僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~   作:あずきBAR

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第二章 共生
第四話 シオン


カッカッカッ

深夜の静まり返った廊下に僕の足音がよく響く。

「ツバキち。今は別にいいけど、足音もうちょい消すの癖にしてこうか。キルアのように」

「あっすいません」

鬼灯さんと一緒に仕事をするのはこれが初めてで、学ぶことが多い。いつもと違って小声で話してくれるが、話す内容も一言多い。

「しかし、こういう仕事もやっぱりしなくちゃいけないんですね」

「まぁねぇー、ずっと自分で選んだ方が楽だよねぇ。殺人現場を偶然目撃した一般人とか、今回みたいな国直々の命令の場合は嫌だよねぇー」

「えぇ。でも、やらなくちゃいけないんですよね。」

僕は腹をくくり、自分に言い聞かせるようにして言う。

「罪のない人でも」

 

僕が自ら椿を名乗り始めて半月後、数回目の仕事を終え、マンションに帰ると郵便受けに封筒が入っていた。部屋に戻り、封筒を開けるが、中には数桁の数字と幾つかの単語が書かれた紙しか入っていない。鬼灯さんが帰ってきてから聞くと

「あぁそれね。ggrks!」

「はい?」

「Googleでその単語で検索して、出てきたサイトにその数字を打ち込むのさ!」

言われた通りにスマホで検索すると、たった一件だけサイトが出てきた。数字を打ち込むと、簡素な白背景に以下のような文章が流れてきた。

【徒花鬼灯さん・徒花椿さん

○○町○丁目の老人ホームをお願いいたします】

最低限の曖昧な情報に、徒花の文字。これは、もしかして

「えぇとーどれどれ?うわ!また老人ホームかぁー!」

「鬼灯さん。これって前に言ってた国からなクエスト的なやつですか?」

「うん。そうだよ!大体介護施設とかだけどね!」

「そうですか。ちなみに、この老人ホームにいる人たちは何か特別悪いことしたんですか?」

「詳しくは知らないけど、多分違うと思うよ。きっとどこにでもいるただの爺さん婆さんだよ」

「...ですよね」

 

「職員たちへの対応はもう終わっていて、後は私たちが片ずけるだけのようだから、誰かが不信に感じて逃げ出す前に終わらせよう」

「はい。一応ナイフを持ってきたんですけど、これで首を切り落とせば楽に逝かせられますかね」

「おっ関心関心。そういうのいい心がけだよ。でもそのやり方だと血がドバドバと出るから、後処理が面倒になるのでベッドとかの上ではやらないようにね」

「了解です。それじゃあ僕は左の方からやりますね」

「OK〜んじゃ、解散」

僕は鬼灯さんに言われた通り、足音を消すように意識しながら歩く。

とっとっとっ

それでも音がよく響く。鬼灯さんのように無音で歩くことはできない。練習も兼ねて、歩みを進めること十数秒、端の部屋まで到達し、部屋に入る。

そこは一人部屋で、中には本を読んでいるお婆さんがいた。起きているとは思わず、ギョッとしてしまう。

「ん?誰だい?こんな夜更けに」

お婆さんもこちらに気づき、視線を向けてくる。っと、しまった。ナイフを見られてしまった。

「はぁー、人に殺される覚えはないんだがねぇ」

慌てふためくかと思いきや、かなり落ち着いた口調で喋るもんだから、思わず聞いてしまう。

「歳だから、忘れただけかねぇ」

「なんでそんなに落ち着いてるんですか?」

「まぁどうせ、もうすぐ来るもんだしねぇ。それが少しはやく来ただけだし」

「それじゃあ、僕に対して怒ったりしないんですか?」

「なんだい?私が慌てふためき、喚き散らす様がみたいのかい?悪趣味だねぇ。それじゃあ、お望み通り…」

「あぁいや、やめてほしいです」

「ふんっ、大体さ、あんた自分の意思で殺しに来たわけじゃないんだろ?」

「...どうしてそう思うんです?」

「どうしても何も、あんたからは、私怨とかをまるで感じないし、むしろこれから死ぬ相手に対して下手に出ている。申し訳ないと思っているからだ」

「それでも苛つくものでは?」

「苛つくさ。あんたに命令を下した人間にな。あんたに怒ってもしょうがないさ、どんな道具を使って何をされようとも、人には怒るが、道具自体には怒らないだろ?私にとってのあんたは、ちょうどあんたが持っているナイフのような存在なのさ。で、あんたの飼い主は誰だい?」

