こんにちは。
今日もいつもと変わらず補習監督だ。
「リエ、ここはどうやって解けばいい?」
「ここは三角比。できる?」
「なるほど。的確だな」
相変わらずヒフミはまじめにやってるし、ハナコは笑いながらこちらを見ている。アズサはモモフレンズの日からやけに気合が入っている。やはり何か形のあるご褒美はうれしいのだろうか。反対に、コハルはうんうんとうなって古文を解いている。しかし確実に一週間前よりも問題を解く速度は上がっている。
「リエ、ここは?」
「えっと、ここは……公民か」
公民は苦手である。そもそも私はトリニティの出ではないから、政治はナギサ様に任せっきりであんまり詳しくはない。武力組織にも入っていないので刑罰に関してもさっぱりだ。
「ここは流石に参考書がないと困るな……アズサ、持ってる?」
「ごめん、持ってない」
「ヒフミは?」
「ごめんなさい……」
「ハナコは持ってないだろうし……」
「私持ってる!」
「本当?」
まじめな二人が持っておらず、ハナコは持つ必要もないので当然なく。しかしコハルは持っているそうだ。ありがたく借りることにする。
「はい、これ!」
「ありが……と……う?」
渡されたのは公民の参考書……ではなく謎の赤い本。
表紙では男女がキスをしており、左上に小さく「R-18」という記述があった。正直見たことのない本で、反応に困る。しかし、あれほど自信満々に手渡してくれたものだから聞くのもはばかられ、仕方がないので本を開く。
「なにこれ。えっと……『今日は……ごm』」
「うわああああああああああ!!!!!!!??????」
朗読しようとしたらとんでもない勢いでコハルがすっ飛んできて手から本をむしり取った。コハルの顔を見ると、汗ばんでいて顔が真っ赤。息も絶え絶えな様子である。
「コハル?どうしたの?」
「これは!これは違うから!間違って持ってきちゃっただけだから!」
「公民の参考書じゃないの?一体何を間違えたの?」
「コハルちゃん、それ結構ハードな奴ですよね!?」
「?ハナコ、ハードな奴って何?」
「あ、あはは……」
ハナコがコハルを問い詰める。
「それ、なかなかにハードですよね?」
「ち、違うの!」
「何が違うのですか!?それに本の汚れ具合を見るに結構読んでますよね!?」
「そ、それは、う、う、うわああああん!!!!!」
よくわからないがコハルは泣き出してしまった。先生とヒフミは完全に苦笑いの状態である。意味が分かっていない状態の私とアズサは顔を見合わせる。
「“ハナコ、少しやりすぎだよ”」
「……すいません、少しからかうつもりがやりすぎてしまったようですね……」
「先生、一体コハルはなんで泣いてるんだ?」
「あ、アズサちゃん……」
ヒフミも困り顔で見ている。アズサは変わらず?マークが出ている顔だ。アズサがヒフミに聞いている間、先生はコハルを慰めている。
「う、うぅ……」
「“その……あれだよね?押収室から間違えて持ってきちゃっただけで、コハルのものじゃないんだよね?”」
「そ、そう!そうなの!」
「大丈夫?そうなら早く返しに行った方がいいんじゃ……」
「でも、外出禁止じゃない?」
「“私もいるし、リエはティーパーティーでしょ?大丈夫だと思うな”」
そういうわけでコハルと先生は外に出て返しに行くことになった。
トリニティ総合学園はとても広い。
夜になったが先生とコハルはまだ帰ってきていないままだったが、先生から「先に寝ていて」という旨のモモトークが届いたので、私達は夕食とシャワーを済ませて布団にもぐっているわけだ。
「ねぇ、ハナコ」
「どうしましたか?」
「結局コハルは何の本を持ってたの?」
「それは……」
何でハナコは回答に詰まってるんだろう……ハナコにもわからないことがあるんだろうか?
