皆疲れたのか、プールの掃除が終わった後にそそくさと着替えて寝てしまった。それはもちろん先生も同じである。年甲斐もなくはしゃいで異常なまでにカロリー消費をした影響で先生にはとてつもない眠気が襲ってきていた。
シャーレの仕事がなかったため、今日はいつもより早く寝られそうだぞ、と思っていたらドアをノックする音が。一体誰だろうか、こんな夜更けに。そう思ってドアを開けると、そこにはヒフミがいた。
「よ、夜遅くにすみません、先生…」
「“こんばんはヒフミ。どうかしたの?”」
「あはは…えっと、これから試験に向けて1週間あるわけです、できるだけ効率的にやりたいので、模擬試験をつくりたいんですが…手伝っていただけませんか?」
「“もちろん、ヒフミの願いなら喜んで”」
そう先生は口にする。私達はいつも思うことだが、こいつは生徒と話をするとき否定の選択肢があるのだろうか?
それはともかく。
「よかったです…先生が協力してくれなかったら一人でやらなくてはいけなかったので…どうしようかと」
「“先生だからね。困ったらいつでも相談してね”」
「頼りになります…!」
「ぅ…ん…おはよう」
「リエさんおはようございます、さっそくですが朝ごはんにしますか?それかシャワー?それとも…わ・た・し?」
「…シャワー浴びてくる」
「つれないですね~」
朝からなかなかに刺激的なものを見ていたが、先生は元気です。
リエがシャワーを浴びに行った後、ハナコの朝食を頂く。…うん。お嬢様の味がした。
「あ、もう起きていたんだ。おはよう」
「“おはようアズサ。よく眠れた?”」
「うん。不眠は起きてる間のパフォーマンスを下げるから」
「“そう?よかった。”」
「ヒフミを起こしてくる。待ってて」
「ヒフミ、朝だ。起きて」
「う、うーん…あと一分だけ…」
「ほら、コハルも。何してるの?」
「ぅんにゅ…んむぅ…」
「…ダメみたいだ」
アズサは落ち込んでしまった。意気揚々と二人を起こしに来たはいいものの、なんと残念なことか。ヒフミは夜分遅くまで模試を作っていたし、コハルはそもそも朝が弱いので仕方のないことである。そんなこんなで奮闘虚しく起きないヒフミとコハルをアズサが困った顔で覗いていると、ハナコが戻ってきていた。
「あら、二人とも起きないんですか?」
「うん…さっきからずっと声をかけているんだけど…」
「そうですか…じゃあ選手交代です♡」
そう言ってハナコはコハルの方に近づいていく。
「ほら、コハルちゃん、早く起きないと…」
「…襲っちゃいますよ?」
「なっ!?」
まさかの爆弾発言である。コハルはわなわなと肩を震わせ、ヒフミも顔を真っ赤にして飛び起き、何も知らないアズサは首をかしげている。
「皆起きたー?…なにこれ、どういう状況?」
「来たか、リエ。襲うとはどういう意味なんだろうか?状況的に攻撃的になる、という意味ではないんじゃないかと考えているんだが…」
「大体わかった」
「“全員そろったみたいだね”」
その後、なんやかんやあって、皆を落ち着けることが出来、先生とヒフミが壇上に立っている。
「皆さん、これから私達は一週間、ここで勉強をすることになります…なので、まずは自分がどれぐらいの実力をもっているのかを知ってもらうため、先生と二人でテストを作成しました!範囲や内容は試験範囲と全く同じです!頑張りましょう!」
…うん、やっぱりヒフミは指導者向きなんじゃあないか?
「しかし、せっかく合格点に達しても何もない、というのもやる気がそがれてしまいます!なので…」
そう言ってヒフミが出したのは、ぬいぐるみだった。普通のぬいぐるみならば、まだいい。しかし、机の上に出されたのは…
今にもこぼれそうな眼球。
端的に言って「イッちゃってる」目。
大きく飛び出た長い舌。
異常に短い羽と手足。
そう、ペロロだった。
はっきり言おう。
この鳥(?)、すごくキモイ。
まさに人を選ぶデザインである。
「え、えーと…」
「あら、あらら…」
「“うーん…”」
見た通りコハルは絶句、ハナコは困惑。先生はヒフミのペロキチ具合は御存じなので苦笑である。この感じだとアズサも…
「おぉ…」
ん?
んん?
なんか羽が動いてる…いやーまさかね?
「か…」
ほら、可愛くないだってさ?
「かわいい…!」
ん?
んん?
「あ、アズサちゃん!?ペロロ様の良さがわかるんですか?」
「なんだこのずんぐりとしたフォルムは!?かわいい!!!」
えぇ…(困惑)
可愛い?
アノキモイトリガ?
えぇ…(困惑)
ま、まぁやる気が出る分には問題ないだろう…
ちなみにアズサのその後のテストは49点。頑張ったと思うよ。
「リエさん、先生についてはどうお考えですか?」
「先生?強い人ですよね。序盤中盤終盤、隙がないと思います」
ティーパーティーテラス。いつもの密会である。
「しかし、先生はヘイローがないので銃弾は耐えられませんよ?」
「ああ、そういった強さを口にしているのではなく…」
「では指揮能力の高さでしょうか?」
「それもありますが、先生の最も強かな点はやはりその精神だと考えます」
「精神?」
「はい。先生は生徒を第一に考えます。生徒の為ならたとえ自分がどうなろうともいとわない、自分に執着しないあの黄金精神。ナギサ様も生徒のうちに含まれているでしょうから、話せばいつかはわかるはずです」
「そうでしょうか…あの方は少数を犠牲にして多数を生かす、という考えを許容しないように思いますが…」
「では、どのみち先生とは敵対するしかないでしょう」
まったく、損な役をする羽目になってしまった。