妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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刺激が強すぎてパニック渋滞?!な深雪ちゃんを皆で応援しましょう。(ペンライト片手に)



夢の世界はスパイスにあふれて

 

「待たせたな」

「随分かかったな」

「変なことしてきたんじゃないでしょうね?」

「へ、変なことってエリカちゃん!」

「た、たた、達也さん!本当ですか?!」

「ほのかは落ち着いて――達也さん、そんなことしないよね?」

 

お兄様の一言にたくさんの言葉が返ってきたのだけれど…。

エリカ、ほのかの反応と、西城くんの反応は見慣れたものだけれど、美月と雫の反応は知らないものだった。吉田くんは、動揺しているけれど、特に気になる反応でも無いので割愛する。

何故、美月はあんなに顔を赤くさせて、目を輝かせているのか。

何故、雫が静かにお兄様を睨んでいるのか。

この雰囲気に異常なものを感じるが、私はお兄様に命じられた通り食事に集中する。

特に雫の反応が気になるけれど、今の最優先事項だから。

私が口を挟まないことを確認してか、お兄様は私に対してわずかに目を細められてから会話を再開させる。

 

「さっき深雪の様子がおかしかっただろう?」

「ああ。おにーさま呼び?演劇部部長がまた喜びそうなネタ放り込んできたわねー」

「別にあの人を喜ばせようとしたわけじゃないがな。――実は昨日、深雪と罰ゲームを掛けてゲームをしたんだ。俺が勝ったんだが、先に罰を決めるのを忘れてね。深雪自身に考えてもらってたんだ」

「…兄妹でいったい何して遊んでんのよ」

「聞きたいか?」

「ご飯が喉を通らなくなりそうだからいらない」

「わ、私はあとでこっそりと」

「美月!火傷するからやめときなさい」

「そんで、それが罰ゲームとして、敬語でおにーさまに繋がんのか?」

「普段兄さん呼びの深雪には、お兄様なんて呼び方は十分罰ゲームじゃないか?エリカはどう思う?」

「…そーね、皆の前でそんな呼び方なんてしたら恥ずかしいでしょーね」

「俺としてはお兄ちゃん呼びでもよかったんだがな」

「それ以上追い打ちはやめてやれよ。深雪さん恥ずかしがってんだろ」

 

……なんなのでしょうこの会話は。

非常にいたたまれなくなって食べるどころではなくなって俯いてしまう。

わからないなりに話は頭に入ってくるので少しずつ咀嚼するように解析していくのだけれど、こちらでの私はお兄様を兄さん、と呼んでいるらしい。しかも敬語も無しだとか。

それはお兄様に対して不敬では!?と思ってしまうけれど、お兄様の続けられた言葉に思考が停止してしまう。

 

(…お兄様は、本当はお兄ちゃん、と呼ばれたかった…?)

 

新事実である。

まだお兄様の素晴らしさに気付けていない時でさえ、私はお兄様を兄さんとしか呼べなかった。

 

(お兄ちゃん…お兄ちゃん…。子供っぽいけれど、距離は近く感じられるかしら?)

 

お兄様がそれを望むのならば、私は…!と覚悟を決めて顔を上げたのだけど、

 

「達也さん、それ以上深雪を追い詰めない。深雪も、ただの罰ゲームなんだから達也さんを図に乗らせちゃだめ。困るのは深雪だよ」

 

…雫がこんなに真剣な表情で、長い文章を話すのを初めて聞いた。

いつもは無表情ながらほんのり感情が伝わるくらいなのに、今のはまるでお姉さんのように年下を嗜めるような雰囲気すらあった。

先程もお兄様を睨みつけていたりしていたけれど…あれはほのかの為に、ではない別の理由があるのかもしれない。

 

「せっかくのチャンスなんだが」

「エリカも言ってた。『お兄様』でも十分恥ずかしいって。これ以上深雪を辱めないで」

「そーよ、達也くん。ただでさえ深雪のお兄ちゃん呼びは伝説なんだから、あんまりあの感動を奪うような真似はよくないって」

 

エリカの言葉も意味が解らない。伝説とは?感動を奪うとはいったいどういう意味なのか。

それよりもお兄様の口からチャンスなんて言葉が聞けるなんて。私が期待をされていることに胸が高鳴る。

敬愛するお兄様をお兄ちゃんと呼んでみたいという欲が湧いてくるけれど、今がそのタイミングではないことは理解できていた。

何とか気を持ち直して黙々と下を向いてお兄様のご指示通りご飯に集中する。

 

「冗談はさておき、とりあえずこれは兄妹間のお遊びみたいなものだから、適当に付き合ってくれ」

「学校では止めさせればいい話じゃない」

「リスクのない罰ゲームでは楽しめないだろう?」

「…達也くんって結構」

「…スパルタな面がありますよね」

「同じSでもサディスティックのSでしょ」

「わわ、エリカちゃん、せっかくマイルドに言い換えたんですから!」

 

