まばほむ短編   作:鶴(鳳凰)

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ここをキャンプ地とします!

 ふと、あなたは目を覚ます。

 目を覚ましたばかりだというのに、あなたの目に入ったのは緑の木々や草、雲のかかった山々に囲まれた自然の景色。

 外で寝てしまったにしては、ベンチに座っていたわけでも倒れていたわけでもなく、地に足をつけて立ったまま。なにかに支えられているわけでも寄りかかっているわけでもなく。気がついたら自然豊かな山の中の広場で突っ立っていた、ということでしょうか。

 あなたは周囲を警戒しながら、考える。何故こんなところにいるのか。

 思い出せることから思い出していく。自分の名前、暁美ほむら。職業、学生兼魔法少女。昨日の行動履歴──昨日の放課後の記憶が、少し曖昧。学校が終わってから、家に帰って夜眠りにつくまでの出来事が上手く思い出せない。

 思い出せないものは仕方ない、しかしこんな山の中にずっと居るわけにもいかない。あなたには早く戻って、やるべき事があるのですから。

 よく辺りを見回すと、ただ山の中の広場に居たわけではないようで。

 キャンプ場。屋根しかない大きめの小屋に、水道、薪、焚き火台。そして、あなたの他には誰もいない。

 そもそも、なぜこんなところに居るのか。考えられる可能性としては──

 

「魔女の結界?」

 

 そう。あなたが最初に考えたのは、魔女の結界に捕われた可能性。でも、その可能性は限りなく低そう。

 ここは魔女の結界にしてはあまりにも現実的なもので。ファンシーではなく、グロテスクでもない。趣味が悪い魔女結界とは考えにくく。しかし、こういう結界を構成する魔女が居ないとも言いきれないから、候補の一つとして考えておく。

 次に、これが魔女の結界でないならば。

 

「──夢、かしら」

 

 夢。それが一番、可能性としては高いのではないでしょうか。

 前日の夜の記憶は曖昧だけど、きっと自室で眠りについたはず。目が覚めてこんなところに居たならば、これは夢でしょう。

 夢にしては妙に意識がしっかりしているけれど。

 

「おや、私以外に人が居ました」

 

 不意に後ろから声がして、振り返る。

 ──あなたの知らない人。同じ制服を着ているから、同じ見滝原中学校の女子生徒なのでしょう。

 薪を持っているから、このキャンプ場で焚き火でもしているのでしょうか。

 

「あなたは誰?」

「そんな事知ってどうするんです? ここ、夢の中っぽいですよ」

「関係ないわ。答えなさい」

「まぁまぁ落ち着いて、そんな警戒しなくてもいいじゃないですか。ほら、今あっちで火を焚いてるんです。ご一緒にどうですか?」

 

 警戒しながらも、あなたは彼女の後ろを着いていく。彼女に「椅子にどうぞ」と差し出されたのは、太く短い丸太。それに腰を下ろし、知らない彼女と一緒に火を囲む。

 

「それで、あなたは──」

「まぁまぁ、私は薪をくべますから、あなたはコレ(あお)いでください」

 

 手渡されたのは、うちわ。縁に沿って、白黒のツートンの柄が入った、それだけのうちわ。

 

「扇ぐ?」

「風を送らないと、火が大きくなりませんから。まぁ私も初めてやるんで、仕入れた知識しかありませんが」

 

 あなたは途端に心配になりました。

 というか、早く質問に答えてほしい。しかし、「まだ扇いでくれないんですか」とじっと目で訴えてきているので、あなたは仕方なしにパタパタとうちわを扇いで風を送る。

 パチ、パチと火の粉が爆ぜて、炎の勢いも少し強くなってきた。

 

「おお、いい感じです。これで少しは暖かくなりましたかね」

 

 そういえば、ここは少し寒い。いきなり山に放り出された困惑と焦燥、原因調査であなたはあまり気にならなかったのです。二の腕を摩ると、隣の彼女が着ていたカーディガンを脱いで渡してくれました。

 

「どうぞ、羽織ってください。私はさっきまで火起こし頑張ってて、少し暑いくらいなのでお気にせずに」

「……助かるわ」

 

 受け取ったカーディガンを羽織る。それには彼女の温もりが残っていて、暖かい。

 パタパタとうちわを扇ぎながら、あなたはもう一度、彼女に質問をします。

 

「あなたは何者なの?」

「あなたと同じですよ。目が覚めたら、知らない山の誰もいないキャンプ場に突っ立ってました」

「……そう」

「そして思ったんですよ。あ、コレ夢だなって。夢なら夢でいいと思ったんですけど、何をするにも寒かったんで焚き火をしてました。ちょうどキャンプ場ですし」

「……別の人同士が、同じ夢を見るなんてことあるのかしら」

「さぁ……映画とかでありそうな感じの展開ですが、現実としてはなんとも……まぁいいんじゃないですか? そんな不思議なことが起こっても」

「そう、かしら」

「ですです。どうせそのうち覚めるんですし、あんまり深く考えない方がいいと思いますよ」

 

 そう言って、彼女は薪をくべる。火が消えてしまわないよう、あなたもパタパタとうちわを扇ぐ。

 

「もしかしたら、あなたは私の夢に出てきている夢の世界の住人なのかもしれませんし、その逆なのかもしれません。考えれば考えるほど訳わかんなくなってくので、やっぱり適当に流すのがいいですよ」

