妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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多分婚約後の恋人未満、光宣君がお泊りにきた話です。こっちはほのぼのアットホームなお話になります。



11月の記念日 11/20

 

11月20日

 

 

「…達也様」

「いいんじゃないか、二人とも楽しそうだぞ」

 

水波のもの言いたげな視線を受けた達也は、二人が楽しそうならばそれでいいじゃないか、と目の前で煌めくサイオンの光を眩しそうに――否、遠い目になって見つめていた。

 

 

 

数時間前。

それは唐突に訪れた。

 

 

 

「お爺様は僕がまだ小さな子供だと思っているんです」

 

ぷりぷりと怒りながら光宣君が何の連絡も無しに我が家にやってきた。

ちょっとした口喧嘩をしたらしい。

それ自体珍しいことらしいのだが、そこで光宣君は普段では考えられない行動を起こした。

――家出をしたのだ。

それもパレードを駆使して逃走経路を見つからないよう潜り抜けて。

 

(…これって原作の水波ちゃんの病院に駆けつけた時に使った道では…?)

 

とりあえずお兄様を視線で会話してお兄様の方から「あなたのお孫さんはうちに来ています。落ち着いたら帰るよう促すので大人しく待ってあげてください(意訳)」と連絡済みだ。

誘拐・監禁疑われても困るしね。閣下からも「よろしく頼む(意訳)」との返信があったのでそっちは問題ない。

あとは――

 

「僕はもう帰りません。ここの家の子として暮らします!」

 

と、お怒りの光宣君をどうやって気持ち良く帰らせるかだ。

うちで暮らしてくれることは嬉しいけれど、周囲の理解も無しにやってしまうとトラブルを抱えることになる。何せ疑惑のアンタッチャブル、四葉だからね。何をしても疑われる。九島家の坊ちゃんを攫った!なんて言われたらたまったものでは無い。

 

「光宣君は私たちの子供ですもの。いつでも家に来ていいのよ」

 

だけどまずは、光宣君のケアだよね。

 

「そうだぞ、光宣。お前は俺たちの可愛い息子だ。いつでも頼るといい」

「お父さん、お母さん!」

 

感激する可愛い息子の頭を二人して撫でる。大人しく撫でられる息子も頬を染めながらはにかんで、大変愛らしい。

うちの子が可愛いんです。

お兄様も優しいお顔で、まさにほっこり家族。幸せのカタチが具現化したかのよう。

だけどいつまでもこうしていられないわけで。さて、どうもてなそうかと思考を巡らせる。

せっかくうちにいるんだから楽しんで帰ってもらいたい。

それもただもてなすのではなく一緒に何か――

 

「あ」

「何か閃いたようだね、お母さん」

 

お兄様の手が肩に乗る。その手に自身の手を重ねて。

 

「ええ。お父さんも協力していただけますでしょうか?」

「お安い御用さ」

 

この時お兄様は安請負をしてしまったことに後悔をしたと後に語る。

 

 

 

「わあ!すごいですね」

 

光宣君のCADをお兄様が調整中。

光宣君はお兄様の華麗な指捌きに感嘆の声をあげる。

そうでしょう、そうでしょう!お兄様は素晴らしいのです!と鼻高々に自慢します。

 

「お父さんも素晴らしいですが、それを嬉しそうに見つめるお母さんも可愛いですよ」

 

…この息子は確実にお兄様の子ですね。

とんでもないたらし発言。

 

「だろう?」

 

からの、お兄様の妹自慢。

もうその辺で勘弁してください、恥ずかしい…。

 

「一応終わったが、光宣、試してみてくれ」

「はい」

 

光宣君は初めて調整されたにもかかわらず、躊躇いも無く魔法を行使する。

そして問題なく魔法は指示通り発動する。

 

「わ、発動がスムーズだ!」

「でしょう?」

「ふふっ」

「なぁに?」

「お母さん、さっきのお父さんみたいですよ」

「!」

 

お兄様の技術はすごいでしょう?と顔を覗き込んだら笑われてしまった。

恥ずかしい、と頬を抑えると、立ち上がったお兄様から肩を抱き寄せられて。

 

