僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~   作:あずきBAR

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第八話 シャクナゲ

「鬼灯はな、お前とそう変わらない年だが、お前よりもずっと徒花の経験が長い。確か、小学生の頃にはもう徒花になっていた」

「小学生から!?そんな頃から十数年この仕事を続けていたんですか!?」

「あぁー、アイツには才能があった。人殺しの才能が。だからここまで生き残ってこれた。そしてこれからも生き残ってほしい。たくさん人を殺すためにな。単純計算だが、アイツなら平均的な徒花の数十倍の活躍をすることができる。

その鬼灯が死ねば徒花家、いや、日本にとっての大きな損失となる」

僕は、あらためて鬼灯さんが凄い人だったのだと思い知る。やはり、鬼灯さんは徒花の中でもトップクラスの存在なのだ。僕なんかが一緒にいることが申し訳なくなる。

じゃあ、なんでその鬼灯さんが僕が死ぬと自殺するのか?人が死ぬことなんて、体に染み付くくらいに慣れているはずだろうに。一ヶ月、同じ釜の飯を食べた程度の男など、いても死んでても変わらないと思うのだが。

「あの、花育さん"僕が死ねば鬼灯さんが死ぬ"ってのは考えすぎなんじゃないですか?」

「おいおい、とぼけるなよ。あのお前への態度、ありゃ相当お前に心酔って感じだ。依存してることくらい分かるだろ?」

「でも、死ぬほどってわけじゃないでしょ。いくらなんでも」

「いや、死ぬほどだ。何があったか知らないが、アイツはお前に会う前はあんなんじゃなかった。常日頃から死んだ目をしていて、話しかけても、ろくな返事が返ってこない。幽霊みたいなやつだったよー。そんなのがあれになったんだぜ?」

元は幽霊のようだった。その過去は、どこか納得できるものだった。

初めて会った時の冷たい目、老人ホームで「大丈夫」と連呼していたこと、時折、無表情で虚空を見つめること(多分考え事?)など、普段のハイテンションっぷりが嘘八百であることくらい分かる。

そして、僕がいなくなることで、その幽霊のようだった時以上に幽霊になるかもしれない、と。本当に?僕はそんなに好かれるようなことはしていないはずだ。

「不思議そうだなー。なんでその鬼灯が、お前を好いているのか」

「好いている......ですか。まぁ距離感は近すぎますよね。」

小学生から人殺しなんて仕事をしているのだから、人と話す機会がなく、人との接し方が分からないとか?

そういえば鬼灯さんは徒花は家族であると、よく主張している。その他の徒花の面々と会う機会というのは、どのくらいあるのだろうか?まだ僕は鬼灯さん以外に会ったことがないが、鬼灯さんは、あまり他の徒花について語らないし、質問しても語りたがらない。

あまり良い人たちではないんだろうな。人殺しだし。だからやっぱり、鬼灯さんの距離感がバグってるのは、

「人と接してこなかったからとか?」

と思ってしまう。

「違うな。まぁーアイツの周りに、ろくなやつがいないってのは、そうなんだが」

やっぱりか。鬼灯さんと花育さんの両方に良く思われていない他の徒花の人たち......会わないことを切に願っておこう。

「徒花という苗字を、人類選別の仕事してるやつらにつけたのが鬼灯って話は聞いたか?」

「はい。せめてもの贖罪と、自分たちへの将来への希望を込めた名前だと聞いています」

「アイツはさ、人殺しを家族だと言ったんだぜ。それほど「家族」に対して歪んだ執着を持っているんだ」

「それは......どうして?」

聞いてしまった。

聞いていいことなのだろうか。

「詳しくは語らねぇし、つか知らねぇが、アイツは父親から虐待を受けていた。腕が使い物にならなくなるほどの、な」

「虐待......ですか。それに腕が壊れるほどって、ちょっと想像つかないですね」

「虐待自体は別におかしい話じゃない。昔より減ったってだけで、あるのはある。だが、お前の言う通り、そのレベルが異常だ。しかも元は優しかったというんだから驚きだ。会社が倒産し、借金をして、離婚して、子どもにあたるようになり、それがエスカレートしていった」

