僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~ 作:あずきBAR
「君さぁ、普通の人を演じてるだけなんでしょ?誰かに異質だと思われることが怖いんでしょ?」
プレイヤーの女は、ニマニマと微笑みながら、見透かしたような目でこちらを見る。
「...っスゥーハァ.....」
呼吸が乱れる。
なんなんだこの女は。
的確に人が嫌がる言葉を並べてくる。というか、こんなことを言われたら、誰だって嫌がるであろう。
駄目だ。相手のペースに乗せられてはいけない。
さっさと殺さなければ。
「スゥハァー......フッ!」
呼吸を整え、ナイフを投擲する。
が、これもさっきと同様に、軽やかに躱される。
「激情に駆られたアマチュアの攻撃なんて、当たるわけないじゃんね〜。諦めた方がいいよ、無駄だから」
「くッ!」
照準を合わせるようにして相手を睨みつけ、一気に距離を詰める。
ナイフを失ったが、僕の場合は身体が凶器だ。
一撃でも当たれば、それが致命傷となる。
そう一撃、一撃さえ入れれば殺すことができる。
「ふぅーん?馬鹿だねぇ」
「フッ!ハァッ!」
勢いに身を任せ、ひたすらに腕を振るうが、その全てが面白いように回避されてしまう。
まるで闘牛になったような気分だ。
おかしい。絶対におかしい。
たとえ武道を極めていたとしても、冷徹による圧倒的なステータスで放たれる攻撃への対応は難しいはず。
だというのに、この女は僕の行動を全て読みきっていているように、攻撃を回避する。
妙だ。まるで僕のことを理解しきっているようだ。
「分かるよ。君のこと」
まるで僕の心を読んだかのようなタイミングで、プレイヤーの女は話す。
「私も君と同じで、死ぬことがとても怖いから」
「なっ」
一瞬同様して、動きが固まってしまう。
「はい。もらい〜」
プレイヤーの女は、その隙に僕を押し倒して跨り、いつの間にか拾っていたナイフを僕の首に当てる。
「あっ......ぐっ!」
ナイフは生命の温度を奪うように、僕の首をひんやりと冷ましていく。
殺されて...しまうのだろうか。
嫌だッ...けど、動いたら今すぐに殺される。
僕には金縛りにあった子供のように、僅かに目を震わせて身体を硬直させることしかできない。
「怖いよね〜死ぬの。そりゃそうだろって話ではあるんだけどさ。それが以前より、他人よりずっと強いんだよね〜分かるよ〜〜」
「あなたみたいな人に、何が分かるって言うんです?」
「そうだなー、具体的なこと言うと、自分が死んだ後のこととか?」
「...」
それは正に僕が恐れている箇所であった。
「私はさ、せっかく生まれてきたのに、何も出来ずに死ぬってのだけは御免なわけ」
プレイヤーの女の顔が陰る。
「あのね、私はさ...」
私は、物心ついた頃にはもう捨てられてた。
私が産まれるよりずっと前から、この世界は人が溢れかえり、仕事、場所、食料、幸福、全てが奪い合いの世界になってた。
当然、その奪い合いで負けた人間は大勢いるわけで、負けた人間は何かを捨てなくちゃいけない。
その何かってのは例えば、プライドとか、人情とか、親とか、子どもとか。
生まれた瞬間から私は、半ば敗北が決定した人生を送らなくちゃいけなかったけど、めげずに生き続けて、気づけばプレイヤーになってた。
私は人間である。でも、名前はまだない。
強いて言うなら、他のプレイヤーから呼ばれていた「青」っていうのが名前なのかな。
徒花へと開花していたならば、「紫陽花」を名乗ろうと思っていたけれど、二回も断られ、思い虚しく散ってしまった。
さて、私がこんな惨状になってしまったのは、誰のせいなのか。
私が空っぽなのは、一重に人が多すぎるせいだ。
何かをしようとしても、既に誰かが自分より上手にしている。
そんな経験ばかりが積み重なって、自分とはなんなんだろうという虚無感が私を埋めつくし、私を空っぽにした。
上を見上げれば青天井。
下を見下せば地獄絵図。
こんな世界で、私ができることはないんじゃないか。
私がこの世界に生まれてきた意味はないんじゃないか。
そう考えると、とても恐ろしかった。
「だから死ぬ前に、私は人類史に残るようなでっかいことをしたいんだ」
「でかいこと?」
「最終目標は、10億人くらい殺すことかな」
「は?」
一体、何を言い出すのだ。この女は。
10億人殺すだと?
夢物語にも程がある。
だいたい、
「それに何の意味があるんです?」
「おやおや?自分の職業を忘れたの?意味ならある。英雄になれる」
チャップリンの映画に「一人を殺せば殺人者だが、百万人を殺せば英雄だ。 殺人は数によって神聖化させられる」という言葉が出てくる。
それにならって、このプレイヤーの女の理想像を語るなら、それは正しく英雄、いやそれ以上なのかもしれない。
だが、僕にはとてもそうは思えない。
人をいくら殺そうが、人は人だ。
「人類選別が始まったのはさ、人口が80億を突破したときなんだよ。だってのに、人口は減るばかりか増え続けて、今や90億人以上になってる」
プレイヤーの女は、今までのヘラヘラとした態度が嘘のように激しく語る。
「チンタラ人類選別なんてしていたら、日が暮れてしまう。暮れたまま、そのまま人類の歴史に夜明けが来なくなる。だから、私が人類選別ではなく、"人類削減"をして人類の英雄になるの!」
「...それが、あなたがこの世界に残したいこと...ですか」
「そう!良かったら君も協力してくれない?私、けっこう君のこと好きなんだよ。私と似てるからね。君も私と英雄になろうよ!」
「だから......"違う"ってば!!」
僕は隠し持っていたナイフを取り出し、満面の笑みであるプレイヤーの女の顔に投げつける。
が、首を動かすだけの動作で、あっさりと避けられる。
「うーん。そっかあ......残念だなぁ。じゃあ死んでねっ!」
「あなたがね」
ズシャッ!
真上からナイフが落ちてきて、僕の顔面を刺そうとしていたプレイヤーの女の頭を突き刺す。
ナイフを投げる際、そのまま投げるんじゃ、どうせ当たらないと思い、取手を真上にして投げていたのだ。
一か八か、外したり、気が付かれていたら死んでいたが、プレイヤーの女は興奮していたため、なんとか運良く成功したようだ。
「あっ......なん......嫌...だ......死にたくない」
プレイヤーの女は、まだ微かに生きているようで、僕の身体の上で唸っている。
僕はプレイヤーの女が持っている方のナイフを取り上げる。
「ごめんなさい。せめて、あなたのことを覚えておきますから」
首を掻っ切る。
青いアジサイ
花言葉「冷淡、無情」