いやー、ワルプルギスの夜は強敵でしたね。ループ回数は49回。
50の台に突入かと思われたところで辛くもワルプルギスの夜を撃破! とはいきませんでしたが、見滝原市街直撃コースから何とか進路を逸らすことができました。街はそんなに壊されず、鹿目さんも契約せず、無事にワルプルギスの夜を越えたわけです。
「改めまして、お疲れ様でした」
「えぇ、お疲れ様ね、まばゆ」
カンパーイ。
私と暁美さん、二人で私の部屋のコタツに入りながら、ループ終了お疲れ様会を開いています。コタツの上には、ポテチ等のおやつやレコンパンスの賄いケーキ。流石にビールやシャンパンでお祝いなんてできないので、代用の炭酸ジュースで乾杯です。ちゃんとコーヒー等他の飲み物の用意もありますよ。
「ぷはー、おいしい。これが一仕事終えた後の一杯ですか、格別です」
「そうね。飲み物がこんなに美味しく感じたのは初めて」
「ささ、もう一杯どうぞ。それにしても大変でしたね。まさか攻略の鍵が佐倉さんと美樹さんだったとは……この愛生まばゆの目をもってしても!」
「そんな未来を視たのはあなたの目でしょう」
「まあそうですけど」
ワルプルギスの夜をどうにかできる未来が視えた時は流石に興奮しましたね。上がりすぎて暁美さんに上手く説明できませんでしたもん。
「私と巴さんが遠距離から弾幕を張ってワルプルギスの注意を引いて、接近した杏子が幻惑魔法でワルプルギスの夜の進路を変えるなんて」
「佐倉さんがそこに辿り着くのも、一人じゃ不可能でしたからね。美樹さんの援護と回復支援あってこそでした」
「その分、美樹さやかにも大分労力を割いたけど」
「またフルネーム呼びになってますよ」
「なかなか癖は抜けないものね……さやかには苦労したわ。仁美と上条くんとの三角関係問題に付随するメンタルケア、特訓に魔法少女としての心構えの伝授、杏子と衝突した時は緩衝材になって、メンタルケアにメンタルケア」
「先を知ったように動くと美樹さんの好感度が凄く下がりますからね。未来視使えない縛りの中で良く頑張りました。えらいえらい」
暁美さんを一人で、なんのサポートもなしに美樹さんにぶつけるのは非常に心苦しかったですが、頑張った甲斐あっての今ですからね。
そもそも、美樹さんが魔法少女になっていて、佐倉さんとぶつかり合って、その上で美樹さんと佐倉さん両方の言い分を相手に通して、喧嘩両成敗しないと幻惑魔法を使えるようになった佐倉さんを仲間にできないとか、条件厳しすぎかってーのって感じです。佐倉さんとのぶつかり合いの最中に上条さんの問題も降ってきますからね。ほんと、暁美さんは頑張りましたよ。
「あなたもよく巴マミを支えたわ」
私は私で何もしてなかった訳じゃないですよ。必須戦力のマミさんが命を落としたり心を病んでしまわないよう東奔西走してました。暁美さんほど苦労はしてませんが。
「私は言うほど苦労しませんでしたし。暁美さんには話してませんでしたが、なんせマミさんと私は以前、一緒に魔女退治していたようですからね」
「知ってたわよ」
「えぇ? なんで?」
本当になんで?
