僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~   作:あずきBAR

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第二十三話 ツバキ

翌日、いつも通り僕が作った晩飯を食卓に並べ、鬼灯さんと囲う。

作ったとは言っても、凝った料理はまだ作れず、簡単な料理しか出来ない。

それでも、鬼灯さんは「めっちゃ美味い!」と言って食べてくれるため、なんだか自分がシェフになったような錯覚を覚えることも、しばしば。

「鬼灯さん。なんかこれ、鉄の味しません?」

「そうかな?普通のトマトジュースだと思うよ!」

鬼灯さんはいつも、「せめて飲み物だけでも私が用意するね!」と言ってくれるのだが、その飲み物がほとんどトマトジュースかザクロジュースであるため、正直飽きてきている。

だが、飲み物を持ってくる際の満足そうな顔を見てしまうと、指摘することは出来ない。

「ご馳走様!椿の料理は本当に美味しいね!」

「お粗末さまでした。それは過剰ですよ」

「本当に好きだから言ってるのになぁ〜」

鬼灯さんは立ち上がり、食器を片ずけると

「それじゃ、お風呂いただきます!いつでも入ってきていいよ!」

と、毎度の如く余計な一言を添えて言う。

僕はそこに、覚悟を決めて待ったをかけた。

「あの、鬼灯さん。ちょっと話があって、あっいや、風呂が終わってからでもいいんですけど」

少しどもりつつ、食事中に用意していたセリフを喋る。

先延ばしにせず、今、この時に伝えるのだ。

鬼灯さんへの想いを。

「ん?何かな?あっもしかして!やっと一緒にお風呂に入ってくれる気になった?!」

「いや、そうじゃなくて、その...」

駄目だな。言葉が出てこない。

自分の気持ちを、どんな言葉が一番伝えられるか、弟との夢を見てから今に至るまで、ずっと考えていたはずなのに。

「なんでも話してごらん」

いつもの元気な話し方から一転、鬼灯さんはしっとりとした優しい声色で話す。

その声には、何もかも受け入れてくれるような甘さがある。

もういっそのこと、率直に伝えてしまおうか。

「僕、鬼灯さんのことが好きなんです」

......言った。言って、しまった。

もう後戻りは出来ない。

義姉弟には、もう戻れない。

鬼灯さんは少し驚くと、穏やかに微笑む。

「私も大好きだよ。椿」

「...ありがとうございます」

鬼灯さんの「好き」は、僕の「好き」とは違う。

分かってる。

それなのに、もう何回も言われているのに、好きと言われる度に心が踊る。

でも、違うのだ。

今、僕が伝えたい言葉は、そういう意味じゃない。

「でも、違うんです。僕の言う好きってのは...本当に好きなんです」

「私もだよ〜。椿が、世界で一番大好き」

とろけたような甘い声は、僕の思考能力を徐々に奪う。

それに負けないように、ひたすらに言葉を綴る。

「僕は鬼灯のことが、一人の女性として好きなんです」

「ん?どういうこと?」

鬼灯さんは頭に手を置き、しばし考え込む。

「うーんと、お姉ちゃん大好きってこと...こと?」

「僕の好きは、付き合いたいっていう好きです」

「ふぇっ?」

驚きと戸惑いの混じった変な声を上げると、その表情が変わる。

「あのっえーと、それは、どういう、え?」

先程までの僕とは、比にならないほどテンパリ、瞬く間に顔が赤くなっていく。

「あのあの、何か...そう!勘違いとかさっ...あっ、あと、あーあれ、思い違いとかしてるんじゃないかな?」

「そんなことありません。鬼灯さん、僕は本気なんです」

鬼灯さんは目をぐるぐると、口をぱくぱくとさせる。

「あわわわわ。あっあの、ちょっとよく分からないから、この話はまた後で...ってことで......」