「そんな出来事。「家族」を拒絶するようになるんじゃないですか?なんで逆に執着してるんです?」

「だから、元は優しかったんだって。その頃の甘い夢を見続けているんだ。失ってしまった幸せを」

そんな......あんまりだ。

「その後、心が壊れた鬼灯は父親を殺害、警察に追われるも、警察官三名殺害、一ヶ月半逃げてみせた。その様を見て、当時の花育や、国のやつらは鬼灯を人類選別人にしたんだ」

鬼灯さんは、そんな過去を過ごして、それでも幸せを追い求め続けているのか。

僕は心のどこかで、自分が世界で一番不幸な人間だと思っていた。そして死んで楽になろうとしていた。そんなに......そんなに足掻いている人がいたというのに。

「...鬼灯さんの事情は分かりました。でも、鬼灯さんと僕の問題をどうしろってんですか?鬼灯さんと僕が死なないために徒花やめろって話ですか?僕お金ないんで無理です」

「それも方法の1つだ。この問題を解決する方法は他に3つある。俺はそっちをオススメしたいなー」

「どんな方法です?」

「まず、会う頻度を徐々に減らしていくことだ。これはどんな依存性にも使える万能な方法だ。が、依存が強すぎて、これはちょっと難しいかもな。むしろ更に強くなるかもしれねぇー。2つ目は...」

花育さんはそこで言葉を詰まらせるが、再び口を開く。

「2つ目は"指導"すること。言葉を濁さず言うならば、俺が拷問して、無理矢理に依存度を下げるって方法」

は?なにを言っているんだこの人は。

「ちょっと待ってください。それだけはやめてください。そんなことされたら、最悪、僕が花育さんを殺さなきゃいけなくなる。僕、そんなの嫌ですよ」

「あーはいはい」

花育さんがボソッと「コイツも大概だな」とこぼす。

まぁ人生最大級の恩人だし、僕の反応は当たり前だ。

「じゃあこれはなしっと。じゃあ3つ目かな、3つ目は今を維持するって方法だ」

「それは解決になっていないんじゃ?」

「いやー、なるね。そもそもこの問題は"お前が死ねば鬼灯も死ぬ"ことだ。いくら鬼灯がお前に懐こうが、お前が死ななけりゃ、それでいいんだ」

「ああそっか。じゃあ最初からそこまで大きな問題ではなかったんですね」

「どうしてそう思える?」

花育さんの声のトーンが落ちる。

「えっ、だって冷徹があれば、まず死ぬことはないでしょう」

「さっきした話をもう忘れたか?徒花の死因のほぼ全てが、同じ徒花に殺されること。枯れたと判断されれば殺される。選別される。お前はこの先、自分が枯れないと言いきることができるのか?」

「それは......」

僕が枯れるかどうか、そんなこと。

「大丈夫だと思います」

大丈夫に決まってる。

僕は、自分の過去に決着をつけた。

あのお婆さんから生きるための言葉をもらった。

鬼灯さんがいてくれる。

じゃあもう大丈夫だ。これだけでいい。僕は枯れない。みずみずしく生き続けてみせる。

 

「あー!やっと帰ってきたー!おかえり!寂しかったよー。おーいおいおいおい」

「ただいま帰りました。」

鬼灯さんは動けるようになっていたみたいで、リビングの方からトテトテ走ってくる。

「メンテナンスだけにしゃ、長かったねー!なんか話してた?」

「えぇ、花育さんが鬼灯さんは困った人だと言っていました」

「酷い!もちろんツバキちはちゃんと言い返してやったよね!?」

「僕も困った人だと言ったから、話が盛り上がって、それで長くなっちゃいました」

「むきー!」

鬼灯さんは痛くない程度に小突いてくる。あんな話を聞いた後だから、そんな姿が無性に愛おしく思える。無意識に僕は鬼灯さんを抱き寄せる。すると途端におとなしくなるのだから、これがまた愛おしい。

「やっ、あのっ、ツバキち?」

「僕が一緒にいますからね」

ずっと......ずっとこのままでいれたら、どんなに素晴らしいか。

 

この時の僕は、鬼灯さんと一緒にいることでは、「僕が死ねば鬼灯さんが死ぬ」ことの解決はできるが、それ以外のことはなにも解決できないということに気づいていなかった。

いや、もしかしたら気づいてたのかもしれない。気づいていた上で、蓋をしていたのかもしれない。人間、甘い夢を見ていたいものなのだ。そのあとのことは何も考えずに。




シャクナゲ
花言葉「危険」
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