「すいません。答えられません」

「そうかい」

なんだか、やりきれない。これならむしろ思いっきり罵倒される方がマシだ。

「なぁあんた」

「はい。なんでしょう?」

「あんたは、これからもこんなこと続けてくつもりか」

「...当分は」

「しょぼくれた顔すんなよ。別に説教しようってんじゃない。ただ、続けるなら、あまり背負うなよ」

「......背負う...ですか」

「私はな、あんたみたいなクヨクヨしたヤツが重い荷物を自分から背負い続け、苦しんでるのを見るとむしゃくしゃするんだよ」

「でも、これはクヨクヨだとか関係ないことです。命を奪うのだから」

「何をいまさら。私たちは、普段から命を食って生きているんじゃないか。それに、20年前に人口が80億人を突破して以降、いや、もっと前から色んな人間がこのままだと自滅するって言ってたのに、無責任な奴らが構わずガキをつくったせいで、今は大惨事だ。人間同士でも、やれ職業だ、やれ土地だとか争うようになった。私から見りゃこの争いも命の奪い合いだ。幸せな人生を、これからを争うんだからな。まったく......人口増加はいつになったら収まるんだか...つい先日、90億を突破したんだっけか」

 

「大体あんたさ、背負い続けたら耐えられなくなるよ?耐えられなくなったらどうするのさ?」

どうする......か。鬼灯さんは、僕にいつか徒花をやめろと言ってくれた。

やめて、幸せになるのだと。

だが、それはできない。

できるわけがない。

人を殺したくせに、そのことをなんとも思わず、自分だけ幸せになることなんて僕にはできない。だから僕は背負う。背負って背負って、いずれ耐えられなくなったならば

「自害しようと思います」

「理由を聞いても?」

「勝手に人を殺しておいて、自分だけお咎めなしで、幸せに生きるというのは無理です。だから、その償いとして」

「傲慢だねぇ、自分が死ねば贖罪になるとでも?イエス・キリストじゃあるまいし、おこがましい」

「でも、何もしない訳には...」

「私はなにも、開き直れと言ってるんじゃない。そりゃあ、罪は償うべきだ。ただ、償いすぎるなと言ってるんだ。謝って、反省する。これで終わりでいいじゃないか」

「いや、でも...」

「でもじゃねぇ。よっぽどどうしようもないヤツじゃない限り、罪を犯したら幸せになっちゃいけないなんて道理はねぇ。そんな道理が通ったら、可哀想すぎんだろ」

お婆さんは立ち上がり、こちらをねめあげるようにして言う。

「納得したか」

「......いえ」

「そうか。じゃあお前と同じことしてる奴らにあんたの理論を提唱できるんだな?」

「それは...」

鬼灯さんが幸せになっちゃいけないなんて、それは...そんなことは...

「そういうことさ。あんたは人殺しってのを重く捉えすぎなんだよ。たかが人が死ぬだけ、当たり前のことだ。考えすぎなんだよ」

お婆さんはこちらに近づきながら、ナイフを指さし、言う。

「なんだかんだ、説教みたいになってしまったね。話つかれたよ。そろそろ終わりにしてくれ」

納得したつもりはないのだが、鬼灯さんのことを思い浮かべると、自然と冷徹が動き、ナイフをお婆さんの首に押し当てた。

「さぁ、はやくやりな。焦らされるのは好きじゃない」

「ごめんなさい。あなたのことは忘れません」

「さっきの話聞いてたか?荷物なんて背負うな。忘れろよ、こんな老いぼれ」

「いいえ、絶対に忘れません。あなたはまったく重くないから。

あなたは、僕の中で生き続ける」

「そういうのは、物語のヒロインに言うセリフだよ。他のやつに言いな」

「ハハッ...そうですね。それじゃあ......さようなら」

「あぁ、さよなら」

ナイフを軽く首から離し、勢いをつけて掻っ切る。

「また会いましょう」

 

この人はきっと、僕以外の人にも覚えられている人間だ。だから、この人を見ていると、青葉はこの人のように生きていれただろうかと少し不安になる。青葉は誰かに覚えられているのだろうか。

徒花椿……いや、椿は…誰かに覚えられる存在になれるだろうか。




シオン
花言葉「あなたを忘れない」
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