夕暮れ時。
入り交じる人混みの中に、まどかがいる。
今日も何事もなく時が過ぎ、当たり前のように日々を過ごすまどかを見てホッと胸を撫で下ろす。
いつものように美樹さやかと志筑仁美と一緒に歩いているけれど、その中にもう一人。
あれは、上条恭介ね。
志筑仁美と付き合っている上条恭介が、混ざって一緒に下校している。
美樹さやかは大丈夫かしら、と彼女を見てみればいつものように笑いながら、志筑仁美と上条恭介を茶化している。
特段、心配は無さそうね。
いつもの三人に上条恭介を加えた一行はその後も話しながら通学路を歩いていき、やがて見えなくなっていった。
その後のまどかの監視を手下に命令し、私も下校のため下駄箱へ向かう。
その間、恋人というものについてふと思考を巡らせる。
恋人とは、どういうものなのか。
恋人。付き合っている人。恋愛関係にある人。恋している人。恋されている人。志筑仁美と上条恭介のような関係。
英語ではボーイフレンド、ガールフレンド。
そして、パートナー。
パートナーといえば、まばゆ。
私とまばゆはパートナー。でも、恋人……とは違うわよね。
確かに、まばゆは大切なパートナー。長い旅を共にし、最後の周で別れ、そして再び巡り会うことができた。
私はまどかを愛している。同じように、或いは違う形でまばゆを愛している。
だけど、彼女と私は恋人同士と呼べるかしら。
答えは否。
暁美ほむらは愛生まばゆに恋はしていない。
そもそも恋ってなにかしら。まばゆ……はきっと駄目ね。美樹さやかに聞いてみることにしましょう。
下駄箱で靴を履き替え、学校を出る。
人も少なくなってきたけれど、それでも校庭には部活動の片付けをしている生徒やベンチに座って喋り合う男女もいる。
それらを横目に通り過ぎ、校門を出たところで声をかけられた。
「お疲れ様です、暁美さん」
「まばゆ?」
「今日はお手伝いお休みの日なので、少し待ってみました。一緒に帰りませんか?」
「そう、構わないわ」
「にひひ、では」
私が歩きだすと、まばゆも私の隣りを歩いてくれる。
──いえ。隣りより、少しだけ後ろ。
これだと、魔女探しをしていた頃と一緒。
さりげなく手を引こうとしても、きっと躱されるわね。
なら、腕を組んでみようかしら。
「──ひゃ、暁美さん!? 何を!?」
「腕を絡ませただけよ」
「だけじゃないです! くっつきすぎです!」
「こうしないと、隣りを歩いてくれないでしょう?」
「あ、歩きます! 歩きますから、恥ずかしいので少し離れて──」
「イヤ」
「……ぁぁぁ……」
あら、顔が真っ赤になったわ。
それに動きもぎこちなくなって……まぁいいわ。私がまばゆに合わせて歩けばいいだけだもの。
始めはカクカク動いていたけれど、歩いているうちに少し落ち着いてきた様ね。ゆっくりだけど、スムーズに動けるようになってきたわ。
ただ……。
「にひへぇ……」
この蕩けきった顔を世間に晒しながら歩くのは本意では無いわね。
「ねぇ、まばゆ」
「はぁい……」
「顔がすごいわよ。もう少しシャキッとしなさい」
「はぁい……」
ダメね、戻らないわ。何が原因かしら。
……………………。
わからないわ。
とりあえず、このまま帰すのも気が引けるし私の家で少し様子を見ましょう。
……せっかくだし、このまま歩いて行きましょうか。
「──っは! ここはどこ! 私はだれ!」
「目が覚めたようね」
今どき、そんな目覚め方をする人が居るのね。
ここは私の部屋であなたは愛生まばゆ。ついでに、ソファーの上よ。
ちなみに私の家は土足厳禁よ。ちゃんと靴は脱いでもらったわ。
「あ、暁美さんのお家……本当になぜ……?」
「覚えていない?」
「えーっと……たしか……ぁぅ……」
「ふふっ」
思い出してきたみたいね。起き上がって自分のこめかみをグリグリとしているわ。
