妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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まるで鏡を見ているようだった。
確かに私たちは兄妹だった――


鏡よ鏡、あなたは――

 

その後、雫たちに支えられて教室に戻る。道中、「あんな罰ゲーム考えてたからいつもと違ってたんだね」「緊張してたんだ」と良いように解釈された。

お兄様の機転が私を助けてくれたのだと心が温かくなる想いだ。…正直罰ゲームの話をされた時は一体何が始まるかと思ったが、お兄様はここまで読んでいたのだ。流石ですお兄様!

それから予定通り授業を受けるが、特に特出するようなことは何事なく、予習していた部分も無駄になることは無かった。

だけど、実技実習の授業ではいつも通りやったはずなのだが、調子が悪いのかと心配された。

どうやら私のスピードが遅かったらしい。

過去のタイムを見せてもらったら、確かに20秒の差は大きい。心配されるのも無理はないタイムだ。

それなりに本気を出して取り組むと、タイムの差は誤差程度にまで詰まったけれど、追い抜くことはできなかった。

こちらの私はどれだけ真剣に取り組んでいるのだろう?

それとも、と嫌な予感が脳裏をよぎる――もしかして、私よりもこちらの私は実力に差があるのではないだろうか、と。

不安はあるものの、お兄様からはいつも通りに過ごせとの指示がある。

その実技以外は特に問題もなく放課後を迎え、七草会長のもと生徒会の仕事を熟すのだけど、こちらも授業同様たいして違いは無い。難なく仕事を終わらせた頃、お兄様が生徒会室に現れた。

いつもなら先に連絡を頂いたり、ほとんどの確率で渡辺先輩が付いてくるのだけれど、風紀委員でないお兄様に彼女が付いてくることもない。

 

「相変わらず達也くんはお迎えのタイミングがばっちりね。深雪さんから連絡でも貰っているってわけじゃないのよね?」

 

端末を操作している仕草は見えなかった、と指摘する七草会長に、お兄様はたまたまでしょう、と流した。

実際のところ、どうなのだろう。視ていたとしても、私の作業までは視えていないはずだ。

どうしてお兄様はこんなにベストタイミングなのだろうか。

私の視線に気づいたお兄様は、あとでね、と言うように微笑んでから頭にポン、と手を乗せた。

…このお兄様は何かと触れ合いが多い気がする。お兄様からこうして触れられることは嬉しいけれど、そのたびに心が躍ってしまうので落ち着かない。

お兄様からのお迎えが来たことで生徒会も解散。

二人で駅までの帰り道。

お兄様に寄り添って歩くと、下校途中の生徒たちから視線を浴びる。

これまでの下校風景であればこうして歩くだけで非難めいた視線が向けられたものだけれど、どうにもこちらは種類が違う。

まるで有名人でも見るような、好奇心のある視線なのだ。

それがちょっと落ち着かなくさせるのだけど、それを上回る衝撃が!

お兄様が私の肩を抱き寄せたのだ。

その途端上がる悲鳴に驚いて肩を跳ねさせてしまったのだけれど、隣のお兄様はくすくすと笑っていた。

 

「驚かせたみたいだね。でも、これがこっちの日常だと言ったら、深雪はもっと驚いてしまうかな」

「…なぜ悲鳴が上がるのでしょう」

 

内心バクバクする心音を聞かれないように胸元を握った手で抑えながら、周囲の反応を見る。

彼女たちの悲鳴は喜色ばかりで。呆れや嫌悪などの悪感情など一切ない。嫉妬も妬みも恨みも何も感じられない。

 

「それには深い事情があるんだが、…そうだな、深雪の犠牲の上に成り立った一高の差別意識改革の副作用、と言ったところか」

 

お兄様のお言葉が何一つ呑み込めない。

困惑する私に、お兄様は機嫌よく笑っている。肩を抱き、身を寄せたままという状態で。

そのことが私をさらに混乱させているというのに、それに気づいていないはずのないお兄様はキャビネットに乗り込むまで手を離してはくれなかった。

キャビネットで隣同士に座る。いつもなら私から身を寄せるように座るのだけれど、つい先ほどまでのやり取りを思い出して躊躇してしまう。

お兄様なのだけれど、こんな積極的なお兄様の行動にいちいち戸惑ってしまうのだ。

 

「緊張する深雪も可愛いね。うん、いつもの深雪と違う反応も新鮮だ」

 

距離を開けて座っているはずなのに、お兄様がいつもより近く感じる。

顔は全く同じでも浮かぶ表情が違うだけで印象も変わって見えた。

それに、こんなにストレートに可愛いと言われては羞恥に見舞われより緊張もする。

 

「あ、あまり揶揄わないでくださいませ!」

 

