「えっ?近所に新しい人入ったの?」
「えぇ。今日挨拶しにきたわよ?あなたと同じくらいの女の子だったわ。ってあなたは何をしてるの?」
「指導員の仕事。晶也先輩は多分法律関係とかには疎いだろうしそこらへんまとめてる。」
「……本当に零そういうことに向いているわよね?」
パソコンを触りながら教材をいじる俺に苦笑している俺の母さん。
向いているかどうかはわからないが最近ではこういったことをできるようになれば楽である。
「そうそう。確か制服は高藤分校だったかしら?あなたも高藤学園福留島分校の推薦来てたんでしょ?」
「ん?俺は別に葵さんの指導が受けたいだけであって部活には興味ないし。」
「……本当にあんたFC好きよね。まったくシューズも片付けなさいよ。あんたの部屋ただでさえグラシュかゲームだらけじゃない。」
「いいじゃん。成績も上位から落ちてないんだし。」
「…もう少しFCに力入れてもいいのよ?勉強なんてひとまず二の次にしてもあんたなら推薦でも国立には行けるでしょうに。」
まぁ、成績はある程度は取れているのもあるので結構自由に動いている印象はあるのだが。
「まぁ、ある程度はやっといた方がいいからなぁ。FCって日本ではまだマイナーだしFCだけでは食っていけないと思うしな。ん〜資料はこれくらいでいいか。」
「……本当にあなたは。」
数ページにまとめたものを取り出しため息を吐く母さん。まぁ、よく家で物分かりが良すぎるといい、親父や母さんに呆れられている俺なのであった。
「お前は本当に。一応俺も準備してきたんだけどな。」
開始直後に呆れた様子で俺は晶也先輩から呆れられていた。
「えっと?って問題と解答集?しかも丁寧な解説付き?」
「あぁ。零が作ってきたんだよ。元々PCを使うのは得意だからな。それにこいつ飛び方の原理から歴史まで変なところまでおぼえてるんだよなぁ。」
「凄い!?あんまり覚えてても意味ないけど!?」
「無駄ですけど一応こういう風に初心者の対応ができますので。まぁ葵さんから押し付けられるから嫌でも覚えますけど。晶也先輩が飛ばなくなってから俺一人でなるべくやってきましたから。」
「……あぁ。あの人まだ零に押し付けてるのか。」
本当にこれが厄介なのでただ手間を取るのだ。でも地味に役立っていることでもある。
人と話すことが少ない俺にとってはこれが唯一他人と関わる機会でもあるのだ。なので基本的に他の人との交流になる。
「まぁいやでやってることではないですから。まぁ飛ぶのは晶也先輩に任せます。……タブレットに打ち込むことが多くあるので。」
「仕事については信頼しているから大丈夫だよ。でも飛びながら質問返答とかやってみようと思うが大丈夫か?」
「単純な作業ならできますよ。それにどちらかいうと今は飛ぶのは俺の方が綺麗に飛べますよね?」
「そうだな。お前は昔から綺麗に飛ぶからな。」
基本に忠実で綺麗な姿勢であるとよく葵さんから褒められていたしな。
それに伊達に地区予選準優勝の実力があると自負しているからな。
「さぁ、早速始めましょうか。」
「はい!!おねがいします!!」
すると本当にやる気一杯の倉科先輩が返事をすると俺は少しだけ心が痛くなるのだった。
そして数十分後見事に全問答え覚えてしまった倉科先輩に俺は少しだけ苦笑いしている。
「……あの、さすがにこの吸収力は予想外なんですけど。」
「俺もだ。飛ぶのが苦手だけど物凄く興味はあるんだろうな。」
男子二人で話していると倉科さんたちは今みさき先輩のクイズを有坂さんがしているらしく、凄く騒がしくなっていた。
「……零はまだ続けてるのか?」
「ん?」
「FC。」
そのことを晶也先輩から聞いてくるのは本当に久しぶりだ。だから一瞬何を言われたのかわからずに首をかしげたが意味を理解すると笑ってしまう。