この事は元々私とマミさん、例外的に神々しい鹿目さんしか知らなくて、その上で一番初めの私がこの記憶を切り取ってしまったから、この時間ではマミさんしか知らないはず……。
「私はあなたが最初に私を庇って死んだ後に巴さんから全部聞いていたわ」
「え゙、じゃあ最初から前の私の事も知ってたんですか?」
「全てではないけれど、巴さんが把握してた限りのことは知っていたわ。分からなかったのは、あなたが記憶を切った理由くらいかしら」
「はー、なんか隠してたのがバカみたいじゃないですか」
「そもそも、あなたはどうやって切った記憶を取り戻したのよ」
「えぇと、話すととても長いんで少し割愛しますけど、40周くらい前に私がちょっと不安定になっちゃった時があるじゃないですか」
「あったわね、あなたがとても不安定になったことが」
本当、すみません。魔女化一歩手前、デッドエンド一直線でした。
「その周、私がどうやって持ち直したか、ご存知でしたっけ」
「えぇ。まどかの契約によって、あなたの絶望が取り除かれたって」
「その時、この先に有り得る未来から来た鹿目さん……並行世界? で神様みたいな存在になった鹿目さんにお会いしまして」
「神さまどか……ということね」
「その鹿目さんに記憶を戻してもらったという訳です」
「そんな事があったのね。確かに、キュゥべえの言う事を真に受けるなら、まどかは神様にだってなれる程の素質を持っていたと言うのだし、そんな契約をしてしまった世界線もあるのかもしれないわね」
「おや、意外と冷静ですね」
「この世界のまどかは、もうそんな契約できないもの」
「それもそうですね」
キュゥべえ曰く、ワルプルギスの夜が見滝原を離れた時点から、鹿目さんの因果律が急速に小さくなっていっているようで、現時点では並の魔法少女程度の素質しか無いようです。
鹿目さんが迂闊に契約しないよう、美樹さんとマミさんにも頼み込んでありますし、暫くすればキュゥべえも労力と利益が見合わないと判断して鹿目さんから手を引くでしょう。我々の勝利です。
いやー勝利後の一杯は本当に格別ですねー! ポテチも美味い!
「思えばこの50周、とても長いようで、あっという間だったわね……いえ、そんな事ないわね。やっぱり長かったわ」
「ですねぇ……まぁ、それももう終わりですから!」
「本当、長かったわ……これからの方が長いのは分かっているのだけど、どうしてもね」
「それも仕方の無い事です。こういう時こそ、これからの事を話しましょう。見滝原を出るのはやめたんですよね?」
「ええ。巴さんもさやかも杏子も、私たちと一緒に魔女退治をしてくれるそうよ。杏子は少し微妙な顔をしていたけど」
「佐倉さんは元々ソロで動いてましたからね」
「一緒に狩る分、縄張りも巴さんのと杏子のが合わさって広くなったし、グリーフシードも全員に等しく行き渡ると思うけど、どうなるかはまだ未知数ね」
「集団でかかれば、少ない魔力で魔女を狩れますからね」
「上手くいかなければ、その都度折衷案を出していくことにしてあるわ」
「それがいいかと」
チームを組んでみんなで魔法少女〜なんて、現実はそう甘くは無いものでもありますからね。
チームで活動する魔法少女もいるでしょうけど、限りあるグリーフシードを巡っての諍いとかありそうですもん。
そんなしょうもない事で仲違いなんてしてしまっては、本末転倒。より早くソウルジェムが濁るだけです。
その点だけ考えるなら、やはりソロか、ツーマンセル辺りがいいんですかね……。でも、きっと何とかなるはずです。なんたって私たちはワルプルギスの夜を退けてるんですから! ……退けてはいませんね。逸らしただけです。被害が出なかったのも都市部くらいですし。
それに、多人数で魔女退治をするメリットはもちろんあります。美樹さんや佐倉さんのような前衛職に、後方支援から前衛中衛後衛全部こなせるマミさん、時間停止は無くなっちゃったけど、培った経験とマミさんのリボン銃やゴルフクラブで戦える暁美さん。これだけ魔法少女が集まっていれば、私の出番なんて早々来ないでしょう。
「一応言っておくけどまばゆ、もし魔女退治にローテーションを取り入れる事になったら、あなたは出ずっぱりになるわ」
「はぁ!? こんなの横暴です! 労基が黙ってませんよ!」
「労働基準法は魔法少女には適応されないわ」
「政府は早く魔法少女を認知してください! 助けてマミさぁん!」
「ちなみに、これは巴さんの提案よ」
「ガッデム!!」
神はいない。
明らか戦力に一番向かないであろう私を魔女の結界に連れ回すなんて、鬼! 鬼畜の所業! まさに悪魔!
