僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~   作:あずきBAR

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第二十五話 オトギリソウ

向日葵君の我らの太陽の導き(サン・シャイン)

ありとあらゆる攻撃を無に帰すその機能は正に、太陽を体現していた。

僕がその凄まじさを感じたのは二回。

どちらも、銃撃を防いだ時のことだ。

一度目は、完璧な不意打ちによる一発を防いだ。

二度目は、マシンガンによる弾丸の嵐を防いだ。

そして、この二つから分かることは、我らの太陽の導き(サン・シャイン)に弱点は一切ないということだ。

文字通り、弱点がない。

オート発動で、弾丸の嵐すら防ぐ。

しかも、二度目の銃撃を向日葵君が防いだ後、合流した向日葵君には傷一つなく、それどころか疲れた様子すらなかった。

つまり、持続力もあるということだ。

冷徹は、目で捉えられないほどの速度と、何もかも壊せる圧倒的な破壊力を持った義手と義足だ。

そこに我らの太陽の導き(サン・シャイン)という鉄壁が加われば、もう手の打ちようがない。

僕は絶対に勝てない。

僕の手は、決して太陽に届かない。

 

 

絶対に勝てない相手と相対した際に、人ができることはなんだろう。

勇気を持って立ち向かうことか、

頭を下げて許しを乞うことか、

涙を見せて同情を誘うことか、

いっそのこと諦めてしまって、心の平穏を優先するのもいいかもしれない。

そして、そんなかっこ悪い行動の中でも一番かっこ悪く、一番効果的な方法がある。

それはズバリ、逃げることだ。

強者としての余裕からか、向日葵君の顔には乱れが一切ない。

ただ、必ず殺すという意思だけが感じられる。

向日葵君は、亀のようにゆっくりと一歩を踏みだした。

僕は、脱兎のように全速力で逃げだした。

向日葵君を背後に、持てる力の全てを出して逃げる。

アスファルトを駆け、ビルの上を翔け、生きたいという思いを懸けて、一心不乱に逃げていく。

逃げるあてなどない。

夢も希望もない。

不安と絶望しかない。

心臓がはちきれんばかりに苦しい。

恐怖で頭がおかしくなりそうだ。

それでも、構わず走る。

自分の身体が、四肢以外も機械であると己に言い聞かせ、無理矢理にでも身体を動かす。

動かさなければ、動けなくされるのだから。

 

 

周りを見渡しても、どこにも向日葵君が見えないことを確認し、名前も知らない廃ビルへと入る。

僕は、まさかこんなことになるなんて思っていなかったため、ナイフも持ってきていない。

だから、休憩を兼ねて、申し訳程度の武器の調達に来たのだ。

エントランスの壁に雑に立てかけられたパイプ椅子を手に取り、その足をもぎ取る。

取った足の先をねじ曲げ、強引に成形して尖らせる。

こうして、即席で槍もどきを作ったわけだが、武器というには、少し頼りない。

辺りを見渡し、消化器を発見する。いかにも放置されつくした、という風貌で、マトモに使えるか分からないほど古びているが、ないよりはマシだと思い、手に取る。

もしかしたら、逃げる時に使えるかもしれない。

一応の準備を整えたことで、ひとまず安心し、目を瞑って深呼吸をする。

「スゥー...ハァー......」

「みーつけた」

「っ!?」

目を開けると、廃ビルの入り口で微笑む向日葵君がいた。

「逃げても無駄ですよ。お兄様」

「なんで...場所がバレて...?」

「GPSですよ」

「なんだって?」

「お兄様は、大事な物や、危険な物の場所は常に知っておきたいでしょう?失くしたら、大変ですからね。冷徹の製作者も、同じことを思ったのでしょう。全ての冷徹には、GPSが仕込まれているんです」

「そんな...」

日本という国は、思っていた以上に徒花を支配しているらしい。

そのせいで、向日葵君が徒花を減らしているというのに。

どこに逃げても、場所が筒抜けなんじゃ、もうどうしようもない。

もう駄目だ。

終わりだ。

.........本当に終わりか?

僕は、あることを思い出した。

向日葵君は一度、逃げたことがあるのだ。

どうしようもないから、死んでしまうかもしれないから、そう言って逃げたことがある。

そう、あれはたしか、プレイヤーに空港が占拠され、囲まれた時のことだ。

向日葵君は「爆弾や酸でも使われたら、我らの太陽の導き(サン・シャイン)は対応できません」と言っていたはずだ。

ということは、固形物以外での攻撃ならば、倒せるのではないだろうか。

僕は、右手に持った消化器をチラリと見る。

「さぁ、諦めてください。大人しく、断罪されてください」

「...嫌だ」

バゴッ!ガゴッ!

