妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
11月18日
ソファでまったりくつろぐひと時。
深雪は達也に体を預けてとく、とくと一定のリズムを刻む心音を聞いていた。
心地よい音、包み込む温もり、大好きな匂い。
自然と表情が綻び目を伏せていると、大きな手がそっと頭に触れる。
「何を考えている?」
この空気に溶け込む甘い声に鼓膜を震わされくすぐったさと、恥じらいを隠すために達也の肩に頭をこすりつけてやり過ごしてから。
「特に何かを考えていたわけではなかったのですが、あまりの心地よさに浸っておりました」
その答えに達也も口元をほころばせて「そうか」、と答えると更に密着するよう抱き寄せた。
何をするわけでもなくぴたりとくっつき互いの熱が等しくなる頃、深雪が口を開く。
「達也様が帰りたくなる家とはどういう家ですか?」
「深雪がいる家」
唐突な質問だったにもかかわらず、ノータイムで返ってきた返事に深雪は目をぱちくりさせてからふふっ、と笑う。
「もう、わかってておっしゃってますね?」
「深雪がいない家はきっと寒くて凍えてしまうよ」
想像するだけで寒くなる、と抱きしめるように腕を回して腕の中に閉じ込めた達也に、深雪は逃げるでもなく身を任せる。
「私がいる前提で構いませんから、お兄様にとってどんな家が理想ですか?」
「深雪がいれば他はどうでもいいんだが、そうだな。お前が快適に過ごせて、且つ防犯に優れた家かな」
お前がいればどんな所でも、たとえあばら家であろうともかまわないと思ったが、深雪をそんなところで生活させるのは、苦労をさせるのは嫌だと条件を付けくわえた達也だが、それも彼女が欲しい答えではなかったようで深雪は唇を尖らせた。
「もう、そうではありません。お兄様がどんなお家に住みたいのかとお伺いしているのです」
「例えば?」
「例えば、そうですね。お庭付きの一戸建てで、木のぬくもりを感じられるような造りですとか、伝統的な日本家屋や開放的な吹き抜けのある家、テラスがあったり大きな窓…。住む場所も都会なのか自然の近くなのか、その中間か。口に出すと色々とあるものですね」
理想の家と一口に言っても家とは暮らしの象徴。条件を考えると様々あるものだ、と気軽に聞こうとしていた深雪は次々と口にした例題に困りました、と眉を下げた。
何も考えずにぽっと浮かんだ質問だったのだが、答えは幾万通りもあることに気付いたのだ。
だた、達也はそれを微笑まし気に見つめて、自分の質問で困ってしまう妹を可愛いなぁ、と撫でる。
達也にとってこの質問はすでに回答したつもりであり、困っている妹の問題を解決する方に思考を動かしていた。
「深雪はあくまで現実の、ではなく理想を知りたいということだな」
現実ではない、と言い切るのは四葉を背負う身だと理解した上で暮らす場所等選べるわけがないことを理解していない筈が無いから。
その考えは間違っていなかったようで「ええ」と短く返答があった。
だが、やはり達也の答えは変わりない。
「深雪が過ごしやすい家がいい。それで、こうして寛ぐことのできる部屋があれば十分だ」
仕事部屋は必要だが機材が入るならどんな部屋でも構わない。
コンクリートが打ちっぱなしであろうが、狭かろうが作業に支障さえなければどうでもいい。快適さなど求めていない。
ただ、深雪がいるから。深雪が気にするからそれらしく設備を揃えているにすぎない。
自分のことに頓着しない達也だからこそ極端になる。
自分のことに頓着はしないが――執着するものはあることに気付いて、改めて「あくまで理想の話だとして」と前置きをして。
「深雪が何の不自由もなく快適に過ごせる空間で、家を出る必要のない環境を整え、防犯対策も厳重に。――居心地の良い家からは出ようとしなくなるだろう?」
「…まあ。私は一歩も家から出られないのですか?」
「深雪は家の中で好きなことを好きなだけやっていてくれていい。友人たちと映像電話も楽しんでくれてかまわないよ」
「友人を家に招くこともダメなのですか?」
「そうだな。それもできれば無い方が嬉しい」
「困りましたねぇ。達也様のお願いでしたら叶えて差し上げたいですが」
「だめか?」
「……理想のお家のお話ですものね?」
「ああ。あくまで理想の話だな」
許されるなら軟禁したいと言われ、深雪は――「仕方のないひと」、と達也の首に腕を回した。
「首輪も檻も嫌ですよ」
「檻に閉じ込めるのは俺も嫌だな。深雪が自主的に留まってくれていれば必要ないだろうから」
あくまで自由意思を尊重すると言いたいらしい達也に、堪えきれず失笑する。
「外と遮断しておいて尊重するとおっしゃる?」
「深雪を自分だけのものにしたい。他の誰にも触れられたくない」