「続けてますよ。まぁ地区大会で負けてしまうくらいには弱いですけど。」
「高校はどうして久奈浜に入ったんだよ。FCないだろ?」
「ん?……ん〜正直部活に関してはあまり興味はないんですよ。昔からFCをやっていたのって昔は晶也先輩がやっていたからですし。」
「……は?」
「晶也先輩みたいに空を飛べたなら、どれだけ楽しいんだろうって。小さい時はずっと思ってましたよ。空が好きだったから飛んでいたわけですし。葵さんのことなんて俺は全く知らなかったですから。昔から人にはとことん興味がなくてずっとあの時は晶也先輩にべったりだったですし。」
「…零はFCは好きじゃないのか?」
「今は好きですよ。でも……昔は大嫌いでした。」
俺は多分一番聞きたかったであろうことを告げる。それは俺にとっても晶也先輩が一番為になったであろうことだから。
「あの当時で俺は晶也先輩と毎回初戦で当てられていたじゃないですか?小学校高学年までは。」
葵さんは昔からこの島の英雄みたいな人でありFCの第一人者でもある。それに晶也先輩が幸先に結果を出したから周囲も指導についても言われていたのだ。
葵さんは指導も一流だと。そして葵さんにFCを教わったのは今も含めて俺と晶也先輩だけ。他の弟子は取らなかったのだ。
だからこそ凡人の俺も特別扱いされた。期待と羨ましさに、何度も苦しかった。
そのことを晶也先輩も気づいているはずだ。お互いにそのことをせよってきたから。
それで生まれたのが葵ルール。準決勝までのシード枠を争い、俺と晶也先輩が争うというもの。平等ではなくてFCの繁栄を阻害しないように大人たちは判断したのだ。
だからこそ通常ルールになるまでは時間がかかったのだ。なんなら俺は本当に弱かったから当然のごとく負けていた。
「……そうだったな。」
「俺のFCの相手はいつの間にか晶也先輩だけでした。だからこそ他の人のFCなんて知らなかった。だからこそ初勝利まで時間がかかりましたけどね。」
俺の初勝利は結局初めてから3年後それも葵ルールが廃止されてから一年たった小学4年生の終わり。ちょうど10歳の秋だった。
「才能がある人が羨ましかった。あんなに空を駆けることができることなんて俺にはできなかったから。」
「恨んでいるか?」
「晶也先輩を恨むわけありませんって。…ただ俺が弱かっただけの話ですから。でも、やめたくはなかったです。空が好きで、晶也先輩や葵さん。白瀬さんにみなもがいてくれたからですよ。」
今俺の練習相手はみなもだ。まぁ経験が足りないのは事実だが昔よりかはずっと実力が上がっている。
大会とかでは応援にも来てくれる。父さんも母さんもこっそり仕事を休んでまで見に来てくれてる。
だからこそ飛べるんですよ。
辛くても苦しくてもそれでも俺は他の人の想いを乗せて飛んでいるのだから。
「……晶也先輩が体験したことは分かりません。苦しいことなんてすぐに忘れるっていうけどスポーツの痛みは忘れることなんてできるはずがない。だから思う存分逃げていいんじゃないですか?」
「…は?」
「晶也先輩は逃げても空は逃げませんよ。……気が向いた時にまた戻ればいい。ずっと空は待っててくれるんですから。」
俺がずっと飛び続けているように空は変わらないのだ。これからもずっと空を待ってくれているから。
「おーい。晶也!!」
「鳶沢先輩が呼んでますよ。戻りましょうか。」
鳶沢先輩の言葉に俺は小さく呟く。これで二人で話す時間は終わったらしい。
「それと、俺も待ってますから。空と一緒に。飛べるようになるまでは。」
「…ありがとな。」
すると一度頭に手を置き、晶也先輩はいつものメンバーのところへ駆けていく。
正直飛べなくてもいい。ただそれでも見捨てることは絶対にない。それが、晶也先輩がずっと俺にしてきたことであって、俺にできる恩返しだと思うから。