僕の姉は殺人鬼~そんな姉に溺愛されてていいのか!?~ 作:あずきBAR
第九話 キブシ
「やめろ!くるな!」
逃げる人間を追いかけるのも、だいぶ慣れてきた。追いながら小石を拾い、足を狙って投げつける。
「うわ!?」
逃げる人間を捕まえるのも、だいぶ慣れてきた。
「やっ!やめろ!なんでこんなことするんだ!?なんで俺なんか!?」
「あなたである理由は......強いて言うなら、轢き逃げをしたことくらいですかね」
「なんでそのことを!?くっ、誰かー!助けてくれー!殺されるー!」
「叫んでも無駄です。人がいないところまで移動させたので」
「はっ!?」
僕に言われて、男は住宅街からとうに離れてしまったのだと気づく。
鬼灯さんにこういうやり方を教えてもらった時は、そう上手くいくか?と疑っていたが、人間の視界は案外狭いのだと知る。
「やめろ!俺を殺して何になるってんだ!」
「ごめんなさい。こういう仕事をしているんです」
「仕事だから?それがなんだってんだ!お前はそのクソみたいな仕事を選んでんじゃねえか!仕事を言い訳に自分がやってることを誤魔化すな!」
人間は、「仕事だから」で大体のことはできてしまう。言い訳が一つでもできたら、やりたい放題だ。
だから、仕事を言い訳にはしないように心がけている。罪は背負う。背負い過ぎない程度に。
「すいません。苦しまないようにするので、どうか動かないでくださいね」
ナイフを取り出し、首を目掛けて走らせる。
「しもしも?仕事終わった?」
「はい。鬼灯さん、今日のノルマ終わりましたよ」
「お疲れ様!そんでお疲れついでに、そろそろ「鬼灯さん」呼び変えない?私たちが出会ってからもう三ヶ月だよ?」
またか。鬼灯さんは最近コレばっかりだ。僕の中では、もう鬼灯さんで定着しているのに。
「やぁ、まあーはい。それで?電話の内容はなんです?」
「今のが話したい内容の一部ではあったんだけど!まっ!電話で話す内容じゃないから、一旦帰ってきて!ダッシュ!」
なんだろうか?電話を切り、家へと走る。
「おっ、来たか」
「こんばんは、聖なる使命を背負った同士よ」
「おかえりー!ツバキち!」
「......こんばんは」
家には知らない人が二人いた。
一人は、無表情が顔に張り付いており、腰に刀を下げ、太ももにはナイフと手斧を付け、背中にはトンファーを背負い、手には持ち手が1mほどあるハンマーを持っている三十代くらいの男。
もう一人は全身真っ白な服を着た。紳士然とした美少年。中学生くらいだろうか?なんかさっき変なことを言っていたが、鬼灯さんと武器をたくさん持った男がノーコメントな辺り、触れなくてもよさそうだ。
「うん?鬼灯、お前さん急にハイテンションになったじゃないか。元気なのは良いことだ。うん」
「いやいや!元から元気だったよ!ずっと元気!」
そろそろ演技だとバレてると言った方がいいだろうか。
「あなたたちは?」
「俺は徒花
「私は徒花
無表情な鳥花さんとは対照的に、向日葵さんは朗らかな笑顔を浮かべる。
「鳥花さんに、向日葵さんですね。よろしくお願いします」
そう言うと、向日葵と名乗った少年が胸に手を当てて、謙遜するように言う。
「さん付けはいいです。呼び捨てか、君付けで。敬語もいいです。多分、僕の方が年下でしょう?どうかお気遣いなく」
気遣いというか、敬語の方が僕的には話しやすいのだけど。
「そっか、それじゃあこんな感じで話させてもらうね」
「えぇ、ありがとうございます」
「ね!ツバキち!年数えてないから分かんないけど、多分私もツバキちより年下だよ!呼び方と話し方変えようか!なんかよそよそしいしさ!」
「鬼灯よ、やはりさっきよりだいぶ元気だな。テンションの差にちょっと引くぞ。というより、さっさと話に入りたいのだが」
「ああそうだ。話、というか、おふたりはどうしてここに来たんですか?」
「共同の仕事だ。少し厄介な仕事があるんだが、そのメンバーがこれというわけだ」
「厄介な仕事?」
「中国にいる同業者狩りだ。あっちでの名称は「プレイヤー」だったか」
中国の?なぜ国外の話がでてくるのだ。「中国の同業者」、もといプレイヤーを狩るということは、花育さんの話を当てはめるなら、その人たちは腐ってしまった人たちということだろうか?