「俺たちは似た者夫婦だからな」

「仲がよろしい様で」

「お前を含めて仲良し家族、だろう?」

「!はい」

 

あらやだほっこり家族再び。心が温まる。

でもそろそろ時間です。きっと水波ちゃんの方は準備が整ったはず。

 

「そろそろキッチンへ向かいましょう」

 

三人でキッチンへ向かうとエプロンを身に着けた水波ちゃんが材料を並び終え、その先の食器まで用意しはじめていた。

 

「お待たせ、水波ちゃん。準備はばっちりみたいね」

「材料はほとんど切るだけでしたから。肝心の生地は発酵中ですが、深雪様の指示の通りにしましたのでそろそろ時間です」

 

ならもういい頃合いだろう。

 

「ではお父さん、光宣君、エプロンを着用してください――皆でピザを作りますよ」

 

 

 

生地を伸ばして好きな具材を乗せる。

それだけでも十分楽しくてはしゃいでしまった。

定番のように光宣君は鼻の頭に白い粉が付き、生地を伸ばす際には粉が散ってくしゃみもしていた。主人公かな?それともドジっ子ヒロインか。

家出をしてきたからヒロイン枠かもしれない。つまりはお兄様のお相手候補?…それは違うか。

ともあれ賑やかにピザづくりをして、最後の工程となった。

 

「じゃあ、光宣君。手本を見せるわね」

 

ピザづくりの肝、焼きの工程である。

もちろん、うちにもオーブンはある。ピザも問題なく焼くことができるが、窯で作るような高温で上下から熱を加えて焼くことはできない。

でも、機械にはできなくとも――魔法ならばできる。

まずは囲いを作ります。レンガの窯をイメージしてドーム状の空間を空気の壁を作って確保。そしてそこに威力を抑えた氷炎地獄を放り込みます。もちろん手前を冷やしてね。

熱を漏らさないようにしつつ、熱くしすぎてもいけない。酸素も適度に送り込むことも忘れてはだめ。それから――とアドバイスを伝えて。

 

「はい、完成よ」

「美味しそうな焼き目がついていますね!」

 

それにいい香りです、とキラキラしたお目目の美少年に褒められて嬉しくないわけがない。

 

「ふふふ、上手く焼けてよかったわ」

「絶妙な熱加減でしたね。コントロールがとても繊細で、それぞれの魔法が相克を起こさないよう微調整も複雑に術式が展開されていて」

「できそう?」

「これだけ細やかな操作は初めてですがやってみます!」

「パレードをあれだけ使いこなせる光宣君なら大丈夫よ」

「はい!」

 

二人でキャッキャしながらピザを焼いて、少し焦げたのはご愛敬。初めてにしては上出来すぎる。

 

「上手よ、光宣君」

「お母さんの教え方が上手いんですよ」

「楽しい?」

「ええ!こんな魔法の使い方初めてです」

 

だろうね。わざわざ料理の為に魔法を使うなんて大分柔軟な発想になってきた現代魔法師だろうと受け入れがたいだろう。

USNAでは魔法を安売りしない、と人前で披露することさえあまりしないみたいだし。

日本でだって魔法を武器以外で使うことはほとんどない。唯一がスポーツとして使われる時くらいだ。

それだって海外では珍しい。魔法は基本秘匿するものだからね。

楽しむために魔法を使うなんてそう無いから。

だからこうして魔法を使って無邪気に笑い合うなんて、彼にとって初めてのことだっただろう。

そう訊ねたら、やっぱり初めてだって。九島家だってこんな使い方したことないみたい。それもそうだ。特に古式魔法に関する人たちにはこの発想はないはず。

 

にっこにこの美少年と微笑み合っている後ろでお兄様と水波ちゃんが、現実逃避のような会話をしているなんて全く気付かなかった。

 

 

 

楽しいピザづくりの後は、当然ピザパーティーをして、興奮冷めやらぬ様子の光宣君を今度は消化を助けるハーブティーを飲みながら落ち着かせて。

 

「今日は夢のような一日でした」

「楽しんでもらえたならよかったよ」

「それはもう!」

「光宣君、ゲストルームを整えたからゆっくり休んでちょうだい」

 

