妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
11月19日
お兄様のラキスケを侮っていたつもりはない。
いつだって慎重に、気を付けていたはずなのに――
「あっ…」
ぽたた、と零れ落ちるとろみのあるクリームは落下位置悪く胸の先の方を汚し、重力に従ってスカートまで落ちていく。
それを隣で一緒に食べていたお兄様が見逃すはずも無く、先ほどまで穏やかだった視線が猛禽類のように鋭くなり獲物に狙いを定めているかのよう。
背筋に冷や汗と、卑猥なことを連想させる光景に真っ赤になりながら固まっていられたのは数瞬。
先に動いたのはお兄様だった。
クリームの落ちたところに顔を寄せ、赤い舌を伸ばし――ぺろりと舐め取ったのだ。舐め取ったのだ!!
「お兄様っ!!」
「もったいないだろう」
お兄様からあまり聞かれない言葉「もったいない」に驚いている間にもぺろ、とブラウスの上から舐められる。
直接触れられているわけでもないので感覚こそ何も感じられなかったが、卑猥な光景にしか見えない現状にプチパニックを起こした。
(もったいないのは零れたクリームですか!?それともこの状況ですか?!)
それによって意味合いはまるで違ってくるのだけれど、肩に掛けられた手が熱くて後者な気がしてならなかった。
(確かに状況はとっても美味しいかもしれないのだけどね?!)
どう考えても美味しくいただく場面である。
ただでさえ美味しそうなモノに甘いクリームが掛かかるのを見て食べないという選択肢はまずない。それはわかる。オタクはよく理解している。
だがしかし!
「お兄様、ダメです!」
胸のあたりに顔を寄せられる――以上のことをされていることは全力で見ないふりをして――だけでも心臓が痛いのに、その下の太ももの上はもっとまずい!と原因となったシュークリームをどうにかしないと身動きが取れないことに気付き、クリームに塗れること覚悟で、片手で漏れ出た個所を抑えるように持ち替えて、空いた片手でお兄様の肩を押し返そうとするも、非力な細腕では押し返すこともできない。
「自分で、自分で何とかしますから!」
「俺がやった方が早い」
「どう考えても魔法の方が早いです!!」
そう言ってからハッと気づいて身につけていた思考操作型CADで汚れをきれいさっぱり無くした。
…湿っていたブラウスも一瞬にして元通りだ。
「魔法は時に無粋だな」
いいえ、この身はいつも魔法によって守られていますとも!…危なかった。
身の危険が去っていったことに安堵していると、今度は手首をつかまれて。
「だが、まだこちらが残っている」
「え…、あ」
手の内のシュークリームを抜き取られ、クリームに塗れた手を舐められた。
今度は布越しではなく素手であったためダイレクトにその感触が伝わる。
「やっ、おにぃ――ッ」
「美味い」
「んんっ、はな、してくださ、」
「カスタードはあまり得意ではなかったんだがな」
これならいくらでも食べられる、と掌を舐め、指の股を舐められ、くすぐったさとそれだけではないモノにゾクゾクと背中を震わせて、感じ始める快感を逃そうと身を捩ったところで――
「っ、そこにクリームはついておりません!」
汚れていない筈の指を口に含まれなぶられて慌てて引き抜いた。
銀色の糸が引いたことに更に心臓は激しさを増して全身に熱い血液を送る。
「いきなり抜いたら危ないだろう?俺が歯を立てていたらお前の綺麗な指が傷ついてしまうところだった」
怒っていたのは私のはずなのに、なぜか注意を受け、混乱していたこともあって素直に謝罪する。
それにお兄様は「いいよ」、とお許しをいただいたけど…おかしいよね?私がおかしいんじゃないよね⁇
「深雪が粗相をするなんて珍しいな」
お兄様はもうこれ以上はしないよ、と言うように離れていき、私が食べかけていたシュークリームを差し出す。
それを恐縮しながら受け取って、今度は零れないよう向きを変えて慎重に食べた。
「…いつも食べているシュークリームは穴が上部に空いているものが多かったので」
完全に油断していた。
せめて紙ナプキンで挟んでから食べるべきだったのに、と思ったが、今のように素のままでお兄様から受け取ったのでナプキンを用意することが頭から抜け落ちていたのだ。
そしてまさかの横にクリームを注入する穴が開いているタイプだったことで食べ進んでいくうちにクリームが押し出され――冒頭のような事件が起きたのだ。
(…まさかお兄様が計算して渡したなんてことは無いだろうから、これはお兄様のラキスケの呪いによるものなのだろうな)
服装ばかり気を付けていて、こういう場面の想定がおろそかになっていた。
(クリームシチューとかはこぼさないように注意してたんだけど)
ほら、生クリームとか、白くてドロッとしたものは、ね?オタク的に気を付けなきゃいけないポイントだから。
今もまだ心臓が跳ねまわっている。
つい先ほどまでお兄様がこの胸を――、と衝撃の光景を思い出してなかなか食べ進めることができない。
それをお兄様は悪かった、と謝るのだけれどちらりと見る表情に反省の色は見えず。
「…待って下さると言ったではないですか」
恨めし気に言えば、苦笑を返された。
「これでも深雪の『待て』の号令は守っているつもりなんだが」
……言われてみれば待ってほしいとお願いした時は止まってくれているけれど。
それがどれだけ健全な男子高校生に辛いことかもわかっているつもりだけれども!
「…もう少しお手柔らかにお願いします…」
しかしお兄様は微笑むだけで頷くことも否定することも無かった。
突然のラッキースケベが妹を襲う。
ええ、お兄様は計画なんてしていませんでした。完全な偶然。
お出かけの帰りにシュークリームを買って帰って夕食後に食べたらこんなことに。
水波ちゃんと三人で食べていたならば恐らく水波ちゃんがハプニングを起こしていたかもしれない。早く食べて場を下がろうとして――みたいな。紙ナプキンはしていても零れることはあるからね。
お兄様はとっても我慢した。待て!をちゃんと守っている――つもりだけど、直舐めじゃなくて指で拭う方法もあったのですよ?(←
ということでシュークリームの日でした。