君たちは、エントロピーという物を知っているかい?
簡単に説明をすると、資源から生み出される物を使って、元の資源だった物を作ろうとしても、元の物にはなり得ないだろう? そういうことさ。
宇宙には膨大なエネルギーがあるけれど、そのエネルギーは勝手に補充されることは無い。年月と共に減っていき、やがては干からびてしまう。
それを回避するためには、どこかから燃料を調達しなければならない。
そこで見つけたのが、この惑星の生物である人間。彼らは感情と呼ばれる、僕たちの中に稀に現れる精神疾患を、種族全てが、個々に持ち合わせていた。
とりわけ、第二次性徴前と呼ばれる時期の少女は特に感情の起伏が激しい。ちょっとした喜びから、深い絶望まで。そこに目を付けた僕は、希望と絶望の相転移をエネルギーに変換させるシステムを作った。
それが魔法少女と呼ばれるものだ。
最も、この呼び方は後から付いてきたものだけれど。
奇跡を願った少女は、その奇跡に見合った力を手にし、やがては絶望し、身に余る力を振りかざす魔物の女、魔女となる。
なら、魔女となる少女のことは、魔法少女と呼ぶべきだろう?
本題からズレたね。
つまり僕は、増大していくエントロピーを抑えるために魔法少女のシステムを作ったという事さ。
そして今、正に目の前で僕と契約する少女がいる。
「私は、鹿目さんとの出会いをやり直したい……彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい!」
なるほど、時間遡行の契約か。
なら、この時間軸で暁美ほむらからエネルギーを得るのは少し難しそうだ。
しかし、暁美ほむらが時間遡行する事で起こるメリットもある。
契約の起点は鹿目まどか。なら、きっと君が鹿目まどかのために繰り返す度に、鹿目まどかの因果は膨張していく事だろう。ワルプルギスの夜はこの街の魔法少女が十全に準備を整え、ありったけのグリーフシードを抱えて戦っても、勝てる保証はない。
鹿目まどかのソウルジェムが砕けるか、或いは魔女になる度に、君は時間を巻き戻すはずだ。
鹿目まどかの因果が、繰り返す毎にどれくらい大きくなるのかは想像もつかないけれど、きっと君なら、鹿目まどかを最強の魔法少女に、最悪の魔女に育ててくれることだろう。
しかし困ったな……唯一性を尊ぶ人間という種族に、たった一人で同じ時間を何度も繰り返す事は恐らく不可能だろう。鹿目まどかが育ち切る前に、暁美ほむらが魔女になってしまっては、元も子もない。
だけど。
たった一人での時間遡行が難しければ、その対象を二人にしてしまえばいい。
丁度いいのは……愛生まばゆかな。彼女は少し不安定だった巴マミを支えたという実績もあるし、何より用心深い。敵と見なすと攻撃する佐倉杏子より、思い込みの強い巴マミよりも適任だろう。彼女なら、きっと暁美ほむらの支えになる事ができる。
「契約は成立だ。君の祈りは、エントロピーを凌駕した。さあ、解き放ってごらん。その新しい力を!」
暁美ほむらの魂が、ソウルジェムへと変わっていく。
さぁ、この先の宇宙のために、鹿目まどかを育ててくれ。
君たちは、エントロピーというものを知っているかい?
簡単に説明すると、資源から生み出される物を使って、元の資源だった物を作ろうとしても、元の物にはなり得ないだろう? そういうことさ。
宇宙には膨大なエネルギーがあるけれど、そのエネルギーは勝手に補充されることは無い。年月と共に減っていき、やがては干からびてしまう。
それを回避するためには、どこかから燃料を調達しなければならない。
そのために僕たちは感情の相転移をエネルギーに変換するシステムを作ったのだけど、そんなものより、いま僕が目にしている光景から得られるエネルギーの方が余程大きく、そして長期的に使えるものなんじゃないかな。
「さすが咲笑さんね。このケーキ、 とても美味しいわ」
「当然です、プロですから。咲笑さんは長いこと海外で武者修行をしていましたからね。……あ、口元にケーキが付いてますよ」
「ん、……取れた?」
「取れてないです。少し失礼しますね、拭いてあげます」
「ん……ありがとう、まばゆ」
「にひひ、どういたしまして」
暁美ほむらと愛生まばゆ。彼女らは僕たちと契約した記録がないにも関わらず、魔法少女であるという特大のイレギュラーな二人だ。
二人に近付くと攻撃されることから、恐らく魔法少女と魔女のことを全て知っているんだろうね。
二人の契約内容が分からない以上、彼女らの持つ魔法や魔力の能力や効果は不明だけれど、恐らくどちらかが、記憶や記録を消すことができる魔力を扱うんじゃないかな。そう仮定すれば、僕たちと契約したという記録が残っていないことも頷ける。
まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。
あの二人のやり取りを見ていると、この身体の何処からか湧き出てくる、不思議な感じ。これが感情というやつなのかな。
こんなの、初めて経験する。あの二人の関係をもっと間近で、もっと観察していたい。
この星のこの国には、思い立ったが吉日という言葉があるね。
僕もその通りだと思うよ。
「やあ。暁美ほむらに、愛生まばゆ」
「……」
「うわでた」
暁美ほむらは無視。愛生まばゆも良くないものを見るみたいに僕を見ているね。
まぁ、魔法少女と魔女の正体を知っているなら、この反応も仕方ないね。
かつての魔法少女達も、僕たちへの恨み言を連ねながら魔女になっていったものだよ。
「
「は?」
「はじめまして……って、あなた私たちと何回か会ってますよね?」
「それは確かに僕たちだけど、僕という個体は君たちと直接顔を合わせるのは初めてだからね。こう挨拶するのが礼儀なんだろう?」
「ちょ、ちょっとタイム! ……暁美さん、どう思います?」
「今まで始末してきた個体とは何かが違うようね。もう少し泳がせてみましょう。いざとなったら排除するだけよ」
「りょ、了解です」
「穏やかじゃないな。僕はただ、君たちにお願いがあって来ただけなんだ」
「お願い? 魔法少女の契約ならもう間に合ってますよ〜」
「知っているよ。そんな事じゃなくて、もっと簡単なお願いだ」
「……聞かせなさい」
「僕をペットとして、二人で飼ってくれないかな」
そう告げた僕は、暁美ほむらに耳から生えている毛を掴まれて、愛生まばゆが開放した窓から外に投げ出された。
まったく────
「わけがわからないよ」
「それはこっちのセリフよ」
「ホントです。さ、会議の続きをしましょう」
「ええ」
過激派の主張改め、異星人系変質者の願望でした。
何この……なに?