僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~   作:あずきBAR

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第三話 スノードロップ

翌日、鬼灯さんに教えてもらった道で待ち伏せをしていた。加藤の下校ルートらしい。雨が降っているため、レインコートを着てきたが、奇しくもこれが冷徹を隠すのに役立った。特に何も言われなかったが、日頃から長袖長ズボンを心がけなければならないのだ。もう、僕は普通ではないのだから。これから本格的に夏になるというのに、長袖長ズボンはキツイなと考えながら強くなる雨足の中を待ち続ける。待って、待って、来た。

スマホを弄りながら歩いているので、僕に気づいていないようだ。僕は、そこら辺の小石を拾い上げ、加藤のスマホ目掛けて投げつける。狙いは外れ、加藤の持っていた傘を突き破り、吹き飛ばした。加藤は一瞬驚きの声をあげ、飛ばされた傘を見もせず、怒鳴る。

「何しやがる!」

「それはこっちのセリフだ。よくも家を燃やしやがって」

「は?あぁ〜青葉(あおば)か。久しぶり!家燃えちゃったんだって?可哀想に。でも、火の不始末を人のせいにするのはどうかと思うぜ?俺はそんなことしてない」

「嘘だ」

 

あの時のことはあまり覚えていない。だけど代わりに一部のことは脳に焼き付いている。夜、ふと加藤の笑い声が聞こえ、また投石でもされてるのかと目を開けるとと家が燃えていたことと、何とか二階の窓から弟と飛び降りたことと、野次馬の目と、父と母の焼死体と、加藤の笑い声。

証拠はない。ただ、加藤が僕の家に放火したと断言出来る。

 

「嘘をつくな、お前だ。お前が燃やしたんだ」

加藤はヤレヤレというふうに首を傾ける。

「いや〜だってさ、あの頃のお前、焼いてもあんま反応ないんだもん。だから家焼いたらどんな反応するかなってさ。お前が悪いんだぜ?青葉、自業自得」

「ふざけるなよ、なんで放火しといてそんなにヘラヘラしてられるんだよ。人が二人死んでんだぞ!頭おかしいだろお前!」

「そんなこと言われてもなぁ。いや〜人間みんな、こんなもんだと思うぜ?」

「畜生が人間について語るな」

「いーや、人は皆どっかおかしいの。おかしいのが普通なの」

「何を言っているんだ?矛盾しているぞ。普通であることと異常であることは両立しない。」

「するんだな、これが。全く……嫌になるよな、気味が悪いぜ。皆おかしいと、おかしいのが普通になる。誰もが自分がおかしいとは気づけないんだ。その点、俺は少し優秀だ。俺は自分がおかしいということを知っている。おかしくて、普通だってことを。無知の知ならぬ、異常の知って訳だ」

「お前みたいに人の死をなんとも思わない奴が世界にのさばってるってのか?」

「人を冷血な人間みたいに扱うなよ。俺だって家族や友達が死ねば泣くさ。ただ、知らない奴だとどうでもいいというだけ。皆そうだろ。お前は地球の裏側で死んでいる命に涙を流すのか?流さねぇだろ。流す暇なんかねぇ、自分の人生を生きるので精一杯だ」

「お前がいくら御託を並べようと、その精一杯生きていた命を奪った化け物であることに変わりはないだろう」

「よっぽど俺を同族として扱いたくないんだな。ただな、それは無理だ。青葉、お前は俺と同じだよ」

「…」

「心当たりあるって感じだな」

思っていたよりはやくこの瞬間が訪れてしまった。まぁこの問題はいつか向き合わなければならないことだと心のどこかで分かっていた。どうせ向き合うなら、はやい方が良い。

そう、悔しいが、僕はコイツと同類だ。これから同類になる。

「だってよ、青葉」

だって…

「お前が俺を殺しにきたから」「僕がお前を殺しにきたから」

「およ?」

声が重なり、加藤がニヤリとする。

「あ〜やっぱり?つか、ちゃんと分かってるわけ?自分がすることの意味」

「お前こそ、分かってて放火したのかよ」

「分かりたかった。理解するためにやったんだが、分からなかった。だから、今度は教えてくれよ」

言って、加藤は果物ナイフを取りだす。まさか、僕が来ることを知っていたわけでもあるまいし、普段から持ち歩いているのか。やっぱりコイツは頭がおかしい。さっきの「人間は皆おかしい」という主張は一理あるかもしれないけれど、それを自覚し、開き直るコイツはやはり普通とは言えない。

