妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

1 / 119
もしも司波深雪成主が原作に行ってしまったら、というお話です。

こちらのシリーズの時間軸としては夏休み後、生徒会選挙前辺りのお話なのですが、このシリーズの世界は本編の夏休みにて、雫の別荘地で自身の中に眠っていた怪物の正体を見抜いてしまったお兄様が存在する世界線となっております。
ですので本編とはお兄様の性質がちょっぴり異なりますのでご了承くださいませ。


本編の番外編とはまた別シリーズとして読んでいただけたらと思います。


トリップシリーズ
序章~そしてフラグへ~


達也サイド

 

 

俺がその違和感に気付いた時には、彼女はすでにそれを口にしていた。

慌ててもう一つ摘まもうとする手を掴んで止めると、不思議そうな顔が窺うけれど、その手を離すわけにはいかなかった。

 

「お兄様、如何しました?」

「…深雪、これはアルコール入りだ」

 

深雪が口にする前に止めるべきだった。

初手が遅れたことを後悔したが、流石に口の中に入ってしまったそれを取り除くわけにもいかない。

チョコレートアソートには偶にこのような罠があることを知っていたのに、気が緩んでいたか。と、たかがチョコレートになぜここまで打ちひしがれているかと言えば妹――深雪は極端にアルコールに弱かった。

ひと粒くらいならまだそこまでではないはずだが、香りだけでも酔ってしまう深雪のことだ。何か変化が出るはずだ、とチョコレートを深雪の視界から片付けながら、紅茶を勧める。

少しでも成分が薄まるように、との淡い願いを込めて。

深雪は俺から勧められたものを断ることなどなく素直に口を付けた。

調度のどが渇いてたこともあるのだろう。

こくり、こくりと程よい温度の紅茶でのどを潤しながら、彼女の目はだんだんと細められていく。

まるで眠いのかと言うほどとろん、と蕩けたような目に、何とも言えないモノを感じて少しだけ目を逸らした。

 

「ふふ」

 

深雪は何が楽しいのか、急に笑みを浮かべた。

その表情は無邪気にも見えるのに、纏う空気が夜に相応しい大人の雰囲気に変わっている。

こうなると、俺は深雪に触れられない。触れるわけにはいかなかった。

 

「ねえ、お兄様」

 

だから妹の話を大人しく聞くことだけに徹する。

深雪の口から語られるのが、夢のような話であろうとも。

 

 

「もしこの世界が分岐先の世界で、元のルートの世界が別に存在していたとしたら、どう思われます?」

 

 

唐突にその話は始まった。

 

「平衡世界のことか?」

「ええ。無数のパラレルワールドが存在するとして、お兄様は私でない深雪に会ってみたいですか?」

「深雪とは違う深雪がいるのかい?」

 

平衡世界はフィクションの中でも多く存在する題材だ。

IFの世界。もしもあの時こうしていたら、と誰もが夢想する世界。

 

「それは一体どんな深雪なのかな」

 

想像がつかない、と尋ねると、深雪はまるで見てきたかのように語りだした。

 

 

 

――

 

 

 

「そう、あの分岐点は中学生の沖縄でした。あの時の決意が私たちの道を分かつことになったのです。

そうですね、彼女のことは『深雪ちゃん』と呼びましょうか。私とはだいぶ違っていましたので。

 

深雪ちゃんはお兄様が大好きで、大好きで。全てがお兄様の為にと一生懸命な女の子なんですよ。

高校に入って一科生がお兄様を蔑むと、深雪ちゃんは怒ってしまってお兄様がいつも宥めてくれるんです。

七草会長がお兄様にちょっかいを掛けると嫉妬して、その日の晩にお兄様にお仕置きなんてしちゃうんですよ。

可愛いけれど、ちょっと過激な女の子なんです。

 

どんなお仕置きか、ですか?

 

そうですね、お兄様にCADの調整をしてもらっている時に、作業をしている最中のお兄様に後ろから抱きついて凍らせて心臓を止めちゃうんです。お兄様はすぐに再生するので二人にとってはちょっとしたじゃれ合いみたいなお仕置きだったようですけれど。

 

それはちょっとではないんじゃないかって…あちらのお兄様は苦笑して受け入れてましたよ?

