僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~   作:あずきBAR

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第六話 サフラン

人類選別、もとい人殺しをした後には、いつも僕の頭の中は忙しくなる。

上手に殺せたかどうか、どうやって死体の処理をするか、罪悪感、本当に殺すべきだったか、そういったことを必ず考えてしまう。その中でも一際大きな考えが、誰が悪いのかということだ。

まず、僕は人殺しをしている。そのこと自体は紛れもない悪そのものだ。だが、それは鬼灯さんの言っていた通り、必要悪だ。だから僕は悪くない。

そもそも、人類選別が行われているのは、地球上に暮らしている90億人の人間のせいだ。だが、人が子どもを産むのは、しょうがないことだ。みんなのために子どもを産むな、なんて考えには、その「みんな」に個人と個人の子どもは入っていない、という矛盾が生じるからだ。だから90億人の何も知らない人間は悪くない。

それじゃあ、人類選別を始めたどこかの誰かが悪いのかというと、それも違う。僕の善悪についての考えと同じ考えだが、これもしょうがないこと、必要悪なのだ。増えすぎたものは、減らしてバランスをとらなければならない。だから、どこかの誰かは悪くない。

じゃあ、一体誰が悪いんだ?僕の中に渦巻いている悪感情を、どこにぶつければいいんだ?

 

あのお婆さん以外には、起きている人は誰もおらず、滞りなく作業が終わった。鬼灯さんに電話をかける。

「鬼灯さん、こっち側終わりました。」

「おっ!ナイスー!こっちも終わったから、入り口のとこで待ってるからね!」

「はい、了解です」

待っ「てる」……か。こんな単純作業でも差がでてくるものだ、と軽く落単する。

鬼灯さんが仕事をサポートをしてくれるのは、一ヶ月間。その時間が刻一刻と削れていくが、鬼灯さんとの差が埋まる気はしない。この一ヶ月の間に、できるだけ強くなりたいというのに。

別に敵対心を持ってるとか、褒められたいとかってわけじゃない。が、人の役に立てるなら、それも、鬼灯さんの役に立てるなら、これ以上の喜びはないのだ。

なんだか僕、忠犬のようだな。

自分で考えて、自分で笑ってしまう。まだ出会って数日しか経ってないのに、すでに鬼灯さんは僕の中で必要不可欠な存在となっている。

まぁでも、それも当然か。鬼灯さんは、僕に新しい人生をくれたのだ。己に嘘をつき続け、絶望しか見えなかった僕の真っ暗な人生に光をくれた。だから、僕は鬼灯さんを尊敬している。

できることなら、これから先もずっと一緒にいれたらいいな。

血まみれのナイフを拭きながら切に思う。

 

椿との電話を切り、独りごちる。

「大丈夫かな…」

思っていたとおり、普通に仕事を終わらせた。普通に、だ。まだ徒花になったばかりだというのに、老人ホームの仕事を普通にこなせるなんて、普通じゃない。

老人ホームの仕事じゃなくたって、こんな仕事をしていたら普通は陰鬱になったり、発狂したり、なんらかの心情の変化が起きる。だが、彼には起きなかった。適応能力が高すぎる。

このままだと、いずれ私の必要性が薄くなってしまう。

椿は、今でこそ私に懐いてくれてるが、椿が強くなった時、椿は私を必要だと思うだろうか?椿は自分より強い私を見ているのではないだろうか。強い椿は私を見てくれるだろうか。

いや、きっと大丈夫だ。彼がいくら強くなろうと、「あのとき手を差し伸べてくれた徒花鬼灯」は残る。

そうなるように頑張ったのだから。何も心配はない。

私と椿は強い家族の絆で結ばれているのだ。

 

「丈夫…大丈夫。大丈夫。大丈夫」

「あっと、鬼灯さん?」

「っ!?」

鬼灯さんに言われた通り、入り口まで戻ってきたら鬼灯さんが「大丈夫」とひたすら連呼していたため、とても怖かった。

驚きっぷりは鬼灯さんの方がいいが、恐怖のレベルは僕の方が上だったと思う。

「あの…なにかありました?」

「あぁ!いや!全然全然!なにもないよ!大丈夫ぅ〜大丈夫!」

「そうですか。なにかあったら話してくださいね」

鬼灯さんは「なにもない」とは言うけれど、「なにか」は常にあるはずなのだ。

それは例えば人殺しを仕事とするゆえの悪感情かもしれない。

後悔、葛藤、罪悪感、不安、孤独、焦燥、自分への嫌悪、普通への渇望、それらが渦のように捻れて混ざって寒色と暗色だけの極彩色ができあがり、人の心を塗りつぶす。

そんなイメージが今の僕には簡単に想像できる。そしていずれ、僕がそのイメージ通りの現象にあうかもしれない。鬼灯さんは今そうなっているのかもしれない。

そもそも、この元気な人格が本当の鬼灯さんなわけがないのだ。これはきっと、その極彩色を誤魔化すために無理矢理作り出した人格ということなのだろう。

鬼灯さんは、一体どれだけ耐えきたのだろうか。どれだけ耐えられるのだろうか。もしも耐えられず、鬼灯さんが泣いたときに、僕はその隣であのお婆さんのように強くありたい。

「それじゃあ鬼灯さん、帰りましょうか」

「うん!そだね!」

 