僕は消化器を蹴り、叩き、何ヶ所か窪みをつくる。

よく分からない変な音がしても、ひたすら蹴って、叩く。

「...気でも狂いましたか?ごめんなさい。怖かったですよね。今すぐ殺してあげますからね」

明らかに使い物にならなくなるまで消化器を圧縮させ、それを右手に、槍もどきを左手に装備する。

そして、その二つを同時に向日葵君に投げつける。

投げた瞬間に、急いで後方へとジャンプする。

僅かに消化器を先に投げたため、槍もどきの先端が、限界まで中の圧力が高くなった消化器を貫く。

パキッ!バゴォーン!

豪快な破裂音が、僕の耳をつんざく。

爆発させることが目的だったとはいえ、まさかここまでの威力を消化器が出せるとは知らなかった。

間違いなく、人が死ねる威力だ。

だが、爆発の煙の中には、人影はない。

向日葵君は、どうなった?

もしかして、今ので殺せたのだろうか?

「もしかして、殺す気でした?」

「...」

煙の向こう側から、向日葵君の声が聞こえてくる。

そして、小さいパイナップルのような物が投げられる。

気づいた瞬間に、さらに後ろに下がろうとするが、壁に激突してしまう。

急いで右へと避ける。

バゴォーン!

派手な音とともに、爆風と鉄片が飛び散り、相当な攻撃を食らってしまった。

身体中に鋭い痛みが走る。

あれは...手榴弾?

今の爆発を見るに、さっき消化器を投げた時の爆発も、同様の手榴弾だったようだ。

どうやら消化器による攻撃は、完全に防がれてしまったらしい。

どうして、あんな物を持っているのだ。

徒花に支給される武器の中に、手榴弾なんてないはずだ。

それに、あの手榴弾はプレイヤーが使っていたという物と見た目も威力も酷似していた。

「別に、私も武器を使わないわけではありません。必要ならば、存分に使わせてもらいますよ」

「なんで、向日葵君がプレイヤーの使ってた手榴弾なんて持ってるんだよ」

「あぁ、あれは私が調達して、彼らにあげたものですよ。手榴弾だけでなく、彼らが使っていた武器は全て、私があげたものです」

「...は?何を言って...裏切ってたってこと?」

「違います。鳥花さんって、いたでしょ?徒花極楽鳥花さん」

「...まさか」

「鳥花さんもまた、選別対象でした。殺人を楽しむ彼は、この世界にいらない人間でした」

煙の先に微かに見える向日葵君のシルエットは、どこか誇らしそうだ。

「ですが、彼は徒花の中でもそれなりの実力者でして、どう断罪するか悩んでいました。その矢先に、彼があの問題を起こし、都合が良かったので、プレイヤーの殺意を利用させてもらいました」

「...あの惨劇は、向日葵君が起こしたことなのかい?」

「違いますよ。お兄様も見ていたではありませんか。やったのはプレイヤーです。私はただ、武器の支援と、どうすれば空港を占拠できるかを教えただけです。想定外だったのは、鳥花さんがほとんどのプレイヤーを殺してしまったことです。いやまぁ、あのプレイヤーの集団も、中国で好き勝手やってたならず者の集まりだったそうなので、結果的には良いんですが」

「......何も知らない普通の人も、たくさん死んだんだよ?」

「それも、想定外でした。ですが、過ぎたことに囚われても仕方がありません。私はこの罪を背負って、より一層、断罪に励みます」

「...君は、そんなに人を殺して、どうしようっていうんだ」

「どうもしません。いらない人間を減らしていくだけですよ。あっ、そうだ」

向日葵君はこちらへと近づきながら、当たり前のように言い放つ。

「お兄様の次は、鬼灯さんを殺します」

「.........今、なんて言った?」

「お兄様の愛を受け入れた鬼灯さんもまた、大罪人です。鬼灯さんも、断罪します。せっかくだから、一緒にあの世へ送ってあげますよ」

向日葵君はきっと、自分が絶対に正しいと信じているのだろう。

そこに悪意はない。

あるのは正義と、その正義に反するものへの敵意だけ。

歪んだ思考回路を持っているだけの少年だ。

だから、殺さなければならない確固たる理由が出来てしまったのが、本当に残念だ。

向日葵君は、僕と鬼灯さんを殺そうとしている。

ならば、殺られる前に殺る。

勝てる見込みはまるでない。

だけど、やるしかない。

僕は、鬼灯さんと生きるためならば

道徳も人徳も捨て去って、

死体も正義も踏みつけて、

人間を幾らでも殺害する。

義弟すらも殺す。




オトギリソウ
花言葉「迷信、敵意」
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