冗談めかしているがまごうことなき本心であることがわかっても深雪は腕の中から逃げようとはしなかった。
(恋を自覚する前ならば動揺して腰を抜かしていたかもしれないけど)
恋を自覚してからはバッドエンドも悪くないと考え方が変わってしまった自分に呆れるが、これもきっと恋心の仕業なのだと納得した。
諦めた、わけではない。妥協したのでも、無理やり飲み込んだわけでもない。
ただ、達也がそう願うのであればそれも有りだろう、と受け入れただけだ。
そして受け入れるからには嫌々ではなく共によく過ごせるように、と寄り添う。
(一方的な恋をしているのではないのだから)
忙しい達也が自分を求めて戻ってきてくれることに深雪だって悦を感じないわけではない。
「家の中を彩る花が欲しいので、やはりお庭は欲しいですね」
「四季の花を育てられるよう手配しよう。温室があっても良いかもな」
「ずっと家にいるのでしたら軽く運動できる部屋があると良いかもしれません」
「運動不足は体にも悪いからね」
「日当たりのいい部屋も必要ですね」
「その部屋には特殊なフィルムなどの防犯対策をしっかりしないとな」
誰かに見られて狙われたら、なんて現実でもないただの理想を語っているだけなのに、真剣にどんなシステムを組むか検討する達也はくすくすと笑う深雪に「重要なことだぞ」と真面目に言うモノだから、深雪は更に込み上げる笑いを堪える為達也の体にしがみつく。
震えが伝わり、達也もつられたように笑って。
「できないとわかっていても面白いものだな」
「想像するだけでしたら何の問題もありませんからね」
その言葉に、つい、と深雪の顎を持ち上げた達也は瞳を覗き込む。
「――本当に?」
閉じ込めて自分だけのものにしたいと、不自由させないと言いながら自由を奪う発言をしたというのに問題がない、と言いきる深雪の真意を探るために。
そして深雪は正面から視線を受け止めて。
「それだけ愛していてくださってくれているということでしょう?」
浮かべられる笑みは慈愛に満ちているようなのに、瞳の色には人を惑わす妖しい光が宿っていた。
「達也様から愛されて、どうしていやと言えるでしょう?」
透明感があるのに、しっとりと湿度のある声が達也の心を落ち着かなくさせる。
「ああ、ですが」
ひとつだけ、と二人の間に人差し指を立てて。
「首輪は無しでお願いしますね」
首輪も檻も嫌だと言った際、檻は無しと答えても首輪についての言及が無かったことを指摘した。
二人の間で幾度か首輪の話が出たが、どうにも達也は深雪の白く細い首に真っ赤なレザーの首輪をつける日を心待ちにしているような節があった。
その度にやんわり断っている深雪だが、どうにも諦めがつかないようだ。
「似合うと思うんだがな」
するっと首を撫でられ背を反らす姿に魅せられそのまま指を下へと滑らせていく。
その際晒される白い首に、赤い首輪が付けられない代わりに赤い痕を残した。
この攻防はこうして毎度うやむやとなり決着が付かない。
二人の中ではじまりの合図となっているので決着など付こうはずもなかった。
「現実的に考えて一つだけ、要望が思いついた」
ベッドの中、今にも寝入りそうな深雪の髪を撫でつけながらぽつりとつぶやく。
「それは…?」
「長時間快適に過ごせる寝室だ。一日中、いや、ずっと深雪と愛し合えるような――」
「達也様?」
それ以上は口にさせない、と深雪の冷たい手が達也の心臓の上に当てられる。
これで深雪がちょっと魔法を使えば達也の心臓は動きを止めるだろう。
「…大事だろう」
その先を口にはしなかったが必要だろう?と再度問うと深雪は布団を引き寄せて頭からすっぽりとかぶり、
「知りません!」
と隠れてしまい、直接抱きしめることを許してもらえなかった達也は次の日の早朝から謝り倒すのだった。
何でこんなお話に…?いい家の日で防犯の日だそうです。
お兄様に理想のお家はどんな?と聞いたら即答で深雪がいる家、と答えられて困っちゃう妹の話になるな、と思ったら軟禁エンド?希望のお兄様に。
そしてお兄様が望むならそんなことも有りかもね、な妹になってしまった。
恋するとそういうこともあるよね(←
でもこのお兄様はちゃんと現実味がないことを理解している――というか妹の幸せに友人たちと囲まれる姿も含まれているのを知っているのでちゃんと社会の中に入れてあげる。
本当のところは閉じ込めたくて仕方が無いだろうけど、妹ファースト。
でもこれで孤立編がそのまま原作通りに進むと妹の安全確保含めて囲いそう。お外危ないからしまっちゃおうねお兄様。
ただでさえ奪われ人生なのに、唯一の妹まで取られたらたまったもんじゃない。
これも一つのバッドエンドルート。
…どうしてもお兄様は妹に赤い首輪を付けたくて仕方がない模様。きっと似合うだろうけどね。妹は速やかに逃げてください。
お粗末様でした。