鬼灯さんはそう言って、風呂場へと歩き出す。

僕は、せっかく腹を括ったのだから、ここで話をつけたいと思い、鬼灯さんの左手を掴む。

「にゃっ!?」

「今、返事が聞きたいです。僕と付き合ってくれませんか?」

そこで、しばらく沈黙が流れた。

鬼灯さんは、掴まれていない右手で口もとを隠し、顔の赤らみを誤魔化す。

僕は、それをただ見つめる。

永遠にも感じる、長い長い沈黙。

その果てに、ようやく鬼灯さんが口を開いた。

「あのね、私。本当によく分からないんだよ、恋愛感情ってのが。...私の過去については、多分もう聞かされてるよね?」

「はい。すみません」

「別に謝らなくていいよ。隠してるわけじゃないし」

僕が手を離すと、鬼灯さんは髪をかきあげ、自傷するように話す。

「あの日、お父さんを殺した時に、お父さんの命と一緒に私の心は死んだ。

何をしても喜べない。

何されても怒れない。

何をしても哀しめない。

何をしても楽しめない。

何をしても心は休まらないし、蘇らない。何の為に産まれて、何の為に生きるのか、それが分からなかった。恋愛感情っていうのも、そんな中で失くした感情の一つなんだと思う」

「...それじゃあ、今まで僕に見せた笑顔とかは一体?」

「本物だよ」

鬼灯さんは強調するようにして、もう一度「本物」と付け加える。

「まぁ、ちょっと演技入ってるところもあったけど、椿に会ってからは、本当に毎日が輝いて見えた。今まで灰色がかっていた世界が、色鮮やかに見えた」

鬼灯さんは僕の両手を取り、自分の両手で挟む。

「椿が、私を生き返らせてくれたんだよ」

僕は、ずっと鬼灯さんのためになりたいと思っていた。

壊れた僕の人生に、新たな生き方を教えてくれた鬼灯さんの役に立ちたいと思っていた。

だから

「...っ」

「椿?泣いてるの?」

鬼灯さんの言葉が心の底から嬉しかった。

鬼灯さんは僕の涙を指で掬うと、決心したように言う。

「だからさ、私の恋愛感情も取り戻して欲しいんだ」

「...っ、それって」

「是非、付き合って」

「...!」

鬼灯さんは手を離し、その代わりに僕の背中に手を伸ばす。

手越しでは分からなかった熱が、僕を抱きしめる。

「絶対に離さないからね」

 

真夜中、ベットで寝ようとしていた際に僕の携帯が鳴った。

鬼灯さんがずっと力を込めて抱きしめてくるため、非常に動きづらかったが、なんとか脱出して立ち上がり、電話に出る。

「もしもし。あっちょっと、やめてください」

「ん?なんだー?」

「あっいえ、なんでもありません」

後ろから抱きついてくる鬼灯さんをベットへと追いやって、改めて電話相手を確認する。

「こんな夜中にどうしたんですか?花育さん」

「おう。実はさ、お前の弟いるだろ?」

「あ、はい。光ですね」

「そいつよ、目を覚ましたぜ」

「え!?本当ですか!?」

「嘘は言わねぇっての」

弟が、目を覚ました。

あの重症だった光が、目を覚ました。

「やった...」

思わず口に出してしまった途端に、膝が崩れる。

「良かったです。本当に、本当に良かった」

これ以上ないほど、報われたような気分だ。

もちろん、会うことなどは出来ないけれど、それでも嬉しい。

光は、消えてなかった。

その事実が、僕の胸を優しく照らす。

間違いなく、今日が人生で一番幸せな日だ。

 

 

ねぇ椿。

あなたは今、なんで私を見てないの?

弟のことなんかよりも、私を見るべきだよ。

私だけを見て。聞いて。感じて。理解して。愛して。

私たちに、私たち以外の誰かなんて必要ないでしょう?

それが私たちを邪魔するなら。

私たちに、光はいらない。

.........いらない。




ツバキ
花言葉「罪を犯す女」
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