「リエ、ヒフミは『知らない方が良いこともある』と言っていた」
「うーん、そうか。なら仕方がない」
「あ、あはは……」
そうか、分かったぞ。
きっとあれは正実の重要な書類なんだろう。それで、ティーパーティーが見るのがダメだったからコハルは取り返したのか。納得の理由である。
「うん、わかった。あまり触れないようにする」
「よ、よかったです……!」
「でも、ただの問題の先送りで……しかるべきタイミングで説明は必要かと」
「そうでした……」
なんか残念がっているが、これって私のせいなのか?
「そ、そういえば、皆さん小さいころどうだったんですか?」
「突然だね」
ヒフミが明らか露骨に話題を変える。
「ヒフミはどうなの?」
「わ、私からですか!?私はまぁ……普通、でしたね」
騙されちゃいけない。ヒフミも立派にトリニティ、実家は当然だが滅茶苦茶に太い。そのためヒフミにとっての『普通』は他の学校の平均からすると『高嶺の花がクソ高い鉢で美術館に置いてある』ぐらいの認識の差が存在する。
私?私は……その……あんまり贅沢なことはしてなかったかな……
「リエちゃん、どうなんですか?小さいころとか何をしてたんでしょう?」
「あれ?そういえば、自分が小さいころ何してたかはあんまり覚えてないや……アズサはどう?覚えてる?」
「少しなら」
「あれ?そっか……私の記憶力が悪いだけなのかも」
ちなみに言っておくが、ハナコもTHE,トリニティのお嬢様であるためたくさんお金を持っている。ティーパーティーの生徒ともなればなおさらだ。
だからずっと、ハナコがティーパーティーの誘いを断った理由が理解できない。皆が望んでも入れるかどうか怪しい組織にスカウトされているのである。お金があればなんでもできるんじゃあないのか?
私?私はセイア様のコネだよ、コネ。死んだけれどね。
女三人寄ればなんとやらだが、今は増量4人である、その後もなかなか寝ることはなく、結局先生とコハルが帰ってくるまでの数時間、女子トークでほぼ徹夜をすることになるのだった。
次の日。
「お、おはようございます……」
「うん……」
「ぁぅ……」
「くぁぁぁ……」
「“あらら”」
半分開いていない目で何もつけていないトーストを惰性で食べる生徒5人を見て、やはり学生の頃から夜更かしするのは良くないなぁと反省をするのであった。
では、何故皆眠いのだろうか。
まず、コハル。
コハルは、先生と共にエロ本を返していた。歩く距離も伊達にならなかったので疲れていた。仕方ないだろう。
ヒフミ。
ヒフミは常日頃から規則正しい生活を送っていたので、突然夜更かしをすることになり生活習慣が乱れた。これもまぁ、仕方ないだろう。
ハナコ。
ハナコは、帰ってきたコハルが寝るまで起きていた。家事などのことはハナコがやることも多く、肉体労働も比較的多い。普段から疲れているだろう。
では、残りの二人はどうなのかというと……
「アズサ。やはりあなただったか」
「っリエ?……どうして」
合宿所からそう遠くない廃墟ビルの一室で、リエが下手人にショットガンを突き付ける。
「質問に答えて。あれはアリウスで間違いないね?」
「なぜ知っているんだ……?」
「なんでトリニティに来た?」
「それは……」
「沈黙は肯定と捉えるよ」
リエの質問もとい脅迫、拷問の類は続く。
「じゃあセイアを殺ったのは君?」
「……」
「あぁ、そうか……」
ままならないものだな、とリエは感じた。
純粋な子だったから、もしかしたらと思っていたのに。
反対にアズサは内心でひどく動揺している。なぜ知っているのか、どんな行動をしてくるのか、未知数でしかなかった。
「仕方ないことだ。だから……」
次に続く言葉はやけに鮮明で、はっきりと聞こえるもので、無感情な言葉だった。
「死んでくれ」