鬼を滅するOFA   作:入魂ロフス

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初代「殺意」

 

 

 鬼舞辻無惨はクソ上司

 

 これが齢5歳にして知った世界の真実。

 

 部下の得意分野が何かなんて微塵も興味がないし理解する気もない。

 その時その時の気分次第で部下を罵り罰を与え、それによって仕事の効率が下がると癇癪を起こして目についた者を処刑する。

 

 御家をここまで栄えさせた御先祖への敬意など欠片も持たず、ただ生まれながらの権力を貪り喰らう。

 御身が病に伏せた時は快方に向かうよう(まじな)いを続けていた私達になんの言伝もなくどこの馬の骨ともしれない薬師を家に招き入れ…そして…そして……!!!

 

 ……自己紹介を忘れていたね。

 私の名は舞一(ぶいち)、鬼舞辻家に仕える陰陽師の一族の嫡子だよ。

 

 これは私が、私達が、鬼舞辻無惨を殺すまでの物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私には前世の記憶があった。

 三歳の時、高熱を出して死にかけた後から前世の記憶がはっきりとし始め、周囲の人々の前世との違いが少しずつ分かるようになってきた。

 

 (みかど)(みやこ)、陰陽師などの言葉が当たり前のように飛び交い、前世では学校の教科書くらいでしか見かけなかった装束を纏った人々が屋敷の中で日常を過ごしている。

 どう考えても私が生まれたのは平安時代のはずだったが、たった一つ明らかに日本らしくない所があった。

 

 そう、たまにカラフルな髪色の者がいるのである。

 

 明らかに何かしらの作品の世界だコレ!!

 

 私はめちゃくちゃに喜んだ。

 少々病弱ではあるが、遥か遠くの未来の知識を持った私ならこの世界で何者かになれると思ったからだ。

 

 平安時代を舞台にした作品はあまり知らないが…陰陽師の一族に生まれたのだ、きっと私にもなにかしらの凄い力が眠っているはず!

 そう確信した私は何度も家人達の目を盗んで部屋から抜け出し、庭の隅で自分に眠る特殊な力を見つけようと試行錯誤を重ねた…。

 

 記憶にある色々な作品の能力を一つずつ試し続け、そろそろ本当はなんの転生特典も無いんじゃないかと思い始めていた時。

 陰陽師といえば五行思想だよなと思いついた私は早速頭の中で色々と曖昧な五行を思い浮かべて手に力を込めてみた。

 そこで何かがカチッとはまる感覚と共に丹田の辺りから込み上がってくる力を、ゾーンのような状態となり冴え渡った頭で周りに被害を出さない形に整える。

 指先から飛び出した力は、黒い炎の形をしていた。

 

「わあ…!」

 

 見れば分かる、形こそ炎ではあるがこれはただのエネルギーの塊。正しく使えばどんなことだって可能にできると確信させるものがそれにはあった。

 

 私は今世が希望に満ち溢れたものになることを確信した。いわゆる「勝ち確」というものである。

 

 力に目覚めるきっかけとなった父上の扱う学問から「陰陽術」と名付けた力の扱いを練習した私は、仕える公家の屋敷から帰ってきた父上の近くで遊びながら視界の端でチラチラと術を使い、父上が自分から術のことを聞くよう誘導した。

 アピールを始めてしばらくした頃、父上から呼び出された私は少しの不安を胸に父上の元へ向かった。

 

「舞一…そなたのその…術はどこで習った」

 

 よかった…困惑と緊張は感じるが敵意は微塵も感じられない。

 "力"を持った子供を恐れる可能性に思い至って少し不安になっていた私は、緊張した様子で力の事を聞いてきた父上にドヤ顔で言い放った。

 

「父上のような陰陽師になる為一人で修行をしたのです!凄いでしょう!」

 

 私の渾身のドヤ顔に緊張が解けたのか、父上はほっと息を吐いた後頭を撫でてきた。

 

「そうかそうか…頑張ったなあ…」

「頑張ったんです!」

 

 それからは忙しい日々が続いた。

 私が特別な才能を持っていることを認識した父上は、幼く病弱な私が陰陽道を学べるよう様々な書物を集め、後継の育成を名目に家にいる時間が増えた。

 しばらくして私には陰陽師の才能もあることが分かり、将来朝廷に仕えることができるよう熱心に根回しを始めた父上は…一つ重要な事柄を見落としていた。

 自身が仕える家の新しい当主…鬼舞辻無惨の性格を。

 

 鬼舞辻家の前当主が急病で亡くなり、後を継いだのは私を上回る病弱さと聞く鬼舞辻無惨様だった。どんなDQNネームやねん。

 

 DQNネームの無惨様は父上が将来自身に仕えるはずの陰陽師を朝廷の陰陽寮に向かわせようとした事を知り、怒りを顕にしながら父上を呼び出した。

 事前に無惨様の様子を聞いていたのか、呼び出された際の父上は酷く怯えていたように思う。

 

「申し訳御座いませぬ…どうか!どうかご容赦を…!」

『黙れ。お前にはもう期待していない。何故才のある陰陽師を私に仕えさせようとしない?何故そこまで恩知らずになれるのだ。お前の一族は私に仕えているのではなかったのか?もういい、お前は流刑だ。二度と子に会うことを許さん』

「……ッ!」

 

 

 

 

「という事が…」

「…は?」

 

 父上が流刑に処された。

 私がそのことを知ったのは定期的に来る体調の悪化から持ち直した後だった。

 無惨様の命令で遠征でも行ったのかと思ってたらそんな事になってたの??

