僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~ 作:あずきBAR
身体がやたらと重く、倦怠感が僕の周りに渦巻く。
今日は鬼灯さんが花育さんに呼ばれてるとのことで、家にいない。
いつもだったら、何がなんでも絶対に就寝を共にすることを強要されるが、今日は無理に帰る必要はない。
だから、今日は適当なホテルへ泊まることにした。
チェックインして部屋に入るやいなや、ベッドへ全体重を預ける。
ふかふかとした布団に包まれることで、ようやく、生き残れたと実感する。
僕は再び、死にかけた。
こんな調子だと、本当に死んでしまうのは遠い未来のことでもなさそうだ。
そんな死と隣り合わせの状況であろうと、殺人の罪悪感に苛まれても、それでも自分が人類選別をするのは何故なのだろうか。
そんなことを考えていると、いつの間にか眠ってしまっていた。
そして、僕はとある夢を見た。
中学の卒業式を終えた帰り道。弟と一緒に帰っていた時の夢である。
「兄さんは、いつになったら嘘つくのをやめるの?」
「嘘?嘘なんてついてないぞ」
「それも嘘だね。兄さんは大嘘つきだ」
僕の弟の
たまに辛辣なことを言ってくるが、その狐のように細く、知的な目に見つめられると、言い返す気も失せてしまう。
「兄さんは、人の目を気にしすぎなんだよ。それで過剰に普通にしちゃってる」
「そんなことないさ」
「あるってば。当たり障りないことばっか言って、他人に大袈裟に共感してばっか、そんなんだから、表面上の友だちは出来ても、卒業まで本当の友だちは出来なかったんでしょ?」
「...いや、友だちがどうとかは、関係ないだろ」
耳が痛い話であった。
光の言う通り、僕には友だちであると、はっきり言えるような人間がいない。
今も、卒業式の帰り道だというのに、光の温情がなければ一人で帰っていたことだろう。
「そろそろ自分に正直に生きないと、この先ずっと一人になっちゃうよ?」
「なんとかなるさ。ならなかったらお前の家庭にお邪魔する」
「勘弁してよ...」
心底嫌そうな顔で断られる。
僕は腹いせに、卒業証書が入った丸筒を光の耳の近くでポンッと鳴らす。また嫌そうな顔をされた。
「まぁでも、兄さんは一度誰かに惚れれば、とことん惚れ込みそうだよね。んで、相手から異常なほど惚れ込まれそう」
「なんだよ、それ。良いの?悪いの?」
「相手によるでしょ。惚れる相手は慎重に選んでね。くれぐれも突発的とか、運命的な出会い方した相手に惚れないように。そういうのは大抵ろくでもないことになるって言うから」
自分が誰かを好きになる、というビジョンが見えないため、ぼけーっと聞き流す。
「僕はなんというか、このまま特に何もせず、あっという間に死んでる気がするんだよなぁ」
「あー、ちょっと分かるなあ」
「分かってくれるか。さすが我が弟」
僕と光が軽く笑い合うと、いきなり光が立ち止まった。
「でも、兄さんがそれを言うのは違うよ」
「ん?なんでさ?」
「よりによって、兄さんがただ死んでいくなんて、そりゃないよ」
光の目が大きく開かれ、僕をじっと見る。
その目は、なんだか炎が籠っているように熱い。
「たくさん人を殺してるくせに」
「.........え?」
突如、光の身体が燃え始めた。
足から、胸から、頭から火が吹き出ている。
光は、苦しむ素振りも見せず、尚も僕を見つめ続ける。
「ねぇ、兄さんは本当は人を殺すことを、なんとも思ってないんじゃない?」
「な、何を言ってるんだ。そんなことより、なんだよその火。大丈夫か?おい!」
「あぁいや、それはちょっと違うか」
光は僕の言葉を無視して、自分の世界に入り込んだように話し続ける。
「兄さんは、他人がどうなろうと、それはそれとして自分の幸せを優先できる、言わば究極の自己中なんだよ」
「...は?」
「本当は人類選別なんて、どうでもいいと思っているのに、それでも人を殺し続けているのは、鬼灯さんと一緒にいたいから。自分の幸せのためなんだよね」
「...」
「それなのに勝手に無理に普通を演じて、勝手に自分を責めて、勝手に自分で苦しんでる」
「......」
「兄さんは、中途半端なんだよ。苦しみたいなら、苦しめばいいのに。幸せになりたいなら、幸せになればいいのに」
「.........僕は別に、幸せになんてなれなくていいよ」
「ほら。またそうやって自分に嘘をつく」
光の身体の炎は勢いを増していく。僕には、それが弟の感情の昂りのように感じられた。
「兄さんがその道を選んだなら、この先兄さんが、鬼灯さん以上に好きになれる人はいないと思うんだ。なら、ちゃんと好きって言って、幸せになるべきだよ」
光は僕に指さし、呆れたように語る。
「死人に口なしって言葉を、ポジティブに捉えようよ。兄さんが殺した人は、誰も兄さんを責めたりしない」
「...そんなことできないよ」
「それができるのが兄さんなんだってば。兄さんは、人類選別をすることに適正があるんだ」
光は僕の頭を掴み、炎のような熱量で僕に言い聞かせる。
「好きなら好きって伝えて。
幸せになりたいなら幸せになって。
生きたいなら生きる。
死にたいなら死ねばいい。
それができないなら、兄さんのやってることって、本当になんなんだってなるでしょ」
「...お前は、それでいいのか?そんな兄貴でいいのか?」
「うん。どんな形であろうと、兄さんがちゃんと幸せになれるなら」
「...そうか」
僕は、僕は
「僕は他人の死体を踏みつけようとも、生きていたい。鬼灯さんと生きたい」
「兄さんがやっと正直になってくれて、弟冥利に尽きるよ」
光の炎が急に収まり、その代わりに焼けただれた痛々しい身体が露になる。
「無駄に咲いて散って、それで終わらないでよ。兄さん」
カーテンから漏れ出る朝日で目が覚める。
不思議な夢を見たな。
...光はいつ目を覚ますのだろうか。
徒花家の都合上、あまり病院などは使えないため。花育さんに、弟が目を覚ましたら伝えて欲しいとお願いしている。
僕が光のために出来ることは、光の回復を祈ることと、光のこれからの生活費をひっそりと支援することくらいだろう。
それと、夢の中で光に言われた通り、僕はちゃんと伝えなければならない。
鬼灯さんへの想いを。
ネコヤナギ
花言葉「自由、思いのまま」