水波ちゃんがささっと準備をして合図をくれたのでそう伝えると、もう寝なくてはだめですか?と言いたげな…きゅーん?と鳴き声が聞こえてきそうな寂しそうなお顔をされた。

胸が締め付けられるよう。

でも、彼の体調が悪くなってしまうかもしれないから。

 

「そうだな。眠るまで俺たちが傍にいてやるから」

「!それなら、絵本の読み聞かせなんてどうでしょう」

 

思い出したのはお兄様の中の人による睡眠を促す絵本の読み聞かせCDだ。

…私はあれに興奮して逆に眠れなかったのだが、あれは子供にはいい睡眠導入になったみたい。睡眠に関するメゾットが詰め込まれていたらしい。

是非お兄様に読んでいただきたい!と目を輝かさせると、なんだか過度な期待をされている気がするな、と苦笑気味のお兄様。ええ、ええ。期待しておりますとも!楽しみ。

端末から絵本をセレクトして、光宣君のお部屋へ。

家出というだけあって一式準備してきていたのでパジャマもあった。…お高そうなパジャマですね。光沢が眩しい。

お兄様の寝巻も着こなすでしょうけども普段使い慣れてるものが一番気楽よね。

さっそく横になる光宣君の横で、まずは私が手本で絵本を読む。

今こそ私の早見〇織ヴォイスが本領を発揮する時!

 

「…こうしてお姫様は王子様と手を取り合い、幸せに暮らすのでした。おしまい」

 

うーん、思ってた絵本と違う。

人気だって言うから選んだんだけれど、これはプリンセスが王子様の手を引いて前へ突き進むヒロイックファンタジーでした。お姫様がドラゴンに立ち向かう展開はかっこよかったけど。

…普通こういう絵本って物理じゃなくて説得とか知恵を使って倒すんじゃないの?お姫様が王子の剣を借りてえいやっと振り回して勝ちました。

王子の見せ場は?途中の崖で落ちそうになったところですか?それとも注意を惹きつける危険な役を引き受け、尻餅をついてドラゴンの尻尾を避けたところですか?…まあ、一番危険な役割ですけども。

無難なシンデレラとか選んでもよかった気がひしひしと。

でもね、これも気になったのだけれど二人にじっと見つめられながら絵本を読むのはなかなか緊張を強いられました。

二人共終始ニコニコして聞いているんだもの。

 

「次はお兄様ですよ」

「俺には深雪のように感情をこめて読むのは難しいと思うが、まあやれるだけやってみよう」

 

ゆっくりとした口調で、低い声で紡がれる物語は眠れなくて悩んでいるウサギさんの物語。

果たして、光宣君は眠れるかな?

 

読んでいる間、手を握り温めながら聞き入る。囁くような声に変わり、声が聞こえなくなって目を開くと光宣君が瞳を閉じていた。

どうやら作戦は成功。無事に眠れたようだ。

お兄様と視線を交わし、微笑み合うと毛布をしっかり肩までかけて。

 

「(おやすみなさい、光宣君)」

「(よい夢を)」

 

二人こっそり部屋を抜け出して。

しばらく無言で肩を寄せ合いながら廊下を歩いた。

 

 

 

次の日、お兄様の説得も有り、光宣君は実家に帰っていった。

お土産に新たに作ったピザを携えて。

 

 

 





もしかしたら閣下は腰を抜かしてしまうかもしれない。食べるのも躊躇う緻密な魔法の集大成でできたピザ。
水波ちゃんとお兄様がなんとも言えない顔で工程を見守っていました。とんでもないことをしている自覚は二人ともない。だって、できちゃうから。九島家で披露して度肝を抜く未来があるかもしれない。
ということでピザの日で毛布の日でした。
BGMに音楽ランダム再生すると結構な頻度でかかる中村〇一による、おや〇みロジャー。作業妨害BGM。全く持って眠れない。いい声が過ぎる。早見ヴォイスもきっと素敵だと思うけどこっちもきっと眠れない。安眠妨害CD。

お粗末様でした。

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