でも、その問題をどうして日本が?国内で済ませた方が情報秘匿の上でもいいと思うのだけど。
「そういうのって、自分の国の中で済ませる話なんじゃないですか?どうして国をまたぐ話になるんです?」
そのことを言うと、急に鳥花さんが黙りこみ、代わりに!とばかりに鬼灯さんが身を乗り出して、言う。
「それはね!とあるバカな徒花の人が、わざわざ中国まで行って、自分と無関係なプレイヤーを襲撃して!殺して、物を奪ったからなの!」
「そんな人がいるんですか...でも、それが今回の話にどうやって発展するんです?」
「今回の場合、人が理不尽に殺され、しかもその殺された人が生前、多くの人に慕われていたとのことで、中国のプレイヤーが怒って、復讐に来たわけです。まったく…愚かな話です」
「そうなんだ。はた迷惑な人がいるものだね」
「ねー!ねぇ、鳥花さん。ね〜」
ん?なぜそこで鳥花さん?いや、ただ単に同意を求めただけか。その割には鬼灯さんは、鳥花さんをジトリと睨んでいるが。
鳥花さんはそっぽを向き、気まずそうに口を開く。
「仕方がないだろ。ヤツが持っていたこのハンマーは、あまりにも美しかった。欲しくなるのも当たり前のことだ」
「......」
この人がやったのかよ。
どういう心情で「さっさと話に入りたい」とか言っていたんだ。
「まぁ、今は鳥花さんを責めてもどうにもなりません。起きたことは起きたことです。それに彼は、もともと私と鬼灯さんだけで片ずける予定だった今回の仕事に、自ら参加したのですから。罪を償う意識はあるのです」
「ああ、そうだな。悪いと思ってる。だから一緒に頑張ろう」
面の皮厚いな、この人。向日葵君も、少し優しすぎる気がする。
というか、待てよ。今気になる言葉が聞こえた。
「向日葵君と鬼灯さんの仕事に、なんで僕まで加わってるの?ですか?」
敬語を使う相手と、使わない相手が混在する場での話し方に混乱しながら、指摘する。
僕は人類選別をしている者同士の戦いについていける自信はないのだけれど。なんで、さらっと僕まで巻き込まれているのだ?
「鬼灯さんの強烈な推薦によるものです」
「はい?」
「今回の仕事、最低でも一日はここに帰れないの!その間、私とツバキちは会えなくなるじゃん!でも、それってお互い嫌でしょう?だからさ!一緒に行こう!」
嫌です!!!と声を大にして言いたいところだが、鬼灯さんの言葉には、どこか絶対に同行させるという重みがある。なんで?花育さんが言うことには、鬼灯さんは僕のことを死ぬほど(文字通り、死ぬほど)好いているはずなのでは?どうして死ぬかもしれない仕事についてこさせるのだ?
「そう不安そうな顔しないでいいよ!安心して!ツバキちには私がいる!ずっと一緒にいて、守ってあげるから!」
そこで向日葵君が鬼灯さんを手で制し、スマホのGoogleマップを僕らに見せつける。
「いえ、鬼灯さんには鳥花さんと一緒に、この場所を任せたいんです。椿さんには私と行動を共にしてもらいます」
「はいー!?なんで!?向日葵君が鳥花さんと組んでよ!私はツバキちと一緒がいい!」
「まだ経験が浅い椿さんを守るべきという意見、分かります。だから私が同行したほうが安全かと」
「いや、それはそうだけどさぁ!てか、なんで向日葵君が作戦たててんの!横暴だ!」
「ここにいる皆。私以外、作戦たてられないでしょう。できるなら任せますが」
「やっ!なぁ〜〜〜!」
鬼灯さんが悔しそうに顔を伏せる。どうやら、向日葵君は頼りになるようだ。
「それじゃあ、作戦を説明しますね。プレイヤーは向こうから来日してくるので、まずは空港を.........」
一定の大きさを超えたブームは、その大きさ故にさらに大きくなる。変な話だが、ブームがブームを加速させるのだ。あれはあんなに流行っている、それじゃあ素晴らしいものなんだと、人が人を呼び、雪原を転がされる雪玉のように大きくなっていく。
結局、今回の件もそういうことだったのだろう。普段から人を殺しているくせに、「身の回りの人が死んだ」という大きな事件に皆が目を向けて、集まり、その集まりを見て、さらに人が集まった。
もちろん、この時点でこの話を終わらせていなかったら、被害はさらに増えていたことだろう。
今回の件における人類選別人の死者数。
中国の人類選別人「プレイヤー」 48人
日本の人類選別人「徒花」 1人
両国合計で49人が苦しみ死んだ。
今日もどこかでブームが起き、終わる。人々はブームに乗っているつもりでも、乗らされているということに気づかずに、もしくは気づいていながらも、踊り続ける。
なんだか、ブームに対する批判のようなことをしてしまったが、結局のところは皆が思うことは、生きてさえいれば、別にそんなことどうでもいい、ということだ。
この考えを恥じることはない。
なぜなら、みんな同じ考えなんだから。
キブシ
花言葉「出会い」