妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
11月17日
「本日はレンコンの日でイナリの日ということでお弁当を作ってみました」
皆でお昼に食べましょう、とぎっしり詰まった重箱を傾けて見せるとお兄様はじっと見つめて。
「美味そうだな。先に一つ貰えるか?」
「ふふ、お兄様が味見をして下さるのですか?」
たくさん作ったので入りきらなかった分は帰ってきてから、と思っていたのだけれど余りを見つけたお兄様にそちらを提供する。
それにしてもお兄様、美味しそうだから先に食べたいだなんて、可愛らしいお願いにきゅんとした。
ニコニコ笑顔で差し出すと、お兄様は口を開いて動かない。…お入れしろということですか?
お兄様にはいあーん、なんて朝からハードル高すぎやしませんか⁇でもいつまでもお兄様の口を開かせて乾燥させるなんてことはできない。
箸が震えないよう指先にまで意識を集中させてお兄様の口まで運ぶ。
「ん」
パクッと銜えられてタイミングを見計らって箸を外したいのだけど、これはいつまで支えていればいいのか。
お兄様とずっと目が合って、これだけで心拍数が早まる。視線までも外せなくてどうすれば!?と更に混乱していると指先から震えが。お兄様が笑いを堪えていた。
「お、お兄様!」
「ん、…美味かった」
残ったイナリを指で摘まんで口に放り込んで食べきってから感想を言われるのだけど、ぺろりと指を舐める姿がもうね、朝なのになんでこんなにえっちぃの?!私の息の根を止めにかかってる?
「ふ、くく…」
「お兄様!」
「悪い。あまりにもお前が可愛すぎて」
「…いつもそう言えば誤魔化されると思わないでください」
もう、もう!
真っ赤になった顔でそっぽを向いてお兄様から無理やり視線を引き剥がす。
そうでもしないとずっと見惚れちゃうから。今日のお兄様はいつも以上に私を仕留めにかかってる。恐ろしい。恐ろしくセクシーでいじわるなお兄様です。
それにしても、お兄様もよく笑うようになりましたね。…堪えてはいるけれど。
以前はこんな風に笑うこと自体無かったから。原作でも見たことが無い。
嬉しい変化も見られて心が朝から舞い上がってます。なかなか地上に戻ってこない。
このまま上がっていったら母に会えそう、と思ったけれど、引っ張られる感覚が。振り向けばイマジナリーお母様が冷めた視線で落ち着きなさいと諫められました。すみません、落ち着きます。
(イマジナリーってすごいね、感覚まである…。妄想力レベルアップしたかな)
すまない、と重ねて詫びながら頭を撫でられ、仕方がないですね、と許してしまう甘い妹でよかったですねお兄様。
それから朝食を終えて学校へ。お弁当はお兄様が運んでくれました。
お昼はすでに皆に了承を取っていたので今日は食堂ではなくE組の教室で。
お重と取り皿、ポットにはお味噌汁が入っていてカップに注ぐだけ。お手軽だね。
お重は一段目と二段目にはおかずが。三段目にはぎっしりおいなりさん――では足りないだろうから別の容器にも入れてきた。足りなかったら補充しますよ。
「あいっかわらずのクオリティ」
「すごいですねぇ…」
「どれも美味しそう」
「ありがとう雫」
純粋に褒めてくれる雫ちゃんが好き。驚いてくれるエリカちゃんたちの反応も嬉しいけどね。
ほのかちゃんは許可を取ってぱちりと撮影。練習でもするのかな。
周囲のお弁当組の生徒たちからも視線がちらほら。お邪魔してます。
「美味かったぞ」
「兄さんが味見をしてくれたから味は保証するわ」
…顔赤くなってないよね?自然に言えたよね⁇
朝の出来事を思い出してちょっと不安になりながらも淑女の笑みを心掛け、どうぞ、と勧める。
そして始まる昼食会。って、別に特別なことがあったわけでもないのだけど。
「しっかし、レンコンの日でイナリの日だからってレンコン刻んだイナリを作る?」
「季節ものでもあるからメニューを考えずに作れて楽でもあるの」
毎日レシピを考えるっていうのもなかなか大変だったりするんですよ。
レンコンも美味しい季節だ。
煮物にしても酢の物にしても炒めても美味しい。
「深雪のおかげで四季を感じられる。きっと俺一人ならそんなことを考えて過ごすことなどなかった」
「あ~、達也君はシーズン気にし無さそう」
「こういうのって女子の方が敏感になりますよね」
「ショッピングなんて季節ごとだもんね」
おいなりさんから季節のお話に。
「達也さんにとって春は?」
「深雪の誕生日」
お兄様、即答。まあ、三月お誕生日ですから。春と括るとお兄様より早く上がるのか。
お兄様の誕生日も春だけどそっちは含まれないのかな?一緒くたでもよかったのに。
「ほ、他には?!」
おお、ほのかちゃん復活。果敢に質問するけれど、お兄様はちょっとだけ考えて。
「たけのこご飯があると春を実感するな。菜の花のお浸しも。後は桜じゃないか?」
食べ物ばかりなことに気付いて、春らしいものということで取ってつけたように桜を付け加えたようだ。
「じゃあ夏は?」
「夏は、そうだな。酢の物だったりさっぱり系が増える。ナスやトマトが並ぶともう夏だな」
「おいおい食べもんばっかだな。夏休みとかどっか出かけんだろ?」
そうだね、普通学生の夏休みは旅行に行ったり花火や祭りを楽しんだり楽しいことがいっぱいある。
だがお兄様といえば、中学の夏休みから軍やFLTでほぼ予定が埋まっていた。夏らしいことなんて、せいぜい学校から出された夏休みの宿題くらい?
