まばほむ短編   作:鶴(鳳凰)

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好きよ / 好きです

 愛してる。

 あなたにこの言葉を伝えるのは、何度目かしら。

 伝える度、あなたは曖昧に返事してぐらかして、やるせなく微笑むだけ。

 私にはその理由は分からない。何故、と聞ければどれだけ楽なのかしら。

 

 もし、理由を聞いてしまったら。

 そんな顔をさせてしまったことを謝ってしまったら。

 また、あなたが私の中から消えてしまいそうで。あなたの中から私が消えてしまいそうで。

 

 結局なにも言わずに、ただ壊れるくらいに抱き寄せることしかできない。

 

 今、この場所には二人だけ。なんのしがらみもない。今だけは罪から目を逸らしていいの。あなたは何も言わず、私の罪を一緒に背負ってくれるけれど、あなたは罪人なんかじゃないのだから。

 

 

 


 

 

 もし、あなたと私が出会ったことが哀しい運命だったとしても。

 あなたに出会えて良かったと、私は心からそう思えます。

 あなたの熱を、力を、想いを。身近で見ることができて、あまつさえ触れることすら許されました。

 風に吹かれても、雨に撃たれても諦めないあなたを、儚く、そして綺麗だと思いました。

 

 私は、あなたを愛しています。

 

 愛しています。

 この一言を口に出すことは、多分ないでしょう。

 

 愛して、愛しくて、愛しすぎて、言葉にできません。

 

 それにあなたは、私だけのあなたじゃないから。

 

 

 だから、一度だけ、泣きました。

 

 


 

 

 

 

 この手に大切なものを抱く。もう二度と、この繋がりが切れることの無いように。

 この手に大切なものを抱いて、眠りにつく。もう二度と、この繋がりを離さないように。

 二度知ってしまったあなたの温もり。あなたが居なければ、凍えきったこの世界を無事に歩けないだろうから。

 

 朝。あったはずの温もりが無いことに気が付き、飛び起きた。

 冷や汗が止まらない。寝間着姿のまま部屋を飛び出し、家中を探すも、彼女の姿は見つからない。靴もない。

 黙って出ていったのね。

 探し出すこと自体は容易だけど、見つけてどうすればいいのか。

 彼女は私に黙って出ていってしまった。その事実がどうしようもなく痛くて苦しい。

 

「まばゆ……」

 

 彼女の名を呟いた時、ガチャリ、と。玄関の鍵が開いた。

 続けてドアが開いて──

 

「ただいま帰りましたー」

 

 いま、一番聞きたかった人の声が聞こえてきた。

 

「──って暁美さん、どうしたんですか? こんなところで座り込んで」

「まばゆ……?」

「寝ぼけちゃったんですかね?」

「──いえ、なんでもないわ。どこかに行っていたの?」

「ああはい。トースト用のパンが一切れしか残っていなかったので買いに行ってました。なんか早く目が覚めちゃったので、折角ですしモーニングコーヒーでもーと思いまして」

 

 そういう彼女の手には、食パンの入ったビニール袋。

 

「すぐ作っちゃいますので、ちょっと待っててくださいね」

「……ありがと」

「いえいえ」

 

 あなたが作ってくれた焼きたてのトーストと、淹れたてのコーヒーは、とても温かかった。

 あなたがまたいなくなってしまったんじゃなくて、本当によかった。

 

 

 そして、覚悟も決まったわ。

 

 私とまばゆを中心に、結界を展開。これでまばゆは自力では出れない。ここにはまばゆと私の二人だけ。他には誰も、何も無い。

 

「あ、暁美さん!? 何してるんですか!?」

「いい加減、あなたの本心を聞かせてもらおうとおもって」

「ほ、本心……ですか……?」

「あなた、なにか隠しているわね」

「…………」

 

 少しだけ、まばゆは私から目を逸らした。

 まばゆの嘘や隠し事は、分かりやすい。上手につく時もあるけれど、私には分かる。

 きっと、私のための隠し事。私を想って、何かを隠している。

 

「どうしても、言えない?」

「……これは、言っちゃいけないんです。私は、これ以上は──」

「あなたが踏み込めないなら、私が踏み込むわ」

 

 文字通り、一歩踏み込んでまばゆの体を抱きしめる。私よりも少し小さな体。まばゆの熱、温もり。まばゆの匂い。

 まばゆは抱き返してはくれない。いつもの事。まばゆから私に触れる事はあまりない。私が手を握れば応えてくれるけれど、まばゆからしてくれることはない。

 

「あなたが大切なの。あなたが悩んでいるなら、協力したい。私の事で悩んでいるのなら、なおさら」

「そんな、事……」

「あるのよ。さっきだって、またあなたがいなくなってしまったと思って、とても辛かったのだから」

「私が……どうして……」

「言ったでしょう。あなたが大切なのよ。こうやってあなたを求めてしまうくらいに」

「でも……」

「寂しさを埋めるために、あなたを求めている訳じゃないわ。あなたがあなただから求めているの」

 

 まばゆの頬に手を添え、涙の零れそうな目元を撫でる。

 あぁ。とても、愛おしい。まばゆの想いも、動きも、零れ落ちる涙さえも、全てが愛おしい。

 

 

 まどかのためだったら、私は私自身がどうなっても構わない。

 たとえまどかの敵になったとしても。

 たとえ悪魔として魔法少女の敵になったとしても。

 たとえ魔女や魔獣に堕ちたとしても。

 その結果、倒されて死んでしまったとしても。

 まどかがこの世界に存在して、日常を過ごしてくれるなら、私は構わない。

 

 

 でも、まばゆの敵になるのは嫌。

 まばゆに倒されるのも、まばゆを倒すのも、嫌。

 まばゆを忘れる事も、まばゆに忘れられてしまう事も、嫌。

 私がいて、まばゆがいるのに、関係はないのは、嫌。

 

 嫌。嫌。イヤ。

 まばゆが傍にいないのはイヤ。

 生きるなら、傍にはまばゆがいてほしい。

 私より先に死ぬことは許さないし、させるつもりもない。

 私が先に死ぬ時には、私の事は忘れて、その先も生きていってほしい。

 

 この想いを口に出すなら──

 

「好きよ、まばゆ」

 

 

 


 

 

 あなたと、私。触れ合うたびに、肌が赤く染まって、鮮やかになっていく。愛し合うたびに、赤くなる。

 小さな事で悩んでいたのが、なんだか馬鹿みたい。

 あなたは私を好きと言って求めてくれる。あの人へのものとは違う想いを注いでくれる。それだけで、私は満たされてしまう。

 あぁ、本当に──

 

「好きです、ほむらさん」

 

 




本編よりピロートークの方が長い
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