく、ハキハキと言う。

この手足、そんなに凄い代物なのか。見ない間に立派に成長したものだ。

「あまりにも圧倒的なその力につけられた名は「冷徹(れいてつ)」だ。うまく付き合えよ」

「そいやさ、前から訊きたかったんだけど、「冷徹」って名前さ、もしかて「冷血」とか「鉄」と掛けてる?」

「さあなー?いつの間にか知らんところでつけられてた名前だしなー。勝手に変な名前つけやがってよー。まぁーその名前になるまでは「人類選別用高性能義体」って堅苦しくて読みづらい名前だったし、それよりはいいなー」

僕は自分の新しい体、冷徹を眺める。人を殺すためだけの体、それは光を反射し、鈍い銀を僕に見せつける。

この冷たい腕は、僕たちの未来を冷静に見通しているのだ。

 

それから花育さんは、用が済んだとばかりに、

「そんじゃー、そろそろ帰るわ。またなー」

と言い、去っていった。「また」というのは、冷徹関連で再び会うことになるということだろうか。

「さーてと!これであなたは私の弟だよ!」

「弟?」

「手足が冷徹になった人間は、みんな今までの人生を捨てて、苗字が徒花になるの!だから私たちは家族!あなたは、これから徒花○○です!○○の部分は今まで通りでもいいけど、出来れば変えた方がいいらしいよ!せっかくだし変えようよ!」

「あぁ世捨て人、それも特別な世捨て人だから、名前も捨てるんですね。でもなんで、わざわざ苗字を変えるんですか?」

「ただの暗号だよ。あ!だけど、国のお偉いさんとかに会う時に、私は徒花だぞ!って言うと、ちょっと怖そうな顔するよ!気分は暴れん坊将軍だよ!」

「鬼灯さん、偉い人に会ったりするんですか?凄いですね」

「エヘヘ〜ありがと!まぁ会うのは殺すときだけなんだけどね!」

偉い人でも選別対象になるのか……そういえば

「人類選別って、どういう基準でするんですか?国が決めるんですか?」

「ゴルァ!質問は一つにしろ!でね!基本は、私たちが適当にバッサバッサやってくよ!私たちがいらないと思った人間を減らしてくんだよ!」

「そんなんでいいんですか?あと基本以外って何ですか?」

「ゴルァ!質問は一つにしろ!んで!私たちの目的は、とにかく人の数を減らすことだから、適当でいいよ!基本以外ってのは要するに国直々に殺せって言われたターゲットを殺す、まぁクエスト的な感じかな。その逆で、殺しちゃいけない人もいるから、お気をつけて」

「そうなんですか。人を殺す。そんなこと僕にできますかね…」

「まぁ最初は殺したいくらい嫌いなやつからいくと慣れやすいと思うよ。基本は悪いやつ、嫌なやつがターゲットだしね」

「殺したいほど嫌いなやつ…」

僕の頭には、一人の男が立っていた。名は加藤守(かとうまもる)。守という名前が世界一合わない男だ。

「一人います。殺したいやつ」

 

世界で一番人間を殺している動物はなにか?

このお話の性質上、人間と言いたいところなのだが、蚊だ。病気を運びまくっているそうだ。(まぁ当然、この記録には人類選別による結果は含まれていないだろうが)

それじゃあ、世界一人間の心を殺している動物はなんだろうか?それは人間だ。誰が数えたわけでもないが、間違いなく人間だ。そのことを僕はよく知っている。

 

「加藤守、ね。あなたが改造されている間に、身の回りのことを調べさせてもらったけど、たしか同級生のいじめっ子だよね」

「いじめっ子なんて言葉は、可愛らしさを感じさせて、いけないですよ。それに、あいつがやったことはイジメなんて言葉じゃ片付けられないですよ。あいつは」

あのクソ野郎は

「僕の家を燃やしたんです」

「燃やし…は?え?家が燃えたのは調べさせてもらったから知ってるけど、どゆこと?」

「いじめられてた頃にもよくされましたが、あいつは火遊びが大好きなんですよ」

「されてたって…花育さんに聞いたけど、あなたの身体の火傷跡ってのは…」

「えぇ、家が燃えたとき以外のものがほとんどです」

この先、何があっても火への恐怖は薄れることはないだろう。だってあんなに熱かったのだから。こんなに僕の体に染み付いているのだから。あいつが「火の実験」と称して焼いた箇所は、主に背中だった。だから手足が冷徹になったって、背中の熱はまだ消えていない。




エゾギク
花言葉「変化」
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