僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~ 作:あずきBAR
向日葵君の
ありとあらゆる攻撃を無に帰すその機能は正に、太陽を体現していた。
僕がその凄まじさを感じたのは二回。
どちらも、銃撃を防いだ時のことだ。
一度目は、完璧な不意打ちによる一発を防いだ。
二度目は、マシンガンによる弾丸の嵐を防いだ。
そして、この二つから分かることは、
文字通り、弱点がない。
オート発動で、弾丸の嵐すら防ぐ。
しかも、二度目の銃撃を向日葵君が防いだ後、合流した向日葵君には傷一つなく、それどころか疲れた様子すらなかった。
つまり、持続力もあるということだ。
冷徹は、目で捉えられないほどの速度と、何もかも壊せる圧倒的な破壊力を持った義手と義足だ。
そこに
僕は絶対に勝てない。
僕の手は、決して太陽に届かない。
絶対に勝てない相手と相対した際に、人ができることはなんだろう。
勇気を持って立ち向かうことか、
頭を下げて許しを乞うことか、
涙を見せて同情を誘うことか、
いっそのこと諦めてしまって、心の平穏を優先するのもいいかもしれない。
そして、そんなかっこ悪い行動の中でも一番かっこ悪く、一番効果的な方法がある。
それはズバリ、逃げることだ。
強者としての余裕からか、向日葵君の顔には乱れが一切ない。
ただ、必ず殺すという意思だけが感じられる。
向日葵君は、亀のようにゆっくりと一歩を踏みだした。
僕は、脱兎のように全速力で逃げだした。
向日葵君を背後に、持てる力の全てを出して逃げる。
アスファルトを駆け、ビルの上を翔け、生きたいという思いを懸けて、一心不乱に逃げていく。
逃げるあてなどない。
夢も希望もない。
不安と絶望しかない。
心臓がはちきれんばかりに苦しい。
恐怖で頭がおかしくなりそうだ。
それでも、構わず走る。
自分の身体が、四肢以外も機械であると己に言い聞かせ、無理矢理にでも身体を動かす。
動かさなければ、動けなくされるのだから。
周りを見渡しても、どこにも向日葵君が見えないことを確認し、名前も知らない廃ビルへと入る。
僕は、まさかこんなことになるなんて思っていなかったため、ナイフも持ってきていない。
だから、休憩を兼ねて、申し訳程度の武器の調達に来たのだ。
エントランスの壁に雑に立てかけられたパイプ椅子を手に取り、その足をもぎ取る。
取った足の先をねじ曲げ、強引に成形して尖らせる。
こうして、即席で槍もどきを作ったわけだが、武器というには、少し頼りない。
辺りを見渡し、消化器を発見する。いかにも放置されつくした、という風貌で、マトモに使えるか分からないほど古びているが、ないよりはマシだと思い、手に取る。
もしかしたら、逃げる時に使えるかもしれない。
一応の準備を整えたことで、ひとまず安心し、目を瞑って深呼吸をする。
「スゥー...ハァー......」
「みーつけた」
「っ!?」
目を開けると、廃ビルの入り口で微笑む向日葵君がいた。
「逃げても無駄ですよ。お兄様」
「なんで...場所がバレて...?」
「GPSですよ」
「なんだって?」
「お兄様は、大事な物や、危険な物の場所は常に知っておきたいでしょう?失くしたら、大変ですからね。冷徹の製作者も、同じことを思ったのでしょう。全ての冷徹には、GPSが仕込まれているんです」
「そんな...」
日本という国は、思っていた以上に徒花を支配しているらしい。
そのせいで、向日葵君が徒花を減らしているというのに。
どこに逃げても、場所が筒抜けなんじゃ、もうどうしようもない。
もう駄目だ。
終わりだ。
.........本当に終わりか?
僕は、あることを思い出した。
向日葵君は一度、逃げたことがあるのだ。
どうしようもないから、死んでしまうかもしれないから、そう言って逃げたことがある。
そう、あれはたしか、プレイヤーに空港が占拠され、囲まれた時のことだ。
向日葵君は「爆弾や酸でも使われたら、
ということは、固形物以外での攻撃ならば、倒せるのではないだろうか。
僕は、右手に持った消化器をチラリと見る。
「さぁ、諦めてください。大人しく、断罪されてください」
「...嫌だ」
バゴッ!ガゴッ!
