オチはないです。
大人になる──ということは、子供の頃はとても長く遠い先の事だと思っていたけれど。現実は案外トントン拍子で進んでいくもので。
私ももう立派な20代。時の流れとは恐ろしいものです。
まぁ、同じ時間を繰り返すのはもうコリゴリですが。
停滞は停滞で恐ろしや。もし一人だったらと思うと考えたくもありません。
改めて考えると、私たちは運が良かったのかもしれませんね。
「そして、その関係が大人になった今でも続いている、と」
「いきなり何?」
ここはほむらさん宅のほむらさんのお部屋。私はほむらさんのこたつちゃんで暖まりながらほむらさんのご両親が送ってくださったみかんを食べつつ、地上波放送の映画を堪能しています。
テレビ版にはテレビ版にしか存在しない栄養と吹き替えがあります。
「いえ、なんでも。少し感傷に浸ってみただけです」
「そう」
ベランダから戻ったほむらさんが、いそいそとこたつちゃんに戻ってきました。
あれから大人になった私とほむらさんの交流は、まだ続いています。同じ魔法少女だからというのもありますが、あれだけ長い繰り返しを一緒に乗り越えたんです。そう簡単に切れるような関係じゃないのは当然で。
大人になった私たちは今でも魔法少女として変身して戦っているのかって? 半分YESで半分NOです。魔女と戦いはしますが、私は変身しません。
今の私は魔法の精度を高め、変身しなくても未来予知やハサミの攻撃、透明化もできます。
何より、いい歳した大人がパンツ丸出しの服とか着れる訳無いでしょ。常識的に考えてください。
いや、厳密には衣装であってパンツでは無いんですけど、あんなんパンツみたいなもんですしパンツです。
それに、マミさんが発見した裏ワザのおかげでグリーフシードもそんなに必要ないですし、魔女狩りには結構消極的ですね。若い子におまかせです。
「あの周回中に重曹の存在に気付いてればなぁって思ったりしませんか?」
「当たり前でしょう。それに気が付いていればどれだけチャートを短縮できたか分からないわ」
「不思議ですよねー……」
「最初はプラシーボ効果かとも思ったけれど、しっかり穢れが落ちてるのよね」
「キュゥべえのやつ、何を考えてそんな作りにしたんですかね」
「やつも知らなかったみたいよ。巴さんが披露した時、珍しく絶句していたわ」
「驚愕という感情が芽生えた瞬間でしたか」
チラシで作ったゴミ入れにみかんの皮をシュートし、新たなみかんの皮を剥く。廊下のみかん箱からこたつちゃんまで持ってきておいたストックはこれで最後ですか。味わっていただくとしましょう。
このみかん、とても甘くて美味しいですね。
「あーん」
「なんですかほむらさん、突然口を開けたりして。私のみかんはあげませんよ、まだ廊下にいっぱいあるじゃないですか」
「あーん」
「駄目ですよほむらさん。どうせまた一服しに行くんですから、その時取りに行けばいいじゃないですか」
「あーん」
「……もー、仕方ないですねー」
「んむ」
剥き終わったみかんの果肉を一つ、ほむらさんの口に運んであげます。なんだか餌付けみたいですね。
テレビで流れている映画もいよいよ佳境です。黒幕と主役の一騎討ち。ですがこのタイミングでコマーシャル、テレビ放送はこれがあるからいけませんね……。
「ちょうどいいし、ちょっと行ってくるわ」
「あ、お供します」
「……そう」
こたつちゃんから出たほむらさんに着いていき、ベランダに出ると、冬の夜の冷気が身体にとても染みる。
「寒いですねぇ」
「無理に着いて来なくてもいいのよ」
「いいんですよ、そうしてるほむらさんを見るの、結構好きなんで」
「……そう」
ほむらさんはそれだけ言うと、ポケットから箱を出し、慣れた手付きで中身を咥え、それに火を着ける。
独特な匂い。咲笑さんからもお母さんからもしなかった匂い。
決して好きな匂いではない。寧ろ、他人が近くでやっていたら嫌なくらい。
なのに、なんでか。あなたからするこの匂いは、どうにも嫌いになれない。
あの人と居る時は吸わないのに。
あの人と会う時は微塵も痕跡を残さないのに。
私と居る時は気にしない。
あの人の前では見せなくて、私には見せてくれる。
きっと、そういう優越感が好きなのかも。
「──そろそろCMも終わる頃かしらね、部屋に戻りましょうか」
「あ、もうそんなですか」
すっかり時間を忘れていましたね。
「いよいよクライマックス、黒幕との一騎討ちですからね。見逃せませんよー」
「ふふ、そうね」