ブラックマーケットにて〔110〕
「エデン条約を前にして、ブラックマーケットの武器流通が増加している……?」
「はい、これを逃せば大規模な条約襲撃も考えられます、早急に手を打つべきかと」
ナギサは報告書を見ながら片手を顎に当てて考える。謎の勢力の調査にはちょうどいいタイミングだった。ここで調査を終えてしまえば、残るはあの件のみ。
「わかりました。では、リエさん。その調査、受け取っていただいてもよろしいですか?」
「承知しました。では、行ってまいります」
という訳でやってきたブラックマーケット。その中でも不法流通の多いアビドス付近のブラックマーケットだ。他の自治区と比較しても手が届いていないこともあり、犯罪係数は他のブラックマーケットと比べても段違い。そのような場所である。今も、トリニティの生徒だとばれてしまったら困るため、潜伏用にぶっかぶかのパーカーを羽織っているのだ。
にしても、連邦生徒会が機能していないとはいえ、ここまで犯罪係数は高くなるものなのだろうか?これはどちらかというと、そうあれと圧力がかかっているように思えてならない。だとしたらどこの誰だ?裏社会のなんだ?なぜ、どうして、どうやって?まさか、これにもアリウスが?いやないな。そうして尻尾を掴まれたらおしまいだ。なら?最近胡散臭さ具合に拍車のかかったカイザーか?……ありえなくはないな。確かPMCも経営していたはず、ならここに武器を流すことも可能であろう。カイザーと仮定して、なぜ?カイザーはアビドス自治区を少なからず所有していたはずだ。アビドスの全生徒は5人、自然消滅するようなものだ。それにちょっかいを出している?だとしたらとんでもない愚行だ。いや、それすらも誰かが仕組んだものか?それとも、そんなに躍起になるようなものがアビドスにあるのか?ま、結局のところできることは調べることだけだ。世間なんてそんなものだ。
っと、また騒がしくなったな。ヘルメット被った不良と、あれはアビドスの生徒か。ん?アビドスの生徒が抱えているのって……あぁ、また来たのか。
「そこのトリニティの生徒をさらって身代金を要求すればたんまり儲かるってわけ!どうよ、賢いだろ?」
──うーん、トリニティを敵に回す時点でめちゃくちゃ頭悪いと思う。なんせあそこにはキヴォトスでも上澄みの上澄みが大量にそろっている。そろそろとっちめるか。
不良達の後ろへ近づき、手に少量の火薬を含む。
「……あっ!う、後ろ!後ろに!」
アビドスの生徒らしい黒髪の子が顔を青ざめながら私の方を指さす。まーそうなる。今の私は、コンパクトにたたんでも大きすぎる翼をできる限りに広げた威嚇状態であるから。
「はぁ!?そんな簡単な罠にかかるかよ!」
「“いや、冗談を抜きにしても今は後ろを向いて臨戦態勢をとるべきじゃないかな……?”」
「そうか?じゃあお前ら2人が後ろを向け、私はこっちを見張ってる!」
「おっけーリーダー!」
そう言って後ろを向いてきた2人のバイザー部分をわしづかみにし、火薬に神秘の炎で爆発を起こす*1。
「「ごふっ!」」
派手に吹き飛んできた部下2人の状況を見てとっさに振り向くリーダー格のヘルメットに思いっきり炎の剣を叩きつける。
「事情聴取は後にしましょう。マーケットガードが来ます」
「“うん、そうだね。いったん撤退しようか”」
というわけで、逃げてきたはいいものの、あれよあれよと何故かたい焼きを食べている。餌付けはされないぞ…!