恥ずかしくなって身を縮こまらせているとお兄様は反省の色の少ない、笑いながらの謝罪を述べた。

新鮮な私の反応、と言うけれど、こちらのお兄様は新鮮どころか別人のよう。まるで物語から抜け出たようなお兄様だ。

私だけを見つめて下さる、王子様の様なお兄様、というのだろうか。ちょっと現実味がないというか。夢のようなお兄様。

理想、というのも違うような気がするのだけれど、こうであったらいいのに、ということをさらっとやってのけそうなお兄様、とでもいうか…うまく表現ができない。

 

「揶揄ってなんていないさ。深雪はどこの世界でも可愛い俺の妹なのだと実感しているよ」

 

いつも甘やかしてくれるお兄様だけれど、甘さの種類が違うのだ。

妹だと言っているのに、まるで恋人のように囁かれて頬を撫でられると勘違いしそうになってしまう!

 

「そ、そういうのが、揶揄っていると言うのです!」

「思ったことをそのまま口にしているだけなんだが。深雪を困らせたいわけでもないからな。少し抑えるとしようか」

 

少しではなくもっと抑えてほしい。刺激が強すぎて頭が沸騰しそうなほど熱かった。

…こちらの私はこれに耐えられたというのだろうか。信じられない。私ならもうとっくに陥落していた。

今無事でいられるのは、心に私の世界のお兄様がいて下さるから。

あのお兄様にもこんな一面があるのかもしれないと思うと、見てみたいような、…怖いような感情のせめぎ合いが起こる。

 

「だが、これで分かったな。やはり深雪は深雪でも、俺の元にいた深雪ではないように、深雪にとって俺は兄貴であって兄貴と異なる存在ということだ」

「…それは、はい。そのようですね」

 

あり得ないことが起きている。それだけは間違いなかった。

 

「――大丈夫だよ、深雪」

 

これからどうなるのだろう、と不安になるとお兄様がそっと手を重ねて軽く握ってくださった。

優しい、私の大好きなお兄様の笑みだ。安心させるように、私のことを思って浮かべられた笑み。

 

「きっとすぐに戻れる」

「…どうして、そう思われるのですか?」

「勘、のようなものかな。そんな気がするんだ」

 

勘という割に、お兄様は何か確信めいたものがあるのか、揺らぎもなく言い切った。

ならば、私はそのお兄様の言葉を信じる。――それが、私だから。

 

「こんな答えじゃ安心できないかもしれないが」

「いいえ。深雪は信じます」

 

真直ぐと見つめて返せば、お兄様は少しだけ目を見開いた。

そして、

 

「深雪は…、深雪の芯の部分は変わらないね」

 

引き寄せられて抱きこまれる。

 

「お、お兄様!?」

 

お兄様の腕の中に閉じ込められたと気付いたのは、お兄様の言葉を理解した後。

慌ててもがくけれど、お兄様の腕が外れることは無い。苦しいわけでもないのに、この腕はまるで金属でできているように動かない。

 

「俺も教わったことだが、30秒のハグはストレスを軽減させる効果があるんだ。幸せホルモンが出るんだそうだよ」

 

いったい誰からそんなことを教わったというのです!?瞬間的にカッ感情に任せてお兄様を見つめると、お兄様は見たこともない――甘いお顔をされていて。

 

「おかげで俺はいつも幸せだ」

 

……わかってしまった。唐突に理解した。

このお兄様は、この世界の私によって救われて、幸せになっているのだと。

きっと、ハグを教えたのはお兄様の妹の私だ。

それと、もう一つ。

 

「…お兄様は、お好きなのですね」

「ん?」

「妹の深雪さんを、愛しておいでなのですね――私のように」

 

その言葉に、お兄様は――笑みを深く、瞳をとろりと蕩かせて。

 

「そうだね。深雪と、お前と一緒だ」

 

(――ああ、私もこんなお兄様を見てみたい)

 

ドキドキとするのに種類が変わった瞬間だった。

 

「深雪にそんな目で見られてしまうと誤解してしまいそうになるよ」

「…そんなことをおっしゃっても、間違えることなどないのでしょう?」

「お互いにね」

 

くすくすと笑い合う。

 

(私と同じ、叶わぬ願いを胸に秘めている、お兄様)

 

自分と同じ悩みを抱えているお兄様に親近感を抱いた。

腕の拘束が離れていく。

お兄様だ。お兄様なのだけれど、こちらのお兄様は『兄』に見える。

 

「うん。今の深雪なら妹として愛せる自信があるな」

「深雪も今、そのように考えておりました」

 

不思議といつものお兄様より心が通じ合うようだった。互いの心が手に取るようにわかる、気まずさより安心感のある、そんな関係。

 

「短い間だが、よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いしますお兄様」

 

お互いに、まるで何かの協定を結ぶかのように手を取って挨拶を交わした。

 

 

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