僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~ 作:あずきBAR
「それで花育さん...何の要件でしょう?」
「相変わらず、愛想無いなーお前は。ま、別にいいけど」
今日は珍しく、冷徹のこと以外で花育如雨露と会うことになった。
如雨露は肝心の要件も言わず、ただ「話がある」とだけ言って、如雨露の住まう人体改造室へと私を呼び出した。
地下に作られた狭くて薄気味悪い場所だ。
椿も連れていきたかったが、用があるのは私の方だけだ、と断られた。
さらに椿に、巷で噂の殺人鬼を処分する命令が下されたため、やむなく連れていくのを諦めた。
寂しがってないかなぁ〜椿。
私も私で今夜、抱き枕なしで眠れるか不安だな。
「鬼灯、お前は椿のことをどう思ってる?」
「大好き」
やや食い気味に答えると、如雨露が肩を軽くビクッとさせる。
軽く息を吸い込み、口に助走をつける。
そして勢いよく走らせる。
「私のことをちゃんと見てくれるんだよ、椿は。誰にも見られることのなかった私を。すごく優しいよね。しかも、誰に対してもそうって訳じゃなくて、徒花になってからずっと私だけを見てくれてる。まぁ向日葵と仲良くなったのはちょっとだけ、ほんのちょっとだけモヤモヤするけど、向日葵は若干見た目が女の子寄りってだけのただの美少年だから、ギリ許せるかな。手を繋いだって話だけは、少々向日葵に喝を入れさせてもらったけどね。あぁ〜そういえば空港での椿も可愛かったなぁ〜。スナイパーに狙撃されて死にかけてたから、ちょっとだけ待って、絶妙なタイミングで助けてあげたら、すんごいションボリしててさ〜、どうしたのかと思えば、役に立ててないって言ったの。健気だよね〜可愛いが過ぎるよね。あまりに不安そうだったから、私が守るから大丈夫って言ったら、それ以降の椿の視線がなんだか前より熱くなってさ〜、もう絶対絶対絶ッ対、私のこと大好きだよ。お姉ちゃんLoveだよ。もう好きすぎるから、駄目だって分かってるけど、こっそり家にある隠しカメラ増やしちゃったんだよね。毎朝必ず、椿より早く起きてから椿の寝顔を撮るのも、寝言を録音するのも、最近じゃ毎日やっちゃってるなぁー。私、今まで人殺ししかしてこなかったから、家事とか全部任せちゃってて、この前ネットで見た料理に髪とか血を入れるっていうやつとかは、したいけど出来ないんだよねぇ。飲み物だけになっちゃってる。大好きな人に、自分の一部を食べてもらう。ベタだけど、すごく素敵だよねぇ。いつか料理も覚えたいな〜。洗濯とか掃除は...無理かな。まるでできる気がしない。まぁだけど、これから一生一緒に暮らすんだから、無問題だね。お互いに支え合う。これができるって、私と椿は最高の家族だよね。間違いなく、世界で一番幸せな姉弟だよ。朝から晩まで、いや、おはようから次のおはようまでずっと一緒にいる姉弟なんて、自分で言うのもなんだけど、私たちくらいだもんね。あぁでも、トイレとお風呂だけは、何がなんでも一緒に行ってくれないんだよね。トイレはともかく、こんなに仲良しなんだから、お風呂くらい恥ずかしがることないのに。まぁ恥ずかしがってるところも、また愛おしいんだけどね。一度、椿がお風呂に入ってるところにお邪魔したら、ガチめに叱られちゃったよ。私に怒る椿は珍しかったから内心、椿コレクションが増えて嬉しかったけど。えへっ」
「.........椿も大変だな」
如雨露は、私が話してる間にお茶を入れ、そして飲み干した湯呑みをテーブルに置き、やれやれとばかりに肩をすくめる。
「え?そんなことないと思うけどね、だってこの前、椿に抱きついたら...」
「あぁ!もういい!分かった!分かったから!」
こんなに如雨露が大きな声を出すのを、出会ってから初めて聞いた。
この人、ちゃんと大声とか出せる人だったのか。
そのダウナーな雰囲気からは想像がつかなかった。
少々反省し、気分を落ち着かせる。
「それで...なんでそんな質問を?」
「声の落差が怖ぇー。えーと、そんで、お前はこれからも椿と共にいたいんだよな?」
「うん」
「だったらアイツの、アイツだけの幸せも認めて、受け入れて欲しい」
「...?もちろん認めてるし、受け入れてる」
「そうかー?まぁ、それならいいんだ」
そこで如雨露はテーブルの上からメモ帳を取り出し、それを確認しながら話す。
「実は、アイツの弟、青葉光に回復の兆しがあるそうなんだ」
「椿の弟?あぁー」
あの子か。
火事の際に重症を負い、大量の管に繋がれていた、あの子。
「とは言っても、兆しが見えたってだけで、回復すると決まったわけじゃない。だから、まだ椿には伝えていない。ぬか喜びさせちゃ悪いからなー」
「...その話が、なんです?」
「うーん。なんて言えばいいかな。そうだなー」
如雨露はしばし逡巡し、「うん」と頷くと、バッサリと言う。
「鬼灯、お前は頭がおかしいんだ」
「......?」
「だから、もしかしたら、椿の弟が回復するってことを受け入れられないんじゃないかと、俺は思ったんだ」
「...えっと、なに?なんで急に罵倒してくるの?」
「お前は、椿の幸せを受け入れることが出来るか?お前が関わっていない幸せを受け入れることが出来るか?」
「...?私、別にそこまで独占欲強くないよ?」
「そ、そうかー?」
「うん。椿が大好きだから、椿の幸せを優先出来るよ」
「その言葉、絶対に忘れるなよ。忘れた瞬間に、お前は化け物になる」
「...うん」
そんな会話を済ませ、後は空港での事態の後始末についてなど、これからの予定について語られた。
如雨露の言っていた話は、最後までよく分からなかった。
よっぽどの常識知らず、または良識知らずだと思われていることだけは分かった。
しかし、椿の弟の回復...か。
私自身には、あまり関係ない話だけど、椿はそれを聞いたらどんな顔をするのだろう?
戸惑い?驚き?喜び?喜び...なのかな?
私以外の誰かのことで、椿が嬉しそうな顔をするのはなんだか、あまり想像できない。
そりゃあ、ちょっとだけムッとすることも多分あっちゃったりなんかするかもしれない、ってこともなくはないけれど。
それで不機嫌になったりするほど、私の嫉妬心は強くない。
如雨露の私に対するイメージは、完全に誤解だ。失礼にも程がある。
それに、椿の弟が回復したって、私たちの生活に影響が出るわけでもない。
椿は表面上は、もういない人間なのだから、弟と暮らし始める、なんてことは万が一にもありえない。というか、させない。
椿は、これからも私だけをずっと見て、私だけのそばにいて、私だけを愛してくれる。
私だけの椿だ。
黒いバラ
花言葉「あなたはあくまで私のもの」