「あなたの未来視が有るか無いかだけで、戦闘の難易度は桁違いよ。当然、あなたがいた方が消費も危険も少なくグリーフシードを稼げるわ」
「そりゃそうですけど……」
「諦めなさい。ファイト」
「うわーん」
誰か私を慰めて……。
なんて言っても仕方ありません、なんせ私の未来視が強すぎるからこそのスタメン選出です。いやー、頼れる軍師で申し訳ありませんね〜。
なんて言ってもやっぱり働きたくないです。コタツちゃんやフカフカソファ、陽の当たるロフトなんかでゴロゴロしていたい、そんなまばゆちゃんです。
「話題を変えましょう。暁美さんは今までのループで印象深い事ってありますか?」
「まどかが不良だった周」
「あ〜、あの周ですか。ぶっちゃけそんな不良って程でもありませんでしたけどね」
「いいえ、あれはグレてしまったまどかよ」
暁美さんはこう言ってますけど、実際そんな不良ではありませんでした。
ツインテールではなく後ろ一本のポニーテールで、通常より少しだけ目付きが鋭くて、少しだけ言葉遣いが荒っぽい鹿目さん。その周では鹿目さんをより重点的に観察したので分かりましたが、鹿目さんのお母さんの影響を色濃く受けた世界線だったのでしょう。
グレている、というよりも、カッコイイ女の子な鹿目さんというのが正しいかと。
変わっている鹿目さんではありましたが、その鹿目さんも一緒だった。傷つくマミさん、美樹さんの痛みを自分の事のように感じ、壊される街を見て、散っていく魔法少女を見て、キュゥべえと契約してワルプルギスの夜を撃ち落とし、世界を滅ぼす魔女になってしまった。
芯の部分は同じ鹿目さんだったんです。もしかしたら、今後鹿目さんが成長したらああいう風になる可能性もあるんじゃないですかね。
「あなたはある? 繰り返しの中で印象深かった事」
「私ですか? そうですねぇ……」
ぶっちゃけ一番衝撃が大きかったのは、時間が止まった事なんですよね。
魔法少女の記憶を切り取った私は、あくまでも普通に日常を過ごしていた普通の中学生で。
そんな中、時間が止まったりなんかしたら。そりゃあびっくりですよ。
最初に止まったのに気がついたのは……なんでしたっけ。ああそうそう、抜き打ちテストの時でした。空白だらけの答案用紙を眺めながら、周りをチラッと見たら誰もペンを動かしてなくて、動揺して落っことした私のペンも空中に止まって、そこで時間が止まってる事に気が付いたんでしたね。
そこから、私たちの旅が始まったってワケです。
だから、こう答えるのは必然なことで。
「暁美さんと出会えたことですかね」
「……そう」
「はい」
「私も、あなたと出会えて良かったと思っているわ」
「それはそれは、なによりです」
まだまだお菓子もジュースも、話のネタも残ってますし、語り明かしましょう。私たちの旅のフィルムを。
「暁美さん、あの周覚えてますか? ほらあの、美樹さんが恋愛つよつよだった周で──」
「ええ、まさか仁美と杏子も──」
同じ時間を繰り返した私たちが、時間を忘れ、互いに寝落ちるまでずっと語りあう。
時計の針は、もう戻らない。
知らない朝がやってくる。
「…………とても、楽しそう。そんな時間軸もあったのかしらね」
「なんの話ですか?」
「こっちの話よ」
「そうですか。じゃあ私は二度寝をば」
「私もそうしようかしら。もしかしたら、また眩しいくらいに輝かしい夢の続きを見れるかもしれないし」
「まばゆだけに?」
「黙りなさい」