僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~   作:あずきBAR

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第二十一話 ネコヤナギ

身体がやたらと重く、倦怠感が僕の周りに渦巻く。

今日は鬼灯さんが花育さんに呼ばれてるとのことで、家にいない。

いつもだったら、何がなんでも絶対に就寝を共にすることを強要されるが、今日は無理に帰る必要はない。

だから、今日は適当なホテルへ泊まることにした。

チェックインして部屋に入るやいなや、ベッドへ全体重を預ける。

ふかふかとした布団に包まれることで、ようやく、生き残れたと実感する。

僕は再び、死にかけた。

こんな調子だと、本当に死んでしまうのは遠い未来のことでもなさそうだ。

そんな死と隣り合わせの状況であろうと、殺人の罪悪感に苛まれても、それでも自分が人類選別をするのは何故なのだろうか。

そんなことを考えていると、いつの間にか眠ってしまっていた。

そして、僕はとある夢を見た。

中学の卒業式を終えた帰り道。弟と一緒に帰っていた時の夢である。

 

「兄さんは、いつになったら嘘つくのをやめるの?」

「嘘?嘘なんてついてないぞ」

「それも嘘だね。兄さんは大嘘つきだ」

僕の弟の青葉光(あおばひかり)は、僕より年下でありながら、僕より大人びた雰囲気を纏っていた。

たまに辛辣なことを言ってくるが、その狐のように細く、知的な目に見つめられると、言い返す気も失せてしまう。

「兄さんは、人の目を気にしすぎなんだよ。それで過剰に普通にしちゃってる」

「そんなことないさ」

「あるってば。当たり障りないことばっか言って、他人に大袈裟に共感してばっか、そんなんだから、表面上の友だちは出来ても、卒業まで本当の友だちは出来なかったんでしょ?」

「...いや、友だちがどうとかは、関係ないだろ」

耳が痛い話であった。

光の言う通り、僕には友だちであると、はっきり言えるような人間がいない。

今も、卒業式の帰り道だというのに、光の温情がなければ一人で帰っていたことだろう。

「そろそろ自分に正直に生きないと、この先ずっと一人になっちゃうよ?」

「なんとかなるさ。ならなかったらお前の家庭にお邪魔する」

「勘弁してよ...」

心底嫌そうな顔で断られる。

僕は腹いせに、卒業証書が入った丸筒を光の耳の近くでポンッと鳴らす。また嫌そうな顔をされた。

「まぁでも、兄さんは一度誰かに惚れれば、とことん惚れ込みそうだよね。んで、相手から異常なほど惚れ込まれそう」

「なんだよ、それ。良いの?悪いの?」

「相手によるでしょ。惚れる相手は慎重に選んでね。くれぐれも突発的とか、運命的な出会い方した相手に惚れないように。そういうのは大抵ろくでもないことになるって言うから」

自分が誰かを好きになる、というビジョンが見えないため、ぼけーっと聞き流す。

「僕はなんというか、このまま特に何もせず、あっという間に死んでる気がするんだよなぁ」

「あー、ちょっと分かるなあ」

「分かってくれるか。さすが我が弟」

僕と光が軽く笑い合うと、いきなり光が立ち止まった。

「でも、兄さんがそれを言うのは違うよ」

「ん?なんでさ?」

「よりによって、兄さんがただ死んでいくなんて、そりゃないよ」

光の目が大きく開かれ、僕をじっと見る。

その目は、なんだか炎が籠っているように熱い。

「たくさん人を殺してるくせに」

「.........え?」

突如、光の身体が燃え始めた。

足から、胸から、頭から火が吹き出ている。

光は、苦しむ素振りも見せず、尚も僕を見つめ続ける。

「ねぇ、兄さんは本当は人を殺すことを、なんとも思ってないんじゃない?」

「な、何を言ってるんだ。そんなことより、なんだよその火。大丈夫か?おい!」

「あぁいや、それはちょっと違うか」

光は僕の言葉を無視して、自分の世界に入り込んだように話し続ける。

「兄さんは、他人がどうなろうと、それはそれとして自分の幸せを優先できる、言わば究極の自己中なんだよ」

「...は?」

「本当は人類選別なんて、どうでもいいと思っているのに、それでも人を殺し続けているのは、鬼灯さんと一緒にいたいから。自分の幸せのためなんだよね」

「...」

「それなのに勝手に無理に普通を演じて、勝手に自分を責めて、勝手に自分で苦しんでる」

「......」

「兄さんは、中途半端なんだよ。苦しみたいなら、苦しめばいいのに。幸せになりたいなら、幸せになればいいのに」

「.........僕は別に、幸せになんてなれなくていいよ」

「ほら。またそうやって自分に嘘をつく」

光の身体の炎は勢いを増していく。僕には、それが弟の感情の昂りのように感じられた。

「兄さんがその道を選んだなら、この先兄さんが、鬼灯さん以上に好きになれる人はいないと思うんだ。なら、ちゃんと好きって言って、幸せになるべきだよ」

光は僕に指さし、呆れたように語る。

「死人に口なしって言葉を、ポジティブに捉えようよ。兄さんが殺した人は、誰も兄さんを責めたりしない」

「...そんなことできないよ」

「それができるのが兄さんなんだってば。兄さんは、人類選別をすることに適正があるんだ」

光は僕の頭を掴み、炎のような熱量で僕に言い聞かせる。

「好きなら好きって伝えて。

幸せになりたいなら幸せになって。

生きたいなら生きる。

死にたいなら死ねばいい。

それができないなら、兄さんのやってることって、本当になんなんだってなるでしょ」

「...お前は、それでいいのか?そんな兄貴でいいのか?」

「うん。どんな形であろうと、兄さんがちゃんと幸せになれるなら」

「...そうか」

僕は、僕は

「僕は他人の死体を踏みつけようとも、生きていたい。鬼灯さんと生きたい」

「兄さんがやっと正直になってくれて、弟冥利に尽きるよ」

光の炎が急に収まり、その代わりに焼けただれた痛々しい身体が露になる。

「無駄に咲いて散って、それで終わらないでよ。兄さん」

 

カーテンから漏れ出る朝日で目が覚める。

不思議な夢を見たな。

...光はいつ目を覚ますのだろうか。

徒花家の都合上、あまり病院などは使えないため。花育さんに、弟が目を覚ましたら伝えて欲しいとお願いしている。

僕が光のために出来ることは、光の回復を祈ることと、光のこれからの生活費をひっそりと支援することくらいだろう。

それと、夢の中で光に言われた通り、僕はちゃんと伝えなければならない。

鬼灯さんへの想いを。




ネコヤナギ
花言葉「自由、思いのまま」
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