「ああ、皆と行った海も入るか」
「夏休みに友人と旅行に行くこと自体初めてだったからいい思い出ね」
うーん、お兄様にもうちょっと夏らしいイベントを体験してもらいたい。だけどお兄様にお休みが無いから…。ひねり出して何とか5日間確保してましたけど、夏休みで自由になるのが5日間だよ?社会人かな?お盆と土日合わせれば社会人の方が休んでる。
「秋はすぐにわかる。秋鮭から始まる」
私に向けて微笑まれている。
そうだね、うちの秋のはじまりは鮭です。
「…そんなことしてるの料亭くらいじゃない?」
ファミレスだって季節のメニューあるでしょうに、なぜ料亭?と思ったら、私が作るとプレミア価格で高そうだからだそう。わかる。深雪ちゃんの手料理プライスレス。
「深雪の手料理なんてお金を払っても食べられないがな」
「それ食べられないというか、食べさせない、じゃないか?」
吉田君よくお分かりで。私もそう思う。
私も親しくない人たちにまで作るつもりはない。
「秋は実りが多いから深雪の料理も秋が一番張り切っている気がするな」
「秋は旬のものが多いから」
キノコも果物も豊富。栗やさつま芋もいいよね。
「あとは、紅葉か」
「イチョウ並木とか綺麗ですよね」
「じゃあ最後、冬は?」
「深雪だな」
「「「「「「はい?」」」」」」
「兄さん?」
「寒くなると深雪との距離が近くなる。深雪は寒がりだから」
………皆の視線が突き刺さるよう。俯いてもビシバシ感じる。
お兄様はどうしてそんなに嬉しそうに語りながらご飯がすすむんですかねぇ?
「深雪」
雫ちゃんから注意を促すような低い声で呼ばれる。
うぅ…わかってる。わかっているんだけどね。
「…冬は、寒くて」
「だったら私が温める」
隣で腕を広げる雫ちゃん。
「雫っ」
これは抱きつくしかない。ぎゅうっと抱き合う。女の子らしく柔らかい体。そしてあったかい。いい匂いまでする。
こういうのはノリだから。なのでお兄様、心配することないですよ。
俺の役目だ、なんて張り合わないでください。
「…雫も深雪もその辺にしておかないとお昼終わっちゃうわよー」
「「はぁい」」
いい子のお返事を二人揃ってしてから昼食を再開。
スッといつも通りに戻ります。これが女子高生。唐突に始まり、唐突に終わる。
ほら、お兄様も、と一つおいなりさんをお皿に取り分けると黙して食べる。うぅん、ちょっぴりご不満?表情には出ていないけどね。オーラが。
「冬には冬の美味しいものもあるでしょう?私はアレが好きよ。兄さんが作ってくれるホットミルク」
寒い夜にお兄様が作ってくれる。眠る前の一杯。
「それくらいしか作れないが」
「それくらいが丁度いいの」
むしろお兄様が料理に目覚めたら大変。多分それこそ料亭で出るような繊細な料理になりそう。凝り始めたら上り詰めるまで極めそうなイメージがある。料理が得意なお兄様というのも素敵だと思うけどね。
「深雪、コーヒーは?」
「もちろん作ってきてないわ」
にっこり答えると、西城くんが自販機遠いぞ、と行かないアピールか首を振っていた。
とりあえずこれで少しはお兄様の機嫌が良くなったようなのでこれ以上は余計なお口はチャック。お兄様にもう一つおいなりさんを渡して自分も食べる。
口を塞いじゃえば甘いお言葉も出ません。
それから余分目に持ってきたお弁当は余ることなく皆のお腹におさまった。すごい。あんなにあったのに。
「ごちそうさまでした!美味しかったわ」
「お粗末様でした」
「もし次があるなら深雪、必ずコーヒーも付けてね」
「これ以上は荷物になるわ。コーヒーが必要にならないよう回してちょうだい」
それが難しいんじゃない!とのエリカちゃんのお言葉に、頑張って、と応援しておいた。
帰宅後。
「雫には譲らないぞ」
「何の…ああ、お昼のですか」
いつもより強めのハグに何事かと思ったらお昼の話だった。
「お兄様が危機感を覚えるようなことは何もないのですが」
「譲らないぞ」
二回も言われてしまった。大事なことですか、そうですか。
それなら仕方ないですね。答えるよりもぽん、ぽん、と背を叩いて。
「…早く冬になればいい」
拗ねたような口調で頭を下げて首元を擽られる。
「冬も楽しみですが、まずは今の秋を満喫しましょう。今年の秋は今しかないのですから」
まだ秋にやり残していることがありますでしょう?と言えば、お兄様はのっそりと顔を上げられて。
「秋は冬の準備でもありますから。今度手袋やマフラーを見に行きますか」
「学校用に見繕うか」
いつなら時間を作れるか、と話しながら玄関から上がる。
扉の向こうにはもう冬の訪れを予感させる乾いた風が吹いていた。
皆でわいわいお昼。偶にはこんなお話も、と思って書いてたらお兄様の嫉妬がぴょこっと顔を出してきた。
妹の暖房機の役割は譲らない。雫ちゃんが代われるのは教室内と移動くらいだけどね。
お弁当にコーヒーは作っていかない。どうあっても香りが飛んじゃうからね。魔法かけっぱは一応禁止だから。やろうと思えばできちゃうけどやらない。
お家でラブラブしてたから学校は大丈夫と思ってたらそうでもなかった。食堂じゃなくてよかった。これがたくさん人の集まる食堂だったら悲鳴が上がってた。
しかし、無意識にお昼でもマウントを取りたがるお兄様…。皆は牽制だって気付いているのに本人たちだけ気付かない。
レンコンの日でイナリの日でした。
お粗末様でした。