「それで…ヒフミ?」
「あぅぅ…はい…」
「ブラックマーケットに先月も行って怒られたのは誰?」
「私です…」
「もう行かないって約束したのは?」
「あっ、でもこれは深いわけがあってですね」
「言い訳しない」
「あぅぅ…」
ヒフミを少し強めに睨んで黙らせる。アビドスの面々はなにか珍妙な目でこちらを見てくる。あぁ、そういえば自己紹介してないわと思い出し、あちらの方を向きなおす。
「トリニティ2年、炎読リエ。で、こっちが同じく阿慈谷ヒフミ。よろしく、アビドス」
「ホシノだよーよろしくねーリエちゃんにヒフミちゃん」
「十六夜ノノミです~!よろしくお願いしますね~☆」
「砂狼シロコ。ん、よろしく」
「黒見セリカ…感謝はしてる…」
「奥空アヤネです、2人はなぜここに?」
皆の自己紹介と共にもっともすぎる疑問が飛んでくる。それにホシノと名乗った子にもかなり警戒されているみたいだし、話すべきだろう。…ヒフミの理由は、きっと、話すまでもないだろう。
「私はブラックマーケットの調査を依頼されてここに来た。ヒフミはどうせあれでしょ」
「あれとはなんですか!頑張ってここにきて買ったんですよ!?」
「まずここに来んな」
「あぅぅ…」
「で、あれってなんなの?」
あれに関する質問をされた瞬間、ヒフミの顔が普段の笑顔の3倍増しでぺかーっとする。
「それはですね、ペロロ様です!」
そう言って取り出されたのはカバ?クジラ?トリ?元ネタが分からないほどに歪んでデフォルメされている不思議生物だった。よく見なくてもわかることだが、チョコミントのアイスクリームを口に突っ込まれたような状態であり、そのうえで目の焦点が合っていないものだからきも独特なセンスを感じさせる。
「うわ…なにこれ…」
「これとはなんですかこれとは!このペロロ様は受注先行100体の超希少ペロロ様なんですよ!?」
うーん、ブラックマーケットでぼったくり値段で買う価値よ。しかも受注式なのに先行100体とか頭の悪い話である。
「ヒフミ、そろそろやめ。アビドスの人たちが引いてるでしょ」
「あっ、ごめんなさい!」
「大丈夫…ん?あの車は?」
セリカが指さす方向には、カイザーコーポレーションの闇銀行の回収車がちょうど銀行に入るところだった。
「カイザーの銀行だが、なにか?」
「あれ私達のところに回収しに来るやつじゃない?」
「えぇっ、皆さんカイザーコーポレーションにお金を借りてるんですか!?」
「そうだけど、それが?」
「それやばいんじゃ…」
それはそう。
カイザーは合法と違法のスレスレを上手く立ち回り、その上で悪事が露見すると尻尾切をして検挙できない、というかなりの悪徳商法かつ悪い大人の典型例である。そんなものにお金を借りているのなら、利子とかきついのでは…?
「うーん、ここで私達のお金の行先を知りたいのですが…」
「難しいだろうな。集金記録があれば別だが、そういうのはだいたい重要に保管してある。だから銀行強盗でもしない限りは…」
そこでリエは、周りの目線がおかしいことに気付いた。
「お、おい、どうした?なんでみんなその手があったか、というような目を…」
「あちゃー、それしかないかー」
「ん!」
「仕方ない、んでしょうか…?」
「ん、銀行を襲うよ」
は?
「あぁ、犯罪行為に加担してしまった…もうティーパーティーにいられない…」
よもや、よもやこの私が銀行強盗をする日がくるとは…しかも金庫を壊す役回りで、100%実行犯だ…
「えぇっ、リエ先輩ティーパーティーだったの!?」
「あ、あれ?言ってなかったか…ここに来たのも、治安が悪化したブラックマーケットの調査だったんだよ…」
「えぇ…リエ先輩、大丈夫でしょうか…?」
ヒフミも心なしか落ち込んでしまっている。ん?
「あ、そうじゃん、ヒフミ。この件は報告するから」
「えっ、えっと、その、何とかなりませんかね!?ナギサ様への報告だけは…あ、それにリエちゃんも加担してますし!?」
「それとこれは別。私が報告するのはブラックマーケットにヒフミが来てるところ」
「リエちゃん…今度ミラクル7000食べに行きません?私のおごりで」
「のった」
買収の現場を部外者ががっつり見ているが、アビドスはそこまでの余裕もなければ、先生も義理堅い人なので何とかなるだろう。
「せ、先生…あれ大丈夫なのー?教師として叱らなくていいのー?」
「“ミラクル7000!?あのショートケーキをそのノリで食べられるのか…トリニティ…私も今度”」
「先生?」
「“あ、あはは…”」