「あ、暁美さん……なぜあんな事を……」
「あなたがちゃんと隣りを歩いてくれなかったから、というのもあるけれど、少し確かめたいことがあったの」
「確かめたいこと……?」
「えぇ。本当はそのうち美樹さやかにでも聞いてみるつもりだったのだけど、ちょうど良かったから」
まばゆの横に肩を寄せて座り、瞳を見つめてみる。
幾度となく見つめてきた、目。何度も救われてきた、目。
揺らぐその目を、私から離させないために、まばゆの肩に手を置いた。
「な、何が……」
「ねぇ、まばゆ」
「は、はい……」
「恋って、なにかしら」
「……はい?」
「だから、恋よ恋。美樹さやかが上条恭介にしてたみたいな、志筑仁美と上条恭介の関係みたいな」
「それを……私に……?」
凄く眉をひそめているわ。やはり、あなたに聞いても意味がなかったのかもしれないわね。
「それと、さっきの行動になんの関係が……?」
「だから、確かめたのよ。わたしが恋をしているのか」
「あ、暁美さんが、恋? まさか、鹿目さん!?」
「いえ、あなた」
「私!?」
また顔を赤くしながら百面相をしているわね。さっきのが壊れかけのおもちゃみたいな動きとするなら、今度のは電池入れたてのおもちゃみたいな動きね。
「まぁ、結果は思った通りだったのだけれど」
「は、はわわわわ」
「私はあなたに恋していないわ」
……固まってしまったわ。電池切れかしら。
「……そう、ですか」
「えぇ。あなたへのこの気持ちは、恋ではないと私は判断したわ。どう表現すればいいか、わからないのだけど……」
まばゆの肩に置いていた手を背中に回し、抱きしめる。
とても、暖かい。熱いくらい。私のこの熱は、あなたに届いているかしら。それとも、あなたの熱が私に届いているのかしら。
「恋じゃないの。あなたを想うこの気持ちは、恋じゃない」
「あ、暁美さん……すこし、苦しい……」
「あなたも、抱き返して」
返事はなかった。けれど、まばゆの手が私の背に回り、抱きしめ返してくれた。
ぎゅうっと、精一杯の力で。
もし、抱きしめ合う力で、この想いを測れたら。それはきっと、恋以上のもの。やはり、まどかを想う愛とも違うもの。
このキモチには、なんて名前が付くのかしらね。
「まばゆ」
「ぁ……さ、んぅ……」
今は、言葉は要らない。
ただ、あなたを愛したい。
何もかもを脱ぎ捨て、心のままに動く。
私の手が、指が、口が、歯が、あなたを傷つける。
あなたの手が、指が、口が、歯が、私を傷つける。
傷つけあいながら、互いの熱を確かめあう。
今ではもう、あなたとの時間だけが、本当の私。
床に置かれていた携帯電話が、小刻みに揺れている。
きっと、隣りで寝ている彼女の保護者からの電話だろう。画面を見ると、やはり。
自分の知っている人でもある、出ても問題ないだろう。
通話開始のボタンを押し、電話を耳に当てると彼女の保護者である愛生咲笑の声が聞こえてきた。
『まばゆちゃーん。もうすぐで門限だけど、どこで何をしているのかしらー?』
「こんばんは、暁美ほむらです」
『あら、ほむらちゃん? まばゆちゃんは?』
「私の家で、少し
『とうとう一個下の後輩にお勉強教えてもらうようになっちゃったの?』
「いえ、互いに分からないことだらけだったので、手探りでした。ただ、それで疲れてしまったようで。そのまま寝てしまって」
『あらあら〜お友達のお家で寝ちゃうなんて〜。ほむらちゃん、もし迷惑だったら、まばゆちゃん迎えに行くけど……』
「いえ、構いません。私も少し疲れてしまったので、もう寝ようと思います。幸い、明日は学校も休みですから」
『そう。じゃあ、まばゆちゃんをよろしくお願いします』
「はい、では」
『おやすみなさい、ほむらちゃん』
こいつら交尾したんだ!