「ねぇ鬼灯さん」

「うん?なに?」

ライトアップされた街路樹を眺めながら歩いていると、椿が語りかけてくる。

「僕の研修期間的なやつって、一ヶ月で終わるんですよね?」

「うん、そだよ!なーに?ツバキちは私と離れるのが寂しいのかい〜?うりうり〜」

「やっ、別にそんなんじゃ…」

椿は、私との距離感を測りかねているのか、こういう軽いスキンシップをするだけでも困った表情を浮かべる。

「いやまぁ、そうですね。寂しいです」

椿は少し俯き、はにかみながら言う。

えっ?なに?いきなり。そんな反応されるとは思っていなかった。

「うぇっ?あっ、うん。……ハハッよせやい!照れるなぁ!」

「えと、それでですね。その一ヶ月が過ぎても、会うことってできますか?」

めっちゃ私のこと好きじゃん、ビックリした。まさかここまで好かれていたとは、意外だった。家族になるためとはいえ、人殺しの道へ誘ったため、明確に好かれるまでに相当の時間がかかると思っていたが、なるほどこれが家族か、と私は初めての感覚に感動する。

今までも、徒花となった人々を家族だと思って接しようとしたことはあったのだが、結果は散々だった。ろくな家族関係を築けないのだ。

徒花になる人間は、その半分が同じ徒花に殺される。殺されるべきだと判断されれば、徒花だろうと殺される。いくら人を殺して化け物になっても、英雄気取りになっても、私たちは人間。そのことに変わりは無いのだから。

殺される人間の例としては、苦痛を与えて殺すことに楽しみを覚えた人、女性だけを狙い、強姦してから殺す人、壊れて何もできなくなった人、罪の意識に苛まれて自分から殺してくれという人、もしくは自殺する人などだ。

半分がそんなので、じゃあ残り半分がマトモかというと、そういうわけでもない。私の元気な人格のモデルとなった、仕事時とそれ以外のテンションの差が激しすぎる人。人類選別を聖なる行為だと信じている人。殺した人間の頭蓋骨をコレクションしてる人。超重度の武器マニア。

よりどりみどり奇人変人ばかりだ。数少ないマトモな人もいるにはいるが、そんな人に限って、そもそも私を家族と認めてくれない。

そんな人間にしか出会ってこなかったため、お先真っ暗だと思っていた。だが、欲しいなら自分から理想の人間に会いに行くべきということを、すっかり失念していた。そんな単純なことだったのだ。やり方しだいで、こんなにはやく素敵な家族を手に入れられた。

あぁなんて幸せなんだろう。生まれてきてから、こんなに幸せなのはこれが初めてだ。

胸が高鳴る。気分が高揚する。

今なら、なんでも叶う気がする。

なんならなにか叶えてみよう。

そうだ。呼び方を変えてもらうというのはどうだろう。「鬼灯さん」というのは少しよそよそしい。いっそのこと「お姉ちゃん」もしくは「鬼灯」と読んでもらおう。私が椿の姉か妹はハッキリと決めてはいないし、どっちでもいいけれど、私の方が年上だし「お姉ちゃん」と読んでもらおう。いや「鬼灯姉さん」とかでもいい。

「いつでも会おうよ!てか、なんなら一緒に仕事しよ!」

「いいんですか?ありがとうございます!」

「いいってことよ!私もツバキちと一緒にいたいしね!じゃあさ、そこら辺の手続きを私がやっとくから、その代わりと言っちゃなんだけど、私の呼び方変えてみない?」

「呼び方、ですか。今のところ鬼灯さんと呼んでますけど、これじゃダメなんです?」

「ダメ!なんかよそよそしいじゃんね!家族なんだし、お姉ちゃんって呼んでよ」

「えっいや、それはちょっと…」

は?

は?は?は?なんで?どうして駄目なの?私たち、もう家族のはずだよね?私が一方的に思っていただけだっていうの?私は椿が私に気づく前に椿に気づいて、家族になるために頑張ったんだよ?私が君を救ってあげたんだよ?ずっと前から、いつか家族を手に入れたいと思って頑張っていたのに。そしてようやく、手に入れることができたと思っていたのに、その結果がこれなの?こんなことを言われるのが、私の追い求めてきた理想だっていうの?信じられない。そんなのはあんまりだ。こんなの嘘だ。嘘だと信じたい。嫌だ嫌だ嫌だ!お姉ちゃんって呼んでよ。家族だと認めてよ。君が唯一の希望なんだよ。代わりなんて考えられない、たった一人の希望。私はきっと、君に会うために生まれてきたのに、君こそが私の人生の根幹になるのだと心の底から信じているのに。もしかして、ここでお別れなの?私を見捨てる気なの?あいつらみたいに?私と流れる血が同じだっただけのあいつらみたいに?薄情で頭のおかしい他の徒花家の面々のように?嗚呼どうかそんなことだけは言わないでほしい。私の努力不足だったのなら、これからもっと頑張るから、だから捨てないで、捨てないで。こんなことになるなら、これからと言わず、もっとなにかしておけば良かったな。なんでしなかったんだろう。調教でも洗脳でもなんでもすれば良かったではないか。私の人生最大の失態だ。この後悔をバネに、今後に生かさなければならない。今後はあるかな?いやつくってみせる。私には、今まで働いてきた分の金がある。これさえあれば大体なんでもできる。できない部分は私自身で埋めるだけだ。そもそも、私に服従させれば良いのだ。まさかこんな酷いことを言って、裏切ってくるだなんて思いもしなかったから、服従だなんて、する必要も感じなかったが、もうこの際仕方がない。さっそく帰ってから調教を始めよう。

その前に、一応今の言葉が聞き間違いかどうか確かめておくか

「それってどういうこと?」

「どういうって、僕ら出会ってからそんなに時間経っていないじゃないですか。あぁでも、呼び方がどうであれ、鬼灯さんが僕にとってかけがえのない人であることに変わりはないですよ。これから徐々に仲良くなっていきましょう」

なんだ、そんなことか。

「うん!これからもよろしくねっ!」




サフラン
花言葉「喜び、過度をつつしめ」
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