僕は消化器を蹴り、叩き、何ヶ所か窪みをつくる。
よく分からない変な音がしても、ひたすら蹴って、叩く。
「...気でも狂いましたか?ごめんなさい。怖かったですよね。今すぐ殺してあげますからね」
明らかに使い物にならなくなるまで消化器を圧縮させ、それを右手に、槍もどきを左手に装備する。
そして、その二つを同時に向日葵君に投げつける。
投げた瞬間に、急いで後方へとジャンプする。
僅かに消化器を先に投げたため、槍もどきの先端が、限界まで中の圧力が高くなった消化器を貫く。
パキッ!バゴォーン!
豪快な破裂音が、僕の耳をつんざく。
爆発させることが目的だったとはいえ、まさかここまでの威力を消化器が出せるとは知らなかった。
間違いなく、人が死ねる威力だ。
だが、爆発の煙の中には、人影はない。
向日葵君は、どうなった?
もしかして、今ので殺せたのだろうか?
「もしかして、殺す気でした?」
「...」
煙の向こう側から、向日葵君の声が聞こえてくる。
そして、小さいパイナップルのような物が投げられる。
気づいた瞬間に、さらに後ろに下がろうとするが、壁に激突してしまう。
急いで右へと避ける。
バゴォーン!
派手な音とともに、爆風と鉄片が飛び散り、相当な攻撃を食らってしまった。
身体中に鋭い痛みが走る。
あれは...手榴弾?
今の爆発を見るに、さっき消化器を投げた時の爆発も、同様の手榴弾だったようだ。
どうやら消化器による攻撃は、完全に防がれてしまったらしい。
どうして、あんな物を持っているのだ。
徒花に支給される武器の中に、手榴弾なんてないはずだ。
それに、あの手榴弾はプレイヤーが使っていたという物と見た目も威力も酷似していた。
「別に、私も武器を使わないわけではありません。必要ならば、存分に使わせてもらいますよ」
「なんで、向日葵君がプレイヤーの使ってた手榴弾なんて持ってるんだよ」
「あぁ、あれは私が調達して、彼らにあげたものですよ。手榴弾だけでなく、彼らが使っていた武器は全て、私があげたものです」
「...は?何を言って...裏切ってたってこと?」
「違います。鳥花さんって、いたでしょ?徒花極楽鳥花さん」
「...まさか」
「鳥花さんもまた、選別対象でした。殺人を楽しむ彼は、この世界にいらない人間でした」
煙の先に微かに見える向日葵君のシルエットは、どこか誇らしそうだ。
「ですが、彼は徒花の中でもそれなりの実力者でして、どう断罪するか悩んでいました。その矢先に、彼があの問題を起こし、都合が良かったので、プレイヤーの殺意を利用させてもらいました」
「...あの惨劇は、向日葵君が起こしたことなのかい?」
「違いますよ。お兄様も見ていたではありませんか。やったのはプレイヤーです。私はただ、武器の支援と、どうすれば空港を占拠できるかを教えただけです。想定外だったのは、鳥花さんがほとんどのプレイヤーを殺してしまったことです。いやまぁ、あのプレイヤーの集団も、中国で好き勝手やってたならず者の集まりだったそうなので、結果的には良いんですが」
「......何も知らない普通の人も、たくさん死んだんだよ?」
「それも、想定外でした。ですが、過ぎたことに囚われても仕方がありません。私はこの罪を背負って、より一層、断罪に励みます」
「...君は、そんなに人を殺して、どうしようっていうんだ」
「どうもしません。いらない人間を減らしていくだけですよ。あっ、そうだ」
向日葵君はこちらへと近づきながら、当たり前のように言い放つ。
「お兄様の次は、鬼灯さんを殺します」
「.........今、なんて言った?」
「お兄様の愛を受け入れた鬼灯さんもまた、大罪人です。鬼灯さんも、断罪します。せっかくだから、一緒にあの世へ送ってあげますよ」
向日葵君はきっと、自分が絶対に正しいと信じているのだろう。
そこに悪意はない。
あるのは正義と、その正義に反するものへの敵意だけ。
歪んだ思考回路を持っているだけの少年だ。
だから、殺さなければならない確固たる理由が出来てしまったのが、本当に残念だ。
向日葵君は、僕と鬼灯さんを殺そうとしている。
ならば、殺られる前に殺る。
勝てる見込みはまるでない。
だけど、やるしかない。
僕は、鬼灯さんと生きるためならば
道徳も人徳も捨て去って、
死体も正義も踏みつけて、
人間を幾らでも殺害する。
義弟すらも殺す。
オトギリソウ
花言葉「迷信、敵意」