ここで止めなければいけない。悪意というのは伝染する。このおかしさを間違っても普通になんてさせちゃいけない。

しかし、ナイフか…僕の身体は、改装されて手足が冷徹になったが、逆に言えばそれ以外は普通の身体だ。刺されれば普通に死ぬ。

他のところまで改装しないのには理由が二つあり、一つは、お金がかかりすぎるから。内臓に代わるものを1からつくるなんて難しすぎるし、脳なんて、もってのほかだそうだ。

もう一つは、必要ないから。

殴り殺す予定だったのだが、ナイフを持っていたのは予想外だったため、再び石を、さっきよりもふた周りほど大きい石を手にとる。

「はぁ?包丁なりハンマーなり持ってきてないの?まさかそれで俺を殺すっての?笑わせんなよ」

加藤を真っ直ぐに見つめ、振りかぶる。加藤が後方へと吹っ飛び、道路に倒れる。果物ナイフは、衝撃で敵の手から離れ、キンッと音を立ててアスファルトに寝転がる。

「な?……は?」

どんなもんかと見てみると、加藤の腹には穴ができていた。ちょうど細身の僕の腕が入るくらいだ。その穴からは血がとめどなくドクドクと流れていく。

これが冷徹か。どうやら花育さんの話は、誇張表現ではなかったらしい。この力をはやく使いこなせるようにならなければ、日常生活にも困りそうだ。最も、もうすぐでその日常は完全に消え去ってしまいそうだが。

軽く垂直に二回跳び、走り幅跳びの要領で加藤のもとまで跳び、踏みつける。加藤の骨と肉が潰れる音が冷徹を通じて僕に伝わる。人の命ってのはこんなものなのか。

「ガァッアッッ」

「苦しいか?僕も苦しかった。父さんと母さんも苦しかっただろうよ」

「ハァーッガハッ…ハハッハハハッハハハ!」

加藤は苦しそうにしながら、突然笑いだした。

「何がおかしい?」

「お前さ!人を殺そうとしてんのに、どうせ「あぁこんなもんか」とか思ってんだろ?やっぱお前は俺と同類だ!やっぱり青葉もおかしいんだ!みんなみんなおかしいんだ!俺だけじゃない!俺は独りじゃないんだ!ハハッハハハハッ!」

あぁ……コイツはダメだ。悪いとか愚かとかじゃなくて、ダメなんだ。存在しちゃダメなんだ。

かがんでマウントを取り、殴りやすい体制をとる。それを見て加藤は言う。

「あぁー俺死ぬのかぁ…あんま実感湧かねぇなあ」

これで終わる。コイツの命も、僕の今までも。

「頑張って普通に生きてきたのになぁ」

と思わずボソッと呟いてしまう。

すると加藤がギロリと睨み、言う

「チッ、俺はお前のそういうとこが嫌いなんだよ。いいか、お前は自分が普通だったと思ってるかもしれないが、それは偽物だ。普通ってのは頑張ってなるものじゃないんだよ」

「そういう人間は俺以外にもたくさんいただろう?頑張って普通に生きてるやつは。なんで俺だけ執拗に焼いたんだ?」

「お前だけじゃないさ。お前以外にも、ありったけ焼いた。焼いて、燃やして、灰にしてきた。だが、いくら燃やしてもキリがねぇ。だから、特にダメな奴を焼くことにしたんだ。お前だよ青葉」

そんなクソみたいな理由で、僕の人生はめちゃくちゃにされたのか。ふざけやがって。

「そうか。じゃあそろそろ死ね」

「本当にいいんだな?ここで俺を殺せば、お前の大好きな普通にはもう二度と戻れないぞ」

「いいさ。もう僕は青葉じゃないんだから」

もうこの荷物は下ろそう。僕には重すぎたんだ。

僕は道端に植えてあったスノードロップの花を眺めながら、つぶやく。

「徒花椿(つばき)。それが僕の名前だ」

 

加藤の死体を入れたトランクケースを引きながら、加藤との会話を思い出す。あの普通がどうこうという発言にはどこか既視感があったのだ。

そこで、赤信号にあたり、ふと隣りから聞こえてきた男子小学生の会話に耳をそばたてる。

「だからさぁー普通はあそこでビームを打つの!」

「普通ってなんだよ!俺には俺のやり方があんだって!」

その会話を聞き、ハッとする。

あぁそっか。加藤は以前にもあんなことを言っていたのだった。

 

あれは確か、外には桜が降る清々しい日のことだった。

放課後、もう使われていない旧校舎の階段の踊り場で、僕は加藤に背中をライターであぶられていた。

「なんでだよ!」

「は?」

突然加藤が怒鳴ってきたので、僕はビクッと身体を震わせる。

「なんでだって、何が?」

「なんでお前は誰にも何も言わず、ただ黙って焼かれてんだ」

「いやだって……目立ちたくないだろ。普通が一番だ」

目立ちたくない。僕はとにかく普通に生きていきたいんだ。今まさに普通ではないことが行われているが、これも、耐えていればいずれ飽きるだろう。もしも、身体を焼かれていたなんて知られたら、僕は奇異の目で見られることだろう。それは普通ではない。