 

 そこからは地獄のような日々が続いた。

 無惨様は未だ見習いの身である私を鬼舞辻家の陰陽師の頭とし、公務の吉凶を占う役割を全て私がやるよう言いつけてきた。

 

 病弱な私を気遣って無惨様に上申した家人達はことごとく罰を与えられ、五人の妻を自殺に追い込んだ実績のある無惨様の罵倒で自殺に追い込まれた。

 この家の幼児一人に激務を押し付け続ける状態に物申せる者は既に一人も居ないのである。

 

 そうして年齢一桁で公家の陰陽師を押し付けられた病弱な幼児である私はどんどん体を弱らせていき…なんてことはなく、私は元気ピンピンであった。

 

 最初の頃こそ何度か死にかけたことはあったが、その度に陰陽術の新しい扱い方を習得し続け、今では術のエネルギーを栄養に変換して水だけで一週間は働き続ける芸当まで可能になっている。

 こんな社畜の鑑みたいな能力が欲しかったわけじゃないんだよなあ…

 

 こんな幼児に激務を熟させている時点でお分かりかと思うが無惨様はとんでもないクソ上司である。

 

 大熊退治に野盗討伐に屋敷の掃除にetc…マジで頭無惨様は陰陽師をなんだと思っているのだろうか。

 陰陽術でなんとかなる私はまだ良いとして、タチが悪いのはこの極悪命令のオンパレードを以前父上の補佐をやっていた陰陽師達にも押し付けている所だ。

 おかげでうちの陰陽師は半数以上が殉職、生き残った者たちもトラウマや死なない程度の大怪我で仕事ができない状態になってしまった。

 

 今の所は欠員による負担の増加を陰陽術の上達によって誤魔化せているが、ここから少しでも成長速度が鈍化すればたちまち破綻してしまうレベルの綱渡りの中で仕事をこなしている。

 ぶっちゃけ無惨様にはいち早く死んで欲しい。

 

 そんなこんなで無惨様への殺意を募らせながら激務に追われること数年。ついに無惨様の病状が致命的なまでに悪化した。

 こっそり調べたところ今回の症状は特に酷く、残された時間もあまり長くないそうだ。

 

 自分でも無礼の極みだと思うが、できればこのまま死んで欲しい。

 少なくとも無惨様が寝込んでいる間は無茶振りで部下が無駄死にすることはないし術の上達に集中できる。

 

 空いた時間で覚えた紙の式神にちょろっと覗いてきて貰ったが、無惨様の体調は病弱な私から見てもなんかダメそうだ。

 

 一応これまでも熊や野盗を殺した時の応用で無惨様を暗殺することは可能だったが、明らかに何かの作品であろう世界でそんな愚行を犯すほど私もおばかではない。

 それに父上から受け継いだ陰陽師の立場でそんなことやるわけがないのである。

 

 巷では神仏の類なのではと噂されるレベルの有能陰陽師をやっている私が無惨様がブッ倒れてる時にのんびりしていると悪い噂が立ちそうなので、他の陰陽師達も巻き込んで体調が快方に向かうよう(まじな)いを始めることにした。

 

 これまで超人的なことばっかりやってきた私が中途半端な(まじな)いなんかしたら一瞬で手抜きだとバレてしまう。

 そういうわけで他の陰陽師達が疲労でリタイアした後も過酷な儀式を続けていると…

 

「……ん?」

 

 この気配…記憶に無いな。

 無惨様の屋敷に完全な部外者が招かれた事を感じ取った私は恐らく薬師か何かだろうと思い、荷物の中身までは調べずに儀式を続けた。

 今思えばあの時の自分はどうかしていた。「暗殺者だったら手間が省けていいなあ」とか「無惨様が死んだらどこ行こうかなあ」なんて考えていたのは自分でもどうかと思う。

 

 部外者が無惨様の看病を担うようになってから数日後の夕方、無惨様が部外者を殺した。

 あまりにも頭無惨様な行動に一瞬儀式が途切れたが、遺体の処理は他の家人達がどうにかするだろう、と気を取り直し(まじな)いを再開した。

 直後、事態の異常さに気が付く。

 

 ちょっと待て。さっき鉈を力いっぱい投げてなかったか?無惨様寝込んでたよな?

 ……不味い。なにか途轍もなく嫌な予感がする。

 

 万が一の戦闘に備えて無惨様の部屋の周囲に式神を配置し、儀式を中断して他の家人達を呼びに向かう途中、無惨様が立ち上がった。

 立ち姿だけでも異常な筋密度が見て取れる…つい先ほどまで寝返りすら困難な体の筈だったのに!