 

深雪ちゃんはいつも自分のことを深雪と呼んで、お兄様に認識してもらおうと必死でした。

 

どうして?

 

どうしてでしょうね。お兄様はきちんと妹に愛情を持って接していたと思うのですが、深雪ちゃんには不安だったのかもしれません。そうやって刷り込んでおかないとお兄様に忘却されてしまうことを恐れたのか――自分の存在が一番でなくなることに怯えていたのか。

私は深雪ちゃんではないので本当のところはわかりません。

 

お兄様にはこの不安はわからなかったようですが、深雪ちゃんも知られたいわけではなかったのでずっと秘めちゃうんです。健気ですよね。

 

でも、高校生活で忙しくなるにつれ、この関係性にも変化が出てくるようになりました。いつまでも二人きりの世界ではいられなくなってしまったのです。

 

ふふ、そうですね。私たちと同じです。エピソードは大抵同じなのですよ。ただ私たちが、『深雪』という存在が違うだけで話は大きく意味を変えていきました。

 

大きな違いは学校でのお兄様の扱いでしょうか。二科生の中でもお兄様への当たりはとても強くて。七草会長や渡辺先輩に贔屓にされていたことも大きかったのでしょうね。あとは妹とは言え深雪ちゃんに敬愛されていましたから、とにかく反感が大きくて。男子からは特に目の敵にされてました。

 

お兄様は特になんとも思ってないようでしたけれどね。ああ、煩わしそうではありましたか。色々と迷惑を被っておりましたから。

 

想像がつきますか?ふふ、そうですね。お兄様にはあまり変わりは無かったでしょうか。ただし、学校ではと注釈が付きますが。

家でのお兄様は、うちのお兄様とは違います。まずうちのように触れ合いません。撫でるくらいで抱きしめることも滅多にありません。

 

そんな、信じられない、みたいなお顔をなさらないで。理由はちゃんとありますから。

 

その、深雪ちゃんのお家での恰好は、…開放的でして。私と違って肌の露出が多いのです。そんな恰好ですから、お兄様も戸惑われることが多々あって。

 

どうしてそのような恰好を、ですか?

 

それは、その…深雪ちゃん個人の問題と言いますか、プライバシーのお話ですのでそれはちょっと…。

 

え!?私はしませんよ!あん、…あのような恰好でお兄様の前に出るなんて、想像するだけで恥ずかしくて。

 

ちょっと、お兄様?どうして腰を引き寄せるのです?アルコールが抜けてきたようだ、って…そもそも私は酔っておりませんよ?」

 

 

 

――

 

 

 

 

チョコレート一つ分のアルコールが上手く分解されたようだ。

酩酊していた雰囲気は無くなり、いつもの可愛らしい深雪が戻って安堵した。

離したくなくて物理的に引き寄せてしまったが、許してほしい。

 

「酔っぱらいは皆そう言うんだ」

「…酔っておりませんのに」

 

深雪は認めないだろうが、どう考えても彼女は酔っていた。

だがアルコールの抜けた今なら彼女に触れることができる。だから遠慮なく深雪の腰を抱き寄せた。

 

「しかし、不思議な話だな。深雪であって深雪でない存在か。そちらの深雪は随分と愛情表現が激しいみたいだが」

「それだけお兄様が鈍感なのですよ。…というより常識的なのでしょうね。兄妹ですもの」

 

深雪の言うお兄様が自分を指していないことが不思議な感じがしたが、彼女の語る兄が自分と異なることも解っていた。

自分はそれほど鈍くはない。深雪は濁していたが、恐らくもう一人の深雪は兄が好きなのだろう。

そう察しがついた。

そして兄として俺より優秀なのかもしれない、とくだらないことを考える。

 

「不思議ですよね。一つのキーストーンが違うだけで、世界が全く異なるのですから」

「どちらの世界も俺たち兄妹はトラブルに巻き込まれるんだな」

「そこは変わりありませんでしたね」

 

平衡世界だというのに分岐後もそこは変わらないとは、なんとも運のない話だ。

会うこともない別世界の己に同情した。

 

「それは何とも救いのない話だ」

「あら、そんなことはございませんよ。――これはお兄様が幸せを掴む物語、人生なのですから」

 

まだ夢見心地なのか、俺が幸せになるのだと断言する深雪が顔を綻ばせる。

それだけでつまらない悩みなど吹き飛ぶような心地だ。これを幸せというのだと自分はすでに知っていた。

 

「俺は今でも十分に幸せなんだが」

「これよりももっと、もっと幸せになるのですよ」

 

肩に羽のように軽い感触が乗せられる。そこに己の頭を重ねて更に密着させた。

これ以上の幸せなど、己の貧相な想像力では思いつかない。

だが、深雪は想像ができるのか、その未来を想って笑みを浮かべていた。

その深雪の描く幸せに、彼女の隣にいるのは自分であればいいのに、など考えてしまう自分はやはり、平衡世界の自分とは似ても似つかないのだろうなと胸の内で自嘲した。

 

 

 

――

 

 

 

深雪サイド

 

 

私は今最高に幸せな心地だった。

大好きなお兄様とこうして寄り添うのは心臓が痛いくらいに騒ぐけれど、お兄様がこの距離を許してくれることが嬉しかった。

どうして原作の話など口にしてしまったのか、不思議ではあったが、否定をしないお兄様のお陰で気持ちが軽くなった。

勝手に改変し、書き換えてしまったシナリオ。

お兄様の幸せが遠のいてしまうのでは、と考えることもある。

でも学校で辛く当たられることもなく、四葉でも冷たい視線が少ない現在を悪いとは思わない。

お兄様の性格もちょっと変わってしまったけれど、…ちょっと、うん、原作よりちょっぴり妹に甘すぎのような気がするけれど、悪くは無いはずだ…と思う。

いや、きっとこの甘やかしは恋人ができればそちらに向かうはずだから。

感情が育ってきたお兄様はきっと恋をして、その人を愛して幸せに暮らすのだ。

その幸せな生活を陰からサポートをする――全てはお兄様を幸せにするために。これをモットーに生きてきた。

そしてそれはこれからも変わらない己の指針だ。

原作の深雪ちゃんには悪いけれど、私はお兄様を直接幸せにできないと思っている。

お兄様にとってあくまで私は妹だから。

妹は恋愛対象にはならない。常識人のお兄様だからこそ――唯一持つ、お兄様の残された倫理観であり、大事な妹だからこそ、お兄様はその常識に拘るはずだ。

もしも、もしもその上でお兄様が妹をそういった対象として愛する日が来るのだとしたらその道もあるだろうけれど、深雪ちゃんとして私がそのアピールをしない限りはないだろうね。

だからそう思うと、原作の深雪ちゃんは凄いのだ。

お兄様の堅牢な常識をぶち壊し、愛を教え、二人の幸せを勝ち取るのだから。

どちらがお兄様にとっての幸せなのだろう。

答えはゴールにたどり着かないとわからないし、そもそも幸せに答えなどない。

どのような形でも本人が幸せならばそれが優勝だ。

 

「どの世界でもきっとお兄様は幸せになります」

 

きっとどの世界でも深雪ちゃんが張り切って頑張るだろうから。だから私も負けないように、お兄様を幸せにしてみせる。

そう決意を新たにすると、今度はお兄様がくつくつと笑いを漏らした。

 

「俺が幸せになるということは深雪も幸せになっているということだな。俺の幸せはいつでもお前と共にある」

 

その言葉にカッと頬が熱くなる。

目を伏せて落ち着かせようとするのだけれど、お兄様の猛攻は緩まない。

さらにちょっかいを掛けるように長い髪を指に絡ませ遊びだした。髪に手の熱など伝わらないし、感触さえわからないはずなのにそこから伝わって熱が注入されるよう。全身が熱くなった。

 

「…もう、お兄様には十分幸せにしてもらっておりますのに」

 

先ほどのお兄様のセリフをもじりつつゆっくり体を離そうとするも、お兄様の優秀な頭は重いようで私の上から持ち上がらない。

こうして兄妹の夜の戯れはしばらく続き、紅茶が冷めてしまったと嘆くことでようやく離してもらい、幸せを飲むように二人でカップを空にした。

 

 

 

 

そして次の日――

 

(あれ、フラグだったのか…)

 

 

私はひとり教室で、途方に暮れた。

 

 

 

 

 




妹は唐突に電波を受信した模様です。
果たして妹に立ったフラグとは――?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。