「お前はいつもそうだよな?必死に自分を偽って、普通であろうとする。そんなに普通が偉いかよ」

「偉いというか、否定されたくないんだよ。もしも自我を出して、それがおかしいと否定されたりしたら………それがとても恐ろしい」

「自分が否定されるのが怖い…か。だったらその否定ってのを自分もやっているということに気づいたらどうなんだ?」

「何を言っている?僕は人を否定なんて、したことがないぞ」

「現在進行形でしてるだろうが。「何が普通が一番」だ、ふざけんな!そうやってお前ら普通主義者ははみ出し者を否定する。じわじわと、嬲るようにな」

「肯定してくれる人とだけ関わっていればいいじゃないか」

「そういう人間をお前らが減らしてんだろうが。○○すんのが普通、普通は○○って具合に言う。しかも大量の人間が、毎日な。お前らのせいで息苦しいんだよ。俺は産まれた時からずっと生きづらかった。これ以上、普通という名の感染症を広めちゃいけないんだ」

加藤は今までの全ての不満を吐き出すように言う。

僕は、加藤が「生きづらい」と言うのが意外だった。

そりゃ、こんな奴だから万人に好かれているわけではないが、僕よりかは友達も多いように見える加藤が「息苦しい」と言うのが意外だった。

「肯定してくれる人間は一人もいないのか?」

「そりゃ、いるにはいるさ。減ってきてるけどな」

「そうか。じゃあ僕もいつか会えるかな。僕を認めてくれる人に」

「フフッ」

思えば、加藤が笑ったのは火事の時と、死ぬ寸前と、この時だけだったかもしれない。

「知るかよ」

これは嘲笑だったが。

 

「ただいま戻りました」

「おー!おかえりー!トランクはそこら辺に置いといて〜」

僕は初めての仕事を終え、無事にマンションに帰ってきた。トランクケースを靴箱ら辺に置き、部屋に入る。

そして、目に入ったモノに思わず絶句する。

「…あの、もしかしてこれ全部…」

「うん?うん!すごいっしょ!」

部屋の隅には、トランクケースが10個ほど綺麗に並べられていた。鬼灯さんは特に疲れた様子もなく、ソファに座り、優雅にお茶を飲んでいる。

「まっ!あなたもすぐに冷徹に慣れて、こんくらい出来るようになるよ!」

「……はい」

誰にもバレないように、(もしくは、バレたら気づいた人間ごとやっているのかもしれないが)この人数を殺すなんて。鬼灯さんはもしかすると、とんでもない人なのかもしれない。

「どうだい?やっていけそうかい?」

「はい、大丈夫そうです。っていうか、やれそうだと判断したから僕を助けたんじゃないんですか?」

「あの時の私は、咄嗟に見つけて、咄嗟に行動したんだよ?んな事判断できないってば」

「じゃあ、なんで徒花にしたんですか?」

「言わせんなよ恥ずかしい///家族になりたかったからに決まってるでしょ///」

「…さいですか」

「いやまぁ、ぶっちゃけた事言うと、世捨て人のできる一番安定した仕事だってのと、後は他ならぬあなたが「できる」と言ったからだね」

鬼灯さんは立ち上がり、腕を左右に広げる。

「そして、あなたは見事にやってみせた。ようこそ!徒花家へ!」

ようやく会えた気がした。僕を認めて、受け入れてくれる人に。僕は思わず頬を緩ませ、言う

「僕は「あなた」じゃないですよ」

これから僕は、第二の人生を始めるのだ。密かに、でも強く生きていこう。

僕は、窓際に飾ってある五本のバラを見ながら言う。

「僕の名前は椿です。徒花椿」

「椿!良い名前だねぇ!」

「ありがとうございます」

「椿…椿くん…椿ちゃん…椿っち…椿ち…ツバキちだ!ツバキちと呼ばせてもらう!」

「ありがとう…ございます?」

まぁ感謝はすべきだろう。

「時に、聞こうか迷ってたんですけど、誰が徒花なんて苗字つけたんですか?あまりいい意味の言葉じゃないですよね?」

「あぁ〜それね。うん。その苗字を考えて、定着させたの私なんすわ」

「え?」

なんで?どうして、こんな悪趣味な苗字をわざわざ自分たちにつけたのだろう?

「どうして徒花なんですか?」

「私さ、思うんだ。過剰に産まれてきた人、つまりは無駄な命を削るのが私たちなわけじゃん?でも、その無駄な命を削る私たちは、もっと無駄な存在なんじゃないかって」

「そんなこと…ないでしょう。必要だから存在してるんだし」

「必要だよ。必要だけど、必要悪だ。ぶっちぎりのね。誰かが腹を痛めて産んだ命を、一瞬で摘み取る私たちの存在は無価値だ」

話す鬼灯さんは、さっきのテンションはどこへやら、暗い口調だ。

「だから徒花と名付けた。せめてもの贖罪としてね。あとさ、言葉遊び的な感じだけど、いつかこの仕事をやめた時に、徒花ではなくなるからさ。いつか意味のある存在になりたいなって思ってるんだ」

「鬼灯さん…」

「だからさ!徒花になったばかりでアレだけど、ツバキちもさ!いつか貯蓄ができて、生きるための何かを見つけたら徒花をやめるのだよっ!」

「はい。鬼灯さんもね」

「おうよ!いつか二人とも徒花家やめてやろう!」




スノードロップ
花言葉「あなたの死を望みます」
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