 

 想定外の事態は立て続けに起こり続ける。

 

 不味いッ!!婚約してから日が浅く無惨様の性格をろくに知らない新人の妻が見舞いに来やがった!!

 クソッ!無惨様の屋敷まで少し距離があるから間に合うか分からん…お願いだから今の無惨様を刺激しないでくれ…!

 

 家人を呼びに向かう時間など残されていない事を知った私は儀式で疲弊した体を無理矢理動かして無惨様の元へ向かう。

 無惨様の周囲に配置されている式神を通して新人妻と無惨様のやりとりが聞こえてくる。

 

『…誰だ』

「あら!妻に対して誰だとは非道いですね…それより…男前じゃないの」

『………』

 

 小声で言った最後の部分はおそらく無惨様にも聞こえている…このまま機嫌を取り続けてくれ…!

 

「噂も当てになりませんね…私はてっきり病弱で死にかけの男と結婚させられてしまうのかと……」

 

 新人妻が無惨様が殺した医者の死体を視界に納め、目を見開くのが感じ取れた。

 この方はもう助からないな…無惨様の地雷を踏み抜いてしまった。

 

「キャァァァァァ!!!」

『五月蠅い』

 

 新人妻の頭が無くなった。

 彼女が叫んだ直後…瞬きの間に無惨様の腕が振り抜かれていた。

 

 ………全く見えなかった。間合いに入ったら瞬殺されるな。

 動揺で足が止まってしまったが、化け物みたいな筋力と健康を手に入れても無惨様は頭無惨様のままであることがわかったので殺されないよう死体処理とご機嫌取りに向かおうと再び走り出したその時。

 私は悍ましいものを見てしまった。

 

『……美味い』

 

 無惨様が腕に付いた新人妻の血糊を一舐めし、笑みを浮かべたのである。

 嫌な予感の正体はコレか…!不味いぞ…無惨様が人喰いの化け物になってしまった!いかにもな家名とはいえ一族から妖を出したとなっては血縁全てに風評被害が及ぶ!

 

『美味い…美味い…!』

 

 新人妻の死体を貪り喰らい始めた無惨様を式神越しに見据えた私は、化け物となった無惨様を殺す決意を固めた。

 自室や無惨様の屋敷の敷地内にある式神を予備を含めて全てこちらに向かわせ、全ての式神に遠隔で術を刻んでいく。

 主人殺しの罪を背負うことにはなるが…やむを得ん!塵も残さず焼き尽くす!

 

 集めた式神の九割九分を無惨様の部屋の床下と天井裏に敷き詰め終わった。

 

『なんだ…この音は…』

 

 紙の掠れる音には気付いたようだが…少し遅い!現在運用できる術の最大火力…手加減は致しません!

 

「火術奥義…『炎心』ッ!!」

 

 無惨様の部屋の周囲に張り巡らされた式神が一つ残らず…爆ぜた。

 闇に包まれ始めた空が無惨様の部屋を中心に噴き上がる火柱によって赤く染められるのが見える。今になって少しやり過ぎた気がして来たが…無惨様がやらかした証拠の隠滅も兼ねての火術だ、前向きに行こう。

 

「無惨様…あなたの事は忘れませ…?」

 

 …何故私は屋敷の砂利に顔を埋めているのだろうか。

 起き上がれない。足が動かない。砂利が地味に尖ってて痛い。

 

『お前が…ゴフッ…ここまでの妖術を使えたとは…何故私を殺そうとしたか理解に苦しむが…そのまま死ね…!』

 

 背後に感じる暴力的な気配の持ち主が、何かの骨を踏み砕く音が聞こえた。

 …そうか、今の私には下半身が無いのか。

 

 私には既に無惨様からの罵倒など聞こえていなかった。

 どうやってあの爆炎から生き延びたのか、何故私の居場所が分かったのか、そんなことは全てどうでもよかった。

 

「っぐ…!!」

 

 この感覚…極めて強い毒か、生き残るのは無理そうだ。

 

「ならば…!」

 

 残る力で確実に殺す方法を考えろ…考えろ舞一…!

 

 今の私には、理不尽な死への恐怖や仕留め損ねた事への後悔などは微塵も無かった。

 そこにあったのは、クソみたいなパワハラを与えられ続けた憎しみ、そして希望に溢れた未来を奪われた怒りからくる…鬼舞辻無惨への純粋な殺意のみ。

 

 これまで自分が成し遂げてきた数々の任務先に残った力の残滓、延命に回してもなお有り余る陰陽術のエネルギー、そして残り少ない命を捧げて形成した力の行先は…未来。

 

 たった一人の力では到底届かなくとも、一人一人が力を蓄え未来に託し続ければいつかはお前の命に手がかかる。

 私の力と想いはお前を殺すまで絶えることなく受け継がれ続ける。

 

「地獄に…堕ちろ……」

『地獄に堕ちるのはお前だ…!』

 

 鬼舞辻無惨、お前を必ず殺してみせる。

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