「そういうものかしら」

「ですです。さ、暖まりましょう。食料とかはないみたいなんで、暖を取るだけですけど」

 

 パチ、パチと、火の粉が爆ぜる様を、二人で眺める。時折彼女が薪をくべては、あなたがうちわを扇ぐ。炎が燃え尽きないように。

 

 どれくらいそうしていたのでしょうか。一時間か、二時間か。一日か、一週間か。

 

「夢って、なかなか覚めないものなのね」

「不思議ですよね……なんせ朝も夜もないですし、ずっと曇り空ですからね。時間感覚もわかんなくなりますし」

「早く覚めてくれないと、困るのだけど……」

「何かあるんですか? あ、宿題は朝起きてからやる派でしたか?」

「宿題はもう終わってるわ。そんな事じゃなくて、私にはやらなきゃいけない事が──」

 

 そう。あなたはこんなところで立ち止まっている暇は無い。助けなければならない人が居るのです。

 いえ、()()のです。

 

「──いえ……そうだったわね……まどかはもう、この世界には存在しないのだったわね……」

 

 あなたの救いたかった人は、守りたかった人は。その人自身の意思で、願いで、この世界から消えてしまったのです。

 

「……なんか、込み入った話してます?」

「あなたが気にする必要は無いわ。急ぐ理由はもうない事を、思い出してしまっただけだから」

「そうでしたか」

 

 パチ、パチ、パチと、火の粉が爆ぜる。

 ゆらゆらと、メラメラと。揺れる炎を見つめるあなた。

 また、どれくらいそうしていたでしょう。

 

「いつまでこうしているんですか?」

「……知らないわ」

「ずっとこうしているつもりですか?」

「…………」

 

 あなたは炎から目を背け、顔を膝にうずめて口も閉ざしてしまいました。

 

「大切な方だったんですね」

 

 顔をうずめたまま、あなたは頷いて。静かに涙を流しました。

 

「その人が、あなたの全てだったんですか?」

 

 また、あなたは頷いた。

 

「その人がいなくなってしまって、あなたの中にはもう何も残っていないんですか?」

 

 あなたは頷かず、髪を結っている赤いリボンに触れて。大切な想いを思い出しました。

 

「私、は──」

 

 あなたは目の前の彼女に想いの丈をぶつけます。

 あなたの想いを聞いた彼女は、とても嬉しそうで。

 曇っていた空は光がさし始め、眩しいくらいになりました。

 

「それだけ言えるなら、あなたはもう大丈夫ですよ。身体ももう十分暖まったでしょう? ほら、行きましょう」

 

 彼女が指さすのは、キャンプ場の出口。

 あなたは立ち上がり、彼女と一緒に出口へ向かう。

 出口を目前にあなたは振り返り、彼女を見つめる。

 

「あなたは……?」

「私の出番はここまでです。頑張ってくださいね、ほむらさん」

 

 なんで名前を知っているのか、聞かれる前に()はあなたを突き飛ばしました。

 

「いってらっしゃい」

 

 あなたならやりきれる。私は知っているんです。

 あなたと旅を共にした、あなたはもう思い出すことはない記憶だけど。

 あなたの心の炎は、こんなところで消えはしない。

 

 


 

 

 私の名前を呼ぶ声。巴さんの声と、杏子の声。痛む頭を押さえながら、何とか身体を起こす。

 巴さんの部屋、巴さんのベッドに寝かされ、私のソウルジェムと巴さんのソウルジェムの周りには、ありったけのグリーフキューブ。ずっと巴さんに介抱されていたようね。

 何があったか聞いてみると、魔獣の攻撃を頭に食らってしまったらしい。出血が激しかったようで、傷口を塞ぐために巴さんのリボンが包帯代わりに巻かれていて、そこから常に癒しの魔法が流れているのを感じ取れる。

 頭を押さえた方と逆の手には、まどかから貰った赤いリボン。

 魔獣の攻撃を受けた時に外れてしまったものを、杏子が探し出してくれた。大切なものだったから、気を遣ってくれて嬉しい。

 

 気絶していた時、なにか夢を見ていたような気がするけれど、よく思い出せない。

 けど、きっと。とてもいい事があった。

 

 私はまだ、戦い続けることができる。

 

 

 


 

 

 

「はぁぁぁ、緊張したぁ……鹿目さん、私、上手くできてましたか?」

「はい、とっても。ありがとうございました、まばゆさん」

「いえいえ。ほむらさんのためですからね。けど、わざわざ私がほむらさんの記憶から切り落とした私を具現化なんてしなくても、鹿目さんご自身が直接行けば良かったのでは?」

「私が行っちゃうと、ダメだったから……それに、ほむらちゃんと会うのは、ほむらちゃんを導く時って決めてるから」

「そうでしたか、それで私を。では、私はもう御役御免ですかね」

「まばゆさん本人はまだ私に導かれてないですからね。こっちに来るまで、また私が預かることになります。勿論、まばゆさんがこっちに導かれた時に記憶はちゃんとお返ししますから」

「そうしてくれるとありがたいです。それまで気長に待ちましょうか。もしかしたら案外早く来るかもしれませんけど」

「私としては、長生きして欲しいですけど……」

「私ですよ? きっと人知れずソウルジェムが濁りきって人知れず導かれるんですよ」

「そ、そうかなぁ……」

 

 




以下後書きです。
「共に流れた時の先で」には繋がりません。また別のお話です。
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