エリカと美月の囁きが私にも聞こえるということはお兄様にも聞こえているはずなのに、お兄様は触れることなくこちらに向き直った。

ご飯を中断してお兄様を見上げる。

 

「説明も終わったし、罰ゲームを再開しようか」

 

柔らかい笑みの中に、揶揄うような色を見せる瞳に少年らしさが見えてドキッとした。お兄様も、こんな年相応な表情をされるのか。そう思うと胸が締め付けられるようだった。

時々お兄様――ここではない、私の世界のお兄様も私を稀に揶揄うけれど、挑発的なものが多かったと思う。主に発破掛けの様な意味合いを持たせて揶揄うのだ。

今回も、私が不自然にならないように周囲に説明してのこの状況なのだからそういった側面もあるのだけれど、純粋に楽しんでいるみたいな表情は初めて見た。

これが演技なのか、素の表情なのかも私にはわからない。

…この、お兄様は私の知るお兄様とは違うのだと実感すると、気分が落ち込んだ。

お兄様は妹だと言ってくださるけれど、受け入れてもらえるだろうか。

すると、お兄様の手が伸びて、頭を撫でる。

優しい手つき。いつもの、お兄様の手だ。触れる手と同時に掛けられる言葉からこちらを思いやってくださっているのがよく分かるものだった。

 

「大丈夫だよ、深雪。深く考えなくていい。楽しめばいいのだから」

「…楽しむ、ですか」

「ああ。気楽に過ごせばいいんだ。俺はいつもと違う『深雪』であろうと深雪が深雪である限り、可愛い妹なのだから」

 

そろりと見上げて見たお兄様の瞳は、とても慈愛に満ちていて、それだけで自分の悩みなど消え去るように感じた。

周囲には罰ゲームなんだから気楽に、と聞こえているのだろうけれど、これは間違いなく――

 

(別世界から来た私を思いやってのお言葉)

 

お兄様の優しさはどこの世界でも変わらないのだと安堵した。

目の前の方がお兄様だとはわかっている。間違いなく私と繋がっているお兄様であると。

けれど、私の知るお兄様でないこともこの短時間でも解っている。

なによりこの世界はお兄様を受け入れている世界。

周囲の視線が向けるのは忌避でも嫌悪でも、ましてや蔑みの視線でもない。

向けられる視線は私の知るものより多いのに、そのほとんどが好意的に向けられている。

――私の知らない世界だ。

こうであってほしい、本来であればこうあって当然の、理想の世界。

どうして、こんなに違う歩みになっているのだろう。何が違うのだろう。

 

(――私たちの世界でも、お兄様は受け入れられるだろうか)

 

そんなことを考えていると、頭にのっていたお兄様の手が滑るように頬に添えられて。

 

「ほら、また難しく考えているね。深雪は真面目だから」

 

しょうがない子だね、と少し困ったように微笑まれ、肩に手を置いたお兄様の顔が徐々に近づいてきた。

 

(え!?い、いったい何を?!お、お兄様!)

 

そんな、まさか、兄妹で何を!?と視線を絡めたまま寄せられる顔にどぎまぎしていると、触れる距離まで近寄った顔が少しずれて耳元に寄せられた。

周囲からキャー、と悲鳴が上がるけれど、それどころではなかった。私が叫び出していないのが奇跡だと思うくらい気が動転していた。

 

「深く考えるな。――今は、俺に身を委ねて。いつも通り過ごせばいい」

 

帰ったらゆっくり話をしよう。

そう言って離れたお兄様を直視してしまった私は耐え切れず顔を覆って俯いてしまった。

 

「た、たた達也さん!いったい何を言ったんですか!」

「お昼時にやめてよ。喫茶店じゃないからコーヒー注文者が殺到して頼むのに時間かかるんだから」

 

お兄様が非難を浴びているけれど、いつもなら抱く不満を全く感じない。

それよりも自身を落ち着かせることが急務だった。

心臓がものすごいスピードで血液を全身に送っていた。全身に火が付いたように体が熱い。

お兄様にとってはなんてことない言葉のつもりだろうけれど、私にはとても刺激の強い言葉だった。

 

(…俺に身を委ねて、なんて!)

 

リフレインする言葉に、動悸が止まらない。

お兄様の射抜くような瞳が、頭から離れない。

頭の中がそれ一色に染まり、何も考えられなくなっていた。

おかげで食べるのが遅れ昼食が終わったのは、授業のはじまるギリギリの時間だった。

お兄様は騒がせたことを反省したとして、後日皆にいつもの喫茶店